コメディ・ライト小説(新)

目覚め 壱 ( No.2 )
日時: 2018/11/20 12:56
名前: りあむ ◆raPHJxVphk (ID: OLpT7hrD)




 うっすらと目を開けた。

 視界が霞んではっきりと見えない。
 ここはどこだ……?
 起きたばかりで頭が動かないのか、何も頭に浮かんでこない。

 身を起こそうと身体をよじったけれど、驚くほど力が入らず起き上がれない。
 なんとか腕をついて身体を横向きにした。
 目を瞬いて周りの様子を伺うが未だよく見えず、とても暗いことしかわからない。薄ぼんやりと周りだけ光っていて、ごく近くがうっすらと見える程度だ。

 とても静かだ。
 ささやき声のようなさざめきがどこか遠くから聞こえてくる。

 ついた腕の下ははひんやりとしていて少し湿っている。地面……? いや、岩肌のようだ。こんなところに寝ていてよく風邪をひかなかったものだ。それよりそもそもこんな固い場所で眠れたことが驚きだ。

 暗くて冷たく、湿り気を帯びた場所。
 記憶にある限りはそんな場所は知らない。
 時折聞こえる、ぴちゃん、ぴちゃんという音は洞窟を連想させた。
 なぜこんな所にいる? 今はいつだ? こうしている場合ではないのに……!

 少しずつ動き出した頭は自分の状況への混乱で苛立ち始める。
 とにかく行かなければならない。
 壁伝いに身を起こし、途端に力が抜けるが無理やり立ち上がる。行かなければ……!

 ……どこへ?

 はたと止まった。
 先ほどまではっきりとそこへ行かなければならないと感じていたはずなのに。
 動き出すと急速に感じる脱力感と共に何かが抜け落ちていく感覚がする。

 行かなきゃ……行かなきゃ……それでも行かなければ! あぁどこへ……!

 差し迫る焦燥感に必死に足を動かす。少しずつ歩を進める度に足裏から力が抜けていくように感じる。立って進んでいるはずなのに、壁をずるずると這っているかのようだった。

 行かなければ……早く……早く……!

 ぼやけた視界が白んでくる。出口が近いのかもしれない。必死で足を動かした。
 重度の疲労感で視界がさらに霞む。もう何も見えない。それでもやっと、出口に足をかけたような気がした。

 その瞬間、静寂が一点に収束し、急激に周りの音がひらけたような感覚に襲われる。

 出た、と思ったと同時に、つられるように力が急速に抜けていく。吸い取られるようなそれに、為す術なく地面に倒れ込んだ。

 このまま伏してなどいられない。行かなければ、行かなければならないのに。早く……早く……。

 奪われていく意識に抵抗しようとするが、起き上がるどころか指先ひとつピクリとも動かせない。

 掻き消える意識の終わりに、近くで何かがカランコロンと落ちたような音がしたような気がした。



 転がるように駆け寄ってくる何かの気配に頬が擽られ、耳元で何か叫ばれるのを最後に、意識は完全に奪われた――――




目覚め 弐 ( No.3 )
日時: 2018/11/20 13:04
名前: りあむ ◆raPHJxVphk (ID: OLpT7hrD)





 あのとき――――あのとき彼は泣いていたのだろうか。



 暖かな陽の光を頬に感じて目を開ける。

「うっ……」

 身を起こそうとすると、身体にまったく力が入らない。
 は、またか、と苦い笑いがこみ上げた。
 どうやら今度はちゃんとした布団に寝かせられているらしい。


 あのときは……と頭が思考を始めてはたと気づく。
 "あのとき"っていつだ? "彼"? "また"?


