コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.184 )
- 日時: 2021/04/07 01:11
- 名前: 美奈 (ID: tDLDmNtV)
第2章 ピッカピカの春学期
第6話
『何やってんのほんとにもーう!!』
ジリリリリリリ…………。
「うーまだ止まってねぇのかよもーう! てか起こせよバカ」
『ば、バカって! 通うのは京汰でしょ?!』
「どーせ悠馬も行くだろ! 朝飯食う時間ねーじゃん! 午後イチだからぜってー間に合うと思ってたのに!」
『大学生になったんならいい加減自分で起きろぉぉぉっっっ!!』
「世話係が口出すんじゃねぇ消すぞこらっ」
ジリリリリリリ…………。
「あああもうっ、スヌーズうるせぇぇぇっ!!!」
『京汰の声量がスヌーズ遥かに超えてるって』
「冷静なツッコミはやめろ黙るんだっ」
現在、11時30分。11時に起きて、余裕持って大学に行くはずだったのに。
悠馬は起こしてくれないし、耳障りな音でいつまでも鳴り続ける目覚まし時計が鬱陶しい。ええ、自分でセットしたんですけどね。それにしても入学式の後から、悠馬くんがなんか厳しいんだけど。自分でやれーって。ぴえん。てかお前世話係だって。悠馬から俺の世話って仕事取ったら何が残るんだよ。怪しさしか残んねーじゃん。俺が役割付与してんのに! もう!
『ねーえ、独り言でかい。心の中の声がぜーんぶ吐き出されてるよ。僕めっちゃ責められてる。泣いちゃうよ?』
「勝手に泣いてろこの野郎」
あー忙しいよ、寝坊しちゃったから、と言いながら、ベッドから飛び起きて俺はせかせかと動き回る。
本当は分かってる、俺が起きなきゃいけなかったんだよなぁ〜。でも悠馬いるからつい甘えちゃうんだよなぁ〜。ってことくらい。俺もそこまでバカじゃない。
だから、朝イチ(11時30分が朝イチかどうかはさておき)にしては悠馬にキツく言いすぎたな、泣いちゃうって言ってたもんな、ごめんな、って思うけど、それを言葉にしたら負ける気がするから口が裂けても言わん。そして多分、ごめんなって4文字すら言えなくて、背中を向けながらあちこち動き回ってごまかしてる俺の心を、多分このイケメン式神は分かってる。だからムカつくし憎たらしい。でもだからこそ頼っちゃう。
何なんだ、この曖昧な、アンビバレントな気持ちは。これは恋か。
…………いや、死んでもそんなことはない。
『手が止まってるよ!』
ほら、シャキッとして! と俺の両肩を持つ悠馬に、胸がときめいて……全身がちょっぴり熱くなって——。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやっっっ!!!
んなわけないっ!! 俺は悠馬にムカついてる! 恋敵だもん! 余計な一言いっぱい言うもん! 悠馬は憎たらしい式神だ! うん、出会った時からずっと、ずーっと憎たらしいと思ってる! 間違っても、す、好きなんて……いやいやいやいや! 憎たらしいだけ! ちゃんとしろ自分!
『京汰くん? どしたのよ、首取れそうなくらいブンブン振って。ヘドバンしてんの』
「してねぇわっ!!」
こうして今日も、ドタバタな1日の始まり。俺と悠馬の生活は、良くも悪くも安定している。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.185 )
- 日時: 2021/07/10 17:05
- 名前: 美奈 (ID: lCrzzWFh)
第7話
安定の俺達は大学に着いた。授業は13時からで、現在の時刻は12時45分。
<高校の頃とはまた全然違うね! 垢抜けて可愛い女の子がいっぱい!>
(だからお前少しくらい変態封印しろや)
まるで悠馬が初めて俺の高校に来た時みたいだ。ミニスカだの生脚だのほざいて、みんなに見えないのをいいことに教壇に立ったり黒板触ったりやりたい放題だったよなぁ……。懐かしい。でも、さすがに今回は隠形してても教授の隣にいるとかやめろよ。マジでやめろよ。と念を送っておく。
入学式はみんなスーツで、髪色だけは申し訳程度に明るく、でもどこか硬かったけれど、新学期初日の今日は各自が好きなファッションに身を包んでいる。たまにコスプレか? みたいな赤髪や銀髪を見かけるし、女子のメイクも抜かりない。制服や校則に縛られていたのとは全く違う世界に足を踏み入れたんだなぁ、としみじみする。
なぜ俺が余裕を持って大学に来たかったかというと、キャンパスが広すぎるからだ。自分の学部が入っている棟はかろうじて分かるけれど、教室の位置関係が分からない。○○教室と言われても、何階? 右? 左? っていう状況だし、最初の授業で堂々と遅刻できるほど強靭なハートは、残念ながら持ち合わせていない。そんなわけで目覚ましも早めにかけといたんだよね。……意味なかったけど。
なんとか教室を見つける。現在12時57分。スマホに表示された番号と目の前の教室の番号は合っているのに、なかなかドアに近づくことができない。これって新入生あるあるだと思う。合ってんなら入れよって思うんだけど、ドアについてる窓が小さくて中の様子がよく分からないし、謎の恐怖に駆られる。とりま誰かが入ってから俺も入ろうなんて思うけれど、それより前にどう見ても教授じゃんって感じのおっさんがそのドアを開けたので、俺も慌てて後ろのドアから入るしかなかった。……あれ、悠馬はどこ?
