コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.19 )
日時: 2019/05/06 07:37
名前: Rey (ID: jFPmKbnp)

六話 生徒会長とリンドウ祭 大学部


リンドウ祭、最終日。
地獄とも言えるこの文化祭の最後の日。
ようやく終わりが見えたこの祭に、玲夜は死んだ目で訪れていた。
と、いうのも。
「あ!皇先輩!昨日のジョダコン見ましたよ!優勝おめでとうございます!」
「よぉプリンセス。昨日は可愛かったぜ?」
「生徒会長、ジョダコンお疲れ様でした」
「………………ぅん、ありがと………ございます………」
二日目にして行われた高等部の女男装コンテスト、略してジョダコン。
結婚式というテーマで行われたそのコンテストで、玲夜は実の母、すめらぎ晴香はるかの力もあり、純白のウェディングドレスを着て見事優勝。
そのお祝いの言葉と、中には花束を抱えてやってくる生徒、そしてたんに玲夜のファンである一般市民の方々。
あっという間に両手が華やかになり、前が見えなくなるほどの極彩色である。
「あ、あの!生徒会長、これ僕から…受け取ってください!」
「ん…?」
ガーベラと胡蝶蘭の間から見えた紅潮した顔の手には、また新しく玲夜の手(仲間)に加わろうとしている白薔薇。
……………………これ以上花などを贈られても困るだけなのだが。
かといって、彼の気持ちを無下にすることも出来ない。
「…あぁ、ありがとうね。悪いけどその薔薇、俺の胸ポケットに入れてくれるかな」
「へ!?」
「いや、もうこの通り手が使えないし、更に花が増えると本当に持てないから……」
「あ、成る程…?……………それじゃ、お言葉に甘えて………」
純粋無垢な目で見つめる、その白薔薇が。
そっと、リンドウ学園の校章バッジが刺繍されている胸ポケットへと刺さった。
ふわりと香る薔薇の香りに、自然と頬が緩み。
「…ん、ありがとう」
頭を撫でられないのが悔やまれるが、その代わり海のような青い瞳を細め、優しく微笑んだ。
「〜〜〜〜っ!い、いえ!そ、そそれじゃぼくもういきますねっ!!」
ズッキュンと心を撃ち抜かれたであろう男子生徒は、ユデダコのように顔を赤く染め、その場を立ち去った。
その様子に、玲夜は一人。
「…………告白される回数増えそうだなぁ」
胸に飾られた白薔薇、花言葉は【尊敬】などと言われるもの。
また、両手から零れ落ちそうな程抱えられた花束の中には紫色の綺麗なキキョウや紅色で花弁が何重にも重なっているラナンキュラスといった花が。
そのどれもが全て[愛を伝える花言葉]を持つ花々である事は、見て見ぬ振りをしたかったーーーーーー。





