コメディ・ライト小説(新)
- Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.4 )
- 日時: 2018/03/16 11:58
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「じゃ、次の話に移るわよ。そもそもフォルトゥナは──なんでひどい目に合ってるか、わかるかしら」
「一般人からすれば、『普通ならばあり得ない力のようなもの』を使える人間なんてものは、恐怖の対象にしかすぎない。自分とは違う『異常者』なんて、近づきたくないだろうし、そもそも存在を認めたくないだろう。だからあの手この手を使って、自分らの視界、もしくはこの世から消し去ろうとやっかみになる。僕たちフォルテを持つフォルトゥナが、今現在においても社会的地位や社会的存在が危ういのは当たり前の話だ」
「───あら、突然の来訪者さん大正解」
講義を受ける2人に対し自ら教鞭をとる少女の問いかけに、その2人とは違う第三者が割り込んで答えた。少女は声がしたそちらの方向に目線だけを向けて呟いた。
閉じ切っていたはずの扉は開かれており、そこには顔を何かしらの布のようなもので覆い隠した、いかにも神社の息子というような少年がいた。少年は部屋の中で執り行われていた講義と、そのメンバーを見るなりため息をついた。あきれたのかそれともただのため息か。意味合いは変わらないだろうが。
「時雨じゃんYO!どうしたんだYOため息ついちまってさベイベェ」
「…松永、そのしゃべり方はどうにかならんのか」
「いや無理だろコイツがこれ以外のしゃべり方したらそれこそ一大事だ」
「で、松永くんのことはおいといてだけど。時雨くん何かあった?」
時雨───春夏冬 時雨───と呼ばれた少年は、最初に自らの名前を呼んだ銀色のアフロとサングラスが特徴的で、いかにもラッパーを思わせるようなしゃべり口調の少年には一切顔を向けず半ば無視するような形で、話を続ける。
「さっきまで出撃していた姉上と正紀が回収してきた機体のデータがとれたぞ。報告会だ。急げ」
「はっや!」
「オォウなんつースピードだYOパネェ!」
「そこにいる芳賀がいればもっとはやかったんだがな」
「うるせえ」
「とにかくだ。もう全員集まってる、さっさと来い。それと…歌子さん」
「なあに?」
時雨は用件を伝えると、先ほどまで教鞭をとっていた少女───黛 歌子───の名を呼ぶ。歌子は時雨に柔らか笑みを浮かべて返答を待つ。心なしか周りに花が飛んでいる雰囲気を醸し出している。
「疲れているのならば、疲れたといっても構わないんですからね」
「あらどうしたの?」
「目の下。クマがついています。また寝ていないのでしょう。それと若干顔色が悪いです」
「あっ」
時雨がちょうど目の下あたりをトントンと示してやると、歌子はハッとして目元を隠す。その様子に時雨は深いため息をつく。先ほどのため息よりはもっと深く。今度こその意味合いはあきれか。
「何が原因かは知らず処ですが…活動に影響が出ないようにしてください。ひとつの油断が『死』を招きます」
「…ごめん」
「それでは」
今度こそ要件を済ませると、時雨は去っていった。急いでいたのか、多少小走りで。歌子はそれを追いかけるように、無言で部屋を出ていく。そして取り残された、2人の会話を聞いていた松永と、時雨から芳賀と呼ばれた少年───電堂 芳賀───は、各々に言い合う。主に時雨のきつすぎる物言いに対して。歌子に追い打ちをかけるような物言いに、松永は若干トーンを落として苦言を呈する。
「あの言い方はねぇだルォ?トドメさしに来てんじゃんYO」
「いやむしろ、時雨はあれが精いっぱいなんだよ」
「どういう意味だYO」
「あいつさ。クソほど口下手でな。あれでも必死に言葉は選んでんだろうが、頭の中はパニックになってんの。仲間を心配するあまりつい厳しい言葉になってさらにへこませちまう」
「時雨は自覚してんのかYO?」