 記憶がまとまらない。なんだ? いつだ? 前は一体……どこで?
 いや、記憶がまとまらないというより、これは――――


 ふいに人の気配を感じてはっと身を固くする。
 布団の上に乗っていた何かが身じろぎをしたのだ。

「……ふわぁ」
「っ」

 獣のようなあくびをして丸まって寝ていた身体を起こす、山葵わさび色の雪輪紋の着物を着た青年だった。そして固まっているこちらに気づくと、そのまるい目をさらに大きく見開いた。

「……! ……っ!」
「……おまえ」

 話せないのか? と続ける前に、その目からぽろぽろと零れ始めた涙にぎょっとして止まる。
 そしてまるで子どものように泣きじゃくりながら縋りついてくる青年に、どうしていいか分からず戸惑う。
 未だ思うように動かせないが、腕だけを外に出してそのしゃくり上げる背中に添える。

「……大丈夫だ」

 少し撫でながら困ったようにそう告げると、その涙をぎこちなく拭ってやる。青年は少しだけ驚いたように動きを止めてこちらを見ると、今度は少し嬉しそうに笑って、そしてまた泣き出した。

「安心したんだろう」
「?!」

 突然、男の低い声が聞こえ、反射的に身を固くしそちらを見やる。
 すまない、目が覚めたか、と苦笑しながら部屋に顔を覗かせたのは短髪の背の高い男だった。濡れ羽色の着流し姿がよく似合った男だ。目付きがもともと鋭いのか悪すぎる。

「よかった、倒れていたところを運んできたんだ。助けてやろうと思ったんだがな、そいつにめちゃくちゃ警戒されちまって」
「……そうですか」
「図体はでかいのにまるで子どものようだな」

 ははは、としがみついて離さない青年を見て笑う。
 笑うと人相の凶悪さが霧散するようだった。人好きのする笑顔に少し警戒を解く。

「お前の兄弟か?」
「…………」
「そうだ、ずっと何も食ってないだろう。今かゆを作ってくるから少し待ってろ」

 不自然に黙り込むのを見兼ねてか、それ以上聞かずに部屋を出ていった。知らずほぅ、と息を吐く。

 そして未だ胸元にしがみついてる青年を見た。さっき男が言ったように、安心したのかほっとした顔でまどろんでいた。
 目の下にクマがある。きっと目覚めるまでまともに寝ていなかったのだろう。大切に思われているのがわからないくらい鈍くはない。
 それは自分にとってもそうであると確信できるくらい。



 なのに――――
 なんで何も思い出せないのだろう。




 自分のこと、場所のこと、時間のこと、いろんなことを思い浮かべてみようとするが、何も"ない"のだ。まるで今まさに生まれた人間かのように。
 しかしここは日本であるとわかるし、日本語も話せるのに、そんなはずはないけれど。

 寝てしまった青年のふわふわとした頭を撫でながらぼーっとしていると、襖が静かに開けられた。

「眠っちまったか」

 呟きながら入ってくると、男は膝をついてお盆を傍らに置いた。

「かゆだ、食え。ずっと食ってないんだろう? 眠っている間も水分だけは摂らせていたようだからきっと食べられるはずだ」
「……すみません。ありがとうございます」

 そして身を起こすのを手伝ってくれる。
 このお人好しさと助けてくれたのにはおそらく間違いはないのだろう。しかしそれでも緊張が解けないのは、その浅黒い肌におびただしい数の細かい傷跡があることに気がついてしまったから。いわゆる堅気・・では決して付かないはずの傷だ。

 力が入らず手が震えつつも、しっかりと食べ始めたのを見届けると男はよし、と立ち上がった。

「こいつをちゃんと寝かせてくる。すぐ戻ってくるからな、ちょっと待っててくれ。――――そしたら話をしよう」

 つとめて優しくそう告げて、こちらがこくんと頷くのを見届けると、男は青年を軽々と抱き上げ部屋を出ていった。

 話をしなければならないのはわかる。できることなら怪しまれたくないし、洗いざらい吐いてしまいたい。
 しかし、何も思い出せないのだ。まるでもともと何も無かったかのように。