「…うっわァ…………ナニ?お前将来の夢、花屋さんだったかァ?」
「うるせぇ陸。ちょっと手伝え」
仕方なくフラフラ彷徨っていたら、"りんご飴"を片手に持った陸と遭遇エンカウント
飛鳥は?と聞けばシラネと返された。
そんな能天気にこの花束を分け合いっこしようと提案したのが運の尽きだったのかも知れない。
「えェ………ったく、しゃーなし手伝ってやらァ。ほれ、その白薔薇寄越せ」
「お前手伝うの意味知ってる?」
スポンッと綺麗に胸ポケットから白薔薇を抜き取り口に咥えた陸を殴りたくとも殴れないこの衝動(怒り)が脳に走る。
手が出せなかった(物理的に)ので、静かに、己の体幹を信じて陸のスネを思い切り蹴り上げた。
「ッてェ…!? 」
「自業自得だ、馬鹿」
痛みに顔を歪める陸、けれど手に持った白薔薇とりんご飴だけは死守している。
「…ててェ…………ったく……わーァったよ…………けど俺見たトーリ両手塞がってんだわァ」
「白薔薇返せ。あとりんご飴を秒で食え」
「…………………レイ、お前ドSってレッテル貼られてねェ?」
「は?……………え、そんなレッテル貼られてんの?」
「いや……………俺が背中に貼っとくわァ」
「やめろ」
こいつなら本当にやりそうだ、と後ずさった玲夜に、陸はジョーダンと笑う。
長年の付き合いだが、陸のジョークは洒落に聞こえないものだから。
毎回毎回警戒させられるこちらの身になってほしいものだ。
そう、ジト目で"反省しろ"と訴えたのだが、それをスルーした陸は渋々胸ポケットに白薔薇を戻し花束の半分を抱えこんだ。
「……結構キツイなァ……………よく持てたわこれェ…」
「そんなお前はプレゼントとか貰ってねぇのな」
「おー………………貰ったけどよォ……………実のところ、飛鳥の方が多いんだよなァ………」
「え、飛鳥が?」
「何でも、あいつのファンクラブを俺の弟ってだけでも密かに俺のファンクラブ派生らが作ってたらしいんだけどよォ、昨日のジョダコンの所為で公式に発表したんだとよォ」
「……………遂に飛鳥のファンクラブ出来たか…」
「噂だと会員ナンバーワンは霧島らしいぞォ」
「流石だな霧島君…………」
顔が引きつっているのがわかる。
この文化祭で、飛鳥のファンクラブが出来た………普段不登校者のファンクラブ………考えただけでも、ゲッソリだ。
兄である陸を尾行して突き止められた家に飛鳥へのプレゼントがしこたま送られてくる未来しか見えない。


ーーーーあれ、そういえば。



「なァレイ。……………お前、確か魔弓科の見世物、今日じゃねェ?」
「そうだけど、なんか俺は出なくていいよって言われたんだよな」
「…………テレビ局の奴らがうるせェからか」
「らしいな………ま、確かに俺はあんまり目立ちたくないし、有難いんだが…」
チラリと見えたチラシにあった"魔弓科より"と書かれたプログラム。
高等部、魔弓科エースは大丈夫なのか、と聞いたら全くもって問題なし、と返された。
忘れがちだが、この皇玲夜という陸の幼馴染は全国優勝者だ。
数々の大会を制覇し、世界中にファンが渦巻くツァオベライ・アローの世界では大スターだ。
そんな玲夜が文化祭で彼の魔弓………エーテル・タキオンを担いだらどうなるか、安易に未来を想像出来るだろう。
テレビ局のカメラマン、レポーターが押し寄せリンドウ学園に人がごった返すだろうと。
「…………………そいや、大学部はジョダコンとはまた別にダンスの発表…?みたいなのやるんだっけ」
「おー。パイセンがどんなダンスすんのか見ものだわァ…」
花が落ちそうになって慌てて抱え直しながら、玲夜はポツリと呟いた。
どうやら、そのダンス発表は各クラスの代表者数名でやるものらしい。
…………再来年、俺たちもやるのかと思ったら少し気分が落ち込むなぁと思ったのは言わないでおこう。
そんな陸は思いっきり嫌な笑みでプログラム表を睨んでいる。
きっと、あの遅れた生徒会会議の時、大学部の生徒会長に批判された事を未だ根に持っているのだろう。
代表者、というだけあってきっと居るはずだから、と。
恥をかく事を望んでいる赤い目に、玲夜は知らねーと両手に抱えている花束へと顔を埋めた。







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「………………これ何………」
「知りませんよ、ボクだって知りたいです。ってか貴方…衣装似合い過ぎじゃありません?一瞬誰かわからなかったんですけど」
「…………………そ……アンタも似合ってる…………」
「え!?本当です!?やったー!」
「…………………うるさ………」
「ちょっ!?ツンデレも大概にしてくださいよ、ボク泣きますよ!?」
「…………………面倒くさい……」
「そんな心底うざいみたいな顔しないでくださいよ……っ!?」
「……………………行くぞ…そろそろ、時間……」
「……もぉいいですよ、後で綿あめ奢ってくださいね!」
「……………………わかった……」




