コメディ・ライト小説(新)
- Re: お犬様に生まれ変わりまして ( No.1 )
- 日時: 2018/01/13 09:48
- 名前: 逢葵 秋琉 (ID: 9j9UhkjA)
序章
小さな祠には小さな小さな犬の石像が奉られていた。犬の石像に貼られている御札と祠の隣には立札があり、立札にはこう記されている。
__触ラヌ神ニ祟リナシ、触レレバ戻レヌ戻ラレヌ、宵__
その後に続く筈の文字が掠れていて読めなくなっているが、この祠。否、この犬の石像には触れていけないらしく夥しい数の小さな鳥居が幾つも祠を囲むように周りにあり、それに加えて注連縄も取り付けられていた
結界、境界線とも云われている注連縄をつけた所には、神様が宿るとされていて現世と神の領域の堺目だと云うことを表しているものでもある。
とある時代には犬が崇めたてられた時に作られたものだとか、平安時代に作られたものだとか地元の間では云われているが詳細は不明のままでこれ迄にこの祠を調べようとした人たちが居たらしいが、祠に行ったっきり戻って来ず行方知らずが十数人居るため、それもあってか地元の人から遠巻きにされていた。
ただ一人を除いては、誰も近寄ろうとも触れようとしない祠に訪れ手入れをする男の子が居た。その男の子は犬の石像には触れずに祠と注連縄、鳥居のみ綺麗に丁寧に掃除を始める。
「母ちゃんが、行っちゃ駄目とか言ってるけど.....皆がピッカピカにしないから尾ひれがつくんだろ」
男の子は、学校帰りなのかランドセルを背負い、頬にはガーゼが貼られていて、短い茶髪は癖っ毛なのか所々無造作に跳ねている。左手にはハンカチと右手には水筒を持って不貞腐れたような顔のまま隅々まで水筒に入れ換えた水とその水で濡らしたハンカチで汚れを落としていく
「.....物は大切にしろって言ってる癖に、さ。 僕なんかよりずーっと大人なんだから僕が見てなくても良い大人で居てよ。 あれで良いんだって思っちゃうじゃん。 そう思わない? ハチ」
汚れを落としながらも、祠に鎮座している犬の石像に話し掛ける。待つ姿、そして犬の名前で有名なハチ公からとってハチと勝手に名付けて呼んでいるが、端から見ると独り言を呟いているイタイ子だ。否、もしくは子供さながらの光景かもしれないが男の子が言っていることは辛辣で中々鋭い指摘をしていた
「皆、反面きょーし?って奴なのかな。 化物両親?で、威張っちゃって無茶ばかり言うとか? 他人にキツく当たる大人ばかりとか? ええっと、うん。 皆、子供! そう、子供なんだ!」
そうしようっと、というよりそうしないと頭、爆発しそうだから! と今の状態でも、既にプッシューなんて音がなりそうな程に子供らしからぬ険しい顔で祠の壁とにらめっこをしつつ思い耽っていたのは、両親と祖母や教師の言動で、男の子はテレビで見たことを踏まえて当てはまるか当てはまらないかを頭の中でそして、口にして考えすぎて頭が混乱する前にそう判断したのかちょっぴり男の子は晴れ晴れした顔になり、濡れハンカチで祠の壁を拭いていく
「僕よりも沢山知ってるだけ! だって、母ちゃんと父ちゃんの前では良い子だろ、皆! ほらやっぱり、同じだよ! やること一緒、大人も子供も関係ないんだ!」
- Re: お犬様に生まれ変わりまして ( No.2 )
- 日時: 2019/04/21 11:31
- 名前: 逢葵 秋琉 (ID: Jhl2FH6g)
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男の子が、言っているのは人間関係のことだ。 皆が皆、良い子であろうとして猫を被り、人に見せないように本性をひた隠しているが、見え隠れしている。しまいには、嘘を重ねてその人にはこう言ってあの人には嗚呼言うちぐはぐな人も居たりと本音と建前がある。 そもそも、建前と嘘がある時点で可笑しいとは思うが、男の子から見たら物凄く滑稽なことだと感じてしまっていた。
だから、言う。 流石に自分より大きな体をしている人、略して大人には面と言う度胸はないし仮に言ったとして、大人の事情みたいなことを言われたら何も言えないので犬の石像のハチに言う。
「そんなことしてもさ、意味ないのに。 だって僕だったら宿題やれば母ちゃんは何も言わないよ? 大人だって仕事をちゃんやればやっただけ評価されるでしょ? 人のこと言ってる場合じゃないよ。」
何で、すぐ人の良し悪し言うんだろう。 と腕を組み首を傾げてうーんと唸るようにして考える。しかし、どんなに首を傾けて頭の中で考えても答えは出てこない、きっとそれでもやってしまう何かがあるんだろうとしか浮かばず、駄目かと断念する。確かに良い所があれば言いたいし誰だって褒められたら嬉しいとは思う。
「けどさ、やっぱり人の悪口言ったら駄目だよ。 皆違って皆良いってよく学校の壁に貼ってあるのにさ。 大人になると意味ないってないよ。」
嫌だな、そんなの。 と再び顰めっ面になりつつも、祠を拭いていた手を止めて憂鬱そうに空を仰ぎ見てぽつりと小さく呟いた男の子は、犬上 終と云う。終は数秒空を仰ぎ見た後に、余計な考えを振り払おうと首を左右に振ってハチに目を移した。そこで、ふとあることに気付く
「あれ? こんな汚れあったっけ....うーん、どうしよ。」
ハチの左前足に炭のようなものがあってそれが汚れか焦げた跡かそれとも模様なのか分からずにまじまじ見る。しかし、一週間に一回のペースで来ている終は、ハチに模様がついてなかったのを憶えているために汚れか焦げた跡のどちらかだと判断したもののハチには触れるなと祖母や親戚に特にキツく云われているのでハチ自体に触れるのには流石に抵抗がある。
然し、その理由が分からないのもある。ハチが悪いことしたようには見えないし悪党にも見えない。偶々、ハチの周りで神隠し否、人拐いが出没しているだけだと終は思う。だから、ハチに触れることを暫く躊躇い空をさ迷っていた手を意を決してハンカチ越しに触れる。
ごくりっ。ハチに触れるこの瞬間。緊張が終の体を走り、固唾を飲んで暫し触れたままハチを見る。
「.....、...」
「......」
「なーんだ。やっぱり、何も起きな...?!」
触ってから数秒、経っても何も起こらなかったのでそう口にして云おうとしたが、最後まで言い切る前に
ーー 一時保存 ーー