コメディ・ライト小説(新)
- Re: 下書きだらけ、二代目 ( No.5 )
- 日時: 2018/11/29 03:40
- 名前: モズ ◆hI.72Tk6FQ (ID: y36L2xkt)
『高一』4/##~
私は気付かない内に色んなことを知っていった。少なくとも中学の頃よりも成長はしていると思う。
そんな私を認めてくれる人が少なくても私にとっては沢山居るんだから。
四月の始めだというのに桜はさっさと散ってしまい、
歯抜けだらけの桜の木を見上げながら私は駆け抜けていく、道路を。
高校生活初日、自転車で学校へ向かう。まだ走り慣れない道を不安げに行く私。
道の途中で真新しい、キラキラと輝くランドセルを背負う小学生、
セーラー服に心ときめかせる中学生の女の子らが背景として映る。
彼らが抱くのは期待、そして希望なのだろう。
中学生の子とはそこまで年齢差は無いというのにそんなことを考えてしまう自分にため息が出る。
私には学校というのは一つのダンジョンのようなもので大変で苦しいものにしか思えない、と。
地味で可愛くも美人でもなく、性格が明るいわけでもないから誰かと行動するというのが多くなくて。
むしろ人と関わるのが苦手で直ぐに緊張して、とパーツを並べていくと私は本当に悪い子だ、と思ってしまう。
数少ない友達もつい最近までは傍に居たのに、高校ではお別れ。つまり私は一人だ、もう慣れたことだが。
花びらの無い桜のように何かが抜けたような私は校内の駐輪場に到着し、自転車を停める。
一人で知らない教室へ向かわねばならない、孤独感が私の心に犇めき、闇で染めて、表情をすんと暗くさせる。
新学期に似合わない顔、そして気持ちを抱えたまま目当ての教室へ向かった。
「ねぇ、しーちゃんと同じクラスなのかな?」
「どうなんだろ、同じだと良いね!」
羨ましい声が指定された私の席の傍から聞こえてくる。
席順はどうやら出席番号順らしいが、まさかこのクラスのままなのだろうか。
「隣の教室に居たポニーテールの女の子、滅茶苦茶可愛くなかった!?」
「うん、そうだねー。でも洸、誰にでも惚れやすいのはどうにかしないとまずいよ」
何とも賑やかな声が聞こえてくる。孤独じゃないから虚勢を張れる。なんて内心で愚痴を吐いてみたけど、
それは孤独でしかない私の敗北宣言のようなものだ、私は一人なのだから。
そんな暗い気持ちを抱えて入学式が、そして始業式も始められようとして居た。
誰かも知らない先生が生徒を席に着かせると隣には一人の女の子、内なる美しさを秘めた女の子だった。
各集団ごと、計4ブロックに分けられ、四列ずつ並んでいく。私は丁度端っこだった。
後ろに上級生が居るのに少し緊張してたけど、隣の子の一言でそんなの吹き飛んだ。
「貴方、誰かは知らないけど宜しくね」
緊張というより不安が吹き飛んだのかもしれない。私なんかに話しかけてくれる人がいるんだって。
「あ、はい、宜しく御願いします」
私の口から出た言葉を聞いて静まる体育館とは反して彼女はクスクスと笑っている。
隣のブロックの生徒が気になってこちらを見るも、私の隣の彼女に目が向き、慌てて逸らしていた。
「また、後で話しましょ?」
「あ、はい」
謎の期待感を抱えたまま、式が始まっていった。高校とは何たるもの、という校長の長々しい話、
生徒代表がただ高校生活を語っていくもの、吹奏楽部の演奏コーナー、他にも色々。
新鮮味が無いなぁ、と思いながら見ていたのだがそれは周りも同じ様らしく、背中を丸めて前屈みになる者、
友達同士なのかこそこそと喋る者、髪の毛を弄る女子が居たり、飽き飽きしている人も居るようだった。
最後に生徒会長の言葉、という名目で出てきた人物に女子のハッと息を吸う声が聞こえてきた。
少しざわさわとした体育館だったが、暫くすると彼だけに注目を集めるように静寂に包まれてしまった。
先程まで髪の毛を弄っていた彼女も目を点にして彼だけを見ていた。
つまり、生徒会長がそれなりの顔立ちだった訳だが、私も隣の彼女も大した反応はしてなかった。
式典がすべて終了し、教室へ向かうために廊下はごった返す。
何せ、一斉に生徒が我先にと狭き道を通ろうとするのだから、滞るのも仕方あるまい。
それからその流れに無理矢理押し込まれ、流されてる最中。誰かに肩を叩かれた。
「一緒に教室に向かいましょ?」
彼女が差し伸ばす白くもキメ細やかで私なんか触るのがおこがましい手を掴むと。
彼女は私を強引に引き寄せ、すいすいと道を抜けていった。
誰かが道を空けている訳でもなく、彼女が体をくねらせて道をすいすい抜けているだけだ。
