コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.143 )
- 日時: 2020/07/25 12:34
- 名前: 美奈 (ID: UgVNLVY0)
第86話
『終わった...』
僕は呟き、京汰の元へと歩いていく。
少しして、京汰が霊力を解いた。
その隙に華音から手が離れ、彼女が倒れそうになる。
「おっとっと!!」
京汰はすぐに抱き止め、一緒に座り込んだ。
小さく刀印を結び、呪を唱える。
すると、妖の爪のせいで穴だらけだった華音の制服はすぐ元通りになり、一部血が滲んでいた所も綺麗になった。
たくさんあった光の玉も、やがてそれぞれが違う方向へと飛んでいく。
ただ一つだけ、京汰たちの周りを浮遊し続けているものがあった。
「何でこれだけ残ってるんだろ?ねぇ悠馬、この光の玉は何?」
僕は全身の力が抜けた。
いざという時は、新たな技で大切な人を守れる力と才能があるのに。
なぜこんな根本的なことが分からんのだ、このおバカは。
『光の玉は魂だよ。あの妖、美男美女喰いまくってたでしょ?喰われてた人々の魂が、何百年もの時を経て解放されたんだよ』
だから、光の玉も一際美しいものばかりだったのかもしれない。
「じゃあ、この残ってるのは?」
『それは多分、妖が言ってた、戦国時代の姫の魂だよ。華音様のご先祖様』
京汰がハッとして光の玉を見ると、それは華音様に近づいた。
抱き締められ、京汰の首元に隠れていた華音様の顔を光の玉に向かって見せる。まだ彼女の意識は戻らない。
光の玉は華音様の顔に近づき、しばしの間そこに留まった。
「可愛い可愛い子孫を見れて嬉しいのかなぁ」
『それもあるだろうし、自分と同じくらい怖い目に遭わせちゃって申し訳ない、って思ってるのかもしれないね』
すると、光の玉が再び動いた。華音の全身を一周してから、ゆっくりと彼女の胸の中に入り、消えた。
その直後、華音の目がゆっくりと開いた。
僕と京汰は目を見合わせた。
数百年の長い年月を経て、姫が末裔の命を救った。
そんな奇跡的な瞬間に、僕らは立ち会えたのだった。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.144 )
- 日時: 2020/07/31 18:01
- 名前: 美奈 (ID: UgVNLVY0)
第87話
華音はゆっくりと目を覚ました。少しきょとんとしていたけれど、すぐに驚いた顔をした。
「えっ?!な、なんでっ...、ち、近い...!」
目覚めたら男に抱き締められてた。
たしかに結構怖いよね。お酒飲んでないのにこうなってる、ってもっと怖いよね。うん。
京汰は慌てて腕を解いた。華音も京汰の肩から手を離す。
「だ、大丈夫...?」
「え、私、何か迷惑を...??ごめん全然覚えてなくて!...あ、京汰くんか...」
やっと華音の目が京汰の姿を捉えたようだ。
京汰は僕をチラッと見る。何て言おう、という顔をしてる。
だがすぐに彼女に話しかけた。
「あ、あのさ、悠馬のこと視えるんだよね...?」
「ん...ゆうま、?」
「ほんとは視えないはずの式神なんだけど、なんか視えてるみたいで、俺びっくりして...!」
「しき、がみ...?」
京汰は僕のいる方を指差す。隠形は解いているから、視えると思うんだけど...。
「ここにいるんだけど、分かる?」
しかし、彼女と僕の目線は一向に合わない。
華音はちょっと戸惑った顔をした。
「えーと、京汰くんこそ、大丈夫...?」
京汰は目を見開いた。
「...あ、うん、大丈夫だよ!あの、さっき言ったのは忘れて!」
「うん...」
やはり一時的だったのか、あの才能は...。
姫の末裔として命の危機が迫っていたから、視えるようになっていただけかもしれない。
ちょっと覚悟はしていたけれど、やはり現実を突き付けられると、呆然としてしまう。
僕は静かに隠形した。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.145 )
- 日時: 2020/08/04 13:03
- 名前: 美奈 (ID: UgVNLVY0)
第88話
・・・・・・・・・
マジか、華音様、悠馬のこと視えないし覚えてもないのか...。
悠馬は落胆してしまったみたいで、隠形していた。あいつの心情を思うと、俺もやるせない気持ちになる。
...じゃあ、皆川先輩のことは?
「ねぇ、ここに来てからのこと少しでも覚えてる?」
「え...」
華音様はしばしの間、黙り込む。
...思ったより重症だな。キーワード出したら思い出す?
