コメディ・ライト小説(新)

Re: 片恋.・。*平行線の恋模様*。・. ( No.2 )
日時: 2019/07/26 00:13
名前: Aika (ID: tDifp7KY)

Episode1:春、 出会い。




―――高校1年の春。


幼馴染みの達也が吹奏楽部に所属してるから、何気なく聞きに行った中庭での新歓演奏の発表。


そこで、 あたしは。



あの先輩のドラムに聞き惚れてしまった。




中学3年間。




吹奏楽部で、 パーカッションをやってきたから上手いか下手かなんて、すぐに分かる―――。




そして。





あの人が、 他の2年の先輩とは明らかに違うことも―――。




「―――うわー!さすが、高校の吹部!中学とはレベルが違うね~!」

隣で一緒に聞いていた芽生もそんな声を上げていた。

「そりゃそうだよ~!ここの学校の吹部、レベル高いらしいし!練習もハードだって達也が言ってたし!」
「出たよ、 柚月の旦那」
「旦那じゃないし!てか、好きじゃないから!あんなやつ!」

達也の話を出すたびに、芽生はこうやってからかってくる。
そんなに、仲良く見えるのかな?
あたしと達也って―――。


そんな風に悶々としてると。



「―――好きじゃないとか傷つくわ~」



不意に、後ろからそんな声がして振り返ると。

いつの間にか演奏が終わって。
楽器を持ったまま、あたしと芽生を見下ろす達也の姿があった。


「うっわ!びっくりした!!つか、今の聞いてたんかい!」
「お前の声、でかいから普通に聞こえる」
「失礼な!!」

なんて、いつもみたいにじゃれあっていると。


「なんだよ、達也。お前の彼女か~?」
「しかも、後輩かよ~」


茶化すような男子がワラワラと集まってきた。
うっ…。なんか、年上の男の人って怖く見えるんだよね。
まぁ、達也は平気だけどそれ以外の人は無理だな、あたし。


なんて、考えていると。


「バカ。付き合ってねぇよ、ただの幼馴染み」

あっさりと否定する達也の姿。
まぁ、ほんとのことだしね。
あたしも、顔色を変えずにいつものスタンスでいると。

「ほんとかよ~?」
「恋人の痴話喧嘩にしか見えねぇけどな」

まだ、しつこく茶化している。
あたしは、ため息をついて。

「いこっ。芽生」
「あ!待ってよ~!柚月!」

その場にいるのが、なんだか耐えられず。
場所を離れることにした。
そのとき。



背中越しから。





「―――あっ!柚月!」






達也のあたしを呼ぶ声が聞こえて。
振り返ると。




笑顔で。






「―――ぜってぇ、吹部入れよ!待ってるから」






あたしに向かって、 そう言う君がいた。






あたしは、返事をせずに中庭から離れていく。
無心でひたすら、昇降口へと向かっていく。



―――「柚月。変な意地、張ってないでさ~。さっさと告っちゃいなよ?」









あたしは、 芽生の顔を直視しないで返す。





「なんのこと?」









とぼけるあたしに。
芽生は、ため息をついて。







「中学時代から好きな、 あんたの想い人に言えって話」







そう言い捨てて、 芽生は上履きに履き替えて教室へと向かっていく。
あたしは、その場に立ち尽くして。


力なく呟いた。





「―――そんなの、 分かってるよ」





達也が好き―――。
告白しなきゃ前には進めない、 平行線の関係のままだってことは、痛いほど知ってる。



だけど。





「―――いまさら、好きだ…なんて言えるわけないよ」



誰に言うわけでもなく、そう呟いて。
窓に目をやると。
桜の木々が風で静かに揺れていた―――。

ヒラヒラと舞う
桜の花びらに見とれていると。




―――「なんで、言えねぇの?」




誰に言ったわけでもない言葉を拾われた。




声のした方を向くと。








さっきの、 新歓演奏で。
明らかに他の先輩とはレベルの違う演奏をした、 先輩の姿――。




近くで見るとなかなかの美形で、 少しだけ鼓動が高鳴った。






絹のような、細い前髪が風で揺れていた―――。






あたしは、目を伏せて。答える。







「あんたには…関係ないし」








そう言って。
先輩の横をすっと、 通る。








先輩は呼び止めることもなく。
ただその場に立ち尽くしているみたいだった。








これが、







あたしと、 彼――――
皆瀬輝先輩が初めて交わした会話だった―――。