コメディ・ライト小説(新)
- 黒嶋さんは眼鏡を取りたがる ( No.6 )
- 日時: 182.251.254.15
- 名前: モズ ◆hI.72Tk6FQ (ID: ???)
- 参照: 1
『黒嶋さんは眼鏡を取りたがる』
永遠に冬だと思われた僕に春が訪れそうなのですが、信じられません。
ですが、そのきっかけがあんなことだとあんまり嬉しくないのですが。
簡単に言うと僕はとある女子に気に入られてしまっています。
しかもスクールカーストにおいて群れを為さないのに上位、つまり顔が良いだけの人に。
それも好かれている、それだけなら問題は何もないのです。ただ、問題は……
「ほら、今日もあの姿を見せてよ……あの顔、好きなんだから」
「……ここ、学校だってこと分かって付きまとってるんですか?」
本人無自覚の半ストーカーにでもなっていたこと、でしょうか。
それから周りに人が居ようとそんな風に懇願してくること、ですね。
当の本人こと黒嶋さんは先程も説明したように顔が良いだけで学校生活を満喫している人です。
上位グループの他の群れを為すだけの派手な女子は黒嶋さんのことを気に食わない人も要るみたいですが、
一部のただ単に人が良い派手な女子は彼女と楽しそうに会話しているのを見掛けました。
他にもそれでいて天真爛漫だから男子にも好かれない筈が無いわけで。
つまり本当に人気者、という表現が似合う人、それが黒嶋さん。
本人意識せずとも人が寄ってくるのが黒嶋さん、そんな彼女に近づかないのが僕であり。
そしてそんな彼女が僕とよく一緒に居る、これは誤解しか生まない。
その被害を減少させるため(とはいえ被害が及ぶのは自分だけなのだが)彼女に忠告をしている。
離れてください、女子と歩いててください、あの顔は虚像ですから、と行っているのにも関わらず。
どうして黒嶋さんは尚も付きまとうのか、僕には一切理解ができなかった。
もしかして本当にあの事件のことを言っているのなら、忘れて欲しい。忘れてくれ。
あの事件、これは一月前のお話である。
とはいえ誰にも誤解をして欲しくないのだが、元凶も何もかも黒嶋さんである。
つまり僕の学校生活を乱したのは完全に黒嶋さんである、ここが大事である。
そして本人はそのことに一切自覚がない。とてもまずい事態だ。
さて話を戻すだが、何が起こったかというと黒嶋さん曰くあの顔、を見られてしまったわけだ。
そもそもお互いに同学年ではあるが、住む世界が違うのだからすれ違っても顔を見ることさえ無かった二人。
九月に入り肌寒くなってきた時期の話、僕は空き教室にて睡眠を取っていた。
これだけの文章だと僕に対する印象が悪くなってしまうから言葉を付け足して補足をしていこう。
相当眠くなるであろうこの時期、僕は放課後、倉庫状態の空き教室にて睡眠を取っていた。
つまり寝てしまうのは仕方なかったし、人が来ることはあり得ないと踏んでいた場所で寝ていたのだ。
実際、テストが近付いてきていて数学にて演習を繰り返していたら刻々と時間は過ぎていくのだ。
だがそこに何故か黒嶋さんが侵入、そして何を思ったのか僕の眼鏡を、命とも呼ばれた眼鏡を取られたのだ。
それからは何者かが居る雰囲気、声、何だか温かい空気に違和感を覚えながら寝ていたのだと思う。
それから暫く、僕が完全に意識を覚ますと目の前には僕の眼鏡を掛けた黒嶋さんが居たわけで。
「……え、は? それ、僕の眼鏡……って僕の眼鏡返してくだ」
僕の悲痛な叫びを無視して黒嶋さんは喋りだした。
「ちょっと、動かないで」
その言葉で動きを止めてしまった僕、とても良い奴とか思いながら待っていると、
パシャ、という嫌な音が聞こえてくるではないか。
「今、何したんですか」
「眼鏡を取ったあなたの写真を撮ってたの、可愛かったから」
厳密には黒嶋さんに取られたことにより眼鏡の無い、僕の写真だろ。と思ったのだが。
そんなのお構い無し、のようだった。
そんな風に語る黒嶋さんの表情は見るからに「どうして止めちゃうのよ」とか言ってそうだ。
「ねぇ、誰かは知らないけど。眼鏡なんて止めたら?」
「……視力が悪いから眼鏡は掛けているんですけど」
名前ばれを防ぐために名前だけは名乗らないでおいた。
ぼやけた視界でも分かったのは黒嶋さんが裸眼の僕の顔に自らの顔を近付けたこと。
「あの、距離が近くないですか」
尚、黒嶋さんに肩を掴まれて身動きは殆ど出来ない状態。
動いたら動いたで黒嶋さんに何かさせてしまっては僕の身が無くなるのだから、
動ける筈もなかったのだが。
「眼鏡じゃなくてもコンタクトがあるじゃない。折角の顔が勿体無いじゃない」
「そんな大した顔、してないですから。離れてください」
「分かったわよ、じゃあこの眼鏡は私が掛けてるわね」
「はいはい、分かりましたよ。勝手に見てれば良いじゃないですか!」
多分、この言葉が一番まずかったように思える。というか、まずかった。
その日は黒嶋さんの気が済むまでひたすら見られている、という謎の時間だけで終わった。
勿論、眼鏡はしっかりと返してもらったのだが……
「また、見せてよね? そうじゃないと付きまとうから」
「それは嫌、止めてくださいよ。僕の学校生活が崩壊するのでそれだけは止めてください」
こんな会話でも合ったような、気がする。夢だったら、どんなに嬉しいことか。
これが僕的には事件、黒嶋さんにとっては何かしらであろう事である。
つまり、とてもヤバい状況なのだ。命とも呼ばれた眼鏡を伊達にして人の視線を避け始めたのもその影響だ。なのに、
「ひょい」
目の前がぼやけたまま、だが鼻に重量を感じられない。つまり、これはつまり……。
保健室に籠ろう、それかトイレで時間を待つしかない。
人が溢れた廊下を僕は全力で歩いていく。ただし、視線を避けながら顔を隠しながら。
保健室ナウ。そういえば、ナウいって死語らしいね。ってナウいって知ってる?
