コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.15 )
日時: 2019/03/29 18:41
名前: Rey (ID: NvHaua1/)

二話 生徒会長と魔導授業



逃げるようにアインスに滑り込んだ優等生(笑)を、一同目を丸くして見やる。
だいたい察した者もいるようだが、ただ首をかしげる生徒も多数。
だが、説明する程の事でもないだろう、というか説明したくない、と無言を貫き、レイは自分の机に向かった。
「…おい、大丈夫か?」
唯一隣に座る心優しきクラスメートに心配の声をかけられるも。
「……うん、多分」
「多分…!?ほんと大丈夫か…!?」
更に心配の色を濃くしてしまった。
いや、そんな顔をするな隣人よ、俺の方がそういう顔したいんだ………中崎とかいう教師の頭を心配したいわ…、と。
珍しく授業中に不貞寝を決め込もうと決意したレイなどいざ知らず。
呑気にガラガラ〜と入ってきたアインスの担任、斎藤和葉に皆が一斉に集中スイッチを入れた。
「……悪かったなぁそこのせーとかいちょーが"変なやつ"に絡まれてて助けに行ってたらこんなに時間おしてるとは俺も思わなかったんだぁ…」
トン、と出席簿を肩に乗せてため息をつく担任に、ヒソヒソとどこからか生徒の声。
「…この学年に変なやついたっけ?」
「いや、【ツヴァイ】は八神がいるけど、【ドライ】は一般的じゃね…?先生はおちゃらけてるけど」
「あれそういえば中崎先生の事前"変なやつ"って和葉ティーチャー言って無かったっけ」
「「「「………………え?」」」」
バッと元凶の元を見るクラスメート全員の目は。
けれどーーーーー。
「……スゥ………」
スヤスヤと静かに、気持ちよさそうに寝息を立てる生徒会長の顔を写すこととなり、またバッと目を背けた。
「(…生徒会長、可愛すぎかよ……!!)」
「ちょ…と…………なんで寝てんのせーとかいちょー……俺の授業始まるぞ…15分押してるけど」
だがものともしない担任こと和葉は気だるげに。
15分押しているという社会の授業を再開しようと声をかけるも。
「えー…もういいじゃないですか和葉ティーチャー。珍しく寝てる玲夜を鑑賞しましょーよ!」
という、生徒(ファンクラブの一人)が声を上げて。
「写メ撮ってもいいかな。盗撮じゃないよね面前なら」
「僕も撮りま〜す」
ドンドンその声が強化されていくのを、和葉は静かに見届けて、一つ呟く。
「……………これ、俺止めた方がいいのかな….……いいや、この授業はせーとかいちょーの写真会になりましたぁ……俺も撮るからなぁ止めるなよぉ………」
ーーーーお前ら共犯な、と。
キラリと光った目に同意するように頷くアインス全生徒(レイを除く)が静かにスマホを掲げ、カメラを起動した………。






二時限目の休み時間……。
「…お〜い起きろせーとかいちょー」
「んぁ……かずはせんせ………」
コツ、と頭を叩かれ、なんだと顔を上げればクマの濃い黒眼鏡のイケメンフェイス。
アインスの担任、斎藤和葉先生が、こちらを呆れ顔で見下ろしていた。
「…授業、終わったんですか……あ〜眠い……」
机にのっぺりとうつ伏せていた体を起こして、目をこすりながらそう問えば。
「あぁ、終わったよ……」
少し、目をそらしながら答えられた。
それに、違和感を感じながらも"授業が終わった"事に、それなりの睡眠が取れたはずだが…と。
何故か、とても休んだ気がしない。
逆に、なんか疲れた気がする…と。
レイは少しボサついた髪を直しながら、三限目の用意を始めた。
「…せーとかいちょーはさ、なんで男無理な訳?」
「………はい?」
ピタ…と聞き逃せない言葉が聞こえた気がして、思わず聞き返してしまった。
"男が無理な理由"
そんなものを問われても………レイは何故そんな事を聞かれたのかわからなかったが、ただ担任は"そういう意味"で言ったわけではない事だけはわかった。
だからこそ、何故…と思うわけだが。
「…強いて言えば、反抗するためですよ」
「はんこう…?」
コテン、とあざとく首をかしげる和葉先生に、絶対わざとだ、と内心確信しながらも、苦笑を貼り付けて。
「俺の両親、俗に言う貴腐人と腐男子で。俺と男子がイチャイチャするのを見るのが好きなんですよ。それが気にくわない、だから誰とも付き合わない……これがもっともな理由ですかね〜」
ただただ、"気のいいようにさせてたまるか"という、意地だけの事だと。
そしてそれが唯一できて初めての"反抗期"故だと。
少し、呆れを含む笑いで、こちらを見下ろすこげ茶色の、ハイライトのない目を見上げた。
「…それじゃ、俺はもう行きますね。流石に、『魔導学』はサボれませんからね〜」
動きを再開して、手早く"魔導書"と"生徒手帳"を手に抱えて、立ち上がったレイ。
ヘラヘラと笑いながら、三限目と四限目にある魔導学園特有の"魔法の授業"を受けるため。
リンドウ学園における四つの講堂……アインス専門の講堂、青龍せいりゅう館と呼ばれる東に位置する建物へと向かう。
つまり、魔導学園を選ぶ理由の大きな理由…普通の学園では受けられない"特別授業"のために、専用講堂へとレイは足を運ぶのだった。






