コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.101 )
- 日時: 2020/04/06 14:21
- 名前: 美奈 (ID: hVaFVRO5)
第51話
・・・・・・・・・
一夜明けて2日。
俺は結局、悠馬に“俺と華音様だけの秘密”をあっさりと吐いてしまった。なんてこった。突如失態に気づき泣き始めた俺を、悠馬はずっとなだめてくれてたな。頭ぽんぽんもしてくれた。式神に頭ぽんぽんされる人間って画的にはアレだけど、実際めっちゃ嬉しかった。もっと言うとキュンとした。悠馬に胸キュン。...えーとこれ以上は自粛しよう。
模擬店の話に戻ると、昨日で店の外観や内装は一通り仕上がった。パステルカラーをふんだんに使って、ハート型の風船なんかも飾り付けてあって、見事にキッチュでポップな空間になっている。女子は一旦完成するなり、「きゃーめっちゃ可愛い♡超やばーいうちら天才じゃん!」などと喚いているが、本音言えば男子はたまったもんじゃない。ここで一時間のシフトを務めることは軽い拷問に等しい。一番文句を言っているのは柔道部と野球部の連中だ。確かにそういう見た目でこういう店いるの辛いよな。超絶分かる。俺でさえ、キュートな空間が出来上がっていくのを見て、妙に落ち着かなくなってしまったのだ。逆に華音様と違うシフトで良かったかもしれない。華音様と同じ空間+超絶フォトジェニックな空間のダブルパンチで死にかけた可能性が高い。
今日は衣装の確認と料理の仕込みを行う。男子は制服シャツの上に黒のジャケットと蝶ネクタイ、女子はフリル付きエプロンとリボンのヘアアクセサリー。ジャケットは各自持参で、蝶ネクタイと女子の衣装一式が手作りだ。全員、一度衣装に袖を通してみる。...ああ、華音様の殺人的に可愛いことよ。あなたはその可愛さで人を殺せるよ。ある意味才能。
皆見事に生気を吸い取られている。そりゃそうだ、無理もない。
ああ、文化祭楽しみだなあ。シフトは違うけど、帰宅部というのは非常に融通が利く。華音様が1年で唯一のレギュラーだというバスケの試合を見に行かない選択肢があるだろうか。否、ない。風邪引いても這いつくばっても死んでも行く所存である。彼女のウエイトレスとユニフォーム、両方見られるなんてなんて素晴らしいことなんだ。
...などと夢を膨らませている間に衣装合わせは終わり、料理の仕込みも一段落した。終礼が終わって帰宅部の俺は即下校だが、部活組は今日も祝日の明日も練習や準備だ。華音様も城田もそうである。
今日は華音様が膝をさする場面を見ていない。良くなったかな。大丈夫かな。城田はともかく、華音様に俺は心の中でエールを送った。頑張れよ、って。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.102 )
- 日時: 2020/04/08 16:03
- 名前: 美奈 (ID: uJGVqhgC)
第52話
・・・・・・・・・
早いもので、文化祭当日はあっという間にやってきた。学校の雰囲気もガラリと変わり、校内にはジャニーズメドレーやアニソンが絶えず流れている。様々な屋台の匂いが混じっていて、空気がもわっとしている。
今日は午前中が試合で、午後の一時間が模擬店のシフトと、明日の練習。明日も試合だけど、それは男子のバスケ部。午後の練習とは、要するに男バスのトレーニングを一緒に行うということだ。
文化祭の後には、また別の試合が控えている。その試合でもメンバーに選ばれるためには、今日結果を残す必要がある。膝の痛みは先日よりだいぶ良くなってきた。よかった。
次の試合メンバーの選考は、コーチとOG数名、男バスの2年のエースとキャプテンが今日の試合を見ながら行う。今日だけが全てじゃないけど、かなり大事な試合になってくるのだ。今ひしめきあってる屋台のもわもわした空気は、今の私の心みたい。緊張と焦りと、よくわかんない感情と。全てがもわって融合してる感じ。
みんなに、かっこいいとこ見せたいなあ。
屋台を通り過ぎ、廊下に面した洗面で髪をポニーテールに結っていると、「おはよーう」と声をかけられた。鏡越しで確認しようとすると、細くて背の高い、こげ茶の髪をした男子生徒が映っていて、挨拶する前に「あっ」と言ってしまった。
そう、誰もが認める男バス2年のエース、大和先輩。あ、大和ってのは名前で、私が心の中で読んでいる名前。名字は皆川だ。
