コメディ・ライト小説(新)
- Re: 下書きだらけ、二代目 ( No.4 )
- 日時: 2018/10/20 12:32
- 名前: モズ ◆hI.72Tk6FQ (ID: OypUyKao)
『』
暗闇に打ち上がる色鮮やかな花火が目の前の景色を、僕らを彩っていく。花火色に。
下を覗けば祭り提灯がほんのりと灯され、各々が浴衣やらカジュアルな服を纏って砂利を踏み締めて歩いていく。
中には花火を見上げて立ち止まったり、屋台で遊んだり買ったりする者も当然居るわけで。
まぁ、そんな彼らはそこから少し離れた所から登ることのできるこの石階段には見向きもしないのだろう。
後悔はしているのか、ともう一人の僕が問い掛けてくる。居る筈も無い存在だと言うのに何様だ。
それに対して端からは独り言、僕から見たら僕への返答をする。
「嗚呼、今のところはしてない。人の笑顔をぶち壊すのは楽しいよ」
今の僕はどんな表情をして居るのだろう。自然と笑えている、そんな気がする。
下にある素敵なものを見つめながらそれからしゃがんで近付く。
そうだ、と思い出したようにそれを持ち上げて運んでいかなければ。
石階段を登る。一段一段がそこまで高くないお陰で楽に登ることが出来るのは有り難いことだ。
まだ軽くなったとはいえ、決して重くない訳ではない荷物を抱えて歩くのは大変だ。
足首に巻き付くように触れる草が擽り痒いがそれを我慢して歩き進める。
今日で全てを終わらせる予定が狂ってしまうんだから気にしている暇なんて無いんだ。
自然に何を言おうと無駄なことくらい分かっていても心はそれさえ漏らしてしまう。
それから暫く、時間にして20分程。目的地に到着したことに気付き、安堵の息を漏らす。
荷物を下ろして自分も腰を下ろす。まだまだ若いのに爺のような声を出してしまった。
日頃の運動不足が祟ったのだろうか、きっとそうだろう。
それから荷物を何度も確認しながら此処からでも見える花火を鑑賞した。
いつも屋台の方で見る花火とは全然違う景色に僅かに驚くばかりだ。
人の群れに、温度に邪魔されることなく自分だけの空間で花火を観ている。
視界に何も障害物の無い、目の前には夜空、打ち上がる花火だけが映されている。
花火を観ていたら荷物のことを思い出してしまった。嫌なもんだ。
毎年お馴染みだった花火をすっぽかすなんて、ぼくが一体何をしたって言うんだ。
問い詰めても何も教えてくれなかった君が悪いんだから。君が悪いんだ。
もう、良いや。荷物を解体して仕舞わないと。
水色の生地に金魚が愉快に跳ねている浴衣、それから赤い帯。
元々はそんなものが所々に赤黒い点が跳ねたり、染み込んでいるじゃないか。
それから一箇所にはやたら大きな血の痕が残っている。細長い穴も幾つかと。
横暴だって言われそうだ。たった一言で勝手に想像して君を殺したんだからね。
毎年お馴染みだった花火をすっぽかした君を根拠なく疑って殺したんだから。
もしかしたら僕が気付かない内に彼氏を持っていたのか、とか僕を嫌いになったのか、とか。
君から僕は害虫のように見えていたのかは知らないが、
訳さえ教えてくれずに僕と行くことを拒否して、一人で花火に行くなんてずるいよ。
きっと、僕は君に恋してたのだろうか。だから、こんな風に感じてしまったのだろうか。
嗚呼、生きてない君を見ている内に僕がとても愚かだったと思ってしまうではないか。
鋭利な刃物で浴衣を、皮膚を、血管を打ち破られた感覚は想像しがたい。
それなのに笑顔で居る君は何なんだ、遠くに本命が見えたからか。
そもそも僕の事なんて眼中に無かったのだろう、それくらい当たり前だ。
どうして殺すことは容易いのに笑顔の君を土に投げ入れる、ことが出来ないなんて。
子供用スコップを持ってきていたが、それは無駄足になってしまった。
何故君を土に埋めることが出来なかったのか、体が動かなかったのかは分からない。
結局、死んだ君でも僕は君の虜だったから、まだ最もらしい理由を挙げるならそれくらいだ。
これからどうしようか、と迷い続けていたのだが大した答えには辿り着かなかった。
僕が君を殺したことは事実で過去に戻ってその事実を変更するなんて某青狸でも居なきゃ、無理だ。
殺してしまったんだ、殺してしまったんだ、君を。
花火に照らされ、僕らはどのような表情をしているのだろうか。
僕は笑い、君も……苦しい筈なのに笑ってるじゃないか。
君が、あんなことさえ言わなきゃ。僕は君を殺さなかったというのに。君は不幸だ。