コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった(新章開始) ( No.159 )
- 日時: 2020/09/20 01:12
- 名前: 美奈 (ID: AwgGnLCM)
第96話
・・・・・・・・・
京汰は今回の一件を彼なりに反省したようで、文化祭が終わってからは呪術の練習に励んでいる。
たまにお友達の小さな妖を呼んでは、練習相手や話し相手になってもらっているみたいで、帰宅しても割と賑やかだ。
そんな折、主人が帰宅した。
京汰の父、勝である。
急に鍵でドアを開ける音がして、ただいま~!と勝が入ってきた。ソファに寝転がっていた京汰は、文字通り飛び上がった。
「いや待てよ!帰ってくるなら連絡くらいしろよ!」
「だっていつ帰るかなんて急に決まるんだから、仕方ないだろぉ」
「...いつまでいるんだ」
「次の案件が来るまで」
なぜ急に帰ってきたのか。
僕はちょっと察している。
大きな荷物を置くと、主人は早速僕を見て、外へ出るように促す。
「ちょっと近所散歩してくる~」
「...いってら」
全く、父親の久々の帰宅が嬉しいくせに。京汰のツンデレは治りそうにない。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった(新章開始) ( No.160 )
- 日時: 2020/09/21 15:18
- 名前: 美奈 (ID: AwgGnLCM)
第97話
隠形して外へ出ると、勝が話しかけてきた。
(結構大変だったようだな)
<はい>
そう、きっと僕たちの妖退治について話したかった、と言うのも主人が突如帰宅した理由の一つだと思っている。
(当然だけど、君が何をしたのか、俺はもちろん知ってるぞ?)
体に緊張が走る。
事故だけど、華音に対して無闇に姿を見せたし、京汰と恋敵になってしまったし、妖との対峙で華音を危険に晒してしまった。
本当なら、消されるべきなのだ。僕は。
<...申し訳ありません>
しょげる僕を見て、勝は驚いたような顔をする。
(いやいや怯えなくていいんだよ!俺はね、消すつもりなんかないよ?)
<えっ?>
(そりゃ、無闇に姿を晒したことは注意したいけどさ。けど消すほどの事案じゃない。消したら京汰が悲しむだろう?それにあいつ、良い経験したけど、かなり勉強不足だったもんなぁ。悠馬いなきゃどうなってたことか...)
そう、勝には全て視えている。遠く離れていても。
<あの、もしかしてあの妖の主は、あなたですか?京汰に経験を積んでもらうために...>
勝はさらに驚く。
(いやいやいや!え?!そんなわけないじゃん!あんな可愛い女の子を危険に晒してまで、俺がそんなことすると思う?!)
<...ですよね。すみません、疑ってしまって>
(あの妖が潜んでたことは想定外だった。誰が操っていたのか、そもそも操る奴がいたのかどうかも、俺にはまだ分からない。でも君たちなら退治できると思ってたよ。あいつも成長しただろ?少しは。京汰を君に任せて良かったよ)
...こんなに息子想いで、式神想いの方がいるなんて...。
僕は心から、主人を尊敬する。
(まぁとにかく、今回は対処できて良かったな!でも京汰はまだまだおバカの度が過ぎるから、教育頼んだぞっ)
目の前の主人は、穏やかに笑っている。目元や鼻筋、顎を見る限り、若かりし頃はもっと端正な顔立ちだったに違いない。その顔はやはり息子とよく似ていて、でも目尻に皺ができ始めていた。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった(新章開始) ( No.161 )
- 日時: 2020/09/23 02:07
- 名前: 美奈 (ID: AwgGnLCM)
第98話
僕は主人の優しい顔を見て頷く。
<はい。...それにしても、京汰はモテますね>
華音は前よりも強く、京汰に想いを寄せ始めている。京汰は妖にも気づかないくらい鈍感だから、彼女の心にも気づいていない。気づく兆しも見えてない。でも、僕には分かる。
...もう、彼女に僕が視えないとしても。
勝は途端にニヤリとした。
(さすが俺の息子だよなぁ。そう思わないか?)
この父子、笑顔だけじゃなくて、自画自賛するとこまでよく似ている。
僕もニヤリとしてみせた。
<...はい、そう思います>
(だろ?それに、君達が恋敵としてやりあってたのも、なかなか見応えがあったな。たまにしか視なかったけど、ドラマみたいで面白いよ)
テレビの視聴者感覚で僕たちの恋路を見てたとは...。
<そ、そうですか>
(うん!だからさ)
一旦言葉を区切って、主人は再びニヤリとした。
(悠馬も恋愛解禁な。京汰と二人で恋の楽しさも、苦しさも経験すると良いよ)
<しかし、彼女にはもう僕は...>
(もしまた視えたら、の話だし、君たちも心変わりすることはあるだろ?)