「皆川先輩!おはようございます」
「今日の試合頑張ってね、楽しみにしてる。1年で唯一だもんな、マジすごいと思う」
「はい、ありがとうございます!でも皆川先輩も去年唯一選ばれてたって聞きましたよ?」
大和先輩はちょっと意地悪っぽい笑みを浮かべた。「バスケ歴12年ですからねえ」
「エキスパートですよね、本当にすごいし憧れてます」
「おお!直で後輩から憧れてるとか言われたことねえ!嬉しいわー」
素直に喜んでくれるところが、私も嬉しい。自分に正直になれる人って、本当に輝いて見える。
「じゃ後でね!」と大和先輩は言って、スタスタと歩いて行った。
目の前の鏡を見据えて、一度深呼吸をする。
今日は頑張るぞ。次の試合と、大和先輩のために。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.103 )
- 日時: 2020/04/10 14:56
- 名前: 美奈 (ID: uJGVqhgC)
第53話
・・・・・・・・・
うるせえ。朝からとにかくうるせえ。
何が、って?そりゃあ分かるでしょうよ。
『京汰っ、おっはよー!早く起きて起きて!今日は文化祭だね!美味しいごはんもいろんな出し物もあるんでしょ?楽しみ楽しみ〜♡』
と、いつも以上のハイテンション(つまり測定不能レベルの興奮)と大声で目覚まし時計の音は見事にかき消され、俺の部屋に壁からスルッと入ってきて俺から布団を引き剥がし、何とベッドの上に乗ってきた。まあ男とはいえ式神なので、乗ったとこでベッドは壊れない。質量ないし。ただ画的に問題がある。非常に問題がある。なのでこれ以上は描写を自粛させて頂くが、まあ色々あって5分くらい経って、俺は何とか悠馬を退け起き上がった。
「あー髪も布団もぐちゃぐちゃじゃんか!ったくやかましいわ、もっと丁寧に起こせこの野郎っおい聞いてんのかこらっ」
朝から毒を吐くが、もう悠馬はいない。部屋を出てみると、ゴーストバスターズを歌いながら目玉焼きを作っていた。いや選曲...お前それ歌える立場かよ...
平常運転の軽いツッコミを入れつつ、それでもいつも以上に賑やかな(二人しかいないけど)朝の時間を過ごし、俺たちは家を出た。
学校に着くと、文化祭実行委員が「ここの飾り付け取れてる!!」とか、「ここの風船割ったの誰だよおい!」とかいう怒鳴り声や、その直後に風船が派手に割れる音、そして廊下では絶え間ないジャニーズメドレーやアニソン、有志でダンスを披露するグループが練習する掛け声、吹奏楽部のチューニング、さらに校庭からはテニスのラリーの音、無駄にでかいホイッスル...もうとにかくいろんな音がひっきりなしに鼓膜を揺らす。鼓膜が過労死しそう。そして横では、
<うわぁぁぁこんなに賑やかなんだ!めっちゃ楽しそう!京汰帰宅部なんてとってもとってもすんごくどうしようもなくもったいないよ、人生やり直した方がいいよ!>
例のあいつが喋り倒す。マジでうるせえ。悠馬だけでも毎日相当うるせえのに今日は周りもうるせえ。
(人生やり直すってどゆことだお前、しょーがねーじゃん家系的に色々やんなきゃいけねえからよ、それに後悔なんかしてねーしお陰で華音様の試合見れるし、だからとにかく黙れうるせえ)
またしても俺は毒を吐く。陰陽師の家もそこそこ大変なのだ。覚えることがとっても多い。最近は悠馬の登場とかテストとかでてんやわんやで、全然訓練の時間ないけど。術も結構忘れてる気がするなぁ。...まぁいずれどうにかなるっしょ!ノープロブレム。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.104 )
- 日時: 2020/04/13 00:51
- 名前: 美奈 (ID: uJGVqhgC)
第54話
黙れと言っても到底聞く耳を持たない悠馬の怒涛の言葉は、軽く受け流し続けた。もうどんな音も、鼓膜を揺らして通過するだけだ。
だが教室の近くまで来ると、突然悠馬が<あっ>と言った。その声はなぜか耳から脳へ伝達されたので、瞬時に視線を変えると。
廊下に面した洗面に華音様が。しかもポニーテールの華音様が。今日もキマってる。彼女が俺に気付いて顔を向ける。可愛すぎて言葉が出ない。どうしよう。
「京汰くん!おはよ!」
ななんと!華音様の方から挨拶してきた!!うわわわわわわわわわわわしかも京汰くん呼び!!!誰か俺を、藤井京汰くんを支えて、倒れちゃう!