<な〜にビビってんのよ京汰くん>
(あ! てめっ……)
壁からスルッと入ったらしい。入るなら言えや! 俺をぼっちにすんなや! 正規の学生は俺や!
既に教室にいた30人くらいが教授に注目する中、俺は後方のテーブルに荷物を置いて椅子をそっと引く。高校では割と目立つおバカキャラだったんですけどね。最初は俺だって緊張すんのよ。
「はい、13時になりましたね。始めようか。……初めまして。ここは必修の基礎教養15っていう、新入生だけの授業の教室です。みんな間違いないかな?」
うん、間違いないです。基礎教養って何するか分かんないけど数字は合ってますよ。
「よーし早速出席を取ろう。……あ、欠席5回したら単位あげないからね。僕ね、出席だけは厳しいのよ。1分でも遅刻したら遅刻扱いだから」
マジか。あっぶねぇ。単位ってめっちゃ重要らしいから気をつけよ。
冠婚葬祭と電車の遅延は欠席・遅刻扱いにしないし、成績は緩いからビビらないでね〜と中途半端な優しさを振りまく教授は出席を取り始めた。ジェンダーの観点から、男女関わらず「さん」付けで呼ぶのがルールになっているらしい。
「工藤瑠衣さん」
「はい」
ん? どっかで聞いたことある名前……。
<同じ高校の男子じゃん! 元生徒会長じゃん! 京汰と同じクラスになったことないけど僕顔だけ知ってる!>
隣の悠馬が驚いた様子で俺に話しかける。お前詳しいな。生徒会長とか俺には縁がなさすぎて。一応知り合い的な人間はいたってことか。
「篠塚華音さん」
「はい」
ん?! え、待って待って、ん?!
(ねえ、今確実に篠塚華音って言ったよね)
<言った。確実に言った>
後ろ姿しか見えないけど、手を挙げたその女子は、肩につくくらいの柔らかな栗色の髪の毛を少し巻いていた。俺の記憶にある華音様のお顔を、その髪型と脳内で合成させる。——女神爆誕。
マジか大学同じで学部も同じで必修のクラスも同じ?! どういう幸せの巡りよ。俺前世でめっちゃ良いことしたのかもしれない。
「藤井さーん。藤井京汰さん? いないの?」
「え、あ、いますっ!」
華音様との再会を喜んでいる間に出席は進んでいたようで。俺は慌てて存在をアピった。
すると、ほぼ同時にさりげなく振り返った2人の人間。
何を隠そう、工藤瑠衣と篠塚華音である。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.186 )
- 日時: 2021/07/10 17:03
- 名前: 美奈 (ID: lCrzzWFh)
第8話
出席を取り終わった教授は、「んー。やっぱ出席だけだと時間余るよなぁ。今日何しようかな」などと1人呟いている。え、出席以外やること決まってなかったの? ルーズすぎん?
