コメディ・ライト小説(新)
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.12 )
- 日時: 2019/03/21 18:09
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
五話 生徒会長と予想外の事態 前編
陸が風紀委員長になった理由としては、ただレイが推薦した、という簡単なものなんだが。
じゃ何故推薦したのか、という問題が残るが。
ーーーーそれこそ、レイが頭を抱える問題になる、元凶である。
凛影魔導学園、高等部一年、クラス【アインス】だった当時のレイは。
中学部…以前からの付き合いからだった陸の"わがまま"を聞かされ続け、死人のようにげっそりしていた。
「なァなァ!生徒会長候補のお前ならやれるだろォ"推薦"ー!俺を是非風紀委員長にィ!」
ガシッと肩にまとわりついてギャーギャー騒ぐ陸に、レイは声を荒げ。
「やれるわけねぇだろ!大体俺は生徒会長じゃないから出来ねぇの!わかるだろ!?お前そこまで馬鹿じゃな………ぁ」
つい口走ってしまった言葉に、慌てて飲み込もうとしたが、それを陸が思いっきり引っ張り上げて。
「あーあーそうですよ【ドライ】な俺ですけどォ!?」
開き直って腕の力を込めて、窒息死寸前まで追い込んだのだが。
ーーーこの頃の高等部一年、八神陸は最下位クラスの【ドライ】
逆に、一年から【アインス】だったレイは、中学部の生徒、教師からの推薦で生徒会長が決定している、と噂される程………。
いや、実際そうだったのだが。
だからこそ、陸は生徒会長の推薦という、絶対的なものに頼ってレイにまとわりついているわけなのだし。
この学園の委員会は、生徒からの推薦で決まる"生徒会長"と、その生徒会長が自ら推薦する"委員長"で構成される。
生徒会長枠はレイで確定、ならばレイが今、一年生である"最期の二ヶ月"というこの二月にするべき事こそ。
ーーーー委員長の、推薦候補を絞ること、である。
「なァー………絶対ェ推薦してくれよォ…?」
「風紀委員長になりたい理由が"髪を染める許可を出したいから"とかいうお前を推薦したらこっちがバッシングくらうんだよわかれ馬鹿」
だが陸、お前だけは論外だ、と。
自分勝手すぎる理由で風紀委員長として推薦してくれ、と強請る幼馴染に胃がキリキリと痛くなり始めたレイ。
顔をしかめ、うざったい、と肩をまわされた腕を払って、アインスの扉を開きかけた、レイに。
ーーー「俺と勝負して、俺が勝ったら推薦!それなら文句ねェだろ!」
けれど、すんでのところで肩を掴み、陸はそう叫んだ。
「…………………………………は?」
固まった思考を絞り出して出した声は、ただの一文字だけだった。
「だからァ!俺とレイが勝負して!それで、俺が勝ったら風紀委員長推薦!これでいいだろォ!?」
「いやいやいやなんでそうなった!?大体なんで俺がそんな勝負に応じなきゃなんねぇの!?」
「そ、そんなん俺の為以外ねェだろォ!?」
訳がわからず喚き散らす生徒会長(候補)に、摑みかかるヤンキー…のような性格のドライの生徒。
中学から二人を知っている人ならば"またか"とジト目で済むだろうが、高校からの編入生からしてみれば、困っているようにしか見えないだろう。
実際困っているから当たっているけれど。
それでも、心の底からウザイと思っているわけでもないので、事情を知っている人達が止めに入ろうとする生徒を抑え込むのである。
「……は〜……わかったよ…勝負な、勝負…」
「ッしゃァ!!流石俺の自慢の幼馴染だぜェ!略してさすレイッ!」
「略すな略すなッ!」
何を言っても無駄だと、先に心が折れたレイは。
渋々その勝負を受け……。
ーーーーー負けた。
絶対に負けないと思っていた、その勝負に。
勝負内容は、とても簡単で単純なもの。
ーーーー二年のクラス、陸が【ツヴァイ】に入れたら、推薦する事。
元より成績が学年の最底辺だった陸がツヴァイに入れる訳ない、と馬鹿馬鹿しく思った、レイの過小評価故の敗北だった。
陸は、あの二ヶ月で教師を始め生徒全員から驚異の目で見られるほど、成績がうなぎのぼりした。
このリンドウ学園は三学期と呼ばれるこの最期の時期の成績が次の学年のクラスに響くシステムである。
なので、陸は三学期のテストと授業に全てを投資し、あの飛鳥すらドン引きする程の勉強量を積み重ねたらしい。
"本当、世界が滅亡するのかと思ったよ"
そう、呆れ笑いと苦笑いを交えた笑みで飛鳥は語ったのを、レイは引きつった笑みで返したのを今でも覚えている。
そうして勝ち取った風紀委員長の座は、生徒会長となったレイが推薦したものと知っても誰も何も言わなかった。
勉強し、成績が上がり、誰からもその頑張りを認めてもらったからこその推薦だと。
ーーーーーだが、今では後悔している、と当時を知る生徒は思った。
陸が風紀委員長になって、髪を奇抜な色で無ければ染めてオッケー!と宣言した時から、学園の生徒の茶髪率がとても目立つようになり。
さらに委員長本人は"赤メッシュ"である。
さらに言えば"ピアスもオーケー"になっているのである(委員長だけ)
本人曰く"委員長だから多少いいだろォ?"らしい。
ーーーーーは?