なんという爆弾発言。
恋、していいのですね?
<本当に、いいのですか>
(いいよ。京汰を命懸けで守った褒美だ)
何と寛大なお方。
京汰こそ、彼女を守った張本人だけど。でも僕のことも認めて下さったことが、何よりも嬉しい。
じゃあ僕は。
今後も、彼女を想い続けます。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.162 )
- 日時: 2020/09/26 12:57
- 名前: 美奈 (ID: AwgGnLCM)
第99話
・・・・・・・・・
「ただいまぁ~」
『ただいまぁ~』
父と悠馬が仲良く帰ってきた。
ったく、二人で何話してたんだか。
俺にはまだ父ほどの能力はないから、離れた場所での会話を視ることはできない。
というか、父の能力自体がヤバいくらいハイテクじゃね?と思っている。CIAとかで雇ってくれそう。
もう夕飯時の時間になっていて、悠馬が手早くオムライスを作ってくれた。ケチャップがニコニコマークになっていて、こういうとこ可愛いよなって素直に思う。
いただきまーす、と言って俺が席につくと、父がこちらを見た。
「京汰、お前料理しないのか」
「えっ...」
すると、悠馬が余計なことをたくさん喋る。
『京汰曰く、僕はお世話係だから、僕が家事全般をやらないといけないらしいです』
「京汰...」
父の目が途端に細くなる。ひぃっ。
「式神は執事じゃないぞっ」
『ぞっ!』
「...申し訳ございません」
ったくもう、日常生活はあんま視ないようにしてたけど、このザマとは...はぁ...。と父は盛大な溜め息をついた。
口の中で卵がへばりつくように感じる。
重くなりかけた空気を読んだのか、悠馬が明るい調子で話した。
『...まっ、僕は家事楽しんでるので、ご心配なく!』
わーお助かるぅ。お前やっぱいい奴だよなぁ。
「悠馬がこう言ってくれてます」
「...お前って奴はもう......」
3人で声を出して笑う。
家族が一人帰ってくるだけで、こんなにも賑やかになるんだな。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.163 )
- 日時: 2020/09/29 09:40
- 名前: 美奈 (ID: AwgGnLCM)
第100話
オムライスを食べてからしばらくして、父に呼ばれた。
悠馬はいつの間にかいなくなっている。お散歩かな?
父は単刀直入に聞いてきた。
「悠馬との生活はどうだ」
「...正直言うと」
ん?辛いか?と、父は首を傾げる。たまに顔がイカツい時あるけど、父は思ったより優しい人だ。
「...めっちゃ楽しい」
「おぉそうかそうか!良かったなぁ!悠馬と出会えたのは俺のお陰だぞ~俺に感謝しないとな!」
こういうとこは漏れなくウザいけどな。
「そうだねありがとう」
「お前棒読み過ぎだろ...妖にすら気づかないバカを教育してんのは悠馬だぞ」
「...っ!」
痛いとこ突いてくるねぇ相変わらず。
父は短く溜め息をつく。
「俺に分かんないわけねぇだろ、もう」
「まぁ、あれは...悠馬に命拾いしてもらったようなもんだから、感謝...してる」
すると、父は優しく笑った。目尻に皺できてる。老けたなぁ。
「良かったな、大事な同志ができて」
「あぁ」
同志。良い言葉だ。
「同志ができたんだから、あとは、学校の勉強と陰陽道の勉強。しっかりしろよ~!でもまぁ、あの新技は、俺にもできない。あれだけはすごかった。認めてやるよ」
「で、できないの?」
どんな術も難なくこなす父にできないことが、俺にできた...?!
「あぁ、到底無理だな。業火の近くに猛スピードで突っ込んで霊力爆発させるとか、そんな無謀で手荒な術は命知らずで未熟者の大バカ野郎にしかできない」
「......」
「褒めてるからね?これ一応褒めてんだぞ?」
悠馬と同じようなこと言いやがる。主人と式神で同じDNA持ってそう。すげぇ憎たらしい。
「お褒めのお言葉をどうもありがとうございますねっ」
褒めてんだってばぁ、素直に喜べよもう、つまんねーの!
と笑いながら缶ビールを開ける父を残して、俺はドンドンと足音を立てて部屋へ戻っていく。
「俺が買った家壊さないで京汰ぁぁ」
「知るかぁぁっっ!!」