コメディ・ライト小説(新)

Re: 狂騒剣戯 ( No.6 )
日時: 2019/08/30 23:38
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

 真っ二つに割かれ、文字通り塵となり消え果てる妖魂。またしてもいつの間にか、己の手の中にあった村正はなくなっていた。それは隣にいた朧のデュランダルも同じ。
 ただそれ以上に目の前にいる人物に、正紀は驚愕を隠せなかった。なんでここにいる、というかまさかお前も『同じ』だったのかよ、と。それならそうと早く言えと。
 言いたいことは山ほどあるのだが、まずは────

「場所移動しようぜ、ここじゃ長話しにくいだろ?」

 自分の兄である壱聖のその言葉に従おう。


第伍ノ噺
【カゾクリョコウ・タビハミチヅレ】


 壱聖に連れられるまま、2人は家の中へと入っていった。正紀にしてみれば帰ってきた、という感覚だが。リビングに入り、適当に座れよ、と壱聖が促した。正紀と朧は互いに目配せすると、ため息をついてその席に着いた。
 少しの間を置いた後、正紀が口を開こうとした時、それを壱聖が手で制して話し始める。

「まずは、お疲れさん。間一髪間に合ったって所か。正紀がそうだってのは聞かされてたからいいとして、まさか朧のガキンチョが『剣の神子』だったとはねえ。いやあびっくりだ。しかもデュランダルだろ?物好きに選ばれたもんだ」
「ガキンチョって……オレもう15っすけど?」
「俺にして見りゃ立派なクソガキだ。で、だ。京都行くんだろ、元凶ぶった斬りに」

 目付きを変えて、壱聖は2人に問掛ける。正紀には改めての確認、という所か。対して朧はなにがなんだかわからない、といった表情(かお)をして、2人を交互に見る。しかし正紀はこう話した。

「いや、第一の目的は雨音だ」

 だと思った、そう言って壱聖はニヤリと笑う。だがそれに待ったをかけたのは朧。何一つ説明がなされていないせいか、ますます困惑の色を深めた。

「待ってください、一体何が起こってるってんです?全部説明してくんねえと、オレ流石にわかんねえっすから」

 そう言えばそうだ。今の朧は無情報にも等しい。恐らくはなんで剣の神子に選ばれたのかも分からないのだろう。それに、妖魂を見て『黒ごまみたいなの』と言っていたから、今回の騒動についても全くと言っていいほど知らない。それでは困惑するのも無理はない。
 ならばひとつずつ説明してやろう、壱聖は朧に目線を向けて、口を開く。

「じゃあまずは剣の神子についてからだな。お前はどうやってそのデュランダルを手に入れた?」
「え。あーっと確か…なんか寝てる時に『お前こそこの剣を使うにふさわしい』って言われた?いやお告げ?みたいなの貰って……そんで目ェ覚めたらコレがぶっ刺さってました。枕元に」
「オウオウやっべえな流石デュランダル。んで?そのあとは?」
「とりあえずこの人ぶった斬って見たかったんで、コイツに聞いたらこっちにいるぞみたいなの返ってきたんで、凸しに行きました」
「おいこら」

 こともなげに話す朧に、正紀は1発頭に入れてやろうかと思ったが、さすがにそれはダメだろうと何とか拳を握るまでに留まった。それを見て笑いながらも壱聖は続ける。

「くくく、なるほどねえ。とりあえず朧のガキンチョ。お前みたいに剣に選ばれた連中を、『剣の神子』っつうんだわ。そんでその剣の神子である俺達に課された使命が───」
「各地に散らばる化け物、『妖魂』を退治して、それを作り出してこの世を無に返そうとしてる『アシヤドウマン』を斃す」
「そのとーり」

 満足そうに指を指す。だが正紀は不満でもあるのか、眉をひそめて頬杖をついてそちらを見る。

「(晴明お前なんにも話してねえのかよ)」
『(話す必要性を感じなかった)』
「(てんめええええ!)」

 理由もちろん、首飾りの中に居る安倍晴明に対しての怒りだった。色んなものをこちら側にぶん投げる割には、大事なことは何一つ説明しないという、態度が気に入らなかったようだ。いやそれはそうなのだが。
 イラつきのあまりについ舌打ちを漏らしてしまう。カリカリしている弟に気づいた壱聖は、突然機嫌悪くなった弟に対して苦い笑いを漏らすも、直ぐに話を戻す。

