コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.13 )
日時: 2019/03/22 09:00
名前: Rey (ID: NvHaua1/)

六話 生徒会長と予想外の事態 後編


下校時に見つけてしまった果たし状に、どうしていいか分からず、けれども一応校舎裏に行かなければ差出人はずっと放置されたままだろう、という事で。




ーーーー陸と相合傘をしながら、"屋根のない"校舎裏へと向かっています。



正直、震えるほど怖いです。
いやだって、果たし状だよ?俺なんもしてない善良な一般市民のうちの一人よ??
ワンオブリンドウ学園生徒よ???
なんで果たし状が下駄箱に入ってるの!?と
誰にぶつけていいかもわからない、悲痛の叫びを噛み殺して、レイはただ無言に、パチャパチャと水たまりに足を踏み入れる毎になるその音を聞きながら、重々しくため息をついた。
ーーーーこの角を曲がれば、校舎裏である。
隣で傘を持つ陸の手も、少し強張った。
果たし状と書かれた紙はレイのポケットにある。
普通に考えて、果たし状といえばヤクザあたりが突きつけてくる宣戦布告の意思表示だ。
と、いうことは。
もしかしたら、この果たし状と書かれた紙の差出人は、陸の後輩である中学部のリンチ事件(命名、陸)の犯人かもしれない。
そう思って、陸は傘の取っ手を握り潰すように、硬く、強く握って、気持ちを落ち着かせた。
ーーーー傘が喋れるとしたら"なんでや俺関係ないやろ"とでも言いそうだ。



そんなこんなで、覚悟を決め、校舎裏へと続く角を曲がると………。




ーーーーーそこには、傘もささずに仁王立ちで背を向ける、学ラン姿の男五人。



真ん中に佇む、やけに大柄な男は金色に髪を染めており、周りにいる四人は、なんとなく舎弟のようなオーラを醸し出していた。
ーーーーーつまりは、完璧ヤンキーな五人組だった。
ふらりと倒れそうになるレイを支え、陸は静かに。
「………よォ。テメェらが果たし状の差出人かァ?」
けれども、隠された殺意で威圧的に放たれた言葉を。
………傘に当たる雨音だけが、耳に響く中。
数秒の沈黙をもって、リーダーらしき男が、静かに振り返った。



「……………貴様は……玲夜さんの、なんなのだ……?」


ーーー切れ長の瞳には、怒りが隠され、レイは無意識のうちに一歩後ずさり…肩が、雨に濡れた。
「あァ?………簡単に幼馴染かァ?」
「幼馴染…………相合傘、する程の仲が、幼馴染………?」
「は?相合傘する程って……別にィ、俺とレイは恋人でもなんでもなーーーーー」
「恋人だとォッ!?」
プルプルと震えていた男が、一際声を荒げたのは、"恋人"というワードらしい。
めんどくせェと顔に書いてある陸の横顔を見れば、こんな奴らにアイツはやられたのか、と悔しさに歯を噛んでいた。
「貴様ァ!玲夜さんと恋人などと抜かしおってェ!!」
だが、その表情を相手は"嘲笑い"とでも見えたのか、怒りに顔を赤く染めて、拳を握りながらこちらへと駆けてきた。
それにいち早く反応した陸は。
「はァ!?ッチィ!レイ傘持ってろッ!!」
「は?え、え!?」
カバンを投げ捨て、傘を強引にレイに手渡して、同じく拳を握り、反撃の体勢をとった。
陸よりも一回り大きな体を持つ男の拳が陸に振りかざされ。
「陸ッッ!!」
思わず叫んだ、その時。



「…おッせェんだよデカブツがァッ!!!」
「ガ、はァ…ッ!?」



残像さえ見えそうな瞬発力と回避術により拳を躱した陸のカウンターが、男のみぞおちにクリーンヒット。
肺の空気が押し出され、咳き込み隙だらけになった瞬間に。
「…おい、テメェよくそんな腕で俺に勝とうなんて思えたなァ?」
ガッと染められた金髪を掴み、お?と凄んで見せた。
それを、悔しそうに見上げる男の姿。




ーーーーあれ?



