コメディ・ライト小説(新)
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.97 )
- 日時: 2020/03/31 20:13
- 名前: 美奈 (ID: hVaFVRO5)
第47話
俺の学校では、1年と2年はクラスの出し物が義務化されている。各学年6クラスずつあって、半分が模擬店、半分が劇や展示といった感じになっている。俺や多くの男子陣は当日全然仕事しなくていい展示でいいやー、と思っていたのだが、女子陣がどうしてもカフェやりたい!と主張しまくっていたので、模擬店クラスになった。女子強え。
そんなこんなで今から、教室をオシャレなカフェに変貌させていく作業が始まる。俺らのクラスのテーマはインスタ映え。キッチュでポップな店を作り上げるべく、女子が奮闘している。男子も店員やんなきゃいけないこと絶対考慮してないよなーって思いつつも、「椅子と机動かして!重いから!」とバンバン指示してくる女子達に対し、俺らは黙って従っている。女子強え。
悠馬はさっきからいたりいなかったりしている。当然文化祭の雰囲気が初めてなので、色んなブースの準備風景を見て楽しんでいるようだ。
男子は皆従順だったが、俺は特に従順に働いた。机の位置が違うと言われれば謝ってやり直し、あの箱を運べと言われたら素直に運んだ。不平不満は言わない。華音様に中身はイケメンだと思われたいからだ。ゆーてね、実際そこそこ中身はイケメンだと思ってるけど。誰だろうと女子が重たい荷物を持っていたら、すかさず手伝った。華音様じゃなくても、そこそこ可愛い子にお礼を言われると嬉しいものである。途中、城田に「お前軽く気味悪いぞ」と言われたが気にしない。お前のおねだり癖の方が気味悪い。
しかし肝心の華音様は、他の男子が手伝いを申し出ても断っている。「ありがと、でも私バスケ部だからこれくらい平気だって!」と笑顔で答えるだけ。そして皆その笑顔の破壊力に完敗し、「あ、そっか...」と言って去り、男子陣の輪に戻って「無理や...」と弱音を吐く、を延々と繰り返していた。どうにかならないものか。俺は何としても手伝いたい。
突然俺はひらめき、階段へと走っていった。今さっき、華音様が荷物を2階の教室に運ぶため、階段を下っていったのだ。...お、後ろ姿発見。重たそうな段ボールを、一気に二つも運ぼうとしている。...ん?今左膝を手でさすった?とにかく、彼女のところまで駆け下りる。
「お、おい、それで運ぶ段ボール終わり?」
「あ、うん、あと二つだからまとめて持ってっちゃおうと思って!だから藤井くんは部屋戻って大丈夫だよー」
くああ、パッと華が咲くような、この笑顔。そして凛とした声音で俺を呼ぶ。名前にぴったりの麗しいお方だ。倒れそうだけど、頑張って踏ん張る。
「いや、それ1つでも重いし、俺一個運ぶから」
「ありがと、でももう二つ持っちゃったし!1階分だから、それにバスケ部で鍛えてるんで余裕だよ!」
「あ...それは分かるんだけどさ、ほら、バスケ部だからこそ、試合前に怪我とかしちゃいけないし。レギュラーなんだろ?無理すんなって」
そう、このセリフこそが俺の秘策なのである。これなら断れないだろう。
「そうかもだけど、今怪我してないし!無理もしてないからほんと大丈夫!気持ちだけで!」
え。通用しないの?!それは予想外。どう攻めよう。...あ、さっき左膝さすってたの大丈夫なのかな...実は怪我してるんじゃ...。
「ほんとに?嘘つくなよ。無理してるだろ。さっき、左膝さすってたよな?ちょっと痛いんじゃねーの?」
あ、ヤバい、意地悪な言い方になったかな...華音様の顔が、ハッとした表情に変わる。瞬きして、今一度俺を見る。ああごめんなさいこんな強く言うつもりじゃ...!
「あ、見てた...?じゃあ隠せないな...うん、実は少し痛めてるけど、ほんと試合には影響ないし!それにこれがバレたらコーチが大事をとれとか言って、レギュラー外されちゃうかもしれないから...クラスにも女バスいるし、内緒にしといてくれないかな...」
内緒...え、華音様と二人っきりの秘密の共有?!