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「…んー………レイィ、お前どこ行こうとしてるんだァ…?」
「え、体育館」
「……だよなァ………あんさァ一つ言うぜェ?」
「…?……おう?」
「………………体育館、反対方向なんだけどよォ」
「…………………あれ?」
電話して母、すめらぎ晴香はるかに花束全てを押し付け、フラフラと彷徨っていたら、在校生にも関わらず迷った。
人混みのせいだと主張する玲夜に、呆れて笑いすら出てこない陸。
後ろを振り返ればリンドウ祭を満喫している生徒や一般客の波。
………とてもじゃないが、体育館に行ける気がしない。
「陸、これどうすればいいと思う?」
「………お前、これ俺がどうこうしてなる問題じゃねェってわかってんだろォ…………とりあえず、校舎経由で行くかァ?」
「りょーかい……なんかごめん」
「いや、俺も悪かったわァ……お前、地理苦手だったなァ……スマホの地図アプリ見ても迷うもんなァ………………」
「う………………」
ちょうど目の前に高等部の校舎があったのが不幸中の幸いだろう。
上履き制じゃないのが功を制し、見慣れた校舎へと足を踏み入れた。


「………あれって兄さんとレイかな……なんでここに…」
「飛鳥ー?どうしたー?」
「あ、いや………って、霧島君また買ってきたのかい?……………よく食べるね」
そんな迷子(玲夜が元凶)の二人の背を見た八神やがみ飛鳥あすか
焦げ茶のウィッグを被った彼の隣には、トタトタ走ってきた霧島きりしま一東かずと
その手にはりんご飴とぶどう飴があった。
「いや、りんご飴はお前用なんだけど…」
「え、僕に?」
「昨日さ、コソッと陸さんが"飛鳥は甘い物結構好きだぞ"って………」
「…………あんの馬鹿兄……」
肌が白い飛鳥の頬がわかりやすく赤に染まる。
口では愚痴をこぼしていても、満更でもなさそうで。
「………まぁ、君の好意として貰うよ、ありがとう」
躊躇いなく差し出された右手に、満面の笑みでりんご飴を手渡す霧島。
そういえば、兄さんもりんご飴を持っていたな………。
変なところで似ているのが兄弟というものである。
兄である陸は体育会系の勉強がからっきしのバーサーカータイプなのに対して。
弟である飛鳥は優等生系の運動がからっきしのサポータータイプ。
運動と勉強という点に着目してみると、対の関係だ。
だというのに、根本的な面……………意外と甘党だったり、あと少し流行に流されたりだとか。
陸が世間一般の流行に敏感でよく服を買いに行ったり、飛鳥はゲーム内のイベント衣装やアップデートで追加された武器などをいち早くゲットしたり。
…………こういう、少し着眼点が違うけれども根は同じなところが兄弟だな、と思わされる事なのだが。
「………………あ、そうだ。霧島君、体育館でやるダンス見るかい?」
「え?…あ〜、大学部全員集合してるあれか」
「うん。僕は行こうと思ってるのだけれど、良かったらーーーーーー」
「今すぐ行こうぜッ!!俺も見てーって思ってたから!」
「え、あ、うん?ありがとう…?」
ぶどう飴をなめていた霧島は飛鳥最優先スイッチをオンにして、雪の様に白い手を掴んで駆け出した。
………きっと、レイと兄さんの二人で一番ダンスを楽しみしてるのは兄さんの方なんだろうなぁ。
そんな事を考えながら、飛鳥は大人しく手を引かれた。






