コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.14 )
日時: 2019/03/24 09:08
名前: Rey (ID: NvHaua1/)

三章 リンドウ学園の学園風景

一話 生徒会長と噂話


昨日、ヤンキー達に絡まれ、果たし状という紛らわしいラブレターの末、いつも通り告白されてフッて。
ようやく帰ってきた我が家には息子で妄想を捗らせる実の両親に捕まって……。
正直、寝れた気がしない、と寝起きのレイはいつも以上に声のトーン低く"おはよ"とリビングへと降り立った。
ちなみに、この家は八神家と同じように二階建てであり、一階はリビングと両親の部屋…つまりは生活スペースが主であり、二階はベランダとレイの部屋、という構造である。
が、両親の部屋の真上がレイの部屋なため、二人の会話が聞こえることもしばしば……。
それら全て、レイと陸…更には飛鳥も交えた妄想話だった時は毎回悪夢を見る。
「あぁ、おはよう」
「…んぁれ……なんれ父さんいるんだ…」
「おはよう玲夜!ダ〜リン、今日有給とったんですって!だからぁ、今日は一日中家にいるわよぉ!」
「………同性愛についてとやかく言わないけどさ………俺らで変な事考えんのやめよ…?」
意識が半分夢に浸っていたレイだが、父…蓮弥が携帯から顔を上げて軽く微笑んだ、その姿に。
ハテナ?と首を傾げるも、答えたのはキッチンに立つ母、晴香の声で。
…いや、この二人が一日中いたらどうなるのか考えたくもない、と。
どうせ、昨日オンエアされていたアニメを繰り返し見たりだとか、また新しいタイトルのコミックを漁ったりするのだろう。
………出来れば、その集中力を他の事に活かして欲しいが。
「変な事?お前を愛している証拠だ……ろ」
だが、BLを変なこと、と反応した父が口走った言葉に…だんだんと顔が赤くなっていくのを母が携帯で連写しながら。
「あら!?ダ〜リンッデレモード!?」
「忘れろ晴香、俺は何も言ってない漫画の朗読をしただけだ」
「嘘よだってダ〜リンが読む本はそんな少女漫画要素の薄い本って知ってるもの!あ、私今上手いこと言ったかしら!?」
全ての家事を放棄して癒しデータを量産する母親に、くいっと服の袖を引っ張ったレイは。
「…………俺お腹空いたんだけど…」
上目遣いで、ムスッと頬を膨らませ、そう言った。



「……………………」パシャ
「ちょ、何写真撮ーーーー」
「晴香、焼き増しラミネート加工だセブ◯イレブンへ走れ」
「もちのろんよ待ってて財布の有り金全て投資してくるわ」
「え、ちょ、財布持ってどこ行く……朝ごはんはッ!?」




ーーーーこの後、知らんぷりを決め込んだ父を殺意のこもった目で見つめながら、レイは渋々家を出た。
流石に朝抜きというわけにも行かないので、途中みんな大好きマ◯クに寄ってハンバーガーを頬張っていたのはリンドウ学園の生徒が目にしてその日のうちに拡散されたのは言うまでもない。






ーーーー突然だが、このリンドウ学園の生活風景を観察したいと思う。
ここ、【アインス】では今日も机の中にラブレターが仕込んであって朝っぱらから項垂れている生徒会長はとりま置いといて、と。
リンドウ学園は珍しく、担任がほとんどの教科を担当する、いわば小学校と同じ体制をとっている。
…まぁお金がかかるからとかいう大人な事情が絡んでいることは伏せて。
そんな、今日も今日とてホームルームが始まったアインスでは。
……そう、今日も、今日とて……。
「…ぐっどもーにんぐ、しょくん……おれはぐっどじゃないがな…ははっ……」
(((毎度思うが先生は何に追い詰められてんだよ)))
この、無駄に顔がいい癖にクマが取れない、完璧不健康の代名詞である担任の、げっそりとした声で学園生活が始まった…。
思い切りやる気削がれるとか、そんな事はもう今更だ。
学年が上がって二ヶ月経った今…つまり"六月"なわけだが。
…昨日の土砂降りも梅雨だったから、傘を持っていくのを忘れた自分の頭の悪さに反吐が出たが、それはもういい。
過去は過去、今は今だ、と割り切って……ラブレター貰って返事どうしよ………。
と、割り切ろうとしたが割り切れない事情にガンッと頭を打ち付けた生徒会長はおいといて。
「おいそこのせーとかいちょー………眠気を抑えるのであればコーヒー飲めコーヒー……俺はエスプレッソ3杯飲んだぞ〜……」
「いや先生多分玲夜は寝不足じゃないかと」
「ってかエスプレッソ3杯って下手すりゃ死ぬんですが…?」
「まず胃が荒れてヤバいだろ…ってもう慣れて大丈夫か、先生なら」
ビシィ…と指を指されたレイだが、全く顔を上げるそぶりを見せず石像のように動かないレイに、もう慣れたわ、と皆黒板を向く。
唯一隣が"おい、早く起きろよ"とツンツンしているだけで、もう他は授業モードに突入だ。






