コメディ・ライト小説(新)

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.111 )
日時: 2020/04/26 13:30
名前: 美奈 (ID: Bf..vpS5)

第61話
結局華音様の決めたシュートはそれ1本で、後は先輩達がバコバコ突っ込んで圧勝。というか、華音様のシュートを皮切りに、先輩達のスイッチが一気に入ったって感じだった。完膚なきまでに叩きのめす、って多分こういうこと言うんだな。すげぇ。華音様はシュート後もディフェンスで体張ってたし、勝利に十分貢献してた。
華音様は光る汗をタオルで拭っている。タオルになりたい。いや気持ち悪いね、自粛しよう。
そして彼女はスタスタと歩いていく。その先には...皆川先輩。

(マジかよ...)

<京汰ぁ、せっかく華音様のいいとこ見れたのに顔死んでるよ?>

(だって見ろよ、皆川先輩とあんなに楽しそうににこやかに...ハイタッチまでしてる...)

事実、華音様は皆川先輩ととても楽しそうにお話なさってる。距離近いってだから!!!二人とも!!!
あの笑顔は俺にだけ向けるものじゃない。頭では分かってんだけどよ...。
見たくない光景ほど、食い入るように見てしまうんだよな。切ない。

<僕だってうらや(ん、ごめん何?)>

<ん、んーん、テニスバカの代わりに見れただけでも良かったじゃん>

城田、お前式神からテニスバカってあだ名付けられたぞ。おめでとう。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.112 )
日時: 2020/04/28 13:59
名前: 美奈 (ID: Bf..vpS5)

第62話
・・・・・・・・・
京汰は注意散漫だ。周りの喧騒にばかり気をとられている。今はバスケの試合が終わって少し経った頃で、まだガヤガヤと声が聞こえつつも、その音量は少しずつ小さくなっていた。
部員達も荷物をまとめ、体育館を後にしようとしている。

僕は静かに京汰の隣を離れて、彼女の後を追った。
暫くついて行くと、バスケ部の控え室となっている理科室が近づいてきた。周辺の廊下は人通りが少なく、電気も一部しか付いていない。
好きな人を控え室まで追うなんて。僕もどうかしているな。

一人でふっ、と笑うと、彼女がこちらを見た、ように感じた。
いや、見えてないんだから、視線など合うはずがないわけで。
でも彼女の目は、しっかり僕の目を捉えている、ようにしか見えない。
僕は後ろを振り返るけど...誰もいない。

「なんで後ろ向くの?私たちしかいないのに」

華音はおかしそうに笑う。

『え、それって僕のこと...?』

「うん、男の子なのにここまでついてくるから気になっちゃうよ」

顎が外れそうになった。

『い、いつから僕が視えるの...?』

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.113 )
日時: 2020/04/30 13:51
名前: 美奈 (ID: Bf..vpS5)

第63話
彼女はこの問いかけにびっくりしたようだ。大きな瞳をさらに大きく見開く。瞳が落っこちてしまいそうだ。
というか、僕も僕だ。なぜだか知らぬ間に隠形おんぎょうを解いていた。僕が視える人なんて京汰以外にいない、と思う一方で、もしかしたら、彼女が見つけてくれるんじゃないか...とも思ってしまったのだろうか。
ともかく、普通の人には隠形しようがしてまいが、僕のことは視えない。
ただ目の前の彼女には、僕が視えている。一大事だ。

「え、見えちゃいけないタイプの人を私今見ちゃってる?」

『う、うん、視ちゃってる』

「えー!思ったより私疲れてるのかな今」

『いや、そういうんじゃなくて、君には多分僕みたいなのが視える才能がある』

そう、霊感とかじゃなくて、才能がなきゃ式神は視えない。
彼女がそんな特殊な人間だったとは。
さっきまで目を見開いていた華音は、急に真顔になる。真顔でも美しさは消えず、凛としている。

