コメディ・ライト小説(新)
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.20 )
- 日時: 2019/05/08 17:44
- 名前: Rey (ID: so77plvG)
一話 生徒会長と先輩
地獄のリンドウ祭が終わりを告げ、夏らしく半袖がメジャーになり始めた、ここ凛影魔導学園、通称リンドウ学園。
漆黒の髪が太陽の熱でこんがりと熱くなっているのを感じながら歩く一人の生徒会長がここにいた。
「……あっつ………」
海のような深い青の瞳を持つイケメン生徒会長こと、皇玲夜。
[ツァオベライ・アロー]という競技において屈指の人気を誇る彼は、全国優勝者という肩書きを持っており、またその容姿と相まって業界では【魔貴公子】と呼ばれているとかいないとか。
そんな玲夜は、リンドウ学園の紺色のブレザーを脱ぎ、カッターシャツでの登校……つまりは夏服での登校だった。
それもこれも、この太陽のせいである。
まだ七月だというのに、気温28度越え。
熱中症が怖いため水分を多めに持たされいつもより重い水筒。
軽装備なシャツのくせに荷物が重装備でプラマイゼロどころかマイナスである。
さらに言えば玲夜の気分もマイナスである。
意識が刈り取られそうなほど熱せられたアスファルトを永遠と歩き続けた玲夜の視界にようやくリンドウ学園の門が見えた。
「おはようございます……」
汗を流して仁王立ちしている警備員さんに会釈して、グラウンドの土を踏みしめる。
…………警備員さん、倒れなきゃいいけどなぁ。
この暑さで水分補給はするだろうが日陰というものがない中、ずっと仁王立ちする警備員に、同情と心配の色が玲夜の顔に浮かんだ。
と、そんな玲夜を嘲笑うかの如く周りの生徒は意気揚々と校舎へと入っていく。
汗を垂らしながらも笑顔で登校する様に、信じられんとボヤきながら、直射日光がない分少しだけ涼しくなった廊下を歩いた。
「…………陸お前何やらかした」
「なァんも?………俺もセンコウに行けって言われただけだしィ、用も聞いてねェわァ」
「それはそれでどうかと思うぞ?…………いやツヴァイの担任、ホワホワしていい先生だけども」
「あー……ドライの担任に襲われかけたんだったかァ?俺がチョード休んでる時になァにやってんだかァ」
「……………うっせ」
隣を歩く幼馴染、八神陸にゲッソリしながら目的の"大学校舎"へと向かう二人。
何でも、合わせたい人らがいるとかなんとか。
それを誰か、と限定して聞けなかったのがモヤモヤしているが、担任からのご指名であり、尚且つ陸も同伴ならばいつしかのドライ担任、中崎大和のようにならないだろう。
そう、予測を立てて臨んでいる未知への遭遇。
正直、大学部にも玲夜のファンはいるわけで、さらに言えば大学部は陸のファンの方が多かったりする。
よくわからないが、アインス生徒であれば合同の【魔導学】で何度も顔を合わせているからわかるのだが。
同じくツヴァイであれば陸がわかる筈………なのだが。
恐らく、陸は授業を真面目に聞いていないから顔は見たことあるけど名前知らねェがオチだろう。
それか、魔導学にも選択があるため、別のコースを行ったか。
「ま、お説教ってわけじゃァねェだろォ。気楽に行こうやァ」
「お前は楽観的過ぎるんだよ…………………ん、来ちゃったよ大学部……」
なんやかんやで着いてしまった大学専用校舎。
中高と比べて比較的大きなレンガ作りのは、いつ見ても壮観である。
周りからは"何故ここに高等生徒会長と八神陸が?"という目がビシビシ刺さってきて正直なところ心が折れそうだ。
この中を歩け、という地獄のような現実に、玲夜は成すすべなく陸に手を引かれ、悪夢のような廊下を歩むことになる…………。
リンドウ学園、大学部一年【ツヴァイ】クラス。
気づけば案内されていたそのクラスに、担任が言っていた"合わせたい人"とやらがいた。
正式に言えば"二人に会いたがっている人"らしいが。
「…………ん?あれェ、"明日斗パイセン"と"彗パイセン"じゃないっすかァ。どうしたんすかァ?」
「……ん?」
ツヴァイに入って数秒。
教卓の前で仁王立ちしている一人の大学一年のツヴァイ生徒と、教卓に座っているツヴァイ生徒二人の名を、陸は口にした。
あの陸が名前を覚えている…?ではなく。
なんか凄いイケメンだぞこの二人……でもなく。
ーーーーーあれ、なんか見たことあるぞこの二人、である。
「ようこそ大学一年【ツヴァイ】へ!ボクは柴崎彗!今年で18アダルト解禁年!陸クンとは言わずもがな先輩後輩でありお友達なのですよ!」
「あ、はぁ………?」
「そしてそして!こちらは長月明日斗!ボクの大大大親友なのです!」
「…………………………よろしく………」
「あ、はい………御存知かと思いますが、高等部生徒会長、皇玲夜です…こちらこそよろしくお願い致しま……す………?」
「あ〜もぉ!敬語なんて堅っ苦しいですよぅ!あ!ボクの事は気軽に"彗"でいいですからね!」
「………………………彗……皇が困ってる……そこまでだ……」
「アダッ……!?」
「あっはは!!あいも変わらず仲良いっすねェパイセン方ァ…!」
ーーーーーーマシンガントーク過ぎない???
