コメディ・ライト小説(新)
- Re: 狂騒剣戯 ( No.4 )
- 日時: 2019/06/18 23:18
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)
「やる気になってくれたっすか」
「半ば無理やりだけどな…!」
真っ先に飛びかかってくるデュランダルの刃を、村正でかろうじて受け止める。だが勢いは止まらず、確実に正紀の首を狙ってその切っ先は振るわれる。その意図に気づいた正紀は、すぐさま朧から距離を取り村正を構え直す。
「(こいつ確実に俺のこと…殺しに来てる!)」
剣の神子が同じ剣の神子を殺す───信じたくはないが、今この場で起こそうとしている人物の目をみれば、嫌でも現実で、しかも対象は自分だと認めざるを得なくなる。だがなんのために?
「村山さん早々にバテないでくださいっすよ〜、楽しくないじゃないですか〜」
「ふざけろ、元より楽しくも何もねえっつの」
刀と剣が鍔迫り合い、火花は散る。デュランダルがしきりに切りかかり、村正はそれを受け止め、流す。その攻防は逆転することなく、ただただ繰り返されていた。
「ははっ───村山さんと遊んでるとほんと飽きねえや」
朧はたしかにそう言って、嘲笑った。
第肆ノ噺
『イチジキュウセン・イチジキョウトウ』
結界内で響く激しい音。火花を散らし、2人の少年は互いににらみあう。朧の口元はゆるくあげられ、まるでこの状況を楽しんているようだ。否、事実楽しんでいるのだが。力任せに剣を振るう朧に対し、このままでは流石に無理だと本能で悟ったのか、正紀は遠く飛び退く。だが、それを許してくれるはずはない。別の意味だと捉えたのだろう朧は、更に笑みを深めて、正紀の懐へと潜り込もうとする。
「っち!」
そうはさせるかと咄嗟に横にかわす。見事に空振りで終わるデュランダル。その隙に正紀は背後に周り、村正で薙ぎ払う。しかしそれはすぐに気づいた朧によってかわされた。空を切る音が正紀の耳に入る。
2人は一旦距離を取り、お互いを睨めつける。
「村山さぁん、なんで本気で来ないんすかぁ?」
「……」
「黙ってちゃ分かんねっすよ?」
「(……今の)」
朧はニヤニヤと厭味ったらしく言ってくるが、正紀は別のことを考えていた。彼の言葉など左から右へ流すように。
「(さっき……花嵐に切りかかったとき、確実に刃は引っかかってた)」
つい先程の、花嵐への攻撃。確かに引っかかった感触はあった。だが。
「(でもなんで───なんで傷一つついてねえんだ?)」
朧をちらりと見やる。斬ったはずの場所は、服でさえも全くその痕跡は残っちゃいなかった。まるで最初から『そんなことはなかった』と、主張するかのようだ。
正紀は改めて朧に向き直る。そして睨めつけた。その態度に朧はますます楽しそうに、自らの獲物であるデュランダルを弄ぶ。そして口を開いた。とてもとても、厭味ったらしく。
「あっれぇ?それだけで終わりっすかぁ?なぁに睨んでンすか傷ついちゃうんですけどー」
「勝手に傷ついてろ、俺は知らねえ」
そして正紀は相手が言い終わる寸前で、また村正で確かに体を斬った。今度はちゃんと、斬った場所をしっかりと見る。
しかし、やはりキズは全くついておらず、正紀は眉をひそめる。
「ちょっと人が話し終わる前に斬らないでくださいよ!『避けられなかった』じゃないすか!」
「……!」
朧のその言葉を聞いて、正紀は確信する。村正は今、確かに朧を『斬った』。だがどうだろうか、目の前のその本人は何事もないようにピンピンしている。かすり傷一つすらついていない。
まさかと思い、正紀は晴明へと話しかけた。
「(おい晴明、俺の考えが正しけりゃ)」
『(その前に来るぞ、村正)』
「(は?)」
「ちょっと村山さぁん何黙りこくってんすか、まだ終わっちゃ───」
その時だ。正紀と朧のちょうど間に入り込むように、『空間を破って』どす黒い塊が出てきたのだ。
その塊は完全に姿を表すと、至るところに『目』らしきものをかっぴろげさせ、がぱりと大きく『口』を開けた。塊からは一本一本『ねっとり』と手足のようなものが生えてくる。ああ、なんと、『気持ち悪い』───。
正紀は咄嗟に身構える。こいつが確か、晴明が言っていた『妖魂(ようこん)』か。雨音を食ったものと同一だろうか。それならば今ここで腹を割いて、その中から引きずり出してでも助け出す。握る手に力を込めた。
一方の朧はというと、突如として現れた、『見たこともない気持ち悪い物体』に、目を白黒させていた。こいつは一体なんだ、というよりこれは夢なのか?敵か?あれこれと考えているうちに、黒い物体は朧へとターゲットを決めたらしい。『目』を一斉に朧へ向けた。
