コメディ・ライト小説(新)

#16 やすみのまえ ( No.18 )
日時: 2019/03/06 07:32
名前: 空巫女 (ID: nhHNmtBk)

<#16 やすみのまえ>

葵編入学後から数日後の夏休み前日の6時間目。
「では、これで夏休暇前の授業は終了となります。皆さん、お疲れ様でした!」
担任の先生のその宣言でクラスに歓声があがる。
獣人の二人は“やっと瑠姫から解放させる”と安堵していた。瑠姫は残念そうにしている。あの様子だと、あれから獣人を見つけられていないみたい。
そして、この学級は3学期制ではなく、前後期制であり、学期の変わり目は10月の頭である為、期末テストが無かった。まぁ9月にあるけど。

「千影、帰ろ〜!」
「わっ!びっくりするじゃない」
今日は部活がないので、下校の為に片付けていると海猫が後ろから抱きついている。
私は驚いた素振りをしつつ、海猫の頭を撫でる。
「にゃあ〜」
そうすると、海猫は喜んで鳴くのだ。葵編入学以降、海猫を撫でるのが日課になっている気がする。
「主!」
隣の席で葵が“我も我も!”と紅実を見ている。
「仕方ないなぁ...」
そういいつつも、葵を撫でる紅実は楽しそうだった。
「こんっ!」
葵は短い返事と耳と尻尾を動かして喜びを表現する。
「じゃあ帰るわよ」
「にゃん!」
撫でながら席を立つ。鞄を持つと、海猫が私の左手を握った。
「手を繋ぐなんて子供ね、海猫は」
「ひ、酷いッ」
「なんて、冗談よ」
クスッと笑いと、私は海猫の手を握り返す。
そのまま歩こうとすると、後ろからがしっと肩を掴まれる。
「おい待て、お二人さんや。私らを置いてく気か?」
「そうですよ!主の言うとおりです!」
紅実だった。なんだ、まだ葵をなでなでしてると思ったのに。
「一緒に帰りたいならそう言えばいいのに。素直に言わないと夏休み遊んであげないわよ」
「うぐっ」
くるみ は せいしんてきな ダメージをうけた!
「葵!お前からなんか言ってやれ!」
「確かに、主はたまに素直じゃない所がおありですね」
「なぁっ!」
味方からの追い討ち。
「二人共酷いよ!紅実が素直じゃないとこがたまにあるのは事実だけど、今のは紅実なりの誘い方だよ!」
「ふぼぁ!」
更には海猫からも。流石に可哀想だったので止める。
「紅実をこれ以上 いじるのは止めにしましょ。流石に可哀想だし。それにもうじき下校時刻だし、帰るわよ」
「お前が始めに弄りはじめたんだろ!?」
「何の事かしら?」
「こいつッ...!」
とぼけると、紅実が怒って体当たりしてくる。
私は右手で紅実の頭を押さえ、止める。
「くそっ、運動部じゃないくせに、どうして力が強いんだ!?」
紅実...吹奏楽部を舐めないでもらえるかしら?
「楽器吹くのってね、肺活量とか体力とか必要だから朝練の時ランニングしてるの。知らないの?それにあのバカでかいチャイムとかを持っているのよ?」
「うんうん。あれは獣人の私からしても重いね」
私はため息混じりの声で解説すると、同じ吹奏楽部である海猫は頷いている。
重い打楽器系を持って階段を登り降りするんだから、自然とそれなりの力はつくからね。
「剣道部は武道場で活動してるから、ランニングなんて知らないよ。それと...チャイムってなに?」
紅実は私から離れて、首を横に傾げる。
そっか。これは知らない人多いからね。 私だって部活に入ったばかりの頃は知らなかったし。
「金属でできた打楽器だよ」
海猫が簡潔に説明する。
「知らない」
こいつ...キッパリ言い切った。まぁ知らなくても、吹奏楽部に入らないなら、特に困る事ないだろうけど。
「皆さん...我はその話に入れません!」
特に知識が無く、会話に入れなかった葵が私と紅実の間に立つ。
「ごめんごめん。さ、帰ろっか」
私は手で葵の肩を軽く叩き、帰る事を告げる。
「待たせてごめんな。でも、大体千影のせいだけど」
えっ、私のせい!?私に体当たりしてきた紅実のせいでしょ。あれ、でもよく考えれば私が紅実を弄って怒らせたんだから...私のせいじゃん!!
「千影、置いてくぞ」
考えていたら、三人は先に教室を出ていた。酷い!