コメディ・ライト小説(新)
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.80 )
- 日時: 2018/09/17 13:51
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
未だ、ベットに横たわっても、全く寝付ける気がしない。
風呂に入った後で、身体はまだ生温かくさっぱりとしているというのに、心は濁った川のようにどんよりと重い。
現実から逃げるように目をつぶり、腕をかざして一切の光を閉ざす。
8月23日。
今日の日付け。約2週間前に送ったいよりへのLINEは既読スルー。
何度見ても変化はなくて、また、それが分かっているのについつい見てしまう。それが人間なのだろう。もうだめだ、なんて口では言っていても、もしかしたら、そう心で可能性を信じて祈っている自分がいる。
あの時見たいよりの瞳は右目が黒、左目が青。
テレビで見たことがある。確か____オッドアイ。
正式名称は虹彩異色症。遺伝によっても受け継がれるが必ずしもそうなる訳じゃなく、突然変異することもあり、病気や事故によっても色が変異する場合があるという。
いよりの母は日本人。父はロシア人。どちらかが、オッドアイなのだろうか?
いや、そうは判断できない。青のカラーコンタクトか、黒のカラーコンタクトという可能性がある。
冷静に落ち着いて、そう何度も何度も自分に叫ぶ。しかし、聞き飽きた大人に近づこうとクールぶっている幼い声が、唱えるように頭の中でこだまする。
思い出して__違う。そうじゃない。
めまいがするほど、ズキズキと鼓動に合わせて頭痛がする。早く早くと言わんばかりに、酷くなる一方だ。
(ねぇ……)
わからない。
(早く__)
知らない!
(……)
もう、わからない。知らないよ。
俺はゆっくりと夢の中に落ちていった。
楽しげな 高らかとした音。電気を点けっぱなしの部屋。
浅い眠りのせいで、俺はすぐに目を覚ました。
(それにしても……)
スマホの画面が光る。LINEが来るにしては、ものすごく遅い時間だった。時計の針が指すのは、夜中の1時。良い子の子どもたちは寝ている時間。つまりは、上島からだろう。
横たわったままスマホを取り、LINEのアイコンを押す。
「ぅえ!?」
画面を見た瞬間、あまりの驚きに身体をはね上がらせる。
『瀬ノくん。まだ、起きてますか?』
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.81 )
- 日時: 2018/09/27 00:44
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
最初は目を疑った。でも、確かにいよりからのLINEだ。今の時間だなんて気にしていられない。
『うん』
『この前はごめん』
あの時、俺は多分見てはいけないものを見てしまったんだ。待っててと言われたのに、守らなかった。まるで、鶴の恩返しだ。好奇心は時に、人をダメにする。それはありがち間違っていないのかもしれない。だけど、いよりは戻ってきた。違う。また、俺のそばに来てくれた。
その理由はなんなのだろうか。
ピロンと再び音がなる。
それは、先程の返事の内容ではなかった。
『電話してもいいですか?』
打ち込むよりは楽だからだろうか。
少し首を傾げながらも、すぐに返事をする。
『いいよ』
瞬間、電話のコールソングが流れ出す。
「早いな、いより……」
あまりにも行動が早いことに、思わず苦笑いする。でも、久しぶりにいよりの声が聞ける。そう思うと、胸の奥がほんのり温かく甘く、賑やかになる。
『えっと……こんにちは』
いよりの第一声は曖昧で弱々しい言葉だったが、逆に、それが彼女らしい。
身体中に溜まった寂しさや不安も全部吹き飛んで、何を考えていたんだろうって、馬鹿らしくなる。ただ、過去のことよりも、今のこの時間がすごく大切に思ってる。
男はその少女の秘密を知ってしまった。
鶴だなんて思わなかったでは通用しない。結局鶴は、どんなに手を伸ばしても届くことのない遠くへと飛んでいった。男は自分のせいだと言いながらも、いつかまた、会いに来てくれるのではないかと、毎日同じ空を眺めていた。
そんな男の元に何の前触れもなく、鶴は会いに来た。必死に白の布で顔を覆い隠そうとしても、隙間から見える鶴の少女は、恥ずかしそうに頬を染めてる。
そんな、少女がとても可愛いらしくて、また傷つけてしまいのではないかと心配しながらも、少女に、
「おかえり」
と、笑って手を差し出した。
鶴の少女のような、いより。彼女を守れるなんて保証はない。自信も、確証もない。
俺は、今の気持ちに素直でいたい。
『私の話を聞いてくれますか?』
か弱い小さな声。電話越しでも、微かに震えているのが分かる。
『私の事……ちゃんと話したい。頑張る、から、最後まで聞いてくれる?』
何のことかは、予想がつく。
断る理由はない。いよりの言葉を尊重しよう。
「うん。どんなことでも、しっかり聞くから」
耳元で、安心したように、ため息をつく音がした。
『ありがとう』
*******
ずっと言ってなかったよね……。
投稿70!閲覧1835突破!