「あ、いや、そりゃ内緒にしとくけど...今は大丈夫でも悪化したら大変だろ。とにかく二つとも俺が持つから」
すると、華音様は素直に俺に段ボールを二つ委ねた。お、頼ってくれたじゃん!頼られることこそが男の幸せなんだよな。受けとる際に一瞬、手が触れる。うわあ倒れちゃう。
「びっくりしたけど、気づいてくれて嬉しかったかも。ありがとう、京汰くん、文化祭頑張ろうね!」
「お、おう!」
...やばばばばばばばばばっっっ!!初の京汰くん呼び!
その後、バスケの試合についてなどの話を少ししながら教室に帰ってきた俺たちを見て、男子陣は目を丸くしていた。別れ際、華音様は「ありがとね」ともう一度俺に言ってくれた。それはこっちのセリフです華音様。
確実な進歩。近づいた距離。ハロウィンといい、今日といい最高かよ。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.98 )
- 日時: 2020/04/01 13:25
- 名前: 美奈 (ID: hVaFVRO5)
第48話
・・・・・・・・・
「そんでさそんでさっ!!」
スーパーでの買い物もそこそこに、京汰は帰宅するなり大声で弾丸のように話し始めた。帰宅途中の意思のみの会話でも、京汰はずーーーーっと喋りっぱなしだ。いつも僕のことをお節介だと言って邪険にするのに、今日は自分の話を存分に聞いてもらいたいらしい。人間というのはこんなに虫のいい奴ばかりだろうか。つい数日前まで貝のようだったくせして。でもまあ、これだけ素直なのも可愛いと褒めた方がいいんだろうか。
「ねーえ聞いてる?いつも口挟んでくるのに今日やけに静かじゃんか!そんな人外のモノみたいな顔してジャガイモの芽とってんじゃねーよ、あ、お前もともと人外か、それでさ、俺ね、華音様のことどうしても手伝いたくって...」
僕だって口を挟みたい。さっきの人外ってとこに関して。でも突っ込む前に話が進行していくのである。ノンストップかつハイスピードなのだ。今だってツッコミたいよ、君は女子かって。
京汰はすっかり舞い上がっている。ちゃっかり華音様の手助けに成功した彼を見て、他の男子が一斉に問い詰めたが、彼は「ちょっとな」とニヤニヤするばかり。教室に戻ってきた僕にもさりげなくピースしてくる始末であった。これはやんごとなき事が起こったな、と僕は確信し、その確信が当たっていたと冷静に悟り、現在に至る。
「それでな、俺声かけたんだよ、そしたらまあ色々あって華音様が俺にダンボール預けてくれて!」
咄嗟にジャガイモと包丁をまな板に置き、僕は慌てて両腕でTの字を作った。
『タイムターイム!ちょっと待って、順番にツッコミさせて。まず、お前もともと人外か、っていうセリフはどうかと思います。次に、京汰、ノンストップかつハイスピードで喋ってるから僕が口を挟もうにも挟めない。君は女子か。あと最後に、色々あって、ってどゆこと?さっきから華音様の笑顔の感じとか髪がどんな香りだったかとかはたくさん詳しく話してるのに、そこだけ曖昧なの気になるんだけど』
「俺そんな喋ってたか、マジか。だって人外なの事実やん、それから多分俺女子だわ、あと色々ってのは色々諸事情あって話せないんよ〜」
『人外なの事実って...まあ事実だけどぞんざいに扱われてる気がする...あと京汰くん女子とか気持ち悪い...あとあと諸事情って何、ここまで話したなら話してよ』
「ぞんざいではないって!悠馬くん、愛してるよ、大好き♡あと気持ち悪いとかひどくなーい?あとあと諸事情は諸事情だから、華音様と俺だけの秘密だから話せないっ」
『色々気持ち悪いよ...華音様と二人だけの秘密ってのも気持ち悪いよ...どうせ大したことでもないだろうに...』
「大したことなくないし!じゃあ何だお前、あの大事で可憐な華音様がお膝を痛めてらっしゃっても大したことじゃねえっていうのかよ!思いっきり大したことだろーが、世紀の大事件だろーが!俺だけがその大事件を知って華音様を救ったんだぞ!俺超イケメンだったんだぞ!最後にありがと、京汰くん、とか言われて!もーう泣いちゃう倒れちゃう!」
すごい。何回か教えてよーって言っただけで、こんなに滑らかに口滑らせてる。なんてこった。
『膝痛めてたの、華音様と京汰だけの秘密だったんじゃ...』
京汰の顔が豹変した。すごい、口あんぐりってこういうこと言うんだなぁ。