「…あ〜……俺が言うのもなんなんだけどさ……そこの四人、助けなくていいの…?」
いかにも、リーダーがやられてます、という状況にも関わらず、舎弟(と決めつけている)四人は微動だにしない。
………ずっと、背を向けたままなのだが。
すると、四人のうち一人がくるりと振り返り。
「………すいませんね…兄貴が突っ走って…」
ペコリとお辞儀をした。
唖然とする中、他の三人も振り返って。
「「「すいませんでした………」」」
ーーーー口々に謝罪の言葉と、謝罪のお辞儀をし始めた。
「え、と……?」
まさかの展開に心が置いてけぼりにされたレイは、ただ混乱するばかりで。
「…何、こいつら何しに来たんだァ…?」
男の髪を掴んだままお辞儀している四人を一瞥する陸の言葉に、反応したのは、ずっと髪を掴まれて強制的に上を向かせられているリーダー格の声だった。
「……俺ぁ…ただ、自分の無念を"果たしたかっただけ"なんだよ……」
「あァ?」
土砂降りの雨の中、確かに聞こえたその言葉に、陸は男と同じ目線までしゃがんで。
「なんだァ?言いたいことあったら言ってみろやァ……場合によっちゃ相手になんぜェ?」
暴力沙汰になるのであれば、正々堂々勝負しよう。
売られた喧嘩は買う主義だ、と強調する陸。
ーーーーだが。
「違うんス……兄貴は、ただ玲夜さんに言いたいことがあって来ただけなんスよ…」
顔を上げた舎弟組の一人が、そう言った。
「え、俺に?」
「はいっス………兄貴はーーーー」
思わぬ話題の振り方に素っ頓狂な声を上げたレイ。
そして続いた舎弟君の言葉は…。
ーーーprrrrーーーprrrrーーーと。
何処からか鳴り出したコールの音によって途切れた。
「…あー…悪ィ、俺のだわ。とりあえず、レイに何かしようとしたら正当防衛でぶん殴るからァ、そこんとこよろしくなァ」
胸ポケットから取り出した携帯を見ながら、陸はそう言って数歩下がった。
ようやく頭が動かせるようになったリーダー格の男は、ヨロヨロと立ち上がり。
「……玲夜、さん………」
切れ長の瞳を、雨のせいではないだろう潤み方で向けた。
ーーーーーあっれぇ…なんかいやぁな予感するぞ〜?





「え、それマジでェ…?」
『うん。"立花たちばな魔導まどう高等こうとう学校がっこう"っていう偏差値は下の中くらいの高校の三年。ごめんね、連絡入れるの遅かった?』
「あー……あァ、ちょいと遅かったなァ…」
携帯の画面に表示された名前は"飛鳥"
珍しい、と思い電話に出れば、少し聞き捨てならない言葉を聞いた。


ーーー『兄さんたちが帰って来る前に組んでたサブキャラのパーティで、レイに明日…つまり今日告白するって男子生徒がいてね。話からリンドウじゃなさそうで、少し気になったから"ハッキング"して調べたんだけど。それがどうやら純不良らしくてねぇ……少し危なそうな気がしたんだけど、今朝言いそびれちゃって』
「いやその前に堂々と犯罪犯したって言われた兄ちゃんの気持ちになってくれるとありがてェなァって」ーーー


全く、頭が良すぎるのも困るもんだ。
ハッキングだなんて、そんな物騒な事を平然とするそのメンタル強さを、陸は現実逃避として過大評価し、なんとか乗り切った。
そして聞き捨てならなかった言葉二つ目。
レイに告白しようとしている男子が純不良。
ーーーーまさしくアイツらじゃねェか。
朝バタバタしていなければこの情報を今朝知れたのに、とド忘れしていた自身の海馬を呪った。
冒頭の会話から察するに、少し落ちこぼれな生徒がレイに一目惚れして、告白するぞ、となったらしい。
あの熊のような身体して脳内乙女か、と突っ込みを入れたかったがーーー。



