コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった 【閲覧2000!】 ( No.88 )
- 日時: 2018/01/26 16:26
- 名前: 美奈 (ID: Djfn6fKO)
第41話
まあ、色々ありましたけど。結局あの一応陰陽師の端くれの少年は、超絶ムカつく性格のまま変わってませんけど。彼なりには、気持ちの面で成長したようで。
僕は渋々、彼のお世話任務を再開したわけであります。ああ、また始まってしまった。テレビでアイドル見て、うっわまーじ可愛いじゃんこの子やべええええ華音様並みにやべええとか言ってる彼を尻目に、大根の皮を剥く日々が。
なんかまた切ないけど、でも本音言うと、このうるさい日常が戻ってきたことが、ちょっぴり嬉しかったりもする。でもでもやっぱり、切ない気持ちの方が大きいのかもしれない。実は、元気振りまきまくって、いつも全力で生きている彼を見て、僕はどうしようもなく羨ましくなる時がある。
僕はどんな気持ちも、奥に奥に秘めてしまう。その気持ちはとっても強くて、大きいものなのに。
彼は思ったことはすぐ声に出したり、顔に出たりする。どんな些細なことでも。
僕にはなくて、彼にだけ、あるもの。
僕ができなくて、彼だけが、できること。
僕は、ある意味式神としての存在を超えてしまった気がする。
ねえご主人。あなたは僕を生み出すには有能すぎたんじゃないでしょうか。
それとも、これは偶然ではなくて、必然ですか?
こんな僕に、恋心まで与えるなんて。
一筋縄ではいかない、恋心を。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.89 )
- 日時: 2018/01/30 13:36
- 名前: 美奈 (ID: Djfn6fKO)
第42話
・・・・・・・・・
微妙な冷戦状態解除宣言をしたら、なんか心が軽くなった。悠馬はまた、お掃除や料理をしてくれるようになった。まあ単に俺が楽になったってのもあるけど、やっぱお節介な式神とわちゃわちゃ喋る毎日って悪くないな、と感じて、そんな日々が戻ってきたことに軽く祝杯をあげたい気持ちでもある。まだ全然未成年だけど。うん。
一夜明けて、10月最後の日になった。10月最後の日。10月31日。
そう、ハロウィンがやってきたんだ!
俺の学校は普段、お菓子の持ち込みは禁止されている。が、周りの話によるとハロウィンとバレンタインは暗黙の了解でOKらしい。てな訳で、俺も昨晩スーパーで買ったパンプキンチョコのアソートを持っていくことにした。
だが家を出ようとした矢先、またあのうるさいのが始まったのは想像に難くないだろう。
『え、京汰!お菓子持ってっちゃだめって言われてるじゃん!悪い子だねえ』
「バーカ、今日はハロウィンだから一応OKなんだよ」
『バカなんてひどい!僕メイドインジャパンの式神だもん!そんな西洋の祭りなんて知らないもん!』
「...西洋の祭りってのは知ってんのな」
『京汰くん、トリックオアトリート』
「がっつり知ってんじゃねーか」
というやりとりができるくらいには、俺らの関係は元通りになっていた。
俺はまたこうやって笑顔で悠馬とわちゃわちゃ喋りながら、かつ時計とにらめっこもしながら、勢いよく玄関のドアを開けた。
俺が(正確に言うと俺達が)意気揚々と教室に入ると、そこではもう盛大なお菓子交換が始まっていた。昨日まで死人のようになっていた俺だが、もう心を切り替えられたので、目が合ったクラスメイトにどんどん声をかけていく。
「どうした京汰、今日やけに元気じゃん」
「まあなんか今日から明るくいこうぜ的な!」
「色々あったんだろうけど、確かに昨日までのお前お前じゃなかったもんな、やっぱ明るくてバカなお前が一番!」
「だよなだよな、俺もそう思ったー!てな訳でほいほい、お前らにチョコあげるね、京汰くんからのディープな愛の印な、しっかり受け取れよ」
「お前のそういうとこ愛してる」
とまあ、例の明るいキャラを復活させたらまたすんなり皆と話せるようになれた。おバカ万歳。
家を出る間際にもあげたが、もう一個悠馬の方にチョコを投げてやる。もう絶対言わないけど、俺からの謝罪と愛の印のつもりだ。悠馬はしっかりキャッチして、笑顔だけこちらに向けたと思うと、なんとお礼も言わずチョコを口に放り込んだ。
...あげなきゃよかった。
男子陣と一通りお菓子を交換して、もぐもぐしながら喋っていると、おはよ〜う♡という女子特有の甲高い声が聞こえてきた。それに対し、おはよっ♪と爽やかに答えたのは。