「え?......ああああああっっっっ!!!俺なんてバカなの?!今すんなり喋ったよな?!二人だけの秘密を!うわどうしよう俺こんなんやらかして処刑レベルだよ...俺にこの話引き出させたお前も悪いけど俺もバカだ、ああ悠馬さっきの忘れてくれ、一生のお願いだよ、さもなければ俺は処刑レベルだ、自分に呪詛かけて人生終えるしか...」
『早まるなってば!まだ君は若い、可能性ならいくらでもある、今のことは忘れるよ、僕が悪いってとこは異議あるけど!だから簡単に処刑とか言わないの、命を粗末にしない!君は一応陰陽師の家系でしょーが!言葉を選びなさいっ!京汰くんはいい子なんだからわかるよねっ!』
「ううっ、うん...忘れてね悠馬...!俺絶対華音様ゲットしたいもん...!」
ああ、なんておバカ。世紀末のおバカ。バカ正直って言葉作った人すごいよ。見事に体現してる人がここにいるよ。
一応京汰を慰めている僕だけど、彼を全力応援しているわけではない。試験の一件以来、諦めたつもりでいたけど...。でもやっぱり無理だ。京汰と共に、毎日彼女を見ているんだから。僕だって、直接は話せないけど、彼女の虜になってしまった一人なのだから。僕だって可能ならゲットしてみたいんだ。
—どんな手を使ってでも。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.99 )
- 日時: 2020/04/02 11:28
- 名前: 美奈 (ID: hVaFVRO5)
第49話
僕はちゃんと覚えている。忘れたりはしない。
忘れたら、文字通り消されてしまうから。
だから、忘れない。自分の命を守るために。せっかく生まれ落ちたんだ。僕は生きていたい。
頂いた名前に恥じぬよう、生きること。
理を、侵さないこと。
理、とは。
主人の言いつけを絶対に守ること。人間を傷つけないこと。殺めないこと。
無闇に自分の姿を晒さないこと。人間より目立たないこと。
言われたことはちゃんと覚えている。忘れたりはしない。
でも一つ、疑問があるのです。
傷つけない、とは、どういうことですか。
身体的に傷つけてはいけないのは、分かります。
けれど、精神的な傷は、含まれますか。
人間の心さえも、痛めつけたら僕は。
よりによって、一番近くにいる人の心を傷つけてしまったならば、
僕、は。
消されてしまうのですか。
もはや自分でもよく分からないのです。
消されるのが怖いのか、傷つけてしまいそうなことが怖いのか、
それとも、
この焦がれそうな想いに歯止めをかけられなくなりそうな自分が、怖いのか。
- Re: 俺の恋敵は憎たらしい式神だった ( No.100 )
- 日時: 2020/04/04 18:19
- 名前: 美奈 (ID: hVaFVRO5)
第50話
・・・・・・・・・
文化祭が間近に迫っている。バスケ部は文化祭の二日間、招待試合を行う。相手校は格下だ。だいたい、こういう招待試合は呼んだ方が勝つように出来ている。
けれど、気を抜いてはいけない。私は一応1年で唯一のスタメンなのだ。エースになりたいから、今頭角を現して、もっと目をかけてもらえるようにしないといけない。コーチとか、先輩とか、あの人にも。とにかく今は注目してもらいたい。
一応膝には気を遣っていたけど、正直我慢していた。女子って怖いから、他人の欠点を見つければ集中攻撃してくる。膝の痛みは今、最大の欠点だ。レギュラーから引きずり下ろされたらたまったもんじゃない。
だから、あの子の申し出には感謝している。
実は気付いていた。私が階段を降りる時、すぐ後ろで駆け下りる音がすることに。些細な動きだから気付かれないだろう、でも気付いてくれるかな、って矛盾した思いで、膝をさすった。実際痛みは強くなっていた。気付かれた時は驚いた。あと、嬉しかった。
活発で、いつも明るい男子。思ったことを何でも言える所とか、進んでおバカになれちゃう所が、ちょっぴり羨ましい。さっきの私みたいに、さりげなく気付いてもらおうとかしない。本当の気持ちを隠そうとしない。ちょっと人を試したりするような真似をしない。私のことを男子陣はいつも過大評価する。そんな純粋な子じゃないのに。あの子は私みたいに卑屈じゃなくて、本当にまっすぐだ。あの子は私にないものを持っている。
「今から練習始めるよー、まずランニングから、はいスタート!」
模擬店の準備で膝を酷使する前に休めたから、今は随分楽になった。
文化祭終わったら、改めてお礼言わなくちゃな。
華音は一度強く瞬きをし、体育館の床を蹴った。