いえぇぇぇぇぇぇぇぇええい!!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
ついでに言えば、自分、9月11日が誕生日だったのです。
やっと15歳!!おめでとう自分ww
周りが受験モードになってきたということで、なかなか小説を投稿することができなくなるのですが。
まだまだ、読んでくれたら、嬉しいです!
寒くなってきたからね。皆さん風邪に気を付けて。
ありがとう!ブイ☆
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.82 )
- 日時: 2019/07/24 17:43
- 名前: ゆず (ID: oUAIGTv4)
気まずい沈黙の中、先に口を開いたのは、いよりだった。
『私は世間で言う、オッドアイ……です』
俺は何かを言おうとして、すぐに口を閉じた。
『日本で生まれて、日本の幼稚園にも行きました』
まだ、冷静な声。いつもと変わらない。そう思いたいけど、違った。
『そして、小学1年生になったばかりの時、ロシアに引っ越すことになりました』
「うん」
『ほんとは行きたくなかった。ずっと……ずっと、日本でよかった』
「……うん」
『その時、私は本当に行かなければよかった』
まるで、その時の判断を後悔するような言葉。すぐには、返事をするとこが出来なかった、
悔しい。苦しい。声をかけてあげたい。きっと話すことは普通ではないとわかっていたけど、いよりのか弱い声が震えていると、身体が熱くて耐えられなくなりそうになる。それでも、必死に抑え込んで見せなきゃいけない。
いよりは、全部聞いてほしい、と言った。
ここで、俺が口出ししたら、全てが台無しになってしまうと思う。
(くっそ……)
自分を制御するために、強く唇を噛み締める。
『私は、全くロシア語が話せなかった。父も日本では、日本語だったから』
少し、声のトーンが上がる。でも、明るくなった訳じゃない。
『最初は、ロシア語を父と母で練習して、日常会話は出来るようになり、学校に通い始めました』
その瞬間、電話の向こうから、すすり泣く声が聞こえた。
『でも、やっぱりうまくいかなく、て……。みんなとも、仲良く出来なくて。私、は、変なんかじゃないか、って……』
俺はベットをおもいっきり叩いた。
違う。違う違う違う。
おかしくなんかない。変なんかじゃない!