リンドウ学園、体育館。
重い幕が垂れ下がってステージを隠している、この中で。
ゼェゼェと息を乱す者がいた。
「はァ……はァー……ッ………ま、にあったァ……」
「…はぁ……疲れた……」
「元はと、言えば……お前が迷うからっだろォ………ッ!」
「ごめんって………ふぅ……あと五分か…本当ギリギリだったなぁ……」
言わずもがな、ほとんど反対にいた陸、玲夜ペア(なお、死にかけてるのは陸のみ)だ。
短距離で持久力が壊滅的に無い彼にとって、この長距離ダッシュは応えたのか、パイプ椅子の背もたれに背中を押し付け、酸欠の頭に酸素を取り込む作業に没頭していた。
薄暗い中で、隣に座る玲夜も隣からの熱気に当てられ、少しだけ乱れた呼吸を整える。
パタパタと手で仰いでいたら、ツンツンと陸とは反対側の席から突かれ。
なんだ、と顔だけ振り向けば、そこには悪戯に目を細めるプロゲーマーの顔。


「飛鳥…?」
「大丈夫かい?兄さんもだけど、よく高等部校舎から来れたね」
大丈夫か、と聞かれてるはずなのに、何故だろう。
大丈夫じゃない、と知って言われているようで………小馬鹿にされた気がする。
「……なんでそれ知ってんの」
「たまたま見かけたんだよ。まぁ僕は霧島君の後をついていっただけなんだけれど」
不機嫌なのを感じたのか、玲夜から視線を外してカタリと背もたれに体を預けた飛鳥。
………見えた奥の席、ハッと目を逸らされたが、見覚えのある顔に。
「………霧島君?」
「ひぃ!」
「…えっと………なんで俺怯えられてんの…?」
声をかけたら小さく悲鳴を上げられ、飛鳥の後ろ(ほぼ見えてるが)に隠れた。
「それが僕にもよく分からないんだよね。………あ、そろそろ時間じゃない?」
「お、もうか。………陸、息大丈夫か?」
「はァー………まァなんとかなァ………って、なんで飛鳥がここにいんだァ?」
「今気づいたんだね兄さん。二人が来る前からいたんだけれど」
「おー…?……………ん?お前霧島かァ?」
ようやく呼吸が落ち着いたところで、陸の赤い目に移ったのは極限まで背中を反らしている霧島の姿。
そんな海老反り君は、陸の声に異様なほどビクついて、こちらを見ようともしない。
「………陸、お前なんかやったか?」
「は?別になんもしてねェけど…………マジで身に覚えねェんだけど」
「霧島君、兄さんが珍しく困惑してるから、もうちょっと海老反りで無視してて貰ってもいい?」
「オイ飛鳥テメェ何吹き込んでやがんだァ?」
「別に、何でもないけれど」
「あァ?」
「ちょっと俺挟んで喧嘩すんのだけはやめてくれないかなメンタル豆腐からするとだいぶ心に来るんだけど」
喧嘩っ早い兄弟の板挟みだけはやめてくれ、と若干涙声になった玲夜の声に、きゅっと口を閉じた左右。
………だが依然として睨み合いは続いている。


と、ここでようやく時計の針がピッタリ10時30分になり、会場のざわめきがピタッと止んだ。
つられて八神兄弟もステージを見て、その幕がだんだんと上がっていくのを見つめている。


「………………おぉ………っ!」
「スゲ……これ手作りかァ……!?」
「わぁ……凄い時間かかってそうだね………でも、綺麗だ」
「…………こ、これが大学部の力………」
思わず声が出てしまうほどのクオリティ。
そこは、リンドウ学園の体育館のステージなはずなのに………いつも見慣れている木目のフローリングなはずなのに。



