コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.10 )
日時: 2019/03/20 23:23
名前: Rey (ID: NvHaua1/)

三話 生徒会長とお遊戯


食後のデザートとしてスーパーのおばさんから貰ったケーキを"至高…ッ!"と言いながら食べ終えたレイは。
この後の事を考え、一瞬で逆上せた頭が冷えていくの感じた。
ーーーー飛鳥が、ずっとこちらを見ている。
それはもう、穴が開くくらい、じぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っとこちらを見つめている。
ガン見して、そろそろ気まずくなるくらい、凝視してる。
いや、理由はわかっている。遊ぼう!ゲームしよう!と尻尾を振っている事は、重々承知している…が。
そんな可愛い幼馴染の弟は、ネットに名を轟かすプロゲーマー。
ただのデジタルゲームで勝てる気がしない。
というか、レイはそのゲームをやっていない。
だから、飛鳥がアバターを貸してあげるよ、と言い出すのも予想はしている。
ーーーーけれども、完全なる初心者ビギナーなレイがプロゲーマーのアバターを使うなど言語道断だろう。
まして、【紅白アルビノ・梟谷アウル】の正式アバターだと?
…………プレッシャーが凄い。
それに、レイは先程のチャット画面を見た時に、なんとな〜く察したのだ。
ーーーーこのゲーム。リンドウ学園の生徒が多そう、と。
ともすれば、このゲーム内でレイに告白するぞ、と意気込んでいる生徒がいるかもしれない。
現に、こうして今日の昼休み告白事件はここで会議ミーティングが行われていたようだし。
いや、先がわかるからいいんじゃね?とも思いはするが。
ーーーーーどちらにせよ、レイはその告白を一刀両断するのだ、先が見えていようがいまいが関係ないだろう。


ーーーー以上の理由により。
「飛鳥、ゲームはアナログゲームにしよう」
デジタルゲームでは、レイのメンタルが色んな原因により死にかねない、と。
これだけは譲れないと強い意志を宿したレイの海色の瞳は。
「ああ、そういうこと。構わないよ、兄さんもいいよね?」
「おー…ま、どーせ俺ァ歯が立たねェだろうがな…」
ちゃんとこの二人に届いたようで、ひとまずは安心して良さそうだ。





ーーーーーと、思っていた自分をぶん殴り飛ばしたい。
デジタルじゃなくアナログゲームにしただけで、飛鳥の頭脳に勝てるわけが無かった。
いや、そもそもゲームと命名されるものすべてにおいて勝てると思えるわけ無かったのだ。
時計の短針が8時を過ぎ、なおも続くこのゲーム。
アナログだから、と用意された数々のゲームに。
レイは…完膚なきまで負かされていた。
麻雀、ブラックジャック、インディアン・ポーカー………神経衰弱すら、一度の勝ちが無い。
もはや、引き分け狙いで応じる現在のこのゲーム…それは。
「………飛鳥ァ……テメェなんで微動だにしねェんだよォ…」
「兄さん、これくらいの"ポーカーフェイス"は出来て当然だよ」
ーーーートランプでのギャンブルの王道、ポーカーである。
ジョーカーを抜く52枚の絵柄のカードを用いり始まるこのゲームは、同じ数字、または同じマークでのペアを作り、その強さを競うゲーム。
いわゆる、運ゲーと評されるこのゲーム…だが。
"イカサマ"をするとするならば、その勝ちはほぼ100%にまで達する。
ーーーーが。
「…なぁ、これマジでイカサマしてねぇの?」
「あは、僕が不正するわけ無いだろう?これも、僕の実力の内さ」
「嘘つけェ………場に出されて捨てられたカード"全暗記"とかありえねェだろォ…」
「…兄さん、僕を愚弄しているのかい?これくらい、どうって事無いだろう?」
嘲笑うかのように細められた血の瞳は、苦悩に顔を歪ませるレイただ一人を写し、"それこそ"を望んでいるかのように見えた。
ーーーもとより勝つ気など失せたこのポーカー。
けれど、このポーカーは"7ターン目"であり…。
それら全てが飛鳥の勝ちに終わっている。
しかも、このポーカー以前のゲームも全て。ーーーにも関わらず、こうしてゲームに応じている、その訳は………。
(…………飛鳥を超える"策"…俺が持ってるって期待してる……なぁ……)
ーーーーこの、陸の目である。
ターンが終わる毎にこちらを見る、飛鳥と同じような、血の赤に。
………勝ってくれ、と。
………シリアスな雰囲気になりそうだから、一つ言っておくと。
陸がそう願う理由は、ただ単に。




