コメディ・ライト小説(新)

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【新】 ( No.17 )
日時: 2014/04/07 11:24
名前: 美奈 ◆5RRtZawAKg (ID: uJGVqhgC)

第6話
「だ、誰だよ…」

俺は一歩後ずさった。警戒を強める。
と、ダイニングから食パンをくわえてひょっこりと現れたそいつは、あーそっかそっかそか、ごめん、と言って頭を掻いた。
何がそっかそっかだよ。パン食い泥棒め…っ!!
でも男のくせして何気に可愛い顔でパンをくわえたまま立っている正体不明の奴に惑わされて、どうでもいい言葉が口をついて出てしまった。

「それよりお前、期限切れの食パン、て…」

『まぁだいひょぶだよ、にんげんひゃないからねぇ。これがはあして、ひょーかひゃれるんだかでゅおーかもわかりまひぇん(まぁ大丈夫だよ、人間じゃないからねぇ。これが果たして、消化されるんだかどうかも分かりません)』

奴の言葉が変なのは、パンをくわえてもぐもぐしたまま喋っているからだ。
一度思考回路が止まって、"え?"と馬鹿みたいに聞き返した俺に、パンを口から外して、咀嚼していたものを飲み込んだ奴は答えた。

『僕は、悠馬。長い間一人になるから心配だって言って、君のお父さんが僕を作ったんだ。これからは君の…遊び相手兼同居人兼お世話係ってことだね。京汰、よろしく』

俺は一瞬、固まった。
人間じゃないって…。

人外のものがいる。存在している。
そして彼は、"作られた"。
察しがついた。
それって、もしかして…。

「し、しきがみ…?」

『ピンポーン。ご明察』

そう。
この悠馬とかいう奴は、陰陽師の父が勝手に作った式神だった。
俺ももちろん、陰陽師の血を引いている。だから、俺には奴が視えるんだ。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【新】 ( No.18 )
日時: 2014/04/09 15:48
名前: 美奈 ◆5RRtZawAKg (ID: 10J78vWC)

第7話
悠馬の正体は、理解できた。うん、把握した。
いや…でも、待ってくれ。
親が子どもの心配してくれんのは分かるし、有難いんだけどさぁ…。

「世話なら、なんでお手伝いさんとかじゃなくて式神なんだよ…」

思わず呟いた俺に、悠馬はにっこりと答えた。

『あぁ、お父さんによるとねぇ、金がかからないから、だって!』

なるほど。金の節約の為に式神を作る家庭、か。

…ってそんなの、聞いたことねぇよっ!!!

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【新】 ( No.19 )
日時: 2014/04/11 17:41
名前: 美奈 ◆5RRtZawAKg (ID: HPUPQ/yK)

第8話
俺は靴を脱いで、家に上がった。
やっとパンを食べ終わって、手についた細かいカスをパンパンと払っている悠馬を素通りして、階段を駆け上がった。
とにかく、自分の部屋へ急いだ。
…だって、家に帰ったら式神が挨拶してきたんだ!マトモじゃいられない。
とにかく、とにかく今は、自分一人でこの状況を整理する時間が欲しかった。

何が遊び相手だ、全く。人外のものと戯れるような物好きじゃないんだ、俺はっ!
父親の作った代物に、本気で腹を立てていた。
いっそのこと、父親と式神にまとめて呪詛でもかけてやろうかこの野郎、と思ったのだが、父親から絶対呪詛返しが来そうなのでやめることにする。

こんな具合で無駄に脳内がぐるぐると回転している間、背中の方で少し気配を感じた。

「………?」

『だって、何も言わずに部屋にこもるなんてひどいよ。こう、もっと赤裸々にお互いのこと話すとかさぁ…』

すぐ後ろに、悠馬がひょろっと立っていた。背筋がゾワっとした。
"ゾク"っと、じゃない。
"ゾワ"っと、だ。

「ド、ドアあいた音しなかった…ぞ…?どうやって入って来た…??」

ただ瞠目する俺を、悠馬は非難の色を帯びた目で見つめる。

『いやいや、そこは壁からするっ、とね。ねぇ京汰、僕は式神なんだよ?人間じゃないのさ。陰陽師の血を引いているんだったら、こんなことでビビっちゃダメだよ。男じゃないぞっ☆』

ずっと黙りこくって口を開かない俺に、悠馬はさらに続けた。

『なぁんで黙ってるのさ。最初からそんな態度じゃ、この先色々心配だよ』

それ、こっちの台詞だろ完全に。
…どうもこいつも父に似て、お節介な所がありそうだ。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【新】 ( No.20 )
日時: 2014/04/14 08:05
名前: 美奈 ◆5RRtZawAKg (ID: HPUPQ/yK)

第9話
こういうお節介な奴は、本当に腹が立つ。どうしても腹が立ってしまう。

「…お前、消すぞ」

『そんな物騒なこと言わないで』

「お前の存在が物騒だ」

『な……っ…!』

「オンアビラ…」

刀印を組んだ俺の手を、悠馬は慌てて強く握ってきた。

『分かった、分かったよ京汰!もう壁からするっと方式とかやらない!ごめん!』

俺はスルーして呪文を唱え続けようとしたが、やめた。必死に謝る式神を見て、訳の分からない情が生まれてしまったのだ。
仕方ねぇなぁ、と俺は刀印を外した。
ほっとした表情で、ごめん!ごめんね、と悠馬は言って部屋を出て行った。もちろん、ドアから出て行った。
一人になったのを確認してから、盛大なため息をついた。
勝手にパン食うし、何か俺より良い顔立ちだし、お節介だし…。

色々と憎たらしい式神だ。

Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【新】 ( No.21 )
日時: 2014/04/17 17:49
名前: 美奈 ◆5RRtZawAKg (ID: HPUPQ/yK)

第10話
コンコン、コンコンコンコンっ。
ドアのノックの音がして、俺はのろのろと目を開けた。と…

『おはよう、京汰!もう6時だよ!そうそう、期限切れのパン食べても、何も影響なかったから、最後の1枚食べちゃった!んでねぇっ、今度は焼いて食べたいな、って思って、トースター使わせてもらったよ。いやぁ、色々びっくり。式神が機械触っても問題なく動いたよ、エアコンも動いた!…ってねぇ、聞いてる?起きてる?そろそろ起きないといけないんじゃない?ねぇ…』

起きてすぐの時は、俺は大抵機嫌が悪い。ドアの目の前で絶え間なく紡がれる悠馬の言葉の数々が、俺の怒りを助長させた。大股でドアまで歩いて、力強く開け放つ。

『どわっ!!』

「朝からうるせぇっ!存在もうるせぇっ!!消すぞこらっ」

『うわうわ、やめてやめてそれは』

反省したのか、悠馬はそれからふっつりと黙った。俺の視界からも消えた。やれやれ…。
やっと静寂が訪れ、内心ほっとしていた。
…が、それも束の間。
またどこからか現れた悠馬が、とにかくうるさい。

『ご飯食べた?』

『歯、磨かないとダメだよ』

『カギ忘れないでね』

悠馬との生活が始まって、最初の朝だ。
やっぱりこいつは父親と同類だった。お節介この上ない。

あーだこーだと一人で騒いで俺を急かしていた悠馬は尋ねた。

『京汰、もう学校行くの?』

「ああ」

『ええっ、嘘でしょっ?!』

突然、悠馬は焦り出した。俺は制服のネクタイを結ぶ手を止めた。