『すぐにでも、日本に帰りたかった。暮らしている内にロシア語も完璧になった。でも、周りの人との間に出来た壁は消えなかった』
いよりはまだ、6歳ほどの小さな女の子だったんだ。全く知らない場所で、知らない言葉。
きっと、混乱するし、怖かったのだろう。
予想以上の辛い過去に、汗を流す。
『日本に戻ったのは、小学5年生の時。帰れると知った時、とても嬉しかった。小学校で仲が良かったみんなにも会えるから!』
ものすごく明るい声。しかし、それもつかの間。すぐに、しゅんと小さくなる。
『逆に日本語がさっぱりになり、わかるものの、会話にはついていけなくて……』
慣れというのもだろう。しばらくやっていないと、忘れてしまうことが多い。
俺でもよくあることだ。
だが、間違えると、大きな失敗をもたらすこともある。
『でも、特に仲のよかった女の子達は、そんな私でも、毎日話かけてくれて。友達だよって言われて、楽しくて』
楽しい。
そんな言葉を言うわりには、気持ちがこもっていない。
まるで空っぽで、すかすかだった。
その予想は的中してしまった。
『通い始めて1カ月の時でした。トイレに行った時、その友達がいました』
嫌だ。聞きたくない。
『いつも、声かけられてばっかりだったから、私もと思い、そばに行こうとしました』
だんだん、低くなっていくいよりの声。
もう、苦しみなんてなくて、悲しみなんか超えて、感情もすべて空っぽ。
(いより……もういいよ)
これ以上、言わなくても分かった。
その先が、悲しみのどん底に落ちてしまうことが。
だから、もう言わなくていい。
お願いだから、もう……。
『友達の声が聞こえました』
そう、言えたらいいのに、言えない。
『「仲良しのフリしてたら、先生が成績を上げてくれるから」……。「先生が可愛そうないよりさんのために」って』
- Re: 僕の声は君だけに。【第2章『月夜の下、電話(らぶコール)』】 ( No.83 )
- 日時: 2018/10/07 16:09
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
『……うっ、うぅ……う……』
電話越しに聞こえる。
苦しそうに嗚咽の声を漏らす。
俺はかける言葉がなかった。何を言えばいいのかわからなかった。
どうすればいいのかわからない。頭が痛い。
いよりの言葉はまだ続いた。
『なんでって、聞いた……どうして、て。そしたら言われた……私は、私は、半端者なんだって……」
それを聞いた時、頭が狂いそうだった。怒りが自分の全てを支配して、暴れ狂いそうだった。
でも、耐えられた。
全てが無駄になってしまうだろう。いよりの勇気が消えてしまうだろう。いよりを、傷つけてしまうだろう、と。
『次の日から、私は学校に行きませんでした。家族も……心配してたけど、理由は言えませんでした。ずっと不登校で、中学校も、ずっと……』
精神的なダメージによる、不登校。原因は自分ではない、他の人から与えられたもの。
許せるはずがない。怖いわけがない。
「うん……ありがとう。教えてくれて……」
今はこんなにも教えてくれた。全てをわかってあげられることはないかもしれないけれど、それでもいい。
でも、いよりは明日、元気でいられるだろうか。
不安で胸が押しつぶされていた。怖くて怖くて、声が震えていた。
「あ、明日は__」
『でもね』
俺の言葉を遮るように、いよりが声を張り上げる。
俺は言葉を続けることもできたのに、止めた。確信ではなかったけれど、いよりの声が少しいきいきしている、いつもの声だったから。
『でもね……私、君と出会ってよかったって、思う』
世界がパッと明るく照らされる。いよりの声が、思いが、一筋の光となり、冷え切ってしまった心もゆっくりとはいえ、確実に温まっていく。
『瀬ノくんと、ゆうさんと、陽麻莉さんと、上島くんと……みんなと出会えたから』
笑い声がする。
『今はね、ありがとうって、すごく言いたいの』
静かな間が空く。暖かい雰囲気のままで。
いよりが小悪魔のように、楽しそうに笑う。
『さぁ、問題です。私は今、どこにいるのでしょう』
「え……?」
今までとはノリが違いすぎて、なんて答えていいのか戸惑ってしまう。
待て待て、なんて言えばいいんだよ!?え、引っ掛け?引っ掛けなの?
「え、えっ:……家、でしょ?自分の部屋、とか……」
また、いよりが笑う。
『ぶぶー!答えはね、ベランダだよ』
わからなかったでしょ、と笑う。
(いやいや、わかんねぇよ!)