凛影魔導学園、青龍館にて行われるアインス専門の魔導学にて………。
この世界の人口の半分が持っている潜在能力ポテンシャル…魔力の有無にて決まる学園生活。
その中で、魔力を秘めし人材の特権である『魔導学』…魔導学園を選ぶ事で教わる事ができる、魔力の使い方。
読んで字のごとく、魔法を使うための基礎、知識を養うための授業…魔導学は一度休めば置いておかれる事がしばしば。
そんな事を頭の隅で思いながら、レイは講堂の黒板を背に、魔導書を手に熱弁するリンドウ学園アインス担任を見ていた。
魔導学………言わずもがな、魔法を使うための授業である。
リンドウ学園では、アインス、ツヴァイ、ドライと三つに分けられ、各講堂にて魔法の授業を受ける。
ここ、青龍館はアインス専門館。
魔導学だけでなく、他の授業でも使われるこの建物は、アインス専門というだけあり、他のツヴァイ、ドライと比べて施設が充実している。
例えば、わかりやすいものだが生徒席がキチンとした椅子であったり、単純に綺麗だ。
そして、勿論授業内容も違う。
ドライは魔法の基礎知識を重点に、土台を作る授業。
ツヴァイは応用の知識と実技が主な授業。
そして、アインスは更に深く追求した応用の知識実技を教わる、ハイレベルな授業。
流石アインス…高レベルなクラス、と誰もが思うこの授業……。
更に言えば、この魔導学は一つの科目で終わるわけではない。
大きく分ければ三つ。
『攻撃魔法』『身体強化魔法』『召喚魔法』
レイ、そして陸は攻撃魔法科なのだが、飛鳥は名目上は身体強化魔法科である。
「…さて、今回やる攻撃魔法…いや、これは攻撃系ではないが。みな、これを見た事があるかね?」
ふと、講堂の最前線にて手を挙げた講師の手には誰もが見たことのある魔法を使うときに用いる結晶…。
つまり、魔導結晶マナ・クリスタルである。
それも、黒…に近い紫色。
「…"闇"属性の魔導結晶マナ・クリスタル……しかも上位クラスの…」
魔導書から顔を上げて皆講師の手に視線を集める。
魔力量の考え方で色が濃ければ量が多い、これは魔法を扱うこの授業からしたら常識である。
ポツリと呟いたレイの呟きを聞いたかのように話を続ける講師。
「そう、これは闇属性の魔導結晶マナ・クリスタル。今日はこれを使い"幻惑魔法"を教える」
「幻惑魔法…………珍しいな」
アインスの授業にしては珍しく需要性が薄い魔法の授業に怪訝な表情を浮かべるアインス一同に、講師はニヤリと怪しく笑って。
「この魔導結晶マナ・クリスタルに秘められている魔力量は勿論の事、属性も幻惑魔法を使いやすい闇。……そこで、君らには最近の頑張りを評し、少し遊ぼうと思う!」
ギラリと妖艶に光った魔導結晶マナ・クリスタルの如くキラキラとした目でそう言った講師に、レイは。
「………幻惑魔法で遊ぶって大丈夫なのかこれ」
もはや授業と呼べるものなのか、という疑問を持ちつつも、こういうサプライズ的なのもあるからこの魔導学は休めない、と。
特にアインスの授業ならばいくら幻惑魔法といえどその完成度は計り知れない。
これは面白くなりそうだ、と頬を緩ませて妖しく光る闇の魔導結晶マナ・クリスタルをその海のような瞳に写した。