「そんで。その大元であるアシヤドウマンがいるのが、京都ってわけだ」
「なら、雨音サンの話はなんなんす?」
「実はなあ、雨音ちゃんがどうにも、妖魂にぱくっと食われて連れ去られちまったんだわ。しかもその妖魂が向かった先が、そいつがいる京都らしくてよ」
「だから1番の目的が雨音サンって」
「そゆこと」

 これで分かったか?と聞けば、まあ大体はと朧は返事をする。

「大体わかったんなら問題ねえよ」

 満足そうに壱聖は頷いた。と、そこを狙って正紀がとうとう口を開いた。

「もう本題入っていいか?兄貴、てめえが剣の神子に選ばれたのはいつだ、そんでどこまで知ってんだ、吐け。俺の取っといたハーゲンダッツと一緒になぁ……!」
「兄ちゃんってよべ。あとハーゲンダッツはもう消化されたっつの。まあまずひとつ目の質問な。多分正紀、お前が目覚めるのより2日前くらいには剣を貰った」

 そう言って手を高く掲げ、彼の武器である『エクスカリバー』を出してみせた。

「俺とこいつの出会いは、ほんとに突然だった。だってこいつ家のコンクリの壁に突き刺さってたんだぞ」
「は?」

 そんで抜いてみたら抜けちまったわ、と軽々しく言ってゲラゲラ笑う。スポーンだぜ?スポーンって笑うだろ?と付け足してまで。しかしその笑いも直ぐにおさめて、エクスカリバーを家の床に突き刺してまた話を続ける。

「ただなあ、剣の神子の使命に関しては正紀から聞いたんだよ俺も。朧のガキンチョ。お前と同じでなんも情報なかったんだわ」
「はぁ?」
「だって突き刺さってたのを引っこ抜いたってだけだからな」

 その話の傍ら、正紀はさらに晴明への怒りを強くした。なんでこんなに管理適当なんだよちゃんとしろよと言ってみるも、とうの晴明は全く何も言わず。実体化したら絶対殴ってやると強く強く決意した。

「(晴明ぜってえ殴る)」
『(やれるものならやればいい)』
「(首飾りこわすぞ)」
『(やればいいのでは?私は知らんぞ)』
「(こんのヤロォ…)」

 ミシミシミシと拳を強く握る。あまりにも強すぎてそのうち皮膚が破けるのではと思うほどだ。

「これでいいか?」
「……色々とクソムカつくがもういい、あとハーゲンダッツ返せ兄貴」
「兄ちゃんってよべ」

 そこまで言い終えると、壱聖は背伸びをしたあとで椅子から立ち上がる。そして予め用意しておいた荷物を手にすると、2人に向けて視線よこす。

「おう、行くぞお前ら。京都に」
「へいへい、荷物取ってくる」
「………ちょ、ちょっと待って下さいっす!オレも行く前提なんすか?」
「お前もだろ何言ってんだよ」

 突然のことにまたしてもついていけなくなった朧は、壱聖を問い詰めるが、その彼は至極当然だろと言いたげな顔でサラリと言い放つ。呆然とする朧の横で、正紀はため息をついて、冷めた笑いを浮かべて声をかける。

「ま、旅は道連れ世は情けっていうからな、大人しくお前もこいよ。こうなったら兄貴は嫌でも連れてくぞ」

 固まる朧を他所に、正紀は深いため息をついて、荷物を取りに自室へ向かった。





「いやあ、京都かあ」

 その村山家の隣の家。1人の青年は目の前にある『小刀』を見つめてそう呟く。その目元は包帯でぐるぐる巻きにされており、包帯の下には膿んだらしい目。

「僕も行こうかなあ。久々に本場の生八つ橋食べたくなったし」


 青年はぺろりと舌なめずりをした。


第伍ノ噺 終