コメディ・ライト小説(新)
- Re: 恋刻ノ御伽草子 ( No.4 )
- 日時: 2019/09/03 18:05
- 名前: キイチ ◆V9lDD2BSz2 (ID: YohzdPX5)
空が駆け出すと、追い掛けてくる足音が複数聞こえて来る。1人だと思っていたからか、その多さに思わず振り向こうとするが
「いやー! ちょっ、ちょっと何で追い掛けてくるの?! 来ないで!」
聞き覚えのある声が空の耳に届き、反射的に足が聞こえてきた方へと駆ける。空が今の現状より優先したような行動は、同級生で友達の姫咲 千早の声だからというのが大きく、声を聞く限り混乱状態で空と同じ誰かに追われているような只事ではない状況だってことは声だけでも分かる。
近付くにつれ、行く手を阻んでいる。恐らく千早を追い掛けている見掛けない学園内には居ないような男達を見てぴんっと来たのかはっとしたような顔をした後に。
(あの校長、向こうの奴等まで複写したって事かよ!)
「っ姫早!」
空自身が付けた千早の渾名。この渾名は千早と初めて会ってから二日もしない内に付けて其れ以来ずっとこの渾名で呼んでいる。
時たまに、姫っちとか姫なんて色々別の渾名で呼んでいるが、其れは千早の緊張や不安そうな顔をした時、余計な事を考えている時に笑わせたいが為に呼んでいる渾名だった。
千早の渾名を呼び、自分も追い掛けられている身である為か止まることも後ろを振り返る事もなく千早を追い掛けている男達の合間を掻い潜り、千早の手を掴んで手を引きながら学校へと走って向かう。
追い掛けている男達を撒くように出鱈目に。
けれど、確実に学校へと近付いてたが、この状況では撒くには時間的にも無理がある事を悟る。
しかし、千早一人で逃げられる可能性は先程の光景を目の当たりにした空からしてみれば低くかと云って千早が空と複数相手にする、況しては千早を庇いながら相手をするのは剰りにも無謀だと云えた。
本音を云えば、傍に居てくれた方が安心するが、傷付けたりされたりする光景を千早に見せたくはない。其れに千早が悲しんだり心配したり怖がられたりしたら困るのも事実で空は、走りながら時より千早を気遣うように目を配り、声を掛けつつ思案をする。
- Re: 恋刻ノ御伽草子 ( No.5 )
- 日時: 2019/09/03 18:20
- 名前: キイチ ◆V9lDD2BSz2 (ID: YohzdPX5)
だが、頭の中で幾ら思案しても良い案は中々出てこず、体力と気力が無くなりかけているからか次第に
「んやろっ!」
半ば自棄に近い心境で。空は、自分の示指を噛んで血を出せば、壁に走り描きのように絵を素早く描き、殴り書きで【大きい早馬。千早を学校まで乗せ行く。】と有筆と絵現の能力を発動させる。
大きい早馬と書いたのは急いで描いた馬で小さく雑だから。描いた大きさで雑なまま実体化してしまう可能性があるので有筆で付け足したのだった。血で描いたのでとある映画に出てくる感染した犬のような出で立ちになるかと危惧した空だが、建物が木材で出来ているからか色味が移り、赤いオーラを纏う力強い赤茶の馬が瞬く間に現れて
「きゃっ?!」
「その馬は俺の能力だから、安心して良い! 姫早を頼んだっ!」
完全に実体化した時には千早を乗せた状態で急に目線が高くなったからか可愛らしい驚いたような声が千早から上がる。繋がれた手は千早が浮上した際に放しており、有筆通りにしかし、合図がないからか空と同じペースで走っていたが、焦りからか空の切羽詰まった声を聞き届けるとぐんっと一気にペースを上げて千早を乗せたまま学校へと走り去って行く。
走り去る前に千早が何か云ったような気がするが、よく聞き取れなかったのと千早の言葉を聞いている余裕などないのもあり、気のせいだと心の裡で言い聞かせる。
そうしなければ、千早が何て云ったか、気になって気になり過ぎてその事で頭の中が一杯になって仕方ないから。不意に千早を危機から遠ざけたからかそれとも既に千早の事で一杯だからか追われているのにも拘わらず笑みが零れ落ちた。
「やべえな、姫早の破壊力。 凄すぎて、頑張れそうだ」
逃げている間に交わされたやり取りと最後に聞いた千早の驚いたような声を思い出したようで思わず口から出てしまう。走り疲れた筈が特に応援もされてないのに千早の声を聞いただけで活力が溢れてくる。
千早にそんな能力なんてなく千早の能力は自分を好きな動物や物に姿を変えられる【変身】で他人に力等を与える【付加】じゃない筈が空には千早の声を聞いただけ或いは見ただけで頑張れる気が、多少無茶な事でも今なら出来そうだと思えるから不思議だ。
もしかしたら、自分が想う以上に千早の事が好きかも知れないと。だが、好きと千早に伝えたら今の関係が崩れる。何かが終わる気がしてならない。其れに片想いのままが良いと感じるのも事実で。だから、千早に想いを伝えるつもりはない。伝えても真剣に告げるつもりはなく何時もの調子で云うだろうと。あくまで今段階ではなのでこの未来は分からない。
気が散漫し呼吸も走っているからか乱れていた空だったが、次第に落ち着きを取り戻して、今の状況をどう切り抜いていくのかどうしたいのかが分かる。千早を先に行かせたのなら、自分が遅刻しようが怪我しようが無茶だろうが何だって出来ると。
だから、学校へ急ぐのを止めて、複数相手にすることにしたらしく、空は、距離をたっぷり空けると振り向き、勢い良く自分の方へ向かってくる相手に1発、嚼ます。鳩尾に見事に当ったようで、苦しそうな呻き声を上げ、その場に倒れるようにして蹲った。
蹲った相手の腰に差している刀を息を整えながら抜き取り、刃先を自分の方に向けて持つ。逆刀ではないが相手を殺すつもりはなく竹刀を持っているつもりで怯んでいるのか驚いているのか或いはその両方かは定かではないが蹲る男以外の男達に向けて構える。
「......只の複写じゃない、のか?」
複写が痛がったり況しては感触が有るなんて思ってなかったと能力の詳細は知らないので複写は一体何処まで複写出来るのかを把握してない為、此れが複写だと断言出来ない。
しかし、この学園は特別なイベントがない限り能力者だけが入れる敷地で部外者、家族ですら普段は出入り禁止。能力者は大人や教員に許可を得た学生のみ学園外に出れる。基本学園外に出る事は許されず、許可を貰うのにも家族に会うという理由だけでは許可が降りないと云う。其れぐらいこの学園は外と隔離され非能力者と接触しない閉鎖的な空間だからか、空はこの見知らぬ男達が複写だと能力の仕業だと思っていた。そうしなければ、この状況に納得出来ず、訳の分からず今よりも混乱していただろう。
だが、果たしてこの男達は複写なのだろうか? 空は一抹の不安ややけに人間味のある、まるで自分の絵現のように立体的で其れに加えて有筆で否、明らかにそれだけではこんなに自発的に動く事が有るのか? と疑問に思ってしまうも、其れを確認する暇はなく、キンッと刀と刀がぶつかり合う。