……………結果から先に言おうーーーー。
「うぉあッ!?これなんだ!?イソギンチャクゥ!?」
「ちょぉ!?俺こんな気持ち悪いのや…こっち来んな誰だお前ぇ!?」
「お前虎…ホワイトタイガーじゃねぇか羨ましいなコンチクショッ!」
「ガルルゥッ!?(人間に戻りたいッ!)」
ーーーーー混沌カオスだった。
流石アインス…授業内容がとてもハイなレベルだった。
幻惑魔法、いざとなれば使う事の少ないこの魔法だが、使った魔導結晶マナ・クリスタルがとても有能だったためかその威力は絶大だった。
ある者は体がイソギンチャクのような触手となり。
またある者は世にも珍しいホワイトタイガーになったり。
そしてまたある者は……。
「…あれ、おかしいな…………俺が二人いるッ!?」
「すっげ!俺マジで"玲夜"になってんぞ!?」
「お前…クラスの隣人君じゃねぇか!!なんで俺になってんだややこしい!!」
……高等部生徒会長、皇 玲夜になっていた。
それはもう、ドッペルゲンガーのように。
声、身長そして言わずもがな見た目全て、玲夜その人な別人…レイからしてみれば自分が目の前にいるのだ、正直気持ち悪い。
わちゃわちゃと各自授業のため強制的に幻惑魔法を使って自身を別のものに見せたため、もはや誰が誰だがわからない者も多数。
その内の玲夜(偽物)はキラキラと携帯で自撮りしていたが………。
ふと、何も玲夜(本物)に変化が無いことに気づき、自撮りしていた携帯を降ろした。
無言でレイを見る玲夜……そして、はっと。
まさか…と。



「…お前………生徒会長じゃないな!?」
「正真正銘の玲夜(生徒会長)さんだよッ!?」
同じ思考回路の別人…!?と
同志の気配を察知したのかはわ、と口を抑える玲夜(偽物)に。
堪らず声を張り上げた玲夜(本物)が、バッと頭を抑えながら立ち上がった。
「大体!この魔法自体なりたいものになれる魔法じゃないだろ!だって幻惑魔法なんて初だもんね!?なのになんでお前俺になってんの!?」
「知らねぇよ!気付いたらお前になってたんだよ!?」
「…眼福だ……会長が二人いる……本物は頭抱えてるからわかるな」
側から見れば玲夜が二人いて(本物は何故か頭を抱えている)言い争いしている構図。
ファンクラブ会員ならばそれはもう目に毒だろう。
………………………それは置いといて。
「……本物の生徒会長はさ、なんで頭抱えてんの?頭、痛いの?」
心配した誰か…イソギンチャクは何故、どうやって喋ってるのか心底謎だが、本物の生徒会長を養うようにウヨウヨと触手を伸ばしながらそう言った。
「え、あ…いや痛くはないんだけど……隠してる、的な?」
「ガルルゥ…?(何を?)」
「…この虎なんて言ったんだろ。まぁいいや。生徒会長〜何隠してんの〜?」
「…いや、その………」
「………イソギンチャク!皇に"触手で拘束"だッ!」
「え?あ、お、おうッ!」
「ちょッ!?」
何そのポケ◯ンシステム。
一瞬、誰に言われたのかわからなかったであろうイソギンチャク君は、ワンテンポ遅れてその膨大な量の触手を操り、逃げ遅れたレイの腕を絡め取る。
なす術なく両腕を広げられ、レイが隠していた"何か"が……。



ピョコン、と。



「「「「…………………"ガルゥ"?」」」」
黒髪の中から、フサフサとした、それはもう素晴らしい"猫耳"が。
レイの頭から、見事なまでにピコピコと動いていた。
「うぅ……なんで俺だけ猫耳生えんの……?」
腕を拘束されたままのレイはただ人間の耳の方を赤く染め、俯きながら唸った。
周りは全身変わってんじゃん、なんで俺だけオプションなんだよ、と。
この幻惑魔法…ぜっっったい役に立たない。
そう確信した瞬間だった。
「ガルル!ガルルゥッ!!(やった!仲間がいた!ネコ科仲間!!)」
「ちょっと?なんでこの虎興奮してんの?ムッツリなの???」
「いやネコ科仲間って…俺猫耳生えただけだぞ…これ成功してんのか…?」
「….……あれ?これ生徒会長とホワイトタイガー君会話出来てね?」
「ガルッ!?(本当だ!)」
「…………猫耳ってすげぇな…色んな意味で」
ホワイトタイガー君が感動で震える中、爆笑している講師を置いて、中高大アインス一同は皆揃って携帯を構え。


ーーーパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャーーーー


最近の携帯って連射機能がついてるから便利だな〜と誰かが呟き、それにうんうん、と頷くほぼ全員。
笑い転げ死にそうになっている講師なぞ無視、むしろ死んでもいいよ的な姿勢でただ猫耳という可愛さ百倍増しにする癒しデータを量産すべく携帯の容量を殺していくアインス生徒に。
ただただ写真を撮られるだけの玲夜は、何故か二限目の疲れと同じ倦怠感を感じて…。
いや、それ以前の問題だ、と一番の問題を口にしたーーーー。


……これ、いつ戻んの……?とーーーー