ーーー「俺、玲夜さんの事が好きだ!付き合ってくれッ!!」



まさしく、予想していた言葉が彼の口から飛び出して、その突っ込みは保留になった。
『……僕まで聞こえちゃったよ……兄さん、なんとかレイを家に送り届けてね』
「おー……頑張るわァ…」
飛び火で聞こえてしまったらしい電話越しの飛鳥の声は少し上擦っていて。
生の告白だなんてそうあるもんじゃねェしなァと、レイのお陰で慣れたその言葉に恥じらう弟に、少しだけ愛着が湧いたのは内緒にしておいて。
告白され、そしてその次にレイが取る行動はただ一つ、というのも承知の上。
「…ごめん、それは出来ない」
タンッと電話を切る赤いマークをタップしたと同時に聞こえた、無機質な声。
見れば、俯いてその顔は見えない…けれど、相当の罪悪感を滲ませているであろう、その顔が、陸には見えた。
「……そう、か……そうだよな……玲夜さんが、俺なんかーーー」
「でも」
フラれた事に悲観し始め、雨に隠れて泣きそうになった、立花魔導高等学校三年の実質の先輩(飛鳥ペディアより抜粋)に。
レイは、静かに持っていた傘を傾けて。
「………告白する勇気を持っている貴方は、きっと他の人を助ける為の力を持っているって信じてるから。だから、今こんなところで風邪ひかないで、誰かのために生きてみよう?」
ふわりと、花が咲いたように微笑んだレイの姿に。
リーダー格の先輩を始め、舎弟組の中でも"なんて…なんて心が綺麗な人なんだ…"や"俺…俺ぁこんな潔白な人と今まで会ったことねぇよぉ…"などといった声が上がり始めた。
ーーーーあー…出たよ、レイの無意識人間タラシ癖…。
小学の頃からあったその癖に翻弄される同級生、後輩、先輩…そして教師の方々を特等席(レイの隣)で見続けてきた陸こそわかる、その魔性。
傷心した心を癒すべく語りかける暴力的な優しさを持つ言葉をかけて、その心を魅了する、レイの無意識行動の一つだ。
リーダー格の先輩はフラれた事に対して傷心、舎弟組はそんな兄貴を見て傷心……後にレイのホスト魂によって陥落した模様。
だが特に傷ついてもない第三者(陸)からしてみれば。



ーーーー告る勇気あんだったら他の事に活かそうぜ?そんなヤクザしてて人生楽しいか?



……………これを、ホストのように優し〜い言葉に変換すれば、ああなる、と。
陸だけは本心の心を見破って、あいも変わらずその"腹黒さ"は変わらないようで、と肩をすぼめた。




「…そういえば、なんで果たし状?」
思い切り傘をさしてあげながら聞いたレイの素朴な疑問。
告白するためなら、何も果たし状と書かなくてもいいだろう?と。
「あ、いや………さっきも言ったが、俺のこの願いを果たす為の手紙で……」


ーーーーーーーはい?



「え、じゃ何……結局決闘とか、そういう暴力的なものじゃないわけ?」
「あ、俺らが言うのもなんでスけど……兄貴、こう見えても喧嘩弱えんっス」
「………え?」
「あー、だよなァ。あの振りかぶり、完全にど素人の動きだったからよォ」
「……え??」
予想外の言葉だらけに、またハテナマークが頭脳を占領し始めたレイ。
くるくると目を回しそうになりながらも、とりあえず果たし状は"彼にとっての"果たし状だった、という事で解決。
ーーー後は。



「…コホンッ……最後に…ここ、凛影りんえいの漢字は英語の"英"じゃなくて、"影"だからな」
ずっと気になっていた、漢字のミスを直して終わりだ、と。
ーーーーしかし。
「そうだったのか!……あ、なんだっけ……え、エンドウ学園?」
「リンドウ学園!!それ美味しい豆!!リンドウは"えやみぐさ"とも言われる紫の花だ!!」
「「「「「「リンドウって花の名前なのかァ!?」」」」 」」
「知らなかったの!?っておい陸いたのバレてるぞ!!お前なんでリンドウ学園の生徒なのに知らなかった!?」



ーーーー思わぬ未知の発見により、仲良くハモった五人プラス一人に。
レイは生徒会長というのも忘れてただただ叫んだ。
"お前らちゃんと勉強しろ"と………。






「たっだいま………疲れたぁ………」
あの後、俺らはもう十分濡れてるんで、傘は二人で使ってくれ、と走り去っていった五人組を見届けて、無事に(?)家へと帰ってきたレイ。
一日ぶりの我が家に、ヘナヘナと座り込んでしまいそうになるのをこらえ、リビングへの扉を開けた。
「…あら?おかえりなさい!一日ぶり………ってぇ!貴方肩濡れてるじゃないの!?何やってるのよ風邪でもひいたらどうするつもり!?」
愛嬌のある笑顔を貼り付けながらクネクネとこちらへ躍り出た、その女性は。
レイの肩が濡れているのを発見した途端、人が変わったかのように形相が変わり、喚き始めた。
「うるさ……大袈裟だな"母さん"……たかが肩濡れたくらいで…」
「何が肩くらいよ!?って、まさか貴方風邪ひきたいの…!?」
「は?……ぁ……んなわけーーーー」
思い違いでなんと言い出すかわからない"実の母"の言葉を止めようと静止しようとした言葉は。