いつからベランダにいたのだろうか。いくら夏だからと言っても、夜になると一気に気温が下がる。身体を冷やさないためにも、夜に長い間外にはいない方がいいだろう。
しかし、いよりはそんな俺の心配を無視して、楽しそうに話しを続ける。
『今日はね、月が綺麗なんだよ』
見てみてと言われ、ベットから立ち上がり軽いドアを開ける。俺の部屋にはすぐベランダへと出られる、ガラス張りのドアがある。開けた瞬間、風が入り込み、髪が大きく揺れ、頭を抑える。
窓を閉めていたため、見ることができなかった月。
俺を、いや、俺たちを照らす光は、が眩しいほどに輝いていた。
- Re: 僕の声は君だけに。【第2章『月夜の下、電話(らぶコール)』】 ( No.84 )
- 日時: 2018/10/17 22:36
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
月夜の下、僕らは繋がっている。
表情は見えないけれど、耳を澄ませば、すぐ近くに君の声がある。たしかに、君が心のそばにいるのだと実感出来る。
『……瀬ノくん』
「ん?」
言い出しにくいことなのか、戸惑っているのが感じ取れる。
『皆さんに聞きました……突然歌を歌わなくなった、と』
身体全体に衝撃が走る。皆さん、とはゆう達のことなのだろう。
(これは余計なことを喋ったな、あいつ)
不覚にも頭をかきむしり、少し苛立ちをあらわにしてしまう。声も溢れてしまっていたかもしれない。でも、勝手に言われたことに怒っている訳ではなかった。
『教えてくれませんか?その理由。知りたいんです。ダメ……ですか?』
この流れで、小動物の鳴き声のようにか弱い声に小悪魔たっぷりで言われたら、逃げることも出来ないことを知っている。俺は、その理由が嫌いで、あまりにも情け無くて、言いたくないのに言わなければならない時に、怒っているのだ。
そのままベランダに出て、ドアを閉める。ベランダの柵に膝をつきながら、ため息を吐く。
「言わなきゃ、ダメか?」
いよりは何も答えない。
あくまでも、俺の意思で話してほしいと言うことなのだろう。でも、逆に遠慮して言われる方が、性格上やめるという選択肢は出来ないのだ。
「えっと……十年前くらいかな。ある女の子にあったんだ……」
完全に気が抜けた夏休みが始まったばかりの小学一年生の時。
空がうっすらとオレンジ色に染まってきた頃、五時のチャイムが鳴り響く。俺はその時、はしゃいで動きたい気持ちが溢れる元気な男の子だった為、リュックに野球のグローブとボールを詰めて遊んでいた帰りだった。
「うっ、う……うぅぇ……うぅぅう」
それは、女の子の泣く声だった。
いそいそと家に向けて進んでいた足を、思わず止める。周りをキョロキョロと見渡し、見えたのは、小さな公園の影。ゆっくりと近づくと、そこには女の子がいた。
白いレースワンピースに、一回り大きい麦わら帽子を邪魔そうに被る女の子。
髪は肩よりも少し短く、黒く透き通っていた。顔を覆い俯いていたため、表情は読み取れなかったものの、たしかに彼女は泣いていた。
あいにくその時の俺は、今よりも正確がとんがっていて、生意気だった。
「おい。何泣いてんだよ、こんなところでさ」
女の子は何も答えない。泣き声も止まり、完全に無視されたのだ。
「……私より……小さい、くせに……」
残念ながら、俺はほんの少しだけ、この女の子より小さかったのだ。明らかに分かっていっているし、気づいているはずだ。その行動にカチンときた俺は、しつこいと言われてもいいと思い、また聞きなおす。
「あのなぁ!俺は父さんから泣いてる女の子はほっとくなって言われてんだ。聞いてやってるんだから答えろよ」
無理矢理にでも言わせてやろうと企んでいた時、女の子は渋々顔を上げ、口をとんがらせてむっすりしている。しかし、帽子のせいで、目は見えない。
