コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.123 )
- 日時: 2020/05/16 19:48
- 名前: 美奈 (ID: Bf..vpS5)
第71話
・・・・・・・・・
眠い眠いとボヤきつつもシフトをこなす京汰を尻目に、僕の足は教室から離れていく。
廊下を歩けば、ダンス部の女子の固まりが前からやってくる。衣装姿で、メイクも濃くして颯爽と歩く彼女達はオーラがすんごいことになってる。生徒が思わず道開けてるもん。大奥みたいじゃん!
京汰と登校しているうちに、この学校の造りは大体把握できた。僕の場合は壁をすり抜けることもできるから、移動の仕方は多岐にわたる。
意識的なのか、はたまた無意識なのか、僕は体育館に着いていた。
入り口から様子を伺う。
...皆川先輩の横顔が見えた。やはり人間離れしたスタイルと美貌は、この人混みの中でも一際目立つ。本当にこの世界で生まれたのか?って思ってしまうほどだ。スカウトとか来ないのかな。来ても蹴ってるのかな。
今日の彼は昨日とは違って、試合を前にかなり集中しているようだ。こちらにくるりと背を向けて、ドリブルの練習を始めた。
彼もきっと、華音が気になっている。皆川先輩まで虜にする彼女...すごすぎる。
思ったより長く、ボーッと眺めていたみたいだ。
華音が遠くから、僕がいる辺りを見つめていた。
隠形していても、居場所は何となく分かるらしい。さすがの才能だ。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.124 )
- 日時: 2020/05/18 12:40
- 名前: 美奈 (ID: 50PasCpc)
第72話
僕が隠形を解いてみると、華音の表情だけが変わった。やっぱり彼女以外に僕が視える人はいないらしい。
華音は体育倉庫の方を小さく指差し、そこへ歩いていく。僕は従い、ついていく。
倉庫の奥へ入ると、華音は小声で話しかけてきた。
「今日私、試合ないよ?だから膝も荷物も問題ないから大丈夫だよ!ありがとね」
『うん、知ってる。ただ会いたくて来た』
「えっ...」
あれ、僕何言ってるんだろう。
『あ、や、そのまぁ、元気なら、良かった、うん』
「うん、元気だよ」
彼女は少し戸惑いを見せながらも、優しく笑ってくれる。
『今日の告白タイム、見に行く?』
きっと彼女はただの観衆ではなく、そのイベントの主役になるけれど。
「えーどうかな、友達が行くなら行くかもね。どうして?」
『あ、えっと、華音ちゃんはきっと人気で、多分そこでたくさん告白されて、僕なんかよりもっと素敵な人に...』
途端に早口になる僕を彼女は遮る。
「そんなたくさん告白とかされないって!男の子達にとって、私のことは多分色々いじりやすいだけだよ!」
『...華音ちゃんは、自分の魅力に気付いてなさすぎだよ』
「え?」
『可愛いし、優しいし、明るいし、話してて楽しいし、だから辛そうな時は助けてあげたくなる』
一度話すと、堰を切ったように想いを伝えてしまいそうになる。
けど、脳裏に京汰が浮かんだ。
...ダメだ。これ以上は、ダメだ。
僕の姿など視えるまい、と思って始めた彼女のサポート。
でも視えてしまった以上、これは立派な抜け駆けだ。応援すると約束したはずなのに。
「ゆうまくん...?」
『と、とりあえず、告白タイム行ってみなよ。きっと良い人と付き合えると思うよ』
それが皆川先輩なのか、京汰なのかは分からない。
でも僕には、こうすることしかできない。
下唇を軽く噛み、俯いていると、腕を軽く掴まれた。
「ありがとう。ゆうまくんの優しい所、私好きだよ。だから、これからも仲良くしてね?」
ゆっくり腕を離すと、彼女はコートへと駆けていった。
そういう意味じゃないのは分かってる。
でも、''好き''という言葉は、いつまでも僕の中で響く。そして仄かな温かさを伴って、僕の体を優しく包み込んでいった。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.125 )
- 日時: 2020/05/20 21:15
- 名前: 美奈 (ID: 50PasCpc)
第73話
告白タイムの時間が迫ってきた。
僕は再び隠形して、京汰の所に戻ってきている。
本日は京汰に、コロッケとおにぎりを奢ってもらいました。あ、あとマドレーヌもだった。
軽く抜け駆けして奢ってもらうとか、僕きっと京汰より全然図々しいな。ごめんね京汰。
でも告白は寸止めしたから。どうか赦して欲しい。今度こそ僕は、君のことを全力で応援する。
<告白タイムどーすんの結局>
(うぅ...どうしよう...)
