コメディ・ライト小説(新)
- Re: 君に捧げた初恋(処女作) ( No.1 )
- 日時: 2018/08/10 08:14
- 名前: 華憐 (ID: Uj9lR0Ik)
▽第1話 出会い
ー ハズレだ。
私は、開け放したドアの前に立ち尽くしたまま、心の中で呟いた。
教室のもやっとした空気は5限という時間帯のせいだろうか。
それとも…
「うわぁ…メガネばっかり」
突然、後ろからひょっこり顔を出して、ためらいもなく呟いたのは、
少し前に顔見知りになった、有紗だった。
「なんか空気悪くない?
あれかな、やっぱりメンバー的な問題?」
教室に、まばらに着席してる人たちの目線が、
自分に集中してるのも気にかけず、
有紗は、大きな独り言のようにそう言うと、
「ここ座ろ」と、端っこの席に私を手招きした。
「初音ちゃんだよね?何げに、はじめましてなんだよね、なんか初対面な感じしないけどさ!」
ケラケラと笑うと、有紗は
「あー、初音ちゃんいてよかった。このメンバーは終わってるわ。お先真っ暗。」
と、今度は私にだけ聞こえるように、小声で呟いた。
私は小さくそれに頷いて応えると、さりげなく周りを見回した。
メガネにチェックシャツ、まるで絵に描いたような男たちが数名。
そして、どこを見ているのかわからないような、
というより、うつむいてるようにも見える、
物静かそうな女の子が数名。
そして更に、横には、
「私、ゼミ長やりたいの。このメンバーなら、挙手したら一発でなれそうだよね。」
と、まくし立てる、有紗。
ほっと小さくため息をつく。
お先真っ暗、と有紗が言うほどに、
私はこの場所になんの思い入れもなかった。
大学生活も3年目。
これまでの2年の大学生活は、
なんとなく授業に出席し、空き時間はバイトに勤しみ、
そのお金で遊ぶだけの、なんの変哲もない毎日を過ごしてきた。
一緒にご飯を食べるためだけ、テスト前に情報共有するためだけの友達とは、
ようやく腹を割るような話ができるようになったくらいで、
特段何か感情的なものは感じない。
中高一貫の女子校で、人生最大の青春を味わってきた私にとって、
大学生活はあまりにも味気なく、面白くなかった。
今日からはじまる週1のゼミだってそうだ。
SNSを通じて知り合った有紗は、その投稿内容からも、
かなりゼミに意気込んでいる様子だったが、
私にとっては、出席するだけで単位がもらえる
というメリット以外、必要性すらなかった。
と、いうものの、さすがに、この顔揃いだけは予想外だった。
先輩の話だと、ゼミの活動とは、旅行や、校外学習などを通じて、
今までとはまた違った横のつながりを、構築するものらしい。
この面々を見る限り、90分間お行儀よく授業を受ける他なさそうだった。
やれやれ、とiPhoneの画面の時計に目をやった瞬間、前後のドアが同時にガラッと空いた。
前のドアからゆったり教授が入ってくるのを少し遠くから遮るように、
ひとりの男の子が、後ろのドアから素早く入る。
「わ、やっとまともな感じの人だ!」
有紗が手を叩いてはしゃぐ。
有紗のリアクションにも、今度は素直に頷けた。
確かに彼は、他の男たちとは、違う風格をしていた。
がっしりとした体つきに、真っ白な白シャツが映える。
短めの黒髪も爽やかにセットしてあって、どことなく清潔感がある。
アイドルのような所謂イケメンといった顔つきではないが、
賢そうで、それでいて人懐っこい雰囲気を醸し出している。
彼も、数分前の私たちと同じことを思ったのだろう。
こちらから見ていても、深いため息をついたのが見て取れた。
「はじめましょうか」
教授のもったりとした声で、前に向き直った。
*
その日の授業は、簡単な自己紹介と、
今後のスケジュール確認で終了した。
「ねえねえ、吉野くん飲み会行くよね??」
授業が終わるなり、有紗は、
さっきの自己紹介で、はきはきと「吉野結城です」と、
言っていた、白シャツの彼の元にかけていった。
「行くよ。野間さんも行くよね?」
「行く行く!一緒に行こうよ!」
ははーんと、私はひとりで納得した。
有紗の思惑は、笑えるほど分かりやすかった。
確かにこの顔ぶれだと無理もないが、
彼女の行動力の早さに、私は舌を巻くばかりだった。
「初音は?」
どうせ行かないよね、バイトって言ってたもんね、
という声にならない言葉が受け取れた私は、
首を横に振ると、足早に教室をでた。
「吉野くんってお酒強いの??あ、LINEもってる??」
廊下まで聞こえる有紗のはじけるような声を背に、
私は待ち合わせをしている茉結の元へ向かった