コメディ・ライト小説(新)

#26 けっかはっぴょう ( No.31 )
日時: 2019/03/26 15:57
名前: 空巫女 (ID: CGuaQ/h8)

<#26 けっかはっぴょう>

「海猫、落ち着いた?」
「うん...ありがとう」
しゃがんでる私を心配して問う千影に私は笑顔を見せた。
「良かった。なら、会場に戻って他の楽器の演奏を見よ?」
「うん!」
千影は私の前に手をさしのべる。
私はその手を掴み、立ち上がる。
「二人とも!早くしないと他の人に迷惑だよ!」
遠くで瑠姫が私達を呼んでいる。
「解ってるよ!」
私はそう返事すると、千影と一緒に会場に戻った。



やがて、全ての出場校の演奏が終わる。
次は結果発表だ。
各校の部長が舞台に並び、順に賞状を受け取っている。
『8番、銀賞』
前の学校は銀賞か...
銀賞は言い換えれば2位だと思う人もいるだろうが、吹奏楽の大会では、全ての出場校が、金銀銅のどれかに分けられ、金賞を取った学校のうち、2、3校だけが、次の大会へと出られる。
つまり、銀賞では全国に出れない。だから、8番の学校の人達は泣いていた。

そして、次は私達の番。
『9番......金賞!』
「やったぁぁ!!」
“金賞”。そのアナウンスを聞いた瞬間、みんなはわっと、歓声をあげる。
やった...金賞だ!
私もとても嬉しい。皆で掴み取った金賞だから。
舞台で賞状を受け取っている部長も、嬉しいだろう。
「海、やったよ!やったやった!」
「先輩っ!気持ちは解りますけど痛いです!」
巽先輩は私の肩を叩く。が、嬉しさのあまり、手に力が入っており、痛い。
「やったぁ!」
千影や瑠姫も、同じパートの仲間達と喜びを共有していた。


そして、全ての出場校に賞状が渡された後...
ついに、全国大会に出場する3校が発表される。
『全国大会の出場校は...』
会場に緊張が走る、
先程まで盛大に喜んでいた巽先輩も、今や真剣な表情をしている。

『2番、○○高校、7番、○△△高校、15番、○□○高校!』
「えっ...?」
一瞬、私は自分の耳を疑った。
私達の高校の番号が呼ばれなかったのだ。
「嘘でしょ...?」
巽先輩も、現実が理解出来ず、唖然としていた。
いや、理解出来てないのではない。理解したくないのだろう。
そのまま、会場は歓喜と号泣に包まれた_____


その後。各自で学校へ戻りの音楽室にて。
「今回は本当に残念だった。何にしろ、全国に行けなかったのだから」
今はミーティングの最中。ただでさえ静かな音楽室に部長のそのセリフで、空気が更に重くなる。
「でも、まだ終わっちゃない!何せ、大会はまだ残っているのだから!」
部長は自慢気に胸を張り、部員全員にプリントを配る。
そのプリントは、今回の大会とは違う大会について載っていた。
「そのプリントに載っている大会はね、全国に行けなかった学校しか参加できないの。でも逆に考えれば、あと一度だけチャンスはある」
プリントを見ると、CD審査と言うものがあり、自校で演奏した物をCDに録音して、大会本部に届ける。そして審査に通るとそのまま全国大会だそう。
「そうね。部長の言う通りこれが3年にとって最後のチャンス...今回、何で駄目だったか考えて、この大会では絶対金賞を取ろう!」
『おぉっ!』
桐谷先輩が、立ち上がって皆の士気を高める。
この人も瑠姫と同様、獣人わたしたちが絡まなければいい人なんだよね...

そして、皆で今後の予定を確認して今日は解散となった。
時間はとっくに20時の、二人しか居ない校門にて。千影には、先に帰ってもらっている。
「海、やったよ!まだチャンスがある!」
巽先輩は先程金賞を取った時の様に私の肩を叩く。
「はいっ!今度こそ全国行きましょう!」
「おお!いい返事ね!」
私が思いっきり返事をしたら、今度は背中を叩かれた。
「痛い、痛いです」
「ごめんごめん。じゃ、お互いに頑張るわよ!また明日!」
私が注意すると、巽先輩は私の頭を撫で、逃げる逃げる様に帰っていった。

最後のチャンス、か...巽先輩の姿が見えなくなると、私は桐谷先輩が言った言葉を思い出す。
これが、私にとっても最後にならないよね...?