コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.21 )
日時: 2019/05/19 13:07
名前: Rey (ID: ZFLyzH3q)

二話 生徒会長はシリアスが嫌い



静かにスライド式のドアを開けた、二人は。
文字通り、目を疑った。
青く海のような瞳は見開かれ、赤い林檎のような瞳は静かに伏せられた。


ーーーーー何故、こうなってしまったのだろう。
後悔なんて言葉じゃ言い表せない、この感情が、頭と胸を行ったり来たり。
カチ割れそうな痛みの中、瞬きすら忘れ見入る目の前の"彼"を。
痛々しく包帯が巻かれ、痣が見え隠れする腕からは点滴の管が通され。
…………彼、五十嵐いがらし隣人りんとは、あのリンドウ祭二日目に、"ある事件"に巻き込まれ、こうして意識を失っていたーーーー




ーーーー1時間前ーーーーー


「あァー……ようやく放課後だァ…………」
「えっと…確か西門前だったよな…」
「ってこたァあっちだなァ。…レイ、反対な…」
「……………あれ?」
思い切り反対方向を行っていた幼馴染(方向音痴)にため息ひとつ零した陸は、ガシガシと赤茶色に染められ、赤メッシュの入った髪を掻いた。
悪気無くこちらを振り返る玲夜の手を引き、西門へと歩みを進める。
………去り際にボソリと呟かれた明日斗の言葉。
"放課後、西門に来い"
何故と問うまでもなく玲夜によって連れ出されたので詳細は不明だが、それでも"何か"があるのは確か。
それが、玲夜の告白と言うことでは無いことを祈るが………。



ふと気がつけば、西門にもたれかかっているグレーのくせ毛と、八割黒の茶髪が見えた。
「…あ!ようやく来ましたか!…もぉ、僕達だいぶ待ちましたよ!?」
「……………………まだ三分しか経ってないが………」
「いいや三分"も"待ちました!僕達の方が先輩なので言うことは絶対です!」
「…………………陸、玲夜。お前達に来てもらった、その理由だが……………」
「ちょぉ!?無視しないでくださいよぉ!?」
キャンキャン吠える大学一年【ツヴァイ】の柴崎彗。
ガクガクと冷静に話を進める長月明日斗の肩を揺さぶるも、全く動じていない。
流石に止めた方がいいのか?と隣にいる陸に目配せしたが。
"ほっとけ"と返されたので、黙っていることにした。
「…はっ!あ、えーとそれでですね………あれ、どこまで話しましたっけ?」
「……………………話がある、というところまで、だな………」
「全く話進んでないじゃないですか!もぉ明日斗なんで進行係サボってんです!?」
「………………………コブラ、ツイスト…っ」
「あだだだだだだッッ!?ぎ、ギブギブです明日斗これ解いてくださいぃ!!!あああぁぁぁあぁッッ!!!!」