「…はいこれで授業を終わる……起立、礼…」
「「「ありがとうございました」」」
ーーーキーンコーンカーンコーン……。
チャイムが鳴り一限目が終わると同時に、レイは着席するの事なく教室を出るのを、担任は虚ろな目で。
「…まぁた告白かぁせーとかいちょー」
皮肉か、それとも嫌味なのか。
呂律の回っていない口調で、担任……斎藤さいとう和葉かずはは言った。
中性的な名前だが、れっきとした男性教師である。
「先生、頼みますから正気保ってください。どっちが教師なのかわからないですよ………って、なんですかその目。そ〜ですよ、別に今に始まった事じゃないでしょう」
「知ってる。………お前、大変だなぁ。俺ら教師の中でも人気っていう情報…いるかぁ?」
「もうあげてるじゃないですか……え、俺そんなに…って時間やば…それじゃ先生、次の授業もよろしくで〜す」
けれども、これも慣れだ、塩対応塩対応と目すら合わせずに淡々と喋るレイ。
授業は真面目に受けるので眠気は吹き飛んでいるようだ。
パッチリ開かれた海の目は寝不足でハイライトが死んでいるこげ茶色の目を射抜き、ため息混じりにヒラヒラと手を振った。
ガラガラ、と教室の扉を開けて、ラブレターの書いてあった【ドライ】までわざわざ出向く。
普通ラブレター書いた方が行くんじゃねぇの?と思うが、この差出人は意外と賢い。
まさにその通り、だから【ドライ】の生徒を"わざわざ"レイが呼びに行く……となると、周りの目からはレイ"が"ドライの生徒に何かあるのでは?と思うわけで。



ーーーーいやまぁ、この作戦も何回かあったからみんな察して目を合わせてくれないけど



そんなわけで、ドライの扉を開ければ騒めきが一瞬にしてシーン…とお亡くなりなったようで。
ただ一人だけソワソワと顔を赤く染めている男生徒がいたが、きっとあの子だろう。
「…えっと。とりあえず、この手紙の差出人は………」
まあ確認は大事だ、何事も…というかこういう事の確認は大事だろう少なくとも。
そう思ってポケットに忍ばせていた手紙を取り出すと、真っ先に反応した…その差出人。





「僕だよー玲夜くーん(笑)」
ヒラヒラとおちゃらけた風に笑う"ドライの担任"に。
「………はぇ?」
思わぬところから声が上がったため、「はい?」と言おうとしたのだが「え?」と混ざり変な返事になった。
え、待って待ってなんでドライの担任…あ、和葉先生が言ってた事ってこれ…?




「…あの、別に俺じゃなくても良くないですか、これ」
「あはは、これ僕一人じゃどーにも出来なくてさー!いやー助かった助かった(笑)」
「…(笑)ってわざわざ言うのやめません?」
「えー(笑)」
上半身を覆い隠すほどの段ボールを担がされて、生徒会長こと俺はドライの担任兼ラブレター(?)の差出人と、廊下を歩いています。
ーーーー正直、ぶん殴りたくなりましたけど、なんとか持ちこたえてます。
ジト目で隣を歩く高身長眼鏡イケメン(教師)に、レイは重くため息を吐くが、それすらも相手の笑いのツボに入るらしい。
なんともやりづらい相手…レイが苦手とするタイプの一人だ。
「ってか授業始まるんですけど…どうするんですか」
「んー、僕に連れ出されたって言っといてー(笑)」
「だから(笑)って言わないでください。…貴方クラスの担任って立場理解してます?」
「あはは、玲夜くんは厳しいなー(汗)」
「…………もう、ツッコミませんからね」
ようやく見えてきた職員室にホッと息をつくも、束の間の休息。
ガラガラと扉をスライドすれば、ほとんど教師のいないデスクがズラリと目に入る。
そこらへんに置いといてー、と彼も持っていた段ボールを無造作に置き、肩をグルグルと回している。
「…それじゃ、俺もう戻りますからね」
適当に置け、と言われても仮にも職員室なので、彼のデスクに近いところ、かつ邪魔にならないところを探して、中のものが壊れないように(というか中身見てないから何が入ってるのかわからない。でも重かった)そっと降ろして、そう言うレイに。
「………まーもう遅刻は確定だしちょっと付き合ってよー」
「は?………ッ、先生…っ?」
……だが、デスクへと追いやられて両脇を腕で挟まれ、いわゆる机ドン…いや、デスクドンをされた。