ホールには既にかなりの人がいる。華音ちゃんに告る!と男子陣内で宣言していた輩が10人はいた。
その近くで感じた気配。
...皆川先輩だ。クラスメイトとおぼしきメンバーと共にいる。彼は絶えずキョロキョロしていた。一瞬京汰の方を見て、軽く睨む。京汰は気付いてないけど。華音を探しているんだろう。確かに彼女は見当たらない。
そこから少し離れた所には、女子の群衆。そこに近づいてみると、小声での会話が聞こえた。
「皆川先輩受け入れてくれるかなぁ...」「きっと伝わるよ、大丈夫だって!」「あぁ緊張するヤバい無理!!」
皆川先輩目当てか。残念ながら彼は多分、受け入れることはないと思う。でもそんなこと言ってもアレなので(てか言っても聞こえないので)、スルーする。
(悠馬)
<どした?>
(この空気感無理絶対無理)
<じゃあどーするのぉ>
(とりま屋上に退避させてください...外の空気欲しい...)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.126 )
- 日時: 2020/05/22 19:53
- 名前: 美奈 (ID: 50PasCpc)
第74話
・・・・・・・・・
(とりま屋上に退避させてください...外の空気欲しい...)
俺の必死の訴えを悠馬は聞いてくれて、俺達は今屋上にいる。
「ぷはぁぁぁぁぁーーっっ」
心地よく吹く風に、焦りとか不安とか緊張とかの、モヤモヤの全てを乗せて運んでもらった。お陰で幾分楽になった気がする。
<ったくこのビビリめ>
「うるせぇなぁもうっ」
屋上には悠馬と俺だけだったから、普通に声を出して話していた。
「独り言がデカい」
急に低い声音が響いたので後ろを振り返ると。
「み、皆川先輩...」
いつの間に来てたんですか...?!
思わず一瞬、悠馬と顔を見合わせるけど、悠馬はそれほど驚いていない様子。え、まさかの知ってた?
皆川大和先輩は綺麗な眉を片方だけ、僅かに上げる。
「なんで俺の名前...」
「えっ、いやだって、有名じゃないっすか...」
慌てて答えると、あーそうだな、俺有名かぁ、と笑う。今ここシャッターチャンスだと思う。
「告白タイム始まりますよ...ここにいていいんですか?」
「逃げてきたんだよ。お前は?」
「お、俺も逃げてきました...」
なんと。このイケメンと理由同じとかいうことあるんだ。
「どーせお前ビビっただけだろ、ライバルの人数多すぎて」
「......」
「俺もだよ」
「えっ?」
「俺目当ての人数が多すぎて、ビビって逃げてきたの」
風に揺れる前髪を弄りながら、サラッと爆弾発言。やっぱイケメンは自覚あんだな...俺には未知すぎて分からねぇわ。
これ皆川先輩だからこそ、言っても許されるセリフでしかない...。屋上に来た理由同じとか思ってた俺がやっぱりバカでした。はい。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.127 )
- 日時: 2020/05/24 18:37
- 名前: 美奈 (ID: 50PasCpc)
第75話
俺は思わず、皆川先輩を見つめてしまった。爆弾発言にも驚いたし、この至近距離で見るお顔の美しさにも改めて驚いている。彫刻じゃん。
少しの間、皆川先輩はほぼ真顔で俺を見てたけれど、ついに、プハッと吹き出した。
「なーんてね!俺もライバル多そうだなぁ怖いなぁって思って、ここに来ちゃったんだよ」
「そ、そうなんですか...?!」
「なぁんでそんな驚くんだよぉ」
「だって皆川先輩くらいのレベルなら、ライバルなんて全員余裕で蹴散らして、自分が好きな人とかモノは全て簡単に手に入れそうだしっ」
「んなわけないだろ~っ!本気で好きな人は、まだ手に入れたことないよ俺」
皆川先輩が本気で好きな人...どんだけ美女なんだろう。クレオパトラとか好きなのかなこの先輩は。
ちょっと間が空いたので再び沈黙を続けていると、屋上のドアが開いた。
「と、とにかく今ちょっと外の空気吸いたいのね」
「いやちょっと待とうよこっち早く来なくちゃ、みんな待ってるんだから」
「待てない無理ごめん城田くんっ」
...は?!城田?!
ドアから出てきたのは、1年生で一番の美女。
...って華音様じゃん!!!