コメディ・ライト小説(新)

Re: 零章・零話/修正×2 ( No.1 )
日時: 2018/06/03 12:58
名前: 灰狐 ◆R1q13vozjY (ID: T0oUPdRb)

【零章・零話~無名の人間】


 もし、君が死んだとしよう。いいかい? 自分が死んだ時を想像するんだ。
その時、君は何が思い浮かぶだろうか? 死後の世界とやらか、悲しむ家族の顔か。それは人によって違うのだろう。少なくとも僕は家族だ。

 そして死ぬ日。いわゆる命日というもの。僕はそれが平均よりも早く訪れた不幸者。死ぬというのは呆気無いもので、痛みすら感じず気が付いたら死んでいた。仮に、死因が事故死という僕の場合であるが。それでも、まだ死んだと決まった訳では無いのが事実でもある。だって、まだ死んだという報せは届いて居ないのだから。まぁ、それでも目が覚めたら、人間味の欠片も無い者に見られているという時点で死んでいない等の可能性は薄いけど。それに加えて見覚えの無い部屋とベッドに寝かされている時点で異常だけど。明らかに病室じゃないし。
 だらだらと脳味噌を掻き回す様に僕の思考は動き始める。まるで、変えようの無い現実から逃げる様に。

「......所で誰ですか」
「閻魔です」

 僕の傍にずっと佇む、ビール腹のおっちゃんに問い掛ける。無駄に出た腹と、それに似つかぬ黒髪おかっぱヘアーを揺らして閻魔とやらは微笑んだ。糞っ垂れ。そこは何とか言えよ、平気で閻魔とか言うんじゃねぇよ。もしかしたらまだ生きているかもなんて言う薄っぺらい希望を踏みにじった癖して、そいつは新たな希望を掲げた。

「いや、でも君を裁く訳じゃないから。寧ろ救世主よ? 君に、情けで第二の人生をプレゼントしに来たしさ?」

 口に笑みを浮かべて、まるで問い掛けるみたいに閻魔は少し首を傾げる。何かを企む様な悪戯っ子みたいな顔は幼いながらにも、何処か有無など言わせないものが有った様に思う。否定するようにブンブンと顔の側で振られていた手は、いつの間にか僕の手を包むように握っていた。絶対に逃がさない。そんな思いが伝わる程に握る力は強い。
 第二の人生。裁くって何だとも思ったが、そっちの方が勝った。その言葉の響きは恐ろしい程に輝いていたから、直ぐに魅了されてしまった。だって、死んでいる人にとってはメリットしかないじゃないか。

「第二の人生って?」
「そのまま。......ま、運が悪けりゃ始めは苦労するよ。でもね、君の居た世界に戻れる訳じゃない。......んーと、君の世界で言う転生ってやつかな? それとは違うね」

 僕の質問が予想通りという様に閻魔はフッと笑った。閻魔の態度が馬鹿に大きいのに、あーだこーだ言えないのがなんか癪に障る。
 転生とはまた違う? なんだそれと言う様にこてんと首を傾げてみる。閻魔は考える様に声を溢すが、直ぐに「体験した方が早い」と腹をボヨンと揺らしながら言った。その顔に飾られたのは、愉しそうに笑う不敵な笑み。
 僕はそれを、この世界での最後の記憶とでも言うべきなのだろうか。