「この後……遠くに行くの。いつ帰ってこれるかも、わからないし……。せっかくみんなと友達になれたのに……」
再びうずくまり、丸く小さくなる女の子。かなり落ち込んでいるようだった。
「よしっ!」
そんなことも気にすることなく、元気よく声を上げて立ち上がる。さすがの突然のことに、女の子は口をぽかんと開けて、俺を見上げていた。その女の子に向かって、手を差し伸べる。
「ならさ、時間になるまで遊ぼうぜ。どうせ暇なんだろ?」
懐かしいあの時の場面の余韻に浸る。
「そのあと夜にもなって七時くらいまで公園で遊んでたんだ。その女の子はいよりと同じように音楽が好きみたいでさ。言ってたんだ」
_____君の声をたどって必ずまた、会えるよ。
「初めは全く考えなかったけど、時間が経つにつれて、また会えたらと思ってた」
だから、ずっと歌を歌っていた。
「家族も歌う事が好きで、俺もよく歌うようになってたんだ。俺が歌えば家族はいつも笑って喜んでくれたからさ」
『そうなんですか』
父はギターを弾きながら、静かだった家を盛り上げて、温かい雰囲気にしていた。
大好きな父さんに、大好きな母さんに囲まれる楽しい生活がずっと続くのだと思っていた。
「でも、幸せは続かないものなんだよ」
電話の向かうで拍子抜けた声が聞こえる。いよりがそうなる事は分かっていた。
「父さんが……離婚を申し出たんだ」
俺にとって、それは歌わなくなったきっかけであり、全てが壊れた瞬間だった。
- Re: 僕の声は君だけに。【第2章『月夜の下、電話(らぶコール)』】 ( No.85 )
- 日時: 2018/10/26 22:32
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
まず、『僕の声は君だけに。』。投稿76回目、閲覧2000回超え。
ありがとうございまぁぁぁぁぁあああす!!
自分で言うのもなんだけど、ここまで続くとは思わなかったです。はい。
今、そして今まで読んでくださった方々。本当にありがとうございます。
自分にとって、とてもエールになります。
そして、これからも、末長くよろしくお願いします。
*******
あの少女に会ってから五年後の、俺が小学五年生の時だった。
その日はいつもと違い、友達の家で遊んでいたため外も見えず、時間も忘れていた。だいたい帰り着くのは、午後五時半。しかし、すでに五時半を回っていた。
俺にとっては、かなりの心配性な母さんに付き合うのを避けるため、今まで時間は守ってきた。だからこそ、母さんの焦りようが目に浮かんだ。
家に着いた時には、夏ということもあり陽は落ちていなかったが六時になっていた。
玄関の前で泣きながらスタンバイしている母さんがいるのではないかと、恐る恐る玄関の扉を開ける。
だが、そこには誰もいなかった。
それどころか、普段なら聞こえてくるはずの、コンっと野菜がすんなりと切れる音も母さんの楽しげな鼻歌も聞こえてこなかった。
その時一番に考えたのは、心配や涙を通り越して、カンカンに怒っているのではないかということだった。
その中目に入ったのは、父さんの靴だった。父は大手企業の社長で、帰りが遅いどころか朝になっても帰らないことがあった。休日も仕事仕事と忙しく遊ぶことなんてありえなかった。ちゃんと理解していた。俺たち家族のために働いてくれていること。我慢しなくてはいけないこと。
でも、友達とその父が手を繋ぎ、一緒に歩いたり、一緒に喋ったり。そんな姿がとても羨ましくて心が苦しくなるばかりだった。
早く帰ってくる。つまり、皆で夕食を囲める。それだけが、三人にとっての楽しみだった。
俺は荷物をその場に放り投げ、すぐに電気のつくリビングに走った。
「お父さん!お帰__」