とはいえ、連れられた私もすいすいと抜けられて教室にはあっさりと着いてしまった。
正直な感想、彼女は何者なのだろう。とさえ、感じた。
二人きりの、暗がりの教室。式典中の先生の話によると集合したクラスがそのまま今年のクラスになるそう。
つまり彼女とはクラスメイト、そんな彼女と二人きりである。
窓際にて、さわさわと風が遊ぶように彼女の真っ黒で艶やかな髪が揺れていく。
彼女の席は窓際なんかではなかったが、別にそんなことはどうでも良かった。
「そうね、お話をしましょう」
彼女がそう口を開いたなら従うしかない、クラスメイトになる存在なら尚更。
勝手に彼女へ良くない印象を抱いていたが、それは妄想だった。
「私は鷺澤楸、貴方は?」
「坂口蒼です、宜しくお願いします」
彼女に聞かれた通り、名前を答えそれから礼をした。
すると、またクスクスと笑い声。まだ誰も来ていないのが不思議だった。
「私なんかに敬語だなんて。それに律儀に礼なんてしなくて良いの。
だってクラスメイトだしそもそも同級生なんだから」
楸、聞いたことのある単語だったけど何だったかなぁ。
脳内に問い掛けてみたが、反応は薄い。
漢字は思い出せても秋っぽいなぁ。という微妙な情報しか入ってこない。
そこから人がぱらぱらと教室へ入り始め、一瞬彼女のことを見ながら話しているクラスメイトが見えた。
「蒼、私のことは嫌い?」
「嫌い、ではないです」
いきなり、この人は何を聞いてくるんだろう。
ほぼ初対面、何も知らないのに人を嫌う人間だと思われてしまったのだろうか。
もし、そうだとしたら私の高校生活は此処でthe end なのだが。
「私は人として蒼に興味がある。だから友人でいさせて」
もう一回、心の中で言わせてもらう。この人、何を聞いてくるんだろう。
人として興味がある、だから友人でいさせて。どういうことだろう。
ほぼ初対面の人間にそんなことは言うべきではないと思う。
とはいえ返答をしないわけにはならない。
「……前半の言葉はよく分かりません。後半の言葉は認めます」
私なりに正直に話したつもりだ。
そして友人が居ない高校生活が始まるのは困るから、そう答えた。
彼女の顔をじーっと見ていたが、彼女は学年でも数少ない美人の部類に入る人間だと思う。
クラスメイトがちらちらと彼女のことを、知らない誰かが覗き見ていたのも納得が行く顔。
対して私は地味、というか空気みたいな存在。この学校なら尚更。
今更ながらにどうしてこのような存在が彼女に興味を持たれたのかが疑問だった。
「ねぇ、私の名前、呼んでくれない? 楸って」
私の返答に一切関係ない話題を投げ掛けてきた。
名前を呼んで、ってまだ初々しい彼氏と彼女か。とツッコんでおいた。心中で。
その言葉に私は声を出すなんかせず間抜け面して頷くことしかできなかった。
クラス、というものが私は好きではなかった。理由は簡単、人間だらけだから。
そもそも人間と話すことが得意ではない私にとってそういう環境自体が苦手だった。
それに学校は何をする、無理矢理にでも協調させようだの一緒に楽しめだの。
私にとって数少ない友達もそういうのが苦手な、いわば同類であったから仲良くなれただけなのだ。
一人でいるのが嫌だから、一人だと可哀想って思われちゃうでしょ。
誰かが提言した訳でもない。けど、自然とそういう流れが存在しているのが学校。
友達が居ない一人ぼっち、力も人望も何にもない。周りには孤独のみ。
それを避けるために同じ利害を共有していた、それだけなのかもしれない。
それでも会話をしていたし楽しくなかった訳ではないから完全に否定はできない。
つまり、私にとって鷺澤楸とは異分子、というかぶっ飛んでいるという認識である。
折角話し掛けてくれたのは嬉しいのだが、彼女のようなコミュ力カンストしてそうな人間とは面識が殆ど無い。
未経験、接し方が分からない。一般的な人間の価値としては高値なのだろうが、私にはそれは分からない。
今日はホームルームだけで終了とのことだった。まぁ、知っていたが。
私の席と鷺澤さんの席は前後の関係、とても距離が近かった。
やはり彼女にはオーラやら何かしら見えない何かがあるようで私が苦手な派手なグループが彼女に興味を持っていた。
他のクラスだろうお調子者らしい男子が覗き見をしていた。きっと彼女を見ていた。
担任となった20代なのに童顔な女性職員が解散、のよう旨を伝え教室を出ていくと肩をポンポンされた。
誰かは分かっていたからゆっくりと振り返ると、
「蒼、一緒に降りよう?」
満面の笑みでそう声をかけてきた。それを見つめる一部の女子、男子の視線が痛かった。