 ――――そう、どうやら記憶喪失のようだった。





目覚め 参 ( No.4 )
日時: 2018/11/20 13:07
名前: りあむ ◆raPHJxVphk (ID: OLpT7hrD)



「……で、お前はいったい何者だ? なぜあんな所に倒れていた?」

 かゆを食べ終わるのを見計らっておもむろに問いかけられる。黒い着流しの袖に両腕を差し込み、真剣にこちらを見る瞳は、一見するときつく睨まれているようだった。
 椀を返そうとした手を止め、少し迷ったが正直に言うことにした。

「……それが、わからないのです」
「どういうことだ?」
「とにかく何もかも記憶がないようで……ここで目が覚めてからの記憶しか、ない」
「……つまり、記憶喪失ということか?」

 こちらを見る瞳が訝しげに細められた。
 とにかく情報が欲しい。馬鹿正直に言わなくても聞けることはあるだろうが、この先を考えると余計な疑念は与えたくない。関わりを絶たれるかどうかは正直賭けだが、きっと目の前の男はすぐ追い出すようなことはしない気がする、と少し関わっただけだがそう感じる。
 問いかけには直接答えずに、緊張気味にじっと見返す目を見て、男はぐぅとひとつ唸って眉間を揉んだ。

「明らかに只人ただびとではない上に記憶がないと来たか……」
「……?」
「いや――……本当に、何も、思い出せないんだな? 名前は? 歳は? 重要な事じゃなくてもいい、何かひとつでも覚えてることはないのか?」

 ぼそぼそと悩ましげに吐き出された言葉は聞き取れなかったが、後の質問には答えに詰まって見つめ返す。
 その意を正しく理解したらしい男は軽く頭を掻き毟ると、ハーッとひとつ息を吐き出した。

「とんでもねぇ拾いもんをしちまったみたいだな……」

 唸るように呟くと、目を瞑り、しばらく考えるように黙った。
 そして結論が出たのか、睨むようにこちらに目を向ける。

「……はァ、仕方ねぇ。安心しろ、記憶が戻るまで俺が面倒見てやるよ、小僧」
「……!」
「とりあえず、記憶のないらしいお前に教えなきゃなんねぇことが山ほどある。まずは早く回復するこったな」
「……ありがとう、ございます」

 ほっとして力が抜ける。
 体勢のせいでぎこちないながらも深々と頭をさげた。

「いいから寝てろ。日が暮れる頃にまた何か食えるもん持ってくるから、それまでまたしっかり休んどけ、じゃあな」

 言いながらあっという間に寝かしつけられ、男は頭を雑にぐしゃぐしゃと掻き回すと、最後にぽんぽんと叩いて部屋を出ていった。
 初めて会ったばかりの人にそういう扱いを受けてしばし呆然とする。

 人相は悪いがどうやら本当にいい人だ。拾って助けてくれたことに加え、面倒を見てくれるというのだから感謝をしてもしきれない。お礼をするにもまずは動けるようにならないと。

 ひとまず目先の目処がついてほっとする。
 寝心地のいい枕に頭を深く埋めるとすぐにうとうとし出すが、改めて自分のことに思考を巡らした。



 記憶がなくなるほどのことが起き、倒れていた自分。
 そのせいだろうと動けなくなるほど弱っていることも不思議に思っていなかったが、そもそもなんでそんな目にあったのか……。自分はこの辺りに住んでいたのだろうか? そして何か事件が起こって巻き込まれた? でも、男に助けられて運ばれたということは、自分が倒れていたらしいところからここはそう遠くないはずなのに、男は自分のことを知らないようだった。そして自分のことを知っているらしい青年は――――……


 うとうとと、だんだんまどろみ始めた思考は、やがて眠りの奥に深く沈んでいった。



目覚め 肆 ( No.5 )
日時: 2018/11/20 13:18
名前: りあむ ◆raPHJxVphk (ID: OLpT7hrD)





