コメディ・ライト小説(新)

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.141 )
日時: 2020/07/14 12:30
名前: 美奈 (ID: 3w9Tjbf7)

第84話
俺は素早く、妖に狙いを定めた。顔はよく動くので、胸元に照準を合わせる。
渾身の術を、さぁ、今。

「万魔供服!」

妖の顔が、ぐにゃりと歪んだ。
そして、ぐはっ、と言ったかと思うと、下半身が砕けていく。
苦しみに悶えているようで、あーとかうーとかいう呻き声が断続的に聞こえてくる。

...うまくいったか。

『京汰っ!ちょっと足りなかったよっ!』

「え、何が?!」

もう一度妖を見ると、なんと上半身が残っている。爪も伸び続けていた。
そして、抵抗力のない華音様を包む霊力は、今にも妖力に覆われそうになっていた。

「半身でもこの威力...」

今まで妖退治もしてきたけど、目の前のモノはこの人生で最凶レベルの妖だ。

『僕が燃やす』

「え?」

『今度こそ、あいつに業火を仕掛けるよ。だから今度は京汰が華音様を守って』

「でも、守る霊力は悠馬の方が...それに俺はまだ自分を霊力で守る方法しか修行してな...」

『やるんだよ!窮地に立たされれば何でもできるんだよ!とにかく守って!』

「は、はい...!!」

ここで未経験の術を行うなんて。呪も頭に入っていない、なんてさすがに今言えない。未熟者すぎて泣けてくる。
彼女とこちらの距離は離れている。自分の霊力は果たしてどこまで届くだろうか。
...分からない。

もうこれしかないな。多分。

俺は自分の霊力を一気に高めた。体中から何かが迸る感覚。
俺はそのまま、半身だけ残った妖のすぐ隣にいる華音様の元へ突っ込む。

『え、守ってって言ったよね?!突っ込めとは言ってないけど?!聞いてた?!京汰何してんの?!バカなの?!』

「俺はバカだよっ!バカはきっと死なねぇから早く燃やせぇぇぇっっっ!!!!!」

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.142 )
日時: 2020/07/19 15:59
名前: 美奈 (ID: 3w9Tjbf7)

第85話
・・・・・・・・・
僕はてっきり、ここの位置から霊力で華音を守ると思ってた。というか、そのくらいの術は既に自習してると思っていたんだけど...。
妖もいる超危険な領域に脇目も振らず突っ込んでいく京汰を見て、察した。

ーあ、勉強不足だなこれ。

でも今とやかく言う余裕はない。京汰を守らなければ。あのやり方でうまくいくとは思えないし、そもそもあのやり方はどの術誌でも見たことがない。
しかし。

何か大きな力と、そこそこ強い風を感じた。京汰の方からだ。
見ると、なんと京汰の霊力が自身と華音の二人をすっぽりと包み込み、覆い被さろうとしていた妖力は見事に跳ね返されている。霊力の中で京汰は華音を素早く妖から遠のかせ、自分の腕で包み込んだ。
あぁ、突っ込んでいった威力をそのまま利用したんだ。

ただ、京汰はまだまだ一人前には程遠い。この威力は持って数分だ。
僕は早口で呪を唱え、自分の霊力を爆発させた。
霊力が強すぎたのか、僕の周りで溶け残っていた刃まで、地から抜けて妖の方へ飛んでいく。

〔ぐあああぁぁはぁぁっっっ〕

耳をつんざくような叫び声と共に業火が現れ、刃が容赦なく妖に突き刺さる。半身だけの妖はすぐに身動きが取れなくなった。
京汰の霊力はもはや僕の業火と接しているけれど、火にも負けていない。火から遠ざけるように、華音を抱き締め続けている。

ついに妖は全身粉々になり、消えていった。
その周りには、小さな光の玉がたくさん浮かんでいた。