ーーーーは…?


「僕ねー、ノンケな筈なのに、玲夜くんだけはなーんかイける気がするんだよねー」
「…ふざけないでくださいよ。俺は誰とも付き合う気はないですし、まず貴方教師でしょう」
「あは、本当マジメだよねー………今日、八神が"休み"だから絶好の機会チャンスって思ったんだけどー」
「……………え、あいつ休みだったんですか」
「あれれー?知らなかったのー?」
先生の顔が少し真上にあって、ドアップなこの状況だが、まさか陸が休んでいるとは…。
一限目の休み時間なうだったので気づかなかった。
いや、でも普通に考えたら風邪ひくな…。
忘れていたが、昨日ヤンキーから庇った(?)陸が傘をレイに預け、土砂降りの中突っ立っていたのを思い出した。
あれだけびしょ濡れならば風邪もひくだろう。
ナントカは風邪をひかないとも言うが……それが本当なら、陸はナントカではなさそうだ。
と、現実逃避がてらに考えるも、はっと我に帰る。
ーーーーとりあえず、退いてもらわねば…。
「…先生、俺は先生をそういう目で見た事は無いです。ってか男相手に親愛以外何も持ちません」
「んー…俺もそうだったんだけどねー。実際僕は君にメロメロメロンなわけでー」
「…からかってます?授業始まるんですけど…!」
キッと睨むが、相手にとっては逆効果だったらしく、ドロリと黒い何かが溶けた先生の深緑の瞳が細められる。
ーーーーーこれは、マズイ。
冷や汗が頬を伝い、思考がブレる。
正直、教師まで俺のことを想ってるとは思わなかった。
だが、生徒同士ならば百万歩譲ってオーケーだとしても、教師は駄目だろう教師は。
…いや、生徒でも勿論嫌だが。
ーーーーキーンコーンカーンコーン…。
…………二限目の始め…そのチャイムが鳴った。
「ちょ…!授業サボってるみたいじゃないですか!早く退いてください!」
本格的に焦ってレイが胸元を押すも、ビクともしない。
逆に、触れた時に感じた筋肉にサッと汗をかく。
正直、この先生は見た目が細く華奢なイメージだったので、そこまで力があるわけでもないだろうと思っていたが……。
「あは、僕こー見えても筋肉ついてんだよねー(笑)」
「いや(笑)じゃないですよ!?貴方自分のクラスの授業サボってどうするんですか!」
「あ、二限目は音楽だから僕担当じゃないのー(爆笑)」
「爆笑しないでください俺は社会なんですけど!?」
…教師としての立場が危うい事を盾に逃げようとしたが、よりにもよって"担任が担当する教科外"の音楽…。
あのラブレターに書いてあった、"一限目の休み時間に高二【ドライ】にて待ってます"という言葉にひっかかったが、わざわざ一限目の休み時間と限定したのはこのため………ッ!?
そして、【アインス】では社会…つまり、担任が担当する教科であるからにして。
この目の前にいるドライの担任………レイに二重ダブルバインドを仕掛けてきやがった、と…。
「あはは………まぁ、もうサボっちゃったから戻っても戻らなくても同じだよねー。…保健室行く?」
「行くわけないでしょう!?……正当防衛で殴りますよ…ッ?」
「わーこわーい(棒)」
「くっそそれチョームカつくんですけど」
ヘラヘラと笑いながらも目は笑っておらず。
心なしか、左右に置かれた手が握りしめるデスクの角はミシミシと音を立てている気がする。
…………マジで股間蹴ろうかな
そう、はんば本気に思った、その時。