保健室の若い女の先生は僕のこの特殊な状況に共感を得たらしく、保健室に居ることを許可してくれた。
本当に黒嶋さんなんかより全然素敵な人だ、それでいてめっちゃ美人で。
身も心も綺麗な人はこういう人のことなんだろうな。
と思ったら、保健室の先生が話をしてくれたのだ。学生時代を。
どうやら先生も昔は眼鏡っ子らしく、性格も大人しく控えめだったらしい。
性格が控えめなのは今もそうだと思うが、それは言わないことにした。
今も昔もいじめの始まりは些細なこと、先生もいじめにあっていたらしい。
とはいえ本人は大したこと無いんだけどね、と語っているがそれは本当なのかは分からない。
眼鏡っ子、それで当時は小柄だったから。それだけで少しばかりいじめられていたらしい。
例えば廊下で誰かに気付かれないように蹴られたり、殴られたり。
とはいえそれくらい大したこと無かったんだよ、皆にバレてなかったから。
なんてやけに明るい笑顔で言うもんだからその先がやたら気になった。
明るい笑顔の理由は直ぐに判明した。それはそのいじめが止まった理由に関係する。
軽い暴行を偶々見ていたらしい一人の男子生徒に助けられた、からだそう。
彼がただの何でもない男子だったらいじめは続いてただろうが、
よりによって相手は学校でも人気の……まぁ所謂イケメン、という奴だったそう。
先生によれば当時は夢物語でも見てるかのように完璧に出来た人間に見えたらしい。
ここまで聞いて何故僕に共感したのか、全く解決していないことに気が付いて口を挟もうとすると
僕のそれに気づいたのか先生は話し出す。
「私も君みたいに眼鏡を外されたの、その時は誰も居なかったから良かったけどね」
その後、護衛とかいう名目でその男子生徒は先生を守っていたらしいが、
後々話を聞くと先生のことが前から気になっていたらしく、
偶々見かけたあの光景に口を出さずには居られなかった、というのだ。
それからは延々と先生の惚気話が続いたが学校の人気者に近付かれた時はびくびくしていたらしいし、
護衛されている時も安心しながらも居ないタイミングで今まで以上の被害が……と怯えていたらしい。
結局、最後には
「黒嶋さんはよく保健室に来てくれるけど、悪い子じゃないから安心しなよ」
と、安心してよいのかよく分からない言葉を頂いた。
保健室の先生から今日は大目に見てあげる、と体調が悪くて授業を休んだことにしてもらえた。
マジGJ、と思いながら何もやることも無い保健室で暇をもて余した。
とか考えようとした数分後である。保健室の戸ががらがらがら。
悪い予感がしたが、まぁそりゃ予想通りだった。
「眼鏡、返しに来たけど。あなた、授業サボったの? もしそうなら申し訳ないわ」
「眼鏡が無いと社会的に生きられないんですから、取らないでください」
「はいはい、ほら」
黒嶋さんはよりによって胸ポケットから眼鏡を取り出すとそれを顔に近づけていく。
どうやら自分で僕に掛けさせるつもりだったらしい。
「いや、あの、自分で掛けられるんで良いんですけど」
「何よ、文句でもあるの?」
「今までのことも含めても文句しかないですよ」
はぁ、とため息をつく黒嶋さん。
本来、ため息をつきたいのは僕の方なのだが。
「別に良いでしょ、好きなんだから」
「は?」
「聞こえなかった?」>2018/11/29 03:28