バタバタとした足音で、父さんと母さんが振り返った。その苦しそうに歪んだ表情は酷く悲しいものだった。
「きょう……や」
絞り出すような声。そう俺の名前を呼んだと思った瞬間、思いっきり抱きしめてきた。
「ごめん……ね。お母、さん……ごめんね。ごめん。ごめんっごめ……ね」
母さんは子供のように泣きじゃくっていた。
耳元でうるさいほどに響く声。
俺は何が起きているのか分からなかった。
しゃがみこみ抱きつく母さんの背後に立つ父さんを見ても、目を合わせようとしない。
笑わない。
混乱の中、聞こえる言葉。ごめんねって泣きながら言う言葉。
「……ねぇ、どうし……たの?」
分からない。
誰も答えてくれない。
父さんは気まずそうに黙り込み、母さんは泣き続けている。
何も変わらない光景。
「ねぇ……ねぇ!」
消えてゆく普段の光景。
「ねぇ……お父さん!お母さん!」
その叫びは家を飛び出して、遠くまで響いた。
____でも、その声は誰にも届かない。
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.86 )
- 日時: 2018/11/09 23:09
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
やっとテストが終わった!!今、気分爽快です。
随分、間を開けました。いや、そんな大した期間でもないか?
テスト期間でも、小説のこと考えていたんですけど、勉強で精一杯でした……。両立は難しいですね。
現在、第2章!!自分でも言うが、遅い!!長い!!
そこはしょうがないのでご了承くださいww
今後の展開はとっくに考えているんですけど、小説に書くのに時間がかかるんです。自分、登場人物の名前と題名を考えるのがダメなんです。
「陽麻莉」も友達に相談しました。二章は特に全くで……思いつかなかった。
で、友達に考えてもらったんですけど、「ダサい言われたから、変える!!」みたいなこと言ってて……。もしかしたら、自分がダサいとは言わないものの、そんな感じの言葉を言ったのかもしれません。本当に変えるのかは、未定です。
閲覧増えていたのでびっくりしました!読んでくださっている方がいるんだなぁと思うと嬉しい( ´∀`)
自分もほとんどのコメ・ライの他の小説(30くらいいってるのは読んでない)を読んでいるので、皆さんも頑張って下さい!
まだまだ、頑張りまーす!ブイ☆
- Re: 僕の声は君だけに。 ( No.87 )
- 日時: 2018/11/23 23:03
- 名前: ゆず (ID: 1ZQMbD0m)
嫌な思い出ほど記憶に残るなんて、世界は不条理だった。
「……もう、歌う理由がないんだ」
そんな事ない、そう言いかけたいよりの言葉を切るように遮った俺の声は、普段よりも低く早口になっていた。
「家族で楽しく笑っていた時に戻りたかった……。また、笑いたかったんだ……でも、歌を歌えば、母さんは元気になるどころか、泣くばかりだった……」
今なら分かる。父さんが離婚を申し出たのは母さんのためだった。
社長である故に会社にかかりっきりの父さんは中々家に帰ることも出来ず、夜遅くに帰るのが当たり前で、心配症である母さんは寝る事なく、じっと家で待ち続けていた。もちろんのこと、母さんが寝不足になる事も多かった。
そんな母さんを見ていた父さんは自分のせいでと思ったのだろう。
離婚を申し出、また新しい出会いがあるまで、ある程度生活できる分のお金を家に持ってきている。そして、母さんの「京也のために帰ってきて欲しい」という要望により、一年に一回、父さんの誕生日の日だけ、家に帰ってくる。
俺のため、それは決して嘘ではなかったはずだ。でも、それ以上に母さんは父さんに会いったかったはずだ。毎年父さんの誕生日が近づくと、どうお祝いするのか、何を渡したらいいのか、どんな服を着ようかなどと、一か月かけて悩み、近づくにつれて、父さんの昔の話も増えていた。