「ダ〜リンに看病されてもらいたくて、その後はにゃんにゃん展開を御所望なのっ!?」



疲れ果てたレイの心を、更に削らせる"貴腐人"の発言によって、もうどうでもいいや、と静かに口を閉じた。
そう…レイの母親は……腐っている。
世間一般でいうところの腐女子…だが。
年齢が年齢なので、今は貴腐人である。
本人が言うには腐ってから35年は経つそうで。
さらに、憎いことに母は顔がとても整っている。
変に若作りをしないせいでナチュラルメイクでも相当若く見えるその美貌と、明るい性格ゆえに落としてきた男は数知れず…だが。
ーーーーー腐っていたため、誰も彼女を理解できなかったため、長くは続かなかったそうだ。
けれどもこうしてレイはこの世界に産み落とされ、更に母の美貌を受け継ぎ男子生徒から告白され続ける日常を送っている。
だから、結果的には結婚しているのだ。
ーーーー結果的に、は………。
「…おい、煩いぞ"晴香はるか"。テレビが聞こえないだろ」
「あ〜んごめんなさいダ〜リンッ。今すぐ玲夜をお風呂に連れて行かせるわ〜ん!」
「え、ちょ、なんで父さん帰って…いだだッ!引っ張るなよ母さんっ!」
嵐のように身を翻し、風呂場へと連行されるレイが見た、その男は。
母に負けず劣らずのルックスを持ち合わせた、いわば中年のイケオヤジ。
メガネをクイッと上げる仕草だけで、一体何人の女性を手玉にとったのか…。
そんな男を"父さん"と呼んだレイ…まぁ、つまりは、そういうことである。
現在進行形でレイの腕を引っ張る、"すめらぎ 晴香はるか"…レイの母親と。
"すめらぎ 蓮弥れんや"…レイの父親。
真反対のような性格の二人だが、この二人は他の異性など目に入らないような、そんな共鳴力を感じ、今に至る。
ーーーー大体察するだろうが。
父…蓮弥が見ていた、テレビこそ…。
『ちょ、おい…誰か来たらどうす…ッ!』
『へェきへェき…それより、早く続き…な?』
『馬鹿野郎!って、おい脱がすなぁ!!』



ゴリゴリの、BLアニメ…それも少しハードなもの。
つまり………腐男子であった。
しかも、このアニメは確か母、晴香が漫画で持っていたもののオンエア版だったはず。
ーーーー以前、オンエアされる前の話だが。
陸を家に招き遊んでいた時に、晴香が部屋を強引に開けて。
「玲夜〜?陸君〜?ちょおっと"これ"、音読してくれなぁい?」
ニヤニヤと笑いが溢れていた、母の手には。
………それはもう、明らかなBL本で。
更に言えば、表紙でなんとな〜く察した、登場人物とその立場的なものが。
"黒髪優等生が受けで、茶髪ヤンキーが攻め"という。
ーーーーーこの母親、息子と幼馴染でBL妄想してんのか
その時は髪を染めていなかったが、ウィッグで茶髪としていた陸だったため、その本とほとんど同じ立場な現状が出来上がっていて。
そして、その日は休日だったために。
「…玲夜、陸君。もしやってくれたら好きなゲーム一つ買ってあげよう」
ーーーーこの、腐男子までいやがったのだ。
「ゲーム!?マジでェ!?」
「おい陸よせ、俺らのプライバシーに関わーーー」
「決定ねぇん!それじゃあ、カメラ用意するから待っててぇん!ダ〜リンカメラカメラぁ!」
ゲームを買ってあげる。
その誘惑にあっさりと負けた当時中三の陸と、巻き添えを食らったレイ…そして意気揚々とカメラを取りに行く実の両親……。
今思えば、ゲームを買ってあげるという誘惑に負けたのは、新しいゲームを飛鳥にあげたかったから、なのかもしれないなぁ、と思いつつある。
ってか絶対そうだと思う。
ーーーと、まぁ俺の両親は全くもって普通じゃない。
自分の息子を妄想のネタにする親は、少なくとも多数いるわけじゃないと、そう思いたい……。
そう、濡れた制服をなすがままに脱がされ、デュフフ、と気持ち悪く笑う母を見ながら、レイは早く寝たい…と現実から目を背けた。



ーーーーああ、父さんが今日早いのって、リアルタイムであのアニメ見たかったからか………とーーー