コメディ・ライト小説(新)
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.11 )
- 日時: 2019/03/21 12:18
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
四話 生徒会長と委員会
………視界に広がる、陸の顔でモーニングを迎えた事については、もはや言葉が出なかった。
昨日の記憶が飛んでいる、とかそんな訳はなく、一線は断じて超えてない…のだが。
毎度毎度、こうしてレイが泊まりに来ると寂しさなのか知らないが"抱き枕"にされるのはいつもの事だけれど。
ーーーー背中も熱い…。
もう考えられるの一つしかないだろう、こんなの。
………飛鳥も、腹に手を回して抱きついている、それはもうがっしりと。
天才的な頭脳を持っている飛鳥と、驚異的な運動神経を持っている兄…けれど"逆"は否。
飛鳥は運動なんてからっきしだし、陸はツヴァイにギリギリ食いついているような成績だ。
けれど、やはり兄弟というものは、根本的なもので似ているらしい。
「……んー……」
「ぉ、わ……っ」
と、そんな事を考えていたら、まだ寝ているであろう陸がレイを引き寄せ、更に体が密着。
ーーー思わず声が出たが、起きてはこないようだ。
だが、お陰で飛鳥のホールドが少し緩んだ気がする。
…………でも陸のホールドが強固になった気がする、と。
プラマイゼロ…どころかマイナスな展開に、レイは白目を剥きたかった。
なんせ、ここに泊まらせてもらっている身、ご飯担当はまさしくレイだ。
早めに起きて支度をしようと思ったのだがこれでは身動き一つ取れない。
ため息一つこぼしたくなるこの状況に、レイは。
「……ぉ〜ぃ……」
小声で、トントン陸の胸元を叩いた。
声で起きるわけないので叩いたりしたわけなのだが。
「…ん……っせェ…」
「…………………………………」
"うるせェ"と一喝、そしてもはや腕すら動かせない程の距離までまた抱き寄せられた。
ーーーーーなんなのコイツ
ピキピキと血管が浮かび上がりそうな程キレる寸前のレイだが、とりあえず殴るのはよそう、と上を見上げた。
人工的に染められた明るい茶色に前髪メインに入れられた赤色のメッシュ。
瞳は閉じていれど、その長い睫毛が主張して、どちらにせよイケメンフェイスがあったのは言うまでもない。
ーーーーいやいや、何してんだ時間がヤバいだろ
視界の端に入った電子時計の示す現時刻は6時24分…もうすぐで半になるが、朝ごはんの用意すらまともに用意できていない。
だというのに、レイ合わせた三人は寝巻きで完全に休日モードだ。
ーーーーー正当防衛だ、俺に非はない。
完璧にため息をついて、ロクに動かせない腕をモゾモゾと動かして、多少なりとも動かせるスペースを作り、大きく息を吸ってーーー。
「…….…起きろ寝坊助共ぉッッ!!!」
「ぐっふゥッ!?」
「ひゃいッ!?」
陸には鳩尾に一発、飛鳥(と、もれなく陸)には大声のアラームで、文字通り"叩き(殴り)"起こした。
「ガハッ…ゴホッ……おま、レイィ………みぞおちは、だめだろォ…」
「び、びっくりした……しんぞう、とまるかとおもった………っ」
「問答無用だコノヤロウ。さっさと着替えて下に来いよ〜、速攻でトースト作ってやるからな〜」
「お、ォ……りょ、かい……」
勢いよく咳き込む陸の腕から脱し、レイは陸の部屋から抜け出す。
ちなみに、陸の部屋はベッドではなく布団なので、抜け出すのは簡単で。
未だ後ろが色んな意味で悶えている中、三度目のため息をつきながら、レイは部屋の扉をパタリと閉じた。
時計の短針が7を少し超えたリビングでは、速攻で作った朝ごはんというなのトーストとサラダを食べ終わり、それぞれの支度をしている二人の姿があった。
飛鳥はもとより不登校なため、今日も一日ゲーム漬けだろうが、まぁ睡眠は摂っていたようなので100歩譲ってオーケーと。