教授が思ったより長く考え込み始め、教室の空気も多少緩んできたのか、わずかに学生同士の会話の声が聞こえ始めた。
「この先生、授業内容は割と行き当たりばったりっていう噂だよ」
突然話しかけてきたのは、通路を挟んで俺の隣に座っていた男子。
「え、知ってるの?」
「俺の兄ちゃんもここ出身なんだよね。学部も一緒」
ごめん、急に話しかけて! と笑い、彼は「永山大貴って言います、よろしく」と言った。慌てて俺も「藤井京汰です」って言うと、「出席の時慌ててたから覚えた」と言われた。なんか悔しい。
「お兄ちゃんもここだったんだ」
「そ。だから俺は楽単情報とか持ってるよ。助け合おうぜ」
楽単というのは読んで字の如く、楽に取れる単位、つまり楽な授業という意味である。楽単を制する者が大学を制する……は言い過ぎなのかな? 俺にはまだよく分かんない。
時間割どうなってんの? と聞かれたので俺はスマホから時間割アプリを呼び出した。
「ほぉ〜。俺と2個被ってるね! 良かったら一緒に受けよ」
「あ、マジ? 是非是非!……俺の時間割、楽単どれくらいある? 1人で作ったから自信ないんだけど」
「これ1人で作ったの?! 天才じゃん。7割方楽単だぞおい。俺なんて兄ちゃんから全部聞き出したのに」
その後も高校が俺の隣の区だったことや、とにかく学歴のブランド欲しさに受験勉強に励んだこと、入学前から興味があった文化祭の実行委員会に既に入会したことを聞いた。すげぇな自ら委員に志願するとは。
とまぁ、これくらいはたっぷりと会話できる時間を初回から与えた教授。よし! やること思いついた! と言った時には、出席が終わってからもう20分近く経っていた。俺がそこそこ努力して入学した大学の教授は、計画性ゼロでした。
「初回だからこそ、自己紹介しよう! なっ! 僕が名前を呼ぶから、呼ばれたら前に来て自己紹介して。内容は名前と出身地と趣味はマストかな、できたら志望動機も。残り1時間だから……1人2分!」
志望動機って、面接じゃんか。
<僕も自己紹介したいなぁ〜みんなと仲良くなりたいなぁ〜>
(アホか)
工藤瑠衣は、何ともつまらん誰の記憶にも残らないような当たり障りのなさすぎる自己紹介をした。さすが元生徒会長。しかし外見はこげ茶の髪にピアスと指輪とネックレス。何があった。闇深そう。
華音様は……昔と何も変わらぬ麗しいお顔が、淡いピンクを基調にしたメイクでさらに華やかになっている。髪切って染めたのね。控えめに言って女神。隣の大貴も魂抜かれかけてない? 僕と目が合うと少し口角を上げてくれた。うわぁ〜シャッターチャンス。
大貴は志望動機にも触れた。「ここの大学の名前を使って就活したかったから勉強頑張りました」と。純度100%の清々しい答え。教室がちょっとどよめくけど、教授はノーツッコミ。こいつ攻めてんなぁ。俺の好きなタイプかも。
俺はね、もう当たり障りのない自己紹介をしました。華音様と目が合うの恥ずかしかったわぁ。第一印象はおバカを封印。徐々に明かしていくスタイルですから。
途中、持参したサックスを急に演奏し始めた奴がいたり、出身地の魅力を力説する奴がいたりで1人2分なんて持ち時間は完全に無視され。14時30分に終わるはずが、14時40分に。次の授業ある人かわいそうやん。最初に悩んでた20分返せや教授。あんたの計画性ゼロを通り越してマイナス。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.187 )
- 日時: 2021/08/02 13:05
- 名前: 美奈 (ID: lCrzzWFh)
第9話
俺と同じく大貴も次の授業は空きコマなようで、“授業”が終わってからも何となく教室に残っていた。あれは果たして授業だったのか。オリエンテーションでもなかった気がする。謎や。
すると「京汰くん!」という明るい声が。
「お、おお、華音」
「ふふっ。久しぶりだね。まさか同じ大学で同じクラスなんてびっくりした」
「え、なになに、知り合い?」
「京汰くんとは高1の時、クラスメイトだったの。それから私は親の都合でアメリカ行っちゃって、去年帰ってきて、今日驚きの再会、って感じ」
「マジかよ京汰、こんな美女とクラスメイトだったんか」
もう京汰呼び。いや嬉しいけど。大貴とは仲良くなれそうな気がする。
「そ。……あ、大貴の高校は俺達の隣の区だったんだって」
え〜そうなんだ! じゃあさりげなく会ったりしてたのかな?..…いやいや、こんな美女と会ったら俺忘れねえからぁ〜!