「あ、お、おはよ、きょ、今日試合だよな?ひ、膝大丈夫...か?」
左手の悠馬が挙動不審の俺と華音様を交互に見やる。やめて見ないで悠馬恥ずかしいわ。
「あ、うん、おかげさまで大丈夫!普通に試合できそう!本当にありがとね」
「お、おう」
ぎこちなく笑う俺。華音様のいつものふわふわスマイルがフェードアウトしていく。会話が終わった。つまり、去らなければ。HRの行われる教室へ行かなければ。えーとなんて言おう。無言は良くない。あ。あとで教室でな、はどうかな。よしこのセリフで行こう。
「あ、じゃああと「ねえ試合見に来れる?」
ん?華音様なんかおっしゃったよね?さっきから予想外の展開が多い。どしたの華音様。
「あごめん、なんて言った?」
華音様は俺を見据えたままだ。やだ何この胸の高鳴り。ドキがムネムネしてる。
「試合、見に来れる?」
「う、うん行けるつーか行く」
華音様の視線が少し揺れる。びっくりしたのかな。いやでも当たり前だろ。行くよあなたの試合は。
「ほんと?よかった!膝大丈夫だよ、ていうのちゃんと見てもらいたいと思って!じゃあまたあとでね!」
鏡で髪型を確認してから俺の方をもう一度見て、そのまま彼女はポニーテールを揺らして去って行った。
...可愛い。ほんと可愛い。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.105 )
- 日時: 2020/04/14 16:03
- 名前: 美奈 (ID: uJGVqhgC)
第55話
・・・・・・・・・
京汰の隣を歩いていて、ふと思った。
僕って卑怯なんだろうか、と。
本当は知っていた。
華音ちゃんが膝を痛めてた、ってこと。僕ならちょっと頑張れば彼女の膝の痛みを消すことができるんだけれど、急に痛みが消えたら驚かせちゃうはずだから。
だから、あの京汰との微妙な冷戦状態期間中、僕はこっそり彼女のお世話もしていた。
そんなことできるの?って言われそうだけど、できてしまったんだよ。
だって京汰、魂抜けてたから僕が少しの間いなくても、全然気にしてなかったんだ。
これを僕は寂しいと捉えるべきだったのかもね。でも違った。
チャンスだ、って思っちゃった。つまり抜け駆け、ってやつだ。まあ抜け駆けしたって、当の彼女には見えないから意味ないんだけど。
華音ちゃんに例えばどんなことしたの、って?
それは、彼女の荷物をちょーーーっとだけ持ち上げたり、膝に負荷がかかりそうな時にはちょーーーっとだけ膝の痛みを和らげてあげたり。
本人が気づくか気づかないか、くらいの加減で。
それにしても彼女は不思議だ。
あの美貌と人気を誇っているのに、全く鼻に掛けることがない。
人外の僕でさえも惹きつけてしまう、素敵な女の子なのに。
むしろ、本当の自分を見てる人はいないって思ってる。
彼女の考えていることだって、僕には分かる。
自分は卑屈じゃないかと思っていること。脇目も振らずまっすぐな人に惹かれやすいこと。前から気になる先輩がいること。
そして、京汰のバカ正直な所も、ちょっと魅力に感じていること。
ただこんなこと、口が裂けても京汰に言いたくない。何か悔しい。サポートしてるのは君だけじゃないのに。
やっぱり僕は卑怯なのかな?