問題はレイなのでは、と少しだけおもった人、静かに心の中で挙手なさい。
突発的に"泊まる"と言ったレイは、勿論学校の用意など昨日のままであり、授業平気…?となるだろう。
だがしかし、リンドウ学園はエリート校。
授業の大半は"タブレット"などの電子機器を用いるものなので、大したものはいらないのである。
よって、カバンには予備用のノート数冊と筆箱さえあれば、なんとかなるのである。
だから、こうしてのんびり支度しているわけなのだが。
ーーーーふと、陸がポツリと呟いた言葉。
「………あれ、今日って委員会会議の日じゃねェ?」
"委員会会議"という、そのワードを口にした途端に、陸とレイは揃ってリビングの時計を見た。
学園の門が開くのは7時から。
そして、会議が始まるのは………。
ーーーー7時30分から、である。
対して今この家の壁掛け時計が示す時刻は……。
ーーーー7時26分……である。
……………………………あ。
「あああッ!!完璧に忘れてたぁッ!!」
「ちょォ!あと4分…いや3分になったァ!?ぉ、おいレイ早く出るぞッ!また変なレッテル貼られるぞォッ!?」
「嫌だッ!"男子生徒に告られてフるエセホモ"っていうレッテルの他、もういらないッ!」
「そのレッテル早く剥がせよいつまで貼ってんだァッ!?ってんな事してる場合じゃなかったァ!飛鳥!テメもう徹夜なんかすんじゃねェぞ!?走れレイィ!」
「言われなくてもぉッ!!んじゃまた今度な飛鳥!体調管理は大事だぞ睡眠ちゃんととれなぁッ!!!」
一変しバタバタと駆け回る"先輩"二人に、飛鳥は思わず笑ってしまって。
「はいはい。自重してるから、君達こそ気をつけてね」
苦笑いを含めた微笑みで、ヒラヒラと手を振りながら玄関を飛び出した二人を見送った。
凛影魔導学園、生徒会室にて。
ここはこのリンドウ学園を仕切る"各生徒会"が集まる会議室の役割を担う教室。
リンドウ学園は中高大一貫であり、生徒会も中学部、高等部、大学部と三つあるのが特徴的だろう。
「…で、高等部の席が空いているのは、何故だろうな?」
そう、威圧的な声で周りのざわめきを沈めた、その人は。
ーーーー大学部の生徒会長、その人である。
「か、彼が遅刻とは珍しい……何かよっぽどのことがあったのでしょう……」
リンドウ学園、生徒上のトップという肩書きを持つ彼に、周りの生徒会はヘコヘコと頭を下げる他ない。
ーーーー何してんだよ高等部生徒会ぃ…!
皆、声にこそ出さないが一斉に口を揃えてそう言ったのは、大体察した。
と、その時。
ーーーバタンッ!!
「はッ…はぁ……こ、高等部…生徒会長の、皇玲夜…………遅れて、申し訳ありません、でした……ッ!」
生徒会室の扉が大きな音を立てて開き、そこには息を乱し立っている高等部生徒会長の姿。
元凶の一人の生徒会長に、恨めしい目と安堵の目が注がれる中、生徒会の一人がポツリ。
「…………あれ?"もう一人"は?」
と、高等部生徒会の…"二つ空いていた席"を見て、そう言った。
そして、その声に応えるようにして聞こえた、同じく生徒会室の扉からの声は。
「…………はァ……はァーーッ………高等部、生徒会……"風紀委員長"の、八神陸ゥ………生徒会長共々遅れて、サーセンっしたァ……はは……ッ」
やけに弱々しく、元凶の一人……"風紀委員長"は全く悪びれるそぶりを見せずに、謝ってみせた……。
「全く、お前は見た目的に風紀違反の常習犯だろう。時間さえ守らないとは、いよいよ委員会を降りる時が迫ってきたな」
「ちょォ……パイセン、俺急いだのによォ…」
「急いで10分遅れはアウトだ馬鹿が」
「……………はァい…」
トゲトゲしい言葉の数々に滅多刺しにされる隣を見やり、レイは一人で目の前の書類に目を通した。
……全てなかったことにしようだなんて、思ってる訳ないじゃ〜ん、と。
周りからのその視線に、ただ目だけでニッコリスマイル。
すぐさま手元の資料を見て、会議へと身を投じる変わり身の早さに。
ーーーーハリボテの生徒会長、様になってんな…と。