「え、もしかして既に亡くなってる方...とか...?」

今度は僕が目を見開いて、首を左右にブンブン振る羽目になった。

『いや違う死んでない!ってか生きてるっていうのかなこれ...んーとにかく死んではいない、ってか人間じゃないってのが多分正解』

「え、どう見ても人間の男の子なのに...?」

『式神って存在なんだよ』

「しきがみ...?初めて聞いた」

やっぱり難しいか。僕も普通の子に姿見られたことないからな、うまく説明できないや。

『とにかく、人間ではなくて式神で、だから死んでるとかいう次元じゃないの。でも普通の人には視えないはずなんだけど、なぜか華音ちゃんには視えてる』

「なんで私の名前を...」

あ、マズい...!つい呼んでしまった。どう言い訳しよう。

『あ!ごめん...!』

すると彼女はコロコロと笑う。

「謝らないでよ、名前知ってるってことはきっとどこかで会ったのかな?私こそ覚えてなくてごめんなさい。どこで会った...?」

『あ、や、会ったというか...』

たまに彼女の荷物ちょっと持ったりとかしたけど、それ以前の関わりはないし...。

「ねぇ、もし会ったなら教えて?」

優しい雰囲気を纏っているのに、有無を言わせない気迫を感じる。僕はとうとうその気迫に押されて、答えてしまった。ちょっと早口になる。

『たまに、華音ちゃんの部活の荷物ちょっと持ったりとかしてた...で、周りの子が君のこと華音って呼ぶから......あ、何か前見た時に膝痛いのかな?って思って...!!』

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.114 )
日時: 2020/05/02 12:36
名前: 美奈 (ID: Bf..vpS5)

第64話
「あー、やっぱり...!」

華音が妙に納得の行ったような顔をするので、僕は不思議な気持ちになる。

「なんかね、たまに荷物ちょっと軽いな?とか、膝に負担かかりそうな時に思ったよりかからなくて済んだな?みたいなことがあって。あれ偶然かと思ってたけど、やっぱり違ったんだ...君が助けてくれてたんだね」

『え...分かってたの?!』

「姿は見えなかったけど、何となく察してた?のかも。けど今姿が見えて何か安心したよ~」

よかった~ありがとう~と、彼女は朗らかに笑う。色んな笑い方をするな、と思い、また魅力が増えたことに気づく。
無意識に、僕は彼女に近づいていた。

『実は僕...「名前、何て言うの?」』

『あ、悠馬、って言うよ』

「ゆうまくん...いい名前。...あ」

彼女の肩に触れていた。無性に触れたくなった。
至近距離で見る彼女は、やはり美しい。まだ汗で少し濡れている前髪と、乱れてうなじ辺りから出てきた後れ毛が、僕の感性に強く訴えかける。僕を上目がちに見つめる大きな瞳。少し開いた唇。このまま手中に収めたくなる自分がいる。すぐ近くでトクトク、と音がする。彼女の肩に触れた手が、少し震える。
僕達はそのまま少し、見つめ合った。
もう半歩近づいて、彼女の背中に腕を回そうとして...。

後ろから、足音がする。
複数人の上履きの音が聞こえる。
同時に彼女が僕から離れた。

「あ、あの、ありがとう。ごめんね、私模擬店もあるから行かなくちゃっ」

小声でそう言い残して、華音ちゃんは小走りで控え室へと向かった。
僕は彼女が控え室に入るまで、揺れる後れ毛を見つめていた。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.115 )
日時: 2020/05/04 13:03
名前: 美奈 (ID: Bf..vpS5)

第65話
・・・・・・・・・
当たり前っちゃ当たり前なんだけど、華音様の周りは人が多くて、試合後に話しかけられる空気ではなかった。皆川先輩なんか、周り多すぎて本人見えねぇ。芸能人かよ。
そんなわけで群衆にまみれながら体育館を出て、お腹が空いてきたので、昼飯を調達するために屋台の物色を始める。

途中でクラスメイトと会い、俺達は一緒におでんとアイスクリームを食べた。なぜか悠馬はいない。いつから消えたんだろ?
まぁ今日はお祭りだ。悠馬も色々気になって一人で見ているんだろう。俺もクラスメイトと話せたので良かった。
アイスクリームを食べ終わり、一旦クラスメイトと別れた所で、急に悠馬が帰ってきた。

(うわっ)

<何だよ、出たぁぁ!みたいな反応して!化け物じゃないんだから>

(だって出たじゃん、化け物じゃん。お化け屋敷行って参加したら?何クラスかあるだろお化け屋敷)

<ひっどっ、もう怒った、ご飯奢ってもらうよ>

(お前観客席座ってただけだろ)

<いーじゃんお腹すいてんの、ブドウ糖多分使ったの>

(お前のどこにブドウ糖あんだよ...)

結局俺は再びおでんとアイスクリームを買う羽目になった。ガッツリさっき食ってたのに、まだ入るのかよ。あいつの胃袋のキャパお化けじゃん。あ、もともとお化けだ。

<ねね、早くクラスのカフェ行こ!華音様いるし、僕もクッキー食べたいし!>

(お前まだ食うのか?!)

恐ろしすぎる。