怒涛の勢いで自己紹介されて、玲夜は相槌を打つ暇もなく流れに沿って自己紹介したが。
いやでもそれはちょっと待ってほしい、と。
キラキラとした"オッドアイ"でこちらを覗き込まれ………178ある玲夜でさえも見下ろせてしまう高身長。
切れ長の目には確かに左右で色の違う虹彩……いわゆるオッドアイ、希少な逸材だろうが。
グレーの髪がピョコピョコ飛んでいて、見ようによっては犬の耳に見えなくもない。
そんな高身長(後で聞いたら188cmだった、解せぬ)のオッドアイイケメン………柴崎彗。
彼から流れるように紹介された親友とやら、長月明日斗は、教卓から降りて、いつのまにか陸の隣に立っている。
暗いところでは問答無用で黒髪に見えそうな髪だが、光が当たればキチンと茶色が混じっているのがわかる。
肩まで伸びたその髪の中、緑の燐光が玲夜の目を射抜いた。
「……………………なんだ……?」
「あ、いえ…………その……」
「明日斗パイセン。多分、身長低いなこの先輩とか思ってますぜェ?」
「陸?」
「…………ワリィ」
怒ると怖い、それを重々に承知している陸はすぐさまバツの悪そうな顔で謝罪を述べる。
が、言ってしまったことの撤回が少し遅かったのか。
「……………………彗がデカイだけだ………」
少し、ムスッとした表情でそっぽを向いた明日斗に。
「あ、いえ…俺は別にそんなこと思ってなーーーー」
慌てて弁解しようと紡いだ言葉は…だが。
「あっはは!明日斗もついに後輩にまでチビ呼ばわりですか!いやぁ18にもなって165cmは低いですよね!分かりますよ玲夜……ったぁいッ!?」
思い切り爆笑して被せられた彗によって遮られ、カチンときたのかスネを思い切り蹴り上げた。
笑顔から一変、苦痛に顔を歪ませる彗をゴミを見るような目で見下ろしたあと、ポツリ。
「…………………こいつは、すぐにいらないことを言う…………頭にきたら蹴るなり殴るなり好きにしていいぞ…………」
彗の上に立ち、腕を組んでこちらを見る明日斗に、どうしていいかわからずに、とりあえず頷く。
いや、助けたいのは山々なのだが。
あいにく、命を無下に扱うのだけは許せない性分なので、と。
救助活動をしたら、真っ先にこちらの生命活動を停止させられるような気がして、玲夜は無意識に伸ばしていた手を引っ込めた。
そして、ようやく聞きたいことを聞ける、と。
「…文化祭で踊ってたのって、彗先輩と明日斗先輩ですよね?」
「はいそうですよ!あ、もしかしてもしかしなくとも惚れちゃいました!?いやぁ困っちゃいますねあの玲夜がボクに惚れちゃうなんて!」
「あ、いや惚れたとかそういうんじゃなくて」
「…………………俺は、正真正銘の男だ……あれは衣装が悪い………」
「いや明日斗先輩が女に見えたわけでもなくて…………」
キラキラした目で見てくる彗を落ち着かせ、心なしか周りの空気が重くなった気がする明日斗を宥め。
この二人、性格といい真逆すぎない?と思いながらも、玲夜は。
「………お二人の演技、とても素晴らしかったので。それが言いたかっただけですよ」
あのステージで踊りを披露していた、王子と踊り子の賞賛の言葉を笑顔で言った。
ーーーーーーが。
「おー。しょーじき、俺も一瞬誰かわからなかったですモン。明日斗パイセンとかマジで女に見えたしィ」
「…陸、お前はトリ頭か?」
パァ…と明るくなった彗はいいとして、この陸の言葉で明日斗は上げて落とすを体感した。
……………一度、上げてから落とすほど地下深くに埋まるものはない。
比べるに値しないほど、ドス黒い空気がここツヴァイに広がり始めた、その時に。