なんていう、どことなくキャピキャピした会話を早速繰り広げている2人。大貴すげぇな。コミュニケーションお化けじゃん。……ってまぁ、リアルお化けが俺の隣にちょこんといるんだけどね。彼女はもう、視えないのかな。
(てかお前大人しくねえか)
<僕には大貴くんがコミュニケーションお化けにしか見えなくて怖いです>
(お前も俺と初対面の時、人のパン勝手に食ってなかなか衝撃的だったぞ)
<ご主人の息子には、そりゃ建前でも明るく振る舞わないと、と必死で……>
(建前だったのな)
お化けにお化け扱いされる奴は正真正銘のバケモン。
と、そこに「何俺だけ省いて盛り上がってんの」という被害妄想強めの奴が入ってきた。いち早く悠馬が気づく。
<あ、元生徒会長>
「えーと……京汰くん、知り合い?」
同期のマドンナ・華音に認知されていない元生徒会長ほど惨めなものはない。
「あ、お、俺一応元生徒会長でして……ってそっか、その時もう日本にいなかったのか」
「俺もクラス同じになったことなかったから実際認知してなかった」
「え?! 生徒会長なのに?! 認知してないとかある?!」
ネックレスをじゃらんと言わせながら目を見開いて俺を見る瑠衣。俺の隣にちょこんといるお化けは、あんたのこと知ってたよ。誰かはちゃんと、あなたのことを見ています。ご心配なく。
「え、てか京汰んとこの生徒会長チャラくない?!」
大貴がすかさず突っ込むが、会話のいいとこで、ギュルギュルギュル……とノイズが入る。
「ん、何の音?」
首を傾げる瑠衣に俺は苦し紛れの声を出す。
「実は……起きてから何も食ってねえんだわ」
腹鳴るとかお前可愛いな! なんてすっげー慣れ慣れしいことを言いつつ、だったら初の学食行こうぜ! と大貴が俺達を誘う。こいつ慣れ慣れしいのに嫌な感じがしない。さすがコミュニケーションお化け。
大貴の声に救われて、俺と瑠衣と華音と悠馬は教室を後にした。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった【Season2始動】 ( No.188 )
- 日時: 2021/08/20 14:37
- 名前: 美奈 (ID: lCrzzWFh)
第10話
・・・・・・・・・
コミュニケーションお化けの大貴にビビる傍ら、僕は彼女のことが気になって仕方がなかった。
制服を着ていた時から十分、いや十二分に可愛かったけれど、肩につく程度にまで髪を切って、メイクもした彼女は新たな美しさを手に入れていた。はぁぁ。とっても可愛い。何年か前に心にしまい込んだ淡い感情は、その瞬間再び爆発しそうになった。でもいきなり爆発させるのはさすがにヤバいので、頑張って押さえ込む。
このタイミングで再会できたのは、本当に奇跡的なことだと思う。
勝さんが解禁してくれたのだから、僕は今度こそ、正々堂々と彼女に恋をするつもりだ。いつかちゃんと、想いを伝えるんだ、この声で。京汰のことも応援しているけれど、僕も僕なりに真剣勝負するんだ。せっかくチャンスが与えられたんだから!
同志である僕達が、再び恋敵に。
——そんなことがあっても、いいんじゃない?
京汰は華音ちゃんを見た途端、頬がほんのりと紅潮していた。ほんと、いつになっても分かりやすいよね君は。
そんな彼女の前ではイケメンな所を見せたいはずだろうに、彼は初っ端から醜態を晒す事態に陥っている。
大貴に引きずられるようにして教室を出た京汰は、足元から崩れ落ちそうになっていた。ただ空腹なだけで千鳥足になれる人間を初めて見たよ。
あの子お酒飲めるようになったら、さらにめんどくさそう……と冷静に考えていたら、そっと声をかけられた。
「ここら辺にいる気がするんだ」
その瞳は、しっかりと僕の顔の方を捉えていて。
僕の肩に優しく触れるように、彼女はわずかに手を伸ばす。
マジか。
<…………っ?!>
「合ってる?」
<……あ、ってる……! 合ってるよ華音ちゃん!>
良かった〜私の“才能”まだ衰えてなかったんだ〜、なんて無邪気に笑う彼女。外見こそ多少大人びたけれど、笑顔は何も変わらないまま。
途端に懐かしさが溢れ出す。
「悠馬くんにも再会できて嬉しい!」
<ぼ、僕も>
「また京汰くんと一緒に通うんでしょ? 大学」
<うん、そのつもりだよ>
「じゃあ、これからも仲良くしてね!」
僕のいる方を見てにっこりとした彼女は、僕に「学食楽しみだね」なんて話しかけながら歩いていく。
夢のような展開だった。隠形してても僕が視えて、話しかけてくれるなんて。
こりゃあもう、タイミング見てアプローチかけるしかないでしょ。
こりゃあもう、京汰が寝坊しても僕1人で大学通うしかないでしょ。
胸の高鳴りを強く意識しながら、僕は彼女の後を追った。
後を追いながら、わがままかもしれないと思いつつ、華音の先祖の姫に懸命に祈る。
どうかこれからも、彼女に見鬼の才を与え続けて下さい、と。