ーーーー勝たなければ、飛鳥が寝ないだけ、である。



そう、このゲームを終わらす唯一の方法。
もとより五徹目だと言う飛鳥………相当のハンデ持ちだというのに、この強さである。
陸とレイが共闘したとしても、勝てるかどうかも危うい。
だが、この場にいる三人の睡眠時間が刻々と縮まる中、第三者がいたとしたならば、こうは言うだろう。


ーーーーんなもん気にしないで寝りゃいいじゃん、と。


いや確かにその通り、全くもってのド正論である。
だがしかしーーーーッ!と。
力強く、飛鳥を知り尽くす兄が言うには、こうなのだ。


…飛鳥は、絶対に勝負を降りる、なんて事はしないのである。


第一、レイが手加減してくれ、と言ったのに"そんな無粋な真似出来ない"と言い。
それを有言実行している、このコアゲーマーに、何を言おうが、そして何をしようがゲームを中断する事はないだろう。
ーーーーカチリ
……時計の短針が、9を過ぎた、この時。



「…俺は、もう寝たい。……だからな、飛鳥。ーーーーこっからはマジで行くぞ」


伏せていた顔を上げ、その海色の瞳に"光彩"を散りばめて、レイはそう"宣言"した。
ーーーー途端に。
「っ……?」
空気が圧力をかけ、飛鳥の思考を揺らした。
それはまさしく"魔力"の胎動によって起こる引力であり、同じく魔力を持っている八神兄弟の力と共鳴。
磁石の極が反対ならば引き合うように、レイの魔力と二人の魔力が引き合って起こる、その"目眩"に、思わず目を見開く飛鳥。
ーーーーーだが。
「…成る程ね…………」
崩れたポーカーフェイスをまた取り繕って、ニヤリと妖しく嗤う。
ーーーつまり、自分の持てる"全ての力"を使って、負かしてみせる。
それが、レイの下した判断であり、それがルール適合内であると同時に。
ーーーーそれこそが、飛鳥(天才)をも超える方法である、と。
「……でも、僕だって"魔法は使える"よ……あまり、なめないでほしいかな…ッ!」
けれどその判断こそを嘲笑う飛鳥の瞳は、この部屋を赤く染め上げる程の異彩を放ち。
ーーーーアルビノの特権である"全形質"…つまり、全ての属性の魔力をこの一帯から吸い上げ………。




ーーーー世界を、静止させた。



ピタリと音もなく止まった、このモノクロの空間。
ただ一人、時の止まった世界に住まう飛鳥だけは、目の前に座り、伏せたカードに"魔法"を使ったとされるレイの姿を永久とも言える中に見た。
魔法とは、読んで字のごとく…"魔"を操る方"法"であり、それは魔力を消費…利用する事で起きる"非科学的現象"
本来ならばあり得ない筈の事を平然と起こす、いわば人類の"奇跡"の力…だが。
自身の宿す魔力の性質と、同質である魔力しか見えない、というのが欠点である。
要約すれば、レイは水属性の魔力を産まれながらに持っているため、その目に映る"魔力の帯"は青系等…つまりは水属性の魔力しか見えない。
ーーーーと、いう事は。
何の属性にも当てはまらず、そして全ての属性に当てはまるアルビノだけは、全ての魔力の帯を目視する事が可能。
だからこそ、飛鳥は嗤った。
魔法を使えば、相応の魔力が体外へと放出される。その後を追って、"どう使われた"かを"分析"する。
………結果、レイがトランプの数字を意図的に"変える"魔法を使った事がわかるのだ。
イカサマなど、バレれば一発で負けが確定する行為………だが、魔法を使えばどうとでもなるのは間違いない。
現に、レイは自身の手札だけでなく、捨てられた札と山札にも瞬時に魔法をかけ、全ての数字を"自然"になるよう仕掛けた。
つまり、レイだけの手札が変わっていたとしても、それは捨てられた札にあればイカサマだとバレるが、その捨てられた札もろとも書き換え、"被る"可能性を消した。
その証拠に、レイの魔力である水色の帯がモノクロの世界にはっきりとトランプにまとわりついているのが視覚からの信号でわかる。
ーーーーレイも、魔法の腕を上げたなぁ
静かに賞賛する声は、けれども静止した世界では届かず。
ただ、心の中で謳っただけの言葉となったが、それはそれで良い。
ただ、自分はアルビノであり、周りと…世間一般から"バケモノ"と呼ばれるだけの…それだけの事。
だからこそ、カジノやギャンブルで魔法を使ったイカサマなど瞬時に見破って"ペテン師"呼ばわりされるのだろう?
そう、自傷に笑った飛鳥は、ふっと息を吐き……。