「ここには最初、俺と悠馬と皆川先輩がいて...」
華音様は少し笑った。顔色はすっかり良くなっている。
「また夢の話の続き?」
「えっ?」
「だって、またゆうまくんとか言ってるし、さらに新しい人出てきたし」
「み、皆川先輩のこと覚えてない...?!あのイケメンの!」
「京汰くんの夢には色んな人がいたんだろうけど、私の夢には京汰くんしか出てこなかったよ」
え、待って待って。
皆川先輩のことも記憶にない?!てか俺が夢に出てきた?!
え、何言ってるのマジで?!
「俺が、出てきたの?」
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.146 )
- 日時: 2020/08/09 13:47
- 名前: 美奈 (ID: UgVNLVY0)
第89話
華音様は不思議そうな顔をして話し始める。
「うん。不思議な夢でね、なんか暴風雨に曝されて私ずぶ濡れで意識飛んでたんだけど、京汰くんが見つけてくれて、あったかいお家まで運んでくれたとこで目が覚めたら目の前に京汰くんいて、すんごいびっくりしたの。それになんか膝の痛みが綺麗さっぱりなくなってるんだよね、今までの痛みは何だったんだか」
多分暴風雨が皆川先輩で、お家が俺の霊力?膝の痛みまで消えたのは、妖の爪痕を治癒したからなのか。
記憶が結構混乱してるのかな、と思ったけど、俺のことはしっかり覚えている。
ただ、悠馬や皆川先輩の名前は見事に抜け落ちている。
悠馬はともかく、もしかして、皆川先輩の存在自体が華音様から消えた...?
「でもなんで私たち、こんなとこで夢なんか見てたんだろうね?告白タイムやってるのに屋上に来るなんて」
文化祭の記憶もあるのか。
そうなったら疑問は一つだ。
みんなは皆川先輩を覚えているのだろうか?
「ごめん、ちょっと俺、行ってくるわ」
俺は屋上のドアへと向かおうとする。
そうしたら、彼女が俺の腕を掴んだ。
「ん?」
「どこ行くの?」
「ホールだけど...」
「告白タイムの場所じゃん!私も行くよ!」
俺を真っ直ぐにみつめる瞳。揺れる柔らかな髪。やっぱり綺麗な制服がよく似合う。可愛さは健在だ。
「分かった、行こう」
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.147 )
- 日時: 2020/08/15 01:29
- 名前: 美奈 (ID: UgVNLVY0)
第90話
俺達はホールに着いた。悠馬も付いてきている。
告白タイムは始まっているようだが...
「キャーーーーっっ♡」「かっこいいいいいいい♡♡」
女子集団が歓声をあげた。え、皆川先輩いるの?!
彼女たちの視線の先を追ったが、そこに皆川先輩はいなかった。
あの女子集団の顔ぶれを見る限り、体育館で昨日見た皆川先輩ファンなのに。
その代わり、まぁ理解はできるけど驚きを隠せない事態が起こっていた。
「相澤先生だ...♡」
華音様まで心なしかほわーんとした顔つき。
なんと、男バスの顧問が今まで以上にモテている。
文化祭実行委員のアナウンスも、しどろもどろになっている。
「え、えっと、これは初めての事態です!!!先生が告白タイムの主役、ですっっ!!」
なんと相澤先生にここで告白する女子生徒がいるとか。
先生はクールな雰囲気を醸し出すイケメンで、かつイケボの持ち主だ。でも生徒が何か良いことをしたり、成績が上がったりすると全力で褒めちぎる。
そう、このツンデレこそが女子を虜にするのだ。
前までは生徒と年の差が20くらい離れてることもあり、コアなファンがいただけだったが、今は元皆川先輩ファンのほぼ全員が相澤先生ファンに転身しているようである。
そーいや先生バツイチなんだよな...だから告白自体の拒否はしないのか?
いやいや、ここでOKしたらそれはそれで大問題だよ。
てか、華音様、皆川先輩がいた時は相澤先生のことなんか気にも留めてなさそうだったのに。
俺と悠馬が妖退治したことで軽く時空が歪んだのか。
いや、これが正常なのかもしれない。皆川先輩がいた時の方が歪んでたんだろう。
<結構長い間時空歪んでたことになるね>
隠形した悠馬が、俺の思考を読んで話しかける。
(それな...)
今ではもう、俺と悠馬以外の全員、皆川先輩に関する記憶を失っていたのだった。