「あぁもぉ!明日斗!そんな不機嫌にならないでくださいよ!陸だって悪気があったわけじゃないんですから!」
ヒシッ!と。
勢いをつけすぎて、明日斗が後ろに倒れそうになるほどのタックルをかました彗。
ガルルル………と声が聞こえそうな程、ジト目でこちらを見る明日斗を宥めようと抱きつきながら頭を撫でる、その様子は。
……………何故だろう。
凄く、兄弟感が強かった。
身長差のせいか、彗がとても大人びて見え、明日斗が幼く見えるのだが。
いやでも待てよ、と。
冷静に考えれば、内面…つまり精神年齢的にはきっと………。
ーーー明日斗の方が年上だろうな………。
切れ目で目つきの悪い彗の中身がホワホワして誰にでも尻尾を振る犬系男子なのに対して。
眠そうに半目な明日斗は見かけによらずクールビューティ。
まるで対なる存在だ。
「…って、すっかり本題忘れてましたね。すいません、つい盛り上がっちゃって……」
ようやく機嫌が直りかけたのか明日斗がポンポンと彗の頭を撫で、振り返ったオッドアイの瞳が陸と玲夜を写す。
あ、そういえば、と。
ここ、ツヴァイに来たのは二人が陸と玲夜に用があるから、という名目だったのをすっかり忘れていた。
「別にいいっすよォ。んで、パイセンら、どうしたんすかァ?」
ヘラヘラと頭の後ろで手を組んだ陸が問う。
それに答えたのは、明日斗の声。
「………………実はーーーーーーー」
だが、続きは聞こえることがなかった。
ーーーーキーンコーンカーンコーン………。
話そうとしていた明日斗の口が、静かに閉じられる。
それを機に、ツヴァイの生徒は誰一人として喋らず、物音すら立てずにクラスは静寂に包まれた。
ーーーガララ………
「はーい皆おはよー(笑)…ってあれ?なんでここに玲夜くん……と八神がいるんだー?(爆笑)」
…タイミング悪く、このツヴァイに入ってきたのは、いつしか玲夜を襲いかけた中崎大和だった。
「…………おいこら"中崎"センコー、なんで俺だけ呼び捨てなんだよォ」
怒りマークを額につけた陸が凄むも、中崎は全く動じず。
「もう授業始まってるよー(笑)これ、二人とも遅刻確定だねー(爆笑)」
逆に、嘲笑うかのように口を三日月にした、中崎に。
ぐっと拳を握り睨む陸の手を引いて、玲夜は静かに。
「…とりあえず、話は今日の放課後にしましょう。中崎先生、授業中、失礼しました」
「はーい(笑)寂しくなったらいつでもドライに来てねー(笑)」
「誰が行くかよこのヘンタイ教師ィ」
対照的に、ヘラヘラ笑い続ける中崎に、扉を閉める直前陸が中指を立てて煽ったのを、玲夜は見逃さなかった…………。
もはや遅刻は確定。
そう、クラスへ戻ってもしょうがないと結論付けた陸は、玲夜の手を取り屋上へと連れ出した。
そんな中、アインス担任である斎藤和葉は、そんな遅刻者である"生徒会長"と"風紀委員長"をチラリと廊下で見かけ。
「(…………大学一年のツヴァイは中崎せんせー持ってたよな…捕まったから遅刻したのか……ごしゅーしょーさまだな、せーとかいちょー……とふうきいいんちょー………あー寝不足、カフェイン足りないコーヒー飲みたい……)」
大学は、高校と中学の教師が共に教える、という謎過ぎるシステムゆえに、こうして鉢合わせしたのだろうが、と。
次の授業で使うプリントを片手に、スッと空いてる手で携帯を立ち上げ。
"モデルのヤンキーと優等生、授業サボって屋上なうw正直美味しいネタ提供過ぎて草止まらんwwそして妄想も止まらんwwwww"
と、某青い鳥サイトで呟いた。