「失礼するわね」

 襖が開けられる僅かな音で目が覚めた。

「あら、本当に目覚めたのね! よかったわ。なおがあなたを担ぎ込んできたときはホントにびっくりしたんだから!」

 こんなこと初めてだったんだもの、と続けながら誰かが部屋に入ってくる。少し起き上がってそちらを見ると、緩くだぼついた白い西洋襯衣シャツに深い藍色のぴたりとした洋袴ズボンを履くすらりと背の高い美人がお盆を持って布団の傍らに膝をつくところだった。艶やかな長い髪は無造作にまとめられ、そこから洩れた後れ毛がさらりと揺れた。
 担ぎ込んできたという直さんというのは拾ってくれた男のことだろうか。そういえば名前を聞いていなかった。では彼女はその直さんの恋人か奥さんだろうか? 男装の麗人である。

「今は六時過ぎよ。よく眠ってたわね。お昼にお粥を食べたって聞いたわ。またお粥を持ってきたから食べてちょうだい」
「……ありがとうございます」
「あの子はまだ眠ってるわ。ずっとあの子があなたのことを見てて、たぶんずっと寝てなかったのよ。あなたが目覚めるまでワタシたちには近づかせてすらくれなかったの。実は部屋に入れたの今が初めてなのよ!」

 あなたのことが大事なのね、と美人はふわりと笑った。
 あの子とはあの青年のことだろうか。やっぱり寝てなかったのだ、よく休んでほしいと思う。

 はい、と差し出されたさじに戸惑いながら、お粥を少しずつ口に運ぶ。今度は彼女が食べさせてくれるらしい。ありがたいが、かなり恥ずかしいのが事実だ。
 それにしても昼も思ったが、とても美味しい。お粥に違いなどあるのかは知らないが、丁度いい塩加減にこの口当たりの優しさは、お粥を通して身体を気遣われているような気さえする。

 やがて食べ終わり、食べさせてくれた彼女にお礼を言う。彼女は食欲はあるようでよかった、とにこやかに告げた。

「あの子の代わりと言ってはなんだけど、しばらくはワタシにお世話させてちょうだいね。あ! やだわ、自己紹介がまだだったわね。ワタシのことはナナミと呼んでちょうだい」

 ちょっと頼りないかもしれないけど、力には自信あるのよ! とナナミさんは力こぶを作ってみせた。どこへでも運んであげるわ! と息を巻くその様子がお茶目で可愛らしく、思わず笑ってしまう。
 いくらなんでもナナミさんのような女性に小さな子供でもない人間を担ぐことは出来ないだろう。

「ナナミ、さん、ありがとう。よろしく頼みます」
「なっ――! きゃあああ! かわいい!! うちは可愛げのない男しかいないし、ムッサイのなんのってー! 新鮮だわーっ!」

 ぺこりと頭を下げ、少し笑うと思わずといった風にナナミさんに抱きしめられる。く、苦しい……。ナナミさんは「かわいい弟ができたようだわー!」としばらくぎゅうぎゅう抱きしめていたが突然ハッと何かに気づいたかのように身体を離した。

 く、苦しかった……細腕の美人の抱擁とは思えない……いや、こ、この感じって……まさか。

 思った以上に厚く、しかしあるはずの柔らかさのない胸板、ほっそりとしているようだがしなやかな筋肉に包まれた力強い腕にある疑念が頭をもたげる。も、もしかして――――

 慌てたようにこちらにお構いなくペタペタと何かを確かめていたナナミさんにモッサリとした髪を掻き分けられる。
 顔を覗き込まれて、ナナミさんが息を呑むのがわかった。

「な、ナナミさんって男の方ですか?」
「もしかして、あなた女の子?!」




       * * * *




「まずいわね……」

 ひと通り確認して勘違いを謝罪すると、落ち着いたらしいナナミさんは悩ましげに吐き出した。その姿もとても艶っぽく、何度見ても美人だ。改めて男性だと認めてくれたが、肩や胸板を確認しなければとても男性だとは信じられない。