会議中では無かったら口揃えて言っていただろうその言葉を何とか飲み込んで、全生徒会(陸を除く)は会議の話へと耳を傾けた。
「…さて、最近では地域の苦情が多数耳にすることがある。それはもう耳にタコが出来るほどだ」
大学部の生徒会長が重々しく言ったその言葉に、無意識のうちに唾を飲み込む。
「が、それは我々リンドウ学園の生徒では無い。他校の生徒の仕業だが………関係ない、とも言い切れん」
「ァ、もしかして中学部三年のリンチ事件ですかァ?」
ーーーー風紀委員長、交代した方がいい気がする。
レイを含めた生徒会全員が思ったことだった。
中学部三年のリンチ事件?……いやいや……軽すぎねぇ!?と。
「…八神風紀委員長。軽々しい発言はよせ」
陸の発言を指摘したリンドウ学園生徒代表は、生徒会全員が思ったことを代表的に発言してくれた。
流石、生徒会長様。
「別に、軽々しいわけじゃねェですよ。ただ、ボコられたウチの生徒………"俺の後輩"なわけでェ。ーーーー正直、お相手さんをぶっ殺してェなァって所存ですがァ?」
「人を殺すなど、軽率な発言を控えろと言っているんだ。八神風紀委員長、君は感情的に物事を推し進めがちだが、周りの事をよく考えて行動する事を学んだらどうだ」
ギラリ、と怒りに似た"殺意"を渦巻かせる陸の赤い瞳に、けれどもその目を射抜き返した大学部生徒会長。
売られた喧嘩は買う主義の陸からしてみれば、それは安っぽい"煽り"である事は確か…だが。
「陸、問題を起こすのはよそう。今度こそ降ろされるぞ?」
「………チッ」
すんでのところでレイが仲介に入り、喧嘩勃発という事態はなんとか避けられた。
だが、陸の怒りは未だに絶頂にある。
何か、発言や行動がトリガーになって爆発でもしたら取り返しがつかない事になるのはわかるだろう。
「………君達生徒会には、下校の際単独で帰るのは極力控えるように、と注意喚起を起こしてほしい。それが、とりあえずの対処法だ」
パタン、と資料を閉じ、解散と告げる声に。
ようやく、この重苦しい空気から解放される!と生徒会室を後にした全生徒。
………だが、陸とレイだけは残ったままだった。
「………………やられてからじゃァ遅ェだろォが…………」
「でも、俺らだけじゃどうしようも無いのは確かだろ。一人より人数いれば襲われる可能性も減る、な…」
「雑魚は何人いようが雑魚のままだろォが……あんのヘボ生徒会長……ッ!」
「仮にも先輩だ、口を慎め陸」
「仮にもつってる時点でテメェも似たようなもんじゃねェか!」
怒りを隠そうともせず、机に拳を叩きつける陸を、ただ隣にいるだけのレイ。
けれども、レイだって感情が無いわけではなく、むしろ怒りを通り越しての"無"になっているだけだった。
確かに、あの生徒会長が言っている事が現状維持として大切な事に変わりはない。
………だが陸の言い分も正しい。
事が終わった後で対処しても、何の意味もない。
事前に防ぐ事こそ、今すべきことだろうが…。
「犯人がどこの奴等かわからない以上、下手に動けば返り討ちに、な……」
「クッソ………俺一人で帰りゃ襲ってくれるかァ…?」
「それで入院したら飛鳥はどうなる。そういうとこだぞ、陸」
「ぐ……」
感情のままに動く癖………喧嘩っ早い陸の行動は高等部に上がって少なくはなったが"無くなった訳ではない"
今日のように、誰彼構わず怒りをぶつける、なんて事もあるのだ。
だからこそ、レイはこの状態の彼の側を離れるわけにいかない。
「………まぁ、今はただ生徒会長が言った事をやるだけだろ。今のところ、新しい被害は出てないみたいだし」
「チッ………うぜェなあのパイセンよォ…」
「目の敵にすんなよ陸………あ〜ぁ、なんで俺コイツを生徒会に入れちゃったんだろ」
「俺の実力のおかげだ。…さっさとクラス行こうぜェ、ツヴァイの奴等に冷やかされる前に行かねェと」
不機嫌そうな声を残してさっさと生徒会室を出てしまった陸に。
レイは、一人彼を生徒会へと入れた、その当時を思い出していたーーーーー。