「してるっちゃしてんだろうな。今までにもそういうことあって何度か直そうと頑張ってるみてーだが。あ、そうそう。報告会終わった後のあいつ見てみろよ。まるで覇気がねえしクソウケるぐれーにしなっしなだぜ」
芳賀はケタケタ笑いながら椅子から立ち上がり背伸びをして、めんどくせえが行くか、とぽつりとつぶやいて部屋を後にした。もちろん松永のことは待つわけでもなく、伸ばしたはずの背は思いっきり丸めて猫背にして、報告会の会場へと足を進める。ただひとり残された松永は、オイオイ待ってくれよ置いてくなんてひでえだルォ!?と叫ぶなり、また部屋を後にするのだった。
◇
「お、全員揃ったな。んじゃ報告会はじめんぞ」
少し大きめの会議室。そこに芳賀と松永が入ると、プロジェクタの前で構えていた帯刀している少年───村山 正紀───が、部屋の明かりを消して報告会を始める。会議室にはそれなりの人数が入っており、先ほど芳賀たちとともにいた歌子もしっかりといた。倒れることを考慮してか、周りが立っているなか椅子に座らされていたが。その椅子を用意したのは誰なのかは知らなくていいことだ。
「デジタルデータ内の見回り中、突如グローリアの乱入あり。戦闘開始時刻は13時27分。戦闘時間はおよそ16分間。相手は1機のみで、フォルテッシモの形状は量産型。どうやら乱入理由は『気に入らなかった』、らしい。何に対してかはもう知らん。んなことはどうでもいい。で、桐乃さんのパイロキネシスで機体を焼いて戦闘終了。パイロットを放り投げたあと、機体回収ののちに解析にかけたら、こんなデータが出てきた」
正紀がプロジェクタにデータを映すと、出てきたそれに会議室にいた面々はとたんにざわつき始める。
『捕獲したフォルトゥナの子供のフォルテの組み込みプログラム』と表示されたそれには、明らかに遺伝子情報と思われるデータが、何行にも及ぶ文章がずらりと並んでいた。隣にはわかりやすいようにか図式まであった。そして組み込まれたと思われるフォルテの持ち主のフォルトゥナの子供の、詳細な情報まで。血液量、罹患歴、これからかかるであろう病の情報までつらつらと。そして張本人である子供の顔写真まで、ご丁寧に張り付けされてあった。
「これは…」
「ま、あながち、というかほぼ確定だろうが、ヤツらは連れ去ったフォルトゥナを、『何らかの形にして』フォルテッシモに組み込んでる。『いざ』という時のため…なんだろうな。組み込んだ子供のフォルテを使って逃げるなりとらえるなりもしくは殺すなりな。さっきの戦闘では偶然か運がよかったのか、そういうことをしてこなかったらわからなかったが。しかしこういった機体がきたのは初めてだ。これからもこういったフォルテッシモが来ることは間違いないだろう」
「それに考えられる範囲でいくと、あたしらの誰かが向こうにつかまって、『いいように』されたあとこうなることも、否定はできないからね」
正紀の言葉に続くように発言するは桐乃 超子。先ほどまで正紀とともに出撃し、相手に『火のかたまり』をぶつけてとどめを刺した少女である。超子はたまたまか隣にいた自らの『双子の弟』である時雨をとっつかまえ、後ろから抱きかかえる。時雨はそれを振りほどこうとせず、口を開く。
「『何らかの形』…というのは具体的にはどういうものだ?」
「今現状考えられるのは『デジタルデータ』。これが最有力だな」
「というかそれしかなくないか?それこそ本人をフォルテで急速成長させて、パイロットとして搭乗させることなど考えられんぞ」
「つかデータとして出てきてるんだからそれしかないよ」
「すまん。なら言い方を変えるか。やっこさんは連れ去ったフォルトゥナの子供をデジタルデータに変換して、フォルテッシモに組み込んでいる。いいか?」
「で、組み込んだ子供はどうしてるのかね?」
「やっこさんの今までの状況から見るに、わざわざ『生かして残す』と思うか?」
正紀の間髪入れずにはなったその言葉に、それまでざわついていた部屋はシンと静まり返った。
「そういうことだ。これから相手さんの状況はますます指一つさえ見逃せなくなるな」
正紀はそういうとプロジェクタの電源を切り、部屋の明かりをつける。
「報告は以上。各自解散。いいか、指一つの動きも見逃すな」
続く