コメディ・ライト小説(新)
- Re: 僕の声は君だけに <感想大歓迎!☆ ( No.27 )
- 日時: 2018/06/30 17:18
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
「ただいまー」
靴を脱ぎ、家に上がる。一番近い部屋を覗くと、いつもと変わらず母さんが夕食を作っていた。
(この匂い)
ゴトゴトと大きな鍋でにんじんやジャガイモ、玉ねぎがカレーの中で一段と輝いて見える。おれの好物っいう理由もあるけど、どこか出かけたり、何か夜に用事があるときだ。
実際、今日は母さんの高校のクラスメイトと同窓会があるらしい。
昨日から、服を選んだり、迷ったりしていたけれど、別にいつもと変わらなくてもいいんじゃないかと思う。そう母さんにも伝えたのだが、なんの変化もなかった。これは、女心とか言うものなのだろうか。
全く分からん。
台所で水色と黄色の水玉模様のエプロンを着けて、体を揺らしてリズムを取っている。いつも以上にウキウキしている様子だ。
やっと気付いたのか、おれの方に振り返った母さんが声を出して驚く。
だが、すぐに戻り、カレーを混ぜながら尋ねてきた。
「おかえり、きょうや。今日はどこに行くの?今から同窓会に行かないといけないから、鍵を忘れないようにね」
まるで当たり前のように言う。でも、今日は予定は何もない。バイトも休みでいいとマスターが言ってくれた。どこにもいかない。テストのおかげで体力ゼロ。日中も眠気に襲われていた。
台所の前にある机の椅子を引いてカバンを置き、手を洗う。
母さんのすぐ後ろを通り、冷蔵庫を開ける。上の棚から取ったコップにお茶を注ぎながら答えた。
「別に今日は何もないよ。どこにもいかない」
そういうと、母さんの動きが止まった。なにかと見ていると、カレーの温度を保温にすると、バタバタとおれの所に走ってきた。その表情は心配をしているようだった。
い、嫌な予感しかしない……。
そばに来たかと思うと、おでこに手を当てた。
おれの方が背が高いから、下から覗き込むような感じだ。
「どうしたの?気分がわるいの?熱はないようね……。今日はゆっくりしなさい。お母さん、同窓会休むから」
ほら、出た母さんの心配症。
おでこに当てられた手をどけ、笑う。
「大丈夫だから、同窓会行って来なよ。楽しみにしてたんでしょ」
バックを掴み、自分の部屋にいこうと階段を登る。
めんどくさい。
心からの言葉だ。
笑みも消えて、小さくため息をついた。
(嬉しいんだけども……)
- Re: 僕の声は君だけに <感想大歓迎!☆ ( No.28 )
- 日時: 2019/07/25 22:51
- 名前: ゆず (ID: oUAIGTv4)
「行ってくるからね」
そう言うと、母さんは友達の車に乗り込み、どこかへ消えた。
何度も何度も車の窓から、ぴょこぴょこと手を振る姿はいつも通りで肩の力が抜けた。
もちろん。家を出る前には、鍵はしっかり締めて、だとか、夜ご飯はきちんと食べて、だとか、夜遅く起きてちゃダメなどと心配症発言は止まらなかった。
そして、止まらないと知るおれはただただ「うん」とつぶやくだけだった。
母さんがいなくなった家はいつもと違い、妙にもの静かだ。
「嬉しいというか、悲しいというか……」
わかりきっているはずの気持ちに苦笑いする。
時計を見ると、外は昼間のように明るいと言うのに5時半を回ろうとしていた。しかし、夜ご飯を食べるにはまだ早い。
部屋で寝てしまおうか。
きっと、このまま寝てしまったら、夜になると眠れないだろう。でもまぁ、明日からは夏休みだから少しくらいのんびりしてもいいかもしれない。
ふとポケットからイヤホンのコードが垂れていたことに気づく。
そういえば、ゆうと陽茉莉が言ってたな。今、女の子の間で流行ってるから聞けって無理持って帰らされたけど、おれは女子じゃねぇし。
だけど、せっかく借りたんだ。
「まぁ、感想くらいは」
この曲を二人が教室で熱唱していたのを思い出す。意外とノリのいい曲のため、あいまいだけれどもメロディーが頭に残っていた。
__ふと、曲のサビを口ずさむ
その瞬間、瀬ノの表情がひどく歪む。
右手は強く握りしめていた。
- Re: 僕の声は君だけに <感想大歓迎!☆もうすぐ300⁉︎ ( No.29 )
- 日時: 2019/07/25 22:53
- 名前: ゆず (ID: oUAIGTv4)
自分の部屋に戻ろうとしていた。
もし寝てしまったときのことを考えれば、窓を閉めておいた方がいいな。
階段を登ろうとしていた足を止め、窓の方を見た。
_あ。
白いカーテンの向こうで、赤・青・黄・白などの『何か』が踊っている。
いや、風に煽られ揺れている。
「母さん、忘れてるし」
カーテンを開けるとやはりそこには数少ない洗濯物が干してあった。
このままにしておくのもダメだろうと思い、庭に出る。干してある物干し竿は思ったより高かった。それか、おれが低いのか……。悔しい……。
それにしても、洗濯物を外すのなんて初めてだな。
料理を作るときに皿を出したり、準備ぐらいはしている。だが、それ以外はした覚えがない。おれに気を使ってくれているのか、毎日遊びに行くおれがするはずないと思っているのか。
洗濯物を取り込んでいる時、ふと目に入ったのは花だった。なん種類かの花がきっちり花壇で分かれており、とても元気そうに咲いている。
たしか、ゆうが貝殻に耳を済ませたら、海の声が聞こえたって言ってたな。
「花に耳をすませたら花の声とか……」
その場にしゃがみ、そっと花に近づいて耳を傾ける。
もちろん、聞こえるはずもなかった。
体が固まる。
バカだろうか。うん。バカだ。
肌の熱が一気に上がるのを感じた。誰かに見られているわけでもないのに恥ずかしくなり、勢いよく立ち上がる。
「さぁ、戻ろうとす_!」
今までよりも強い風が髪を仰ぐ。急なことに驚き、とっさに髪を抑える。
瞬間、さらなる驚きに大きく目を見開いた。
「___世界中じゃなくていい__僕の声が君だけに」
「__届いてくれたら」
突然風に流されて聞こえた声は、誰かはわからない。
だが、たしかに女の子の声だ。