コメディ・ライト小説(新)
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.62 )
- 日時: 2018/08/04 18:18
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
「へぇ、いよりってハーフなんだ」
真夏日。窓全開の部屋で青春を謳歌中の5人。
上島は完全に沈黙しているが、あと5人は話をしていた。話というよりかは、いよりへの質問ぜめだ。
いよりはコクリと小さくうなずく。
「お母さんが日本人で、お父さんがロシア人。私は……ほとんどお母さんの遺伝子を、受け継いでる、と思う」
ゆうが「いいなぁ」とこぼしながら、床をゴロゴロ転がる。
全くその通りだった。
髪の色も瞳の色も黒である。ただ、顔つきには少し、外国人らしい部分が残っていて、また周りとは違う。
「じゃあさ!いよりん背が低いけど、それもお母さん譲り?」
悪気はない。ゆうには決して悪気はないのだ。
一瞬、いよりの体がこわばる。そして、一気に崩れ、表情も暗くなり、顔も下を向いていた。明らかに様子がおかしい。
「お母さんも……お父さんも、背が高い……お、おかしい。私は、高くない……」
どうやら、遺伝子ではないらしい。
喋れば喋るほど、言葉は弱々しくなり、どんどん暗くなっていく。
急な落ち込み具合に、ゆうと陽麻莉はバタバタと焦る。
「元気だしな!ゆうよりは背が高いし!」
「だ、だいじょーぶ!見て!瀬ノっちだって男のくせに背が低い!」
「おい。お前は俺を泣かせたいのか!?」
しれっと俺の気にしているところを突いてくるゆうに、首を絞めにかかる。
女の子には優しくしましょう?こいつだけは許せん!
「キャーーヘルプゥ!!」
「ちょ、待て!」
完全に人の家にいることを忘れて、必死に追いかける。家中にバタバタと足音が響いてうるさい。
意外にすばしっこく手こずる。
陽麻莉は止めずに大笑い。上島もいつのまにかこちらを見ていて、「もっとやれーー!」と笑いながら盛り上げようとする。
いつもの俺たちのノリ。日常。
「……ふ、あはは!」
突然の聞き慣れない笑い声。
4人の目は大きく見開き、一点に集まる。
「あはは!……瀬ノ君も、みんなも仲良しなんだね」
声を上げて笑っていたのはいよりだった。
全員の動きは止まり、いよりから目を離すことができない。
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.63 )
- 日時: 2018/08/04 18:46
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
笑った。4人の心は同じことを感じている。
(いよりん、笑ったらかわいい!)
(ちゃんと女の子じゃん)
(笑わないと思ってたぜ……)
ゆうを追いかけている時、俺は笑っていた。最初は怒っていたが、楽しいと思う自分がいた。
俺たちの中にいよりがいたのが、何よりも嬉しかった。
間違ってなかった。こいつらを連れて来てよかった。
すると、ゆうがタイミングを見計らったように、俺の腕の中をすり抜ける。
ゆうは俺より小さいので、逃げ出すのも簡単らしい。
固まる俺たちを前に、机の上に置いていたスマホを取り、いよりの前に差し出す。
「ねぇ、いよりん!LINE交換しよう?」
午後6時。
昼でいよりの家で済ませた。
流石に遅いのでここで解散してまた次に、という話になり、俺たちはもう外に出て、後ろのいよりに手を振った。
再びスマホを開く。
LINEの一番上。『いより』。
「ゆう。今日、ジュースおごってやる」
「うわぉぉおおお!!何故かわからないが、感謝するよ瀬ノっち!!」
(あいつ、何ニヤニヤしてんだ?)
隣で笑う瀬ノは、いつにも増して嬉しそうだった。
だいたい予想はできる。
というか、最近の瀬ノは分かり易すぎる。
瀬ノは周りの恋や自分への恋に気づかない。それどころか、自分の恋にも気づいていない。
(こりゃあ見てて面白いな)
気分がワクワクする。先生にいたずらを仕掛ける時よりもだ。
お前に言いたいよ、瀬ノ。
俺はお前と違ってさ。
自分では止められない恋に、気づいてるんだって。