ーーーーーそこは、完璧なる砂漠だった。
サァ…と何処からか風が吹けば、チリチリと黄金の砂が舞い、照りつける太陽の光はスポットライトの筈なのに、外の太陽と同じような熱量を感じる。
まるで、ステージと客席の境にあった幕が二つを完璧に遮断した別世界のようで、玲夜は無意識に息を呑んだ。
ふと、左に座る飛鳥が静かになってこの砂漠を凝視する。
彼の目はスポットライトの光に反射し、林檎のように赤く染まっていた。
「………何重にも張られた魔法陣……砂漠化及び幻惑魔法もかなりの名手………アインス生徒かな……」
ボソボソと独り言を呟く飛鳥、その言葉を聞いた玲夜は、あぁ…と納得する。
アルビノ特有、全形質の魔力の帯を見ることのできる飛鳥は、この砂漠を展開する全ての魔法陣が見えているようだ。
文化祭…リンドウ祭において、魔法の使用は禁止されていない。
ジョダコンのステージも、出店の飾りもそのほとんどが魔法によって造られたものだ。
だが、この規模の魔法となると相当の魔力が失われている筈だった。
にも関わらず、こうして維持されて、暴走もないのだから、流石は大学部、と言ったところか。
「…代表者数名って………他の生徒は舞台ステージを構築するための稼働者って事か……」
「これなら代表者として踊ったほうが楽かもねぇ………まぁ、僕はまっぴらごめんだけれど」
「お前らさっきっから日本語喋ってっかァ…?」
「「日本語しか喋ってないけど」」
右隣から呆れたような声で言われるも、左隣と声をハモらせて答える。
だが、忘れそうだがこれはダンス発表会だ。
ステージに砂漠を選んだ時点で、だいたい想像はつくが、この砂の上では踊りにくいだろうし、何より砂がこのスポットライトで熱せられてとてもじゃないが暑さで倒れそうになるだろう。



ーーーーータンッ



ーーーーーー突如、この人工的に作られた狭い砂漠に、紫のヴェールを纏った青年が黄金の上を駆けた。
ヒラヒラと動くたびに靡くそのヴェールの中には、新緑のような緑の双眸。
華奢な体に巻きつくそれらの布は、黄色の世界とのコントラストでとても目立つ。
皆、呆気にとられその青年を見つめる。
…………ふと、この体育館に音楽が鳴り響いた。
それは、誰もが瞬間理解するであろう音で、完全なる"アラビアン"な曲。
ヴェールを翻しながら舞うその青年の黒のような茶髪がライトに照らされ光る。
衣装に散りばめられた宝石の煌めきは、薄暗くなっている体育館の天井、床に色とりどりのハナを咲かせた。
腰をくねらせ、腕を振り上げ、ヴェールが舞う。
たった一人の踊り子と、砂漠の世界がこの体育館全ての時を変えた。


ーーーーー不意に曲調が変わった。
ヴェールを纏った青年は最後、右手を上げ…降ろす、礼の仕草を一つして、裏へと回ってしまった。
けれども反対側から見えたその新しき青年に、皆の目が釘付けになった。
グレーの髪に赤色のターバンを巻き、上半身は露出の高い黄色の羽織。
少しダボついているくすんだ白のズボンを履いた、その青年の瞳は。
淡白な黄色と、真っ白のオッドアイであった。
誰もが息を呑むアラビアンナイトの王子の登場に、会場は大盛り上がり。
傲慢な態度を取るその王子の周りを、様々なパステルカラーのヴェールを纏った青年が舞う。
いつのまにか、背景は砂漠ではなく王宮になっており、赤い絨毯の上を跳ねる踊り子の姿に皆同じく心が踊っていた。


ーーーー最後、王子と紫ヴェールの踊り子が出会い、共に舞うシーン。
踊り子の身長が低く、そして王子の身長が高い故、遠目から見れば踊り子が女性に思えるほどだったが、それはそれで良いと。
クライマックスの音楽に合わせて足を踏み、体を捻り、ターンして。
時を忘れさせる、その踊りを終える頃には、ダンサーは汗だくになっていた。
けれども、晴れ晴れした笑顔に、観客席……玲夜達も含めた全員がスタンディングオベーション。
ダンスの中にストーリー性を織り込み、背景を魔法で展開させた、この演技は。
あの陸でさえも、感嘆と賞賛の声を漏らすほどだった。
……………ふと、誰かが言った。



「なぁ………あの踊り子と王子ってさ。【しろ百合ゆり】と【紫陽花あじさい】だよな?」