そう___まだ、父さんの事を愛していた。
自分の誕生日にきて欲しいと頼むのではなく、父さんの誕生日を指定した。それも、少しでも父さんの思い出の中に入るためだった。
だからこそ、俺が歌を歌う時、思い出して泣いてしまうのだ。
これは心からの言葉だった。
「だから俺には、音楽は必要ないんだ」
俺の音楽は家族すらも幸せにできなかった。たった一人の少女さえも見つけることができなかった。
そんな不良品を持ち歩くなんて、ただの邪魔でしかない。
それならもう、捨ててしまった方が楽___
『……ん……ない…………』
「え?」
『そんなことない!!』
二回目のいよりの張る声。
一回目は、ただ俺を突き放すために放った叫びだった。
しかし、今は俺を励ますように、自分に自信がないものの、必死に励まそうと言っているようだった。
普段の俺だったら、どんなに喜んだことだろうか。心の底から感謝できただろうか。
でも今だけは、その言葉が嘘っぽくてたまらなかった。まるで馬鹿にされているようにしか聞こえなかった。落ち着いて考えれば簡単にそうじゃないことなんて分かったはずなのに、何処からともなく溢れ出した怒りの矛先は、いよりに向いていた。
「じゃあ、一体俺に何が___」
『好きだからだよ』
なんの迷いもなく放たれた言葉に混乱していた。
俺とは違い、いつも通りの優しく透き通った声。
『人のためなんかじゃなくてもいいんだよ?自分が好きなら…………それで、いいん……だよ?』
最後の方にはすっかり声は弱々しくなり、声は震え、鼻をすする音が届いた。
『瀬ノくんの、バカ……バカバカバカバカ』
ねえ、そういよりは力無くとも、届く声で、
『必要ない、なんて……言わないでよ……』
俺はいよりが落ち着くまで待っていた。一生に比べれば、微かな時間だったが、その時は一秒一秒の間隔がとても長く感じた。
先に言葉を発したのは俺だった。
「今日何日だっけ?」
突然なことに不意を突かれたいよりは、少し迷いを見せた。
『八月……二十三日?』
「うん。明後日の土曜日に、この町の真ん中にある神社で祭りがあるんだ」
それはそれなりに人気で、毎年町中から多くの人々が訪れる。
「もう、あいつらには行く約束してるんだけど、どうかな?一緒に」
『えっと……』
「あ。ごめん。急に言ってもだよね?」
『行きたい』
「え?」
『行きたいです!』
すっかり楽しそうにトーンの上がった声。喜んでもらうことには何の嫌なこともなかった。
「分かった。じゃあ、今日も遅いし、また連絡する」
『おやすみ』
長い長い電話が終わり、ベランダから家のベッドの上へと戻る。スマホの画面も真っ黒に染まった。
その時、俺の右腕は無意識のうちに棚の上に振ろうとして、止めた。
一瞬の気の迷いだった。
やはり収まらない怒りの感情の思うがままに、暴れて、全て壊してしまいたいと思った。
しかし、その直前に我に返り、冷静さを取り戻そうと手を膝の上に戻して、何も言わず寝転がった。
手が動いていた先___棚には、小さな小物入れに小さな頃に撮った家族写真。そして、ゆうに借りたままの音楽プレーヤーがあった。
「何なんだよ……」
好きならそれでいい。『好き』という言葉は、よく耳にする。
あの食べ物が好き、あの動物が好き、あの色が好き、あの場所が好き。あの子が好き。
でも、はっきりとは分からなかった。好きとは、どういう意味なのか。
先程言われた言葉をもう一度、思い浮かべた。
___必要ないなんて、言わないでください。
そんな事を言ってくれる友達もきっと、数少ないだろう。感謝するにも仕切れない、今までで一番の励ましの言葉だった。
でも、それでも。
俺は返事をしなかった。