ーーー世界に、音と色が戻ると同時。


「手札を開こうか」
そう言って、静かに魔法を魔法で重ねた"ロイヤルストレートフラッシュ"を表に返して。
………そして、レイが返した手札に………。





「…はい、ワンペア♪」



ーーーーたった二枚しか同じ数字の無い、5枚の手札に、文字通り絶句した。
ーーー何故…ッ!?魔法を使ったのは確定…だというのに…ッ!?
瞬時に脳内がありとあらゆる可能性を思考し始め、飛鳥はポーカーフェイスなど忘れたかのように冷や汗を流した。
ーーーどういう事だ、何故レイは魔法を使いながらも最弱の手札にした…ッ!!
わからない、と苦悩に喘ぐ中、一つの声が全ての思考を強制シャットダウンさせた。



「…奇遇ゥ♪俺"も"、ロイヤルストレートフラッシュだァ♪」



ーーーー意気揚々と手札を開示する、兄に。
今度こそ、飛鳥は目の前の現実が"非現実"なのでは無いか、と正気を疑った。
………どうやって、兄の手札が最強のものになった……ッ!?
「…どうしてって顔だな、飛鳥」
だが、その思考を読んだように言い放ったレイの次の言葉に、飛鳥は二度目の硬直をする。
「簡単な事だ。俺が変えたのは俺の手札じゃなく………陸の手札だった、ただそれだけ♪」
ーーーーーあり得ない、そんな事……兄さんの手札に"帯は無かった"……それなのに…
あり得ない、考えられない、方法がわからない、と頭がエラーで埋め尽くされる中、陸はため息混じりに。
「あァ……五徹しててよかったァ……万全の状態だったら"こんな手"通じねェよォ……」
心の底からほっとした、その声を聞いて、飛鳥は呆然とその兄の姿を見つめた。
…………………まさか。
「…陸の手札は元々あと一枚でロイヤルストレートフラッシュになるまでになってたんだ。それを魔法使って知った俺は、自分の手札にも魔法をかけ、更に捨て札にも魔法をかけた♪」
「それがァ、"イカサマを隠すためのカムフラージュ"って信じる事に賭けてェ、本命はァ………"捨て札に近く、唯一外れた手札をロイヤルストレートフラッシュになるようにする為の魔法"ってわけだ、わかったか石頭ァ♪」
……………ギャンブルのセオリーに縛られた、この末路は。
きっと、こうして全ての有り金をむしりとられていくのだろうか、と。
飛鳥は、自分の頭のかたさをこの二人に痛感させられ、そんな事を思った。
ーーーー捨て札に魔法をかけたのは、陸の外れた手札を当たりにするための、カムフラージュ。
そんな事、思いもしなかったなぁ、と。
飛鳥は、静止した世界で口にした言葉をーーー。



「…レイ、本当に魔法の腕を上げたね…」



この現実世界でも、"告白"した。




かくして、"引き分け"に持ち込んだこの第7ターンを持って、この悪魔的なゲームの数々から脱出して陸とレイは。
とりあえず、遅いけどシャワー浴びるか、と無言で頷き、陸はレイの着替え用に自室へ。
レイは魔法を使った反動で怠い身体を引きずるようにして、階段を降りていった。



「…………あ、明日も告白されるって事、言うの忘れてたなぁ……まぁ、レイの事だしフるからいっか」
二人が部屋から出て、一人になった飛鳥は、ふと思い出した事を独り言として口に出したが………。
まぁ、言ったところでなんとやら。
結果は変わらないだろう、と。
飛鳥は二人が帰宅した際に閉じたゲームを開き、途中だったクエストを再開すべく、キーボードとコントローラーを手に取った………。