そして一気に大口を開けて、食おうとした。肝心の朧はあまりに突然の出来事に、脳と体が追いついていないようで、そこから全く動くことができないようだった。
「花嵐!そこどけ!」
間一髪、正紀が朧をタックルして吹き飛ばしたおかげで、黒い物体───妖魂に食われる危険は去った。だが妖魂はまだ朧を見続けている。
「っち、2連戦かよ……おい花嵐、デュランダル構えろ!食われたくなきゃ、あいつをぶった斬れ!!」
「何なんすか一体……!全然ついてけねえんすけど?あれなんすか?黒ごまかなんか?」
「今んなこと言ってる状況じゃねえんだよ!死にたくなきゃやれ!!」
「……わかりましたよ、んな怒鳴らんでも。一時休戦、一時共闘ってやつすか」
正紀、朧はそれぞれ村正とデュランダルを構える。切っ先は妖魂へと向けて。
「───行くぞ、村正ァ!」
「───せいぜい足掻け、デュランダル!」
妖刀と魔剣、奇妙な共闘が幕を開けた。
◇
「……この反応」
ところかわり、村山家。弟である正紀に突然の京都旅行を伝えた壱聖は、ひとり荷造りに勤しんでいた。その途中で、『並々ならぬ気配』を感じ取り、ぴくりと荷物から意識をそらす。
「近所、か?この気配は」
すっくと立ち上がり、身構える。ピリピリと空気が張り詰め、息をするだけでも苦しく感じられるほどだ。
「……アイツ、巻き込まれてたりして、るよな。しゃーねえ、いくか」
壱聖はため息をつくと、次の瞬間にはすでにその場から消えていた。
◇
斬る、斬る、斬る。斬って、斬って、斬って。弾いて、弾かれて、弾いて。息度となくそれを繰り返しては、また同じことを始める。今回のはなかなかしぶといのか、回復機能付きのものであった。正紀も朧もそろそろうんざりしてきた頃だった。
「村山さん、なんすかあいつは」
「妖魂。道摩法師アシヤドウマンが生み出した、人の邪気を食らって成長する化物……だとよ」
「…さっきっからデュランダルでズバズバ斬れてんすけど、村山さんには効かなかったっすよね」
「多分───俺達のこの武器は、『妖魂(あいつら)』と『アシヤドウマン(大元)』しか効かねえんだろ。さっきお前斬ったとき、なんもなかったからな」
「……実験のために話の途中で斬りかかったんすか?」
「正解」
「なんで俺で試すんすかねえ?」
そんな会話の中でも、しっかりと妖魂への攻撃は忘れない。だが斬ったとしてもそこはまたすぐに再生される。これには正紀も苛立ちが込み上がってくる。
「しぶてえな…」
「八つ裂きにしてやりましょうや」
「いや、すぐに再生されると思うぞ」
「チッ」
苛立っていたのは朧も同じようで、デュランダルを握る力が強くなった。
「(このままじゃ埒が明かねえぞ、晴明)」
正紀はその隣で晴明に助けを求めた。きっとろくな答えは帰ってこないだろう、という諦めもあったが。
『(再生できなくなるほどの強き力ならば、或いは)』
「(んなもんどっからくんだよ)」
『(それは己が見つけるものだ)』
「(つっかえねー……)」
ただヒントは得られた。再生できなくなるほどの、強い力で奴を攻撃すれば、おそらくは斃せる。しかしそんなものはどこにある、と言われれば心当たりなどないわけで。
「(再生できなくなるレベルにまで弱めるしかねえのか)」
正紀はそう結論づけた。朧に目配せをして、やるぞという意味で妖魂を指差した。それに気づいた朧は、苦い顔はしたものの、こくりと首を縦に振り、正紀に続く。
村正が一閃し、デュランダルでその傷に深く差し込む。そしてそのまま叩き下ろす。すぐに一閃された場所から再生が始まるが、そうはさせるかと2人は村正とデュランダルを同時に振り下ろす。たちまち妖魂は金切り声を上げて、バランスを崩した。
「今だ!」
好機とばかりに2人は妖魂へ斬りかかる。村正が薙ぎ払い、デュランダルが傷をえぐる。妖魂はまた金切り声を上げて、もう片方のバランスも崩す。
残るはもうトドメのみ。中心部を狙って村山を構える。その後に続くように、デュランダルもまた切っ先を妖魂へ向ける。
「終わりだッ!」
と、その時だった。
「俺が王だ!俺の前に姿を現せ!『聖剣エクスカリバー』!」
突然、妙に聞き慣れた声が、はっきりと『王』であることを示すように乱入した。幾重に重なる七色の虹は、その人物を称えるかのように咲いている。そしてその中心で目をつぶるほどのまばゆい光に包まれた、『聖剣』。それを引き抜くと、その人物は高く掲げて───
「消え果てろ!チリの一つも残さずな!!」
一閃。瞬間、妖魂は聞くに耐えない悲鳴を上げて文字通り消え果てた。
光はすうっと薄くなり、聖剣を掲げていた人物がだんだんと如実になっていく。そうして出てきた人物に、正紀と朧の2人は、目をこれでもかと言わんばかりに見開いた。
「兄貴ぃ!?」
「壱聖サン!?」
『聖王』はニヤリと笑った。
第肆ノ噺 終