コメディ・ライト小説(新)

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.169 )
日時: 2020/10/29 09:55
名前: 美奈 (ID: npB6/xR8)

第106話
華音に、先祖の姫が憑依していた。
戦国時代にあの妖が喰った姫。妖が消えた後、光の玉となって、意識を失った華音を助けた姫。

「末裔である彼女に、危険が迫っていることは承知していました。だから彼女は、突如あなたが視えるようになっていたのだと思います。けれど、私は喰われていた身。あの美貌で人を惑わす憎き妖から解放されなければ、私に彼女を救うことはできなかった。だから、私にはただ彼女の死を待つことしかできないのだと思い、悲嘆に暮れていたのです」

一度言葉を切り、姫は続ける。

「けれども、若き陰陽師とあなたの、彼女に対する想いはとても強かった。私の諦念など遥かに凌駕し、その強い想いで彼女を傷一つない状態にしてくださり、私のことまで解放してくださった。遠い昔に喰われた当時、私は、熱い想いに身を焦がしたお方の元へ嫁ぐ予定でした。幸せの絶頂を迎えるはずだった...。それが叶わずに死に、無念でならなかった。もはや今となっては、自分の体すら持っていない。自分を呪い、妖と、私がいなくても明るく続いていく未来を恨みました。ですが、周りの人々からこんなに愛されている華音を見て思ったのです。彼女が幸せになってくれることこそが、先祖の私としての最上の歓びなのだと」

華音に憑依していた姫は、泣いていた。自分の無念と、子孫を想う気持ち。その狭間で姫は揺れていた。
僕は思わず姫を抱き締めていた。僕の胸元で、姫は静かに締めくくる。

「私は自分の光を華音の中で灯し終わったら、今度こそ冥土へと参ります。ですから、どうか彼女を幸せにしてほしい...最期のお願いでございます...」

『姫。その想い、しかと受け取りました...。』

姫は最後にぎゅっと僕を抱き締めて、ゆっくりと離れた。

「ありがとうございます...では、私からの感謝を込めまして、あなた様にはささやかな贈り物を後ほど...」

そのまま、彼女は目を閉じた。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.170 )
日時: 2020/11/04 10:12
名前: 美奈 (ID: l1OKFeFD)

第107話
贈り物?何だろう。遠慮する暇もなく姫は消えてしまった。

僕がその場に立ち尽くしていると、彼女が再び目を開けた。華音だ。辺りをキョロキョロする。

「え、ん?なんでここにいるんだろ?」

そうして目の前を見据えて、「あ」と声をあげた。

『ん?』

「え、ちょっと待って。なぜあなたと私はここにいるの?」

...視えてる?え?!

『それって、僕のこと?』

「あなたしかいないでしょ?それに制服じゃないし...一体あなたどこから?」

『ぼ、僕は普通の人には視えちゃいけないやつで...!』

すると華音は黙って僕を見つめた。

「う、そ...実は亡くなってるとか...?」

僕はブンブンと首を横に振る。
このやりとりにデジャブを感じるのは僕だけなのが、もどかしい。

「あ、亡くなってはいないけど、見えちゃいけない?ふーん...。私疲れてるのかなぁ?とりあえず、あなた悪い人ではなさそうだから自己紹介しておくね。私、篠塚華音って言います。あなたは?」

『ゆ、悠馬...』

「ゆーまくん...良い名前だね。よろしくね!」

こちらに手を差し出す。僕たちは握手をした。
華音の温度が、僕の手に伝わる。ちょっとドキッとする。

『よろしくね』

昼休みが終わる5分前の予鈴が鳴った。

「あ、行かなくちゃ!じゃあまたね!」

『ちょ、忘れ物!』

「あ!ごめんありがとう~!じゃねっ」

いつもの華音が、そして僕と話せる華音が、そこにいた。



姫。あなたに何と感謝を申し上げれば良いのだろう。ささやかでも何でもない。身に余るくらいです。


彼女に再び僕が''視える''ようにして下さること。



それが、贈り物だったのですね。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.171 )
日時: 2020/11/14 16:38
名前: 美奈 (ID: l1OKFeFD)

第108話
・・・・・・・・・
制服以外で会うのって、初めてじゃない?

そんな大事なことに気が付いて、今更ながら焦る。
金曜日の午後10時。

何着ていこう...。
洋服は?とりあえずスカート?でも制服スカートだもんなぁ、あえてのスキニーでレア感出すのあり。
髪型は?結構巻いちゃおうかな。
アクセサリーは?うーん、服をスキニーでシンプルめに抑えて、大振りのイヤリングをアクセントにしてみようかな。
メイクは?迷うなぁ。秋冬メイクでとりあえずググるか。
ベッドに寝転がり、スマホと雑誌を交互に見ながら考える。
男の子と出かける。それだけで、こんなにも色々考えるなんて。

結構自分では頑張ったアプローチだった。
もちろんホラー実は無理!とかいうわけじゃないんだけど、誘う口実見つけるの大変だったなぁ。
けど彼の様子が不安だ。俺以外の人と行くのでも良いのに、みたいなことを割と言われた。もしかして、ホラーが苦手?私とだと行きにくい?
でもね、諦めようとは思ってないの。
私は京汰くんと行きたいんだから。

自分でやっと分かったんだよね、いわゆる好きなタイプってやつが。
周りを一気に明るくしてくれて、でも感情表現もちゃんとしてくれて、思いやりのある人。追加でイケメン。
そして分かったんだ。

これが、藤井京汰と結構当てはまるってことが。

つまり本当の意味での初恋、なのかな。

でもあのゆーまくんって子?も結構イケメンだったし、なんか雰囲気京汰くんに似てた気がする。

...げ。私思ったより面食い?!

とにかく、気になる人がいる。それだけでも人生は明るくなるものだ。


それにしても、ゆーまくんとの出会いは不思議だった。そもそもなぜ、私は倉庫の中なんかにいたのか。
そして、文化祭の日に屋上で目覚めて、京汰くんといた時も不思議だった。そもそもなぜ、私は彼に抱き抱えられてたのか。
...どこか同じような不思議感。
京汰くんなら何か分かるかな?ゆーまくんとのことも、バカにせず聞いてくれそうな気がする。

明日、京汰くんに話してみよ。

明日の洋服とアクセサリーとメイク道具を用意して、部屋の電気を切る。



私の恋はまだ、始まったばかりだ。