ドンドン"いいね"とリツイートが増えていくなか、PCと睨めっこしていた目が悲鳴を上げてきたので、携帯の電源を落とす。
ため息を一つついた後、静かに屋上へ続く階段から背を向け、眠すぎてあまり働かない頭を動かし、職員室までの道のりを辿り始めた…………。
「んで、授業サボってまで言いたいことってなんだよ陸」
ヒューと風が心地よく吹くここはリンドウ学園の屋上。
二メートル程の鉄柵に囲まれたこの屋上では、自殺者なども出ることもなく、至って普通の屋上である。
だがなんと言ってもリンドウの花こと皇玲夜は、告白の際に何度もお世話になっているため。
少し、屋上についてはトラウマものの記憶がチラホラとあったり。
……例えば、告白を承諾しなかったら飛び降りるとか脅迫されたあの男子生徒だったりとか。
まあそれは過ぎた話だ、今じゃ笑って話せるネタに過ぎない。
その過去を今は忘れ、隣に座る幼馴染へと問いかけたのだが。
「…いやァ、明日斗パイセンと彗パイセンさ。なんか今日様子おかしかったんだよなァ」
「…いや、そんな事俺に言われても」
「彗パイセンは俺の直属の先輩だ。陸上の長距離エースの白百合だぜェ」
「…………え?白百合って彗先輩の事だったのか!?」
「でェ、"魔研"の紫陽花こと明日斗パイセン」
「……………異名しか知らなかった…」
急なカミングアウトについていけず、玲夜は目がクルクルと回り始めた。
彗が陸の直属の先輩だったとは…。
そんな事より、"異名"持ちの二人とつい先程まで駄弁っていたとは、信じ難い事である。
ーーーーここ、リンドウ学園において、有名なのは生徒会長である皇玲夜の他、短距離エースの八神陸。
そして、異名持ちの"白百合"、"紫陽花"の四人だ。
異名の命名者は不明、けれどもその花の名に恥じない行いと佇まいからして、誰もが納得する異名だろう。
白百合の花言葉は【尊敬】【純潔】といったものから、【威厳】という意味まである。
噂によると、彗は普段は敬語でとても礼儀正しいが、キレると手がつけられないほどの狂犬となるらしい。
また、大学一年だというのに、真剣場になるとどこか頭一つ抜いた緊張感とカリスマを醸し出すことから名付けられたそうだ。
紫陽花こと長月明日斗。
紫陽花の花言葉に【あなたは美しいが冷淡だ】【無情】という、普段のクールビューティな彼からしたらピッタリの花言葉。
けれど、【辛抱強い愛情】という意味すら持ち合わせている。
いつも周りを尻尾振って歩く彗を鬱陶しそうに眺め、時には暴力を振るったりする明日斗だが。
けれども縁を切らないその思いやりと優しさから名付けられた異名。
どちらも、異名しか知らねば意味が理解できない事だろうが、会ってみてようやくわかった気がする。
ちなみに、魔研とは【魔導研究部】の略称であり、明日斗は魔研の"召喚科"の部長をしていると聞いた事がある。
何故こうもイケメンは事ごとのトップに立つのだろう、不思議なものである。
だが、そんな"凄い人"である先輩二人の様子がおかしい、とは確かに気になることだ。
「………彗パイセンがさ、少しだけ声のトーン低くすんのって、大事な事ある時なんだよなァ………」
「それって陸が部活サボってたからとかじゃなく?」
「ちげェよッ!…いや、あれは多分マジだぜ」
「……………放課後、一気に待ち遠しくなったなぁ…」
そう、神妙な顔で青空を仰ぐ陸の顔にはいつもの笑顔は無く。
…心なしか、だんだんと嫌な予感がしてきた、と。
玲夜も、心の淵に出来始めた不安が心を蝕み始めたのを、見て見ぬ振りをした。
ーーーー始めて会った有名な先輩方と会ってシリアス展開とか、シャレにならん……と。