「………"中崎なかざき"せんせー?俺の生徒になにしてるんですかね…?」





一限目に聞き慣れた、やる気のない死んだ暗いトーンが、この場の空気を粉砕した。
「か、ずは先生……?」
「あっれ、和葉さんじゃないですかー……授業サボるなんてイケナイ人ですねー(笑)」
「いや…中崎せんせーに言われたくないんですけど………俺はただ、生徒会長の戻りが遅くて連れ戻しにきただけですよ………」
はぁ、とわざとらしくため息をつくアインス担任…和葉先生はいつもよりもハッキリとした口調で。
「さっさと離してくれませんかね………生徒会長、困ってるでしょ………それと、授業中断させてるから、残りの生徒を待たすわけにもいかないので………」
珍しく、ハイライトの入ったこげ茶色の瞳をギラつかせて、ドライの担任……中崎なかざき大和やまと一瞥いちべつした。


ーーーーはぁ、と。
「わかりましたよー………周りにバラされても困るので引き下がりまーす………でも、諦めるとは言ってないからねー(笑)玲夜くんも、よろしくー」
ようやくデスクドンから解放され、レイは絶対に背だけは見せない、と猫のように警戒しながら後ずさり。
それを見て、中崎大和先生はくすり、と。
「それじゃーねー玲夜くん(笑)和葉さんも、迷惑かけましたー(笑)」
ヒラヒラと手を振って、職員室に備えられているコーヒーメーカーへと足を運んだ。





「…助かりました、和葉先生」
どっと疲れが押し寄せて肩の力を抜く生徒会長を横目に、和葉はただ。
「………いや、止めなかった俺も悪い。教師の中でも、中崎せんせーは群を抜いててな………」
「でしょうね…目が怖かったですもん」
授業が始まり誰もいない廊下、授業を中断してまでも来てくれた担任に、心から敬意を払うレイを置いて、和葉はそっと胸ポケットから携帯を取り出した。
「…先生?」
急に立ち止まり視界の端から消えた和葉を、数歩先から無垢な目で見つめる生徒会長。
「…いや、先に言っててくれ。言い訳を考えているんだ………」
そう言って、またハイライトを消すこげ茶色の瞳で訴えられては、レイは何も言えず【アインス】へと戻る他無かった。



「………今日も、モデルの優等生は告白される…しかもそれはイケメン教師で禁断の関係………でも優等生はフりました、と………」
『ヨモギティーチャー』という名前で呟かれたその言葉は、ネットを通じて全世界へと発信される。
和葉は、自身の呟きがドンドンリツイートされていくのをさも興味なさそうに見た後、プツッと携帯の電源を消した。








ーーーー 一方その頃、すめらぎ家の自宅では。
「…あら?………あら!?ちょ、ダ〜リンッ!"ヨモギ先生"が新しく呟いてるわよ!?」
「………教師との禁断の関係…これは新しいネタとして"描かれる"かもしれないな…」
三年も前から愛読してきた"BL本の著者"の呟きにて、騒ぐ男女がいた。
女性……漆喰のような黒髪をストレートロングにしている、皇 晴香と。
男性…ソファにゆったりと腰掛けるイケオヤジ、皇 蓮弥だ。
「それにしても、教師にも告白されちゃうなんて、とんだ罪深い子だこと……一体誰が"ゼロ"のモデルなのかしら………気になるわねぇ」
そう、テレビの中で赤面し、恥じらいながらも小さく喘ぐ"推しキャラ"の名を呼んで、晴香はホゥ…と息をつく。
ゼロ、と呼ばれる男子生徒は画面の中で茶髪のヤンキーと共に……というシーンで。
「だがヨモギ先生は教師なんだろう?だとしたら、"ソラ"のモデルも同じ学校なんだろうな」
その茶髪ヤンキー…ソラがドアップに映る時に、蓮弥はそう言った。




ーーーーいや、まさかねぇ…?



皇夫婦は、まさかリンドウ学園に通っている我が息子と幼馴染がモデルなのではないか、という仮説が頭をよぎったが。
…………とりあえず、アニメ見て萌えよう、と。
テレビの音量を無言で大きくし、そのまさかの仮説を胸がキュンとする声によって洗い流した………。