全生徒(レイも含む)が思った。
だが、そんな独裁者のように好き勝手やっているのか、というわけでもない。
振られた仕事はキチンとするし、今回の会議だって忘れていただけでいつもはちゃんと来ている。
だが、茶髪になった事(赤メッシュ入り)とピアスのせいで一気にヤンキー感が増した陸を指差して"あれ、俺らの風紀委員長"といえば、他校からなんと言われるか大体予想出来るだろう。
ーーーーーえ、あのヤンキーが?である
そんな会話をレイは一体何回聞いた事だろう。
ーーーそして、時は現在…今朝の会議の事が頭を占領し授業内容がすっ飛んで訪れた放課後。
今日は降水確率が高い、という予報だったらしく外はザザ降りの大雨。
全く、朝の会議に遅れるわ、その内容がクソ過ぎるわ、ついてない…と。
わかりやすく肩を落とすレイに、八神家にお邪魔したツケが回ってきた。
ーーーーー傘持ってきてない〜………。
天気予報を見る前に飛び出したから借りる事すらしてない。
走って帰るか…とアインスから出た時。
「…よォ、遅かったなぁ、居残りかァ?」
…目に痛い茶髪赤メッシュが、教室のすぐそばの廊下に背中を預けてこちらを見ていた。
「なんでいるんだよ…部活……は休みか」
「おー…流石にコーチもそこまで鬼じゃねェよ」
「だよなぁ……俺も今日は弓道部が【雪月花】使ってるからオフ」
リンドウ学園の外部活は雨や雪、雷などの天候の場合は休みになる。
校舎を走る、トレーニングをするなどといった選択肢はないのだ。
それに少し謎を感じたレイが教師に問うたところ。
"んな事したら校舎が汗臭くなるだろ"と真顔で返された。
そんなこんなで陸上部短距離エースさんはこの生徒会長の魔弓科がオフと知って、ここに出待ちしていたらしい。
今日はオフ、と言えば"知ってる"とイタズラ顔で笑われたので、デコピンをお見舞いした。
「って、俺ら傘ないの忘れてたぁ……」
「ん?傘ならあるぜェ?」
「え」
「え」
お互いの顔を見合わせて、おうむ返しに返した「え」を連呼した後、待て待て…と。
「なんで傘持ってんの…?」
「飛鳥から連絡あったんだよ…ほら」
と、何食わぬ顔で携帯の画面を見せてくる陸。
ーーーー兄さんへ。
今日、雨が降るらしいから傘"転送"しておくね。レイも持ってないだろうから、送ってってあげたら?
ーーーーーー弟、いいなぁ……。
柄にもなくそんな事を思う、目の前の兄弟愛の具現化のようなメールに、思わず目を細めた。
このツンデレのような対応、全く俺の親父のような飛鳥だぜ、と。
会社で奮闘しているであろう実の父が脳内にこんにちはして、慌てて頭を振り思考を変える。
「転送って……飛鳥も思い切ったことするな…」
「おー…でも、転送場所は"下駄箱"だとよォ……わからなくもねェが、他にあったろォ…」
「それ」
二人が言っている、転送とやらは文字通り"傘を学園へ送る"と、デリバリーのようなものである。
………魔法での転送だから、時間はコンマ数秒だが。
その反動で、同じ属性の魔力を持つ生徒がざわつくので、あまり転送はしないのだが。
だから下駄箱を転送場所に選んだのだろうが…と。
今更だが、リンドウ学園は上履き制である。
バレンタインデー、ホワイトデー、クリスマスにハロウィンは、この下駄箱が魔性の箱と化すのは言うまでもない。
「ちょっと待っててくれ、傘取ってくるわァ」
「りょーかい。んじゃ靴履いて待ってるな」
「おー」
ツヴァイの下駄箱へと向かった陸の背を見て、レイもアインスの下駄箱へと足を運んだ。
"【アインス】レイ"と書かれた金属製の小さな扉についた取っ手を掴み、手前に引いて靴を取り出そうとして……。
ハラリと中から紙が踊り出て、レイは開けっ放しにしたまましゃがんだ。
「なんだこれ………封筒?」
…封筒らしい、その紙を拾って、差出人が書かれていないのを確認する。
誰が、どうして、などこの際はどうだっていい。
ーーーー大体、下駄箱に入っている謎の封筒とすれば内容がわかるので。
「…ん?レイィ、何して………」
「あ、陸………うん」
「あー…お前も大変だなァ……」
折りたたみ傘を手に、こちらに歩み寄る陸も、同じくしゃがんで察したらしい。
同情の声を上げる真隣の幼馴染に、苦い思いで返答するが、封を開けーーーーーー。
「は……?」
「おま…これ…ッ!」
そこに書いてあった………"果たし状"という文字に、思考が真っ白に吹き飛んだ。
あ〜…なんと予想斜めな………確かに、これもラブレターの一種なのか……?
全くもって予想外の出来事に、続いて殴り書かれた文に……今度こそ、目のハイライトが消えた。
ーーーーーー凛"英"魔導学園の、校舎裏にて待つ
もはやどっから突っ込んでいいのかわからない。
ただ、この二つ言わせてくれ、と。
まず、リンドウ学園は凛"影"魔導学園であり………。
最大の音量でいいたいのは、これである。
ーーーー土砂降りの中待たせてごめんッ!!