そう、我らがアイドル、篠塚華音様である。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.90 )
- 日時: 2018/02/02 16:29
- 名前: 美奈 (ID: jkVz8myT)
第43話
華音様は男女問わず皆に輝く笑顔を振りまき、香りの良い長い髪を耳にかけ、教壇に立った。朝の光も手伝って、彼女の美しさに磨きがかかる。おお、本日も麗しい。
「おはよう!みんなにお菓子持ってきたよ〜」
すると非リアの男子陣(ほとんど全員)がすかさず雄叫びをあげた。「俺たちにもあんの?!」
「一応ね。でも男子に手渡しとかちょっとアレなんで、教壇の上に置いとくからみんな取ってねー。あ、女子はもちろん手渡しでっ!」
一部の男子は猛然と教壇に走っていこうとしたが、一人の男子が待ったをかけた。よりによって俺が仲良くしている奴である。どうした。
「手渡しがアレなのは分かるけどさ〜、そんなら俺たちに投げて渡してよ!キャッチしたい!」
...何を言うんだこいつは。
「え、何言ってんの、やだよ投げないよ」
ほらほら、華音様も同意見じゃんか。麗しいお顔が微かに歪んでしまっている。歪んだ顔さえ美しいけど。
「そこを何とかっ!!!華音様っ!!!」
ヤバい。これは土下座しかねない勢いである。てゆかもう、正座しそう。どうしたんだ。俺と一緒にいたらバカが伝染したか。ああ、華音様のお顔が曇っていくじゃないか。華音様を困らせる人間は有罪だ。後で絞め殺すぞ覚悟しとけ。
「んーもうしょうがないね本当に。土下座なんかされたら困るし引くし。...じゃあ、一回だけだよ!一個だけ投げます」
耳を疑った。奴は立ち上がり俺にピースした。...マジか。マジですか華音様。仏かあなたは。
「「「「「「「「「「「よっしゃああああああああ!!!」」」」」」」」」」」
男子陣の大声が響き渡る。「なっ、こういうのは一度おねだりするべきなんだよ京汰!俺キャッチしちゃうぞ〜」と俺の肩をつついて友達はいうが、お前さっき華音様に引かれてたの気づいてないのかな。まあ俺も以前華音様に引かれた身なので黙っておこう。
非リア男子陣が一斉に手を伸ばす。皆の熱意と執念に今一度動揺するが、負けるわけにはいかない。悠馬の方を見やると、彼は華音様の隣で手を合わせ、俺に頷いていた。彼はこの競争に参加しないらしい。そりゃそーだ、あいつがキャッチしたらお菓子が宙に浮いてることになる。まあ理由は分かるが、お前その立ち位置はないだろ。隣独占っておまっ...
ポーンと、お菓子がこちらに投げられた。やべえ緊張する。華音様からのブーケトスならぬスナックトス。運命は誰の手に...?
「うわっ?!」
嘘やろ。
...俺の手?!
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.91 )
- 日時: 2018/02/15 23:44
- 名前: 美奈 (ID: 0lZdS59R)
第44話
「うわっ?!」
俺は危うく、お菓子を落としそうになった。皆の目線がこちらに集まる。女子は驚きの眼差しで、男子は呆然とした眼差しで。やだ男子怖いよ。
そう。俺が、この藤井京汰が、華音様のたった一度きりのスナックトスを、キャッチしてしまったのである。トスをお願いした友達は、俺を恨めしそうに見ている。舌打ちもされた。呪詛かけられて殺されそう、どうしよう。悠馬はただ目を見開いている。
俺は思わず、華音様を見た。彼女は、くるんとした大きな瞳をちょっと細くして、微笑んでいた。やだ何これ。ずっきゅーんって感じ。
「わーお、藤井くんナイスキャッチ!ハッピーハロウィン♪」
華音様の指紋がついたお菓子を見事キャッチして、俺だけにあの柔らかな笑顔と可愛いセリフを届けてくれた。天使。俺今なら冥土に行ける。ありがとう神様。あれ、仏様?どっちだろ。んふふ。
ふわ〜っとしていたが、ふと我に返った。お礼言わなきゃ。
「あ、ありがとな!ハッピーハロウィン!!」
やった。華音様とマンツーマンでのコミュニケーションが取れた。しかも、事務的じゃない内容で。最高かよ。マジ卍。
「生きてて良かったわ」
男子陣にもみくちゃにされながら俺は呟いた。まあ、この呟きを聞いた人間にはもちろん一発食らったわけで。でも華音様の笑みを思い出せば、こんなの全く痛くない。もみくちゃにされる前にお菓子は丁寧に鞄にしまって、家まで丁寧に持ち帰り、悠馬に奪われないよう丁寧に独占し、丁寧に頂いたことは言うまでもない。
なんて最高なハロウィン!俺やっぱ華音様大好きだ!!!