「いやね、ごめんなさい、かわいい女の子が来てくれてワタシとしては嬉しい限りなんだけど、ちょっと問題があってね……」
「いえ、大丈夫です。すみません、勘違いさせるようなお見苦しい格好で……」
「ううん! 大丈夫よ! そんなこと言ったらワタシの方が酷いわ……」

 言いながら少し落ち込むナナミさんを見て、失言だったと気づき慌てる。ナナミさんは勘違いさせるような言動ではあるものの、断じて見苦しい格好ではない。いや、格好でさえも女性らしさがあるわけではないのに、ナナミさんが綺麗すぎるのだ。

「それでね、ちょっとした問題っていうのがね……」
「はい」

 かつてなく歯切れの悪いナナミさんに思わず緊張する。
 ナナミさんは言いづらそうに続けた。

「直が女性恐怖症なのよ」
「」

 ほんと、問題って程でもないんだけどね、あの、泡吹いて倒れるようじゃ、やっぱり問題よね……とナナミさんがブツブツ続ける。
 いけない、一瞬思考が止まっていた。直さんってあの男のことだったはずだ。あの男が……?
 男に恐怖する女はいても、女に恐怖する男とは珍しいことだ。

「ここはちょっと特殊で、良くも悪くも直が中心というか……直の安寧のためにこの場所を与えられたようなものだから……」
「ええっと」
「直はそばに女の子がいると無能化しちゃうから……それはほんとにまずいのよ……」

 どうやら外部の人間には少し聞いただけではわからない特殊な事情があるらしい。
 ナナミさんは本気で参っているようだ。

「ナナミさん、ちょっと喋りすぎ」
「「!!」」

 突然鋭い声が割り込む。
 すぐにそちらを見ると、入口に若い男が腕を組み寄りかかっていた。にこやかな表情と声のちぐはぐさが奇妙に感じる。
梔子くちなし色の着流し姿の美しい男だ。いつからいたのか、全く気づかなかった。
 男は視線に気づくと、微笑みをこちらに向ける。

「やぁ、起きたんだね」
「…………」
「あんた、一体いつから」
「おっと、怖がらせてしまったかな。僕もここの住人なんだ。僕のことはあんたじゃなくて、稜葵いつきと呼んでね」

 今度は表情とともに口調も安心させるように優しげに語りかけてくるが、張り詰めたような雰囲気に、逆にどことなく緊張させる。
 あえてナナミさんを遮ったような話し方にナナミさんも少し眉を顰めた。

「ところでさっきの話だけど、僕としては普通にさっさと追い出した方がいいと思うね」
「ちょっとあんた……!」
「と、思ってたんだけど、君を見て変わったよ。ただ追い出したらその方が危険かもね。君は一体何者? 記憶喪失とか一体なんの真似?」
「は……」

 勢いに呑まれて思わず詰まる。笑顔なのに目が全く笑っていない。
 稜葵さんの言い様に立ち上がりかけたナナミさんが、その様子に動きを止めて心配そうにこちらを見た。

 頭がこんがらがりそうになる。
 危険とは一体なんのことか。特殊な事情は命に関わるほど重要なことだったのだろうか。そうじゃなきゃ、彼の言い方では……。ふと聞いただけでは追い出さずにここに置く、という風に聞こえる、が、たぶん――――

「……まぁいいや。ナナミさん、さっきの話だけど。直さんはたぶん彼女のことに気づいてないよ。だから抱えられてきて、その上助けられてるんだし」
「そ、うね……」
「とりあえず、そのまま様子見れば。明日来る医者には僕から言い含めておく。正直必要ないと思うけど。……それじゃあ僕は行くよ。お邪魔して悪かったね」

 最後は朗らかに笑って言うと、またね、と爽やかに手をひらひらと振って立ち去った。