…………………黙って見てて良いのだろうか。


「………あー、これがあの二人の普通なんだわァ。あんま気にしない方がいいと思うぜェ」
「…慣れてんな、お前」
高等部二年、アインスとツヴァイきってのイケメン二人は、どちらも同じくハイライトの消えた死んだ目をして目の前で繰り広げられているお手本のようなコブラツイストを見届けた。
ゴギバギと鳴っちゃいけないような音が彗のいたるところから聞こえたが、結局、明日斗から解放されたのは初めに固められた時から三分経った後だった。
「はぁ…はぁーー………ッ。もぉ…死ぬかと思いましたよぉ………」
「…………………自業自得だ……さて、話を進めるが…」
未だに蹲っている彗を足蹴に、明日斗はケロリと抑揚のない声で続ける。
新緑の双眼は、静かに玲夜と陸を射抜いていた。
「……………単刀直入に、言う。………玲夜、お前のクラスの五十嵐いがらし隣人りんと………そいつが、今入院している………」
淡々と、けれど少し言いにくそうに顔を歪めながら言い放った言葉に、思考が止まった。
五十嵐、隣人………まさしく、高等部二年、アインスの生徒であり、玲夜の隣席の男子だ。
「な、なんで隣人君が……」
「いってて………か、簡単に言うと、不良に絡まれたらしく全身打撲と脳震盪のうしんとうらしいんです………僕の兄が見つけたんです」
ヨロヨロと立ち上がった彗が、ピョンピョン跳ねた髪を抑えながら言う。
…全身打撲………のう、しんとう……?
うわ言のように口から出るその言葉に、どうしても現実感を覚えられない。
何故、どうして隣人が。
グルグルと頭の中を駆け巡るそんな子供のような疑問に、けれど。
………それを言ったところで、誰が答えると言うのか。
「……なァ彗パイセン。それって…………」
ふと、陸が恐ろしいほど静かに問うた声。
少し、違和感を感じて顔を上げると、見えたその顔はーーーー。
「……はい、恐らくは。犯行手順、そして犯行現場等々………間違い無いと思いますよ。極め付け、辺りに漂っていた魔力の帯はジャストビンゴだったので」
「…………………………そォかよ……」
目の奥に何の意思を宿していない、ドス黒い赤の目。
……ヒュ、と喉がなった気がした。
玲夜は、この目を幾度も見たことがある。
飛鳥がアルビノだと何処かで情報が漏れ、捉えようとした大人達を睨んだ目。
玲夜が複数人の覆面に拉致られそうになった時、何人かを殴り飛ばしていた、その目。
………数ヶ月前、彼の後輩が他校の生徒によりリンチに合い、大会に出場出来なくなってしまった時。
病室で、静かに後輩の痛々しい体を見たときの、その目。
…………………八神陸が、怒りを通り越して"無"となった時の、その目だった。
「やられたのはリンドウ祭二日目のジョダコン前らしいんです」
「……………………リンドウ祭は一般公開されていた。……おそらく、五十嵐隣人という生徒を呼び出してリンチにしたのに、理由はない………」
「強いて言うなら、気を引くためでしょうね。………奴らの目的が、少しだけわかった気がします」
只ならぬ陸の気配を感じたのか、共鳴するように抑揚のない、冷たい声で言い放つ大学部一年の異名持ち二人。
…………白百合と、紫陽花。


ーーーー今の二人は、黒百合と青紫陽花だろうが。


キレて無感情になった陸、そして彗と明日斗。
一般人であれば卒倒する程の威圧感が占めるこの空気…だが。
「………彗、先輩……隣人君が運ばれた病院……どこか、わかりますか……」
四人のうち、三人が怒りと殺気で思考が停止したが、玲夜は悲しみと悔しみで思考がショートした。
唯一、怒りよりも悲しみが勝った玲夜は、光が差さない深海のような暗い目をして、ボソリと呟くように言った。





中央病院、1026号室。
個室で、尚且つ普通の病室よりも一回り大きいその部屋に、五十嵐隣人は横たわっていた。
数日前までは、元気に笑っていた口は、酸素マスクに覆われ。
目尻が垂れ、子犬のようにくしゃりと笑う目は、硬く閉ざされていた。
部屋に入るまで、もしかしたら嘘なんじゃあないか、そんな夢を妄想していた玲夜も、言葉が出ることはなく。
………ただ、これが現実だと目から入る情報を脳が拒否しているのを、抑え込むしか無かった。
「……見たとおり、意識不明の重体です。たまたま僕の兄が校外で見つけたこと……それが不幸中の幸いでした」
「………………………こいつの兄は、見つけて直ぐ応急処置を施したらしい………そのお陰か、命に別状は無い………」
淡白のオッドアイが、悲しみに暮れた玲夜と無表情の陸を移す。
少し夕日が空を赤く染め始めたこの時間で、純白の病室はオレンジ色に光り始めた。
五十嵐隣人に背を向け、こちらと面と向き合って話す彗と明日斗、二人の顔は逆光で見えないが、見ずともわかる。
………そして、玲夜は五十嵐隣人をこの目で見て、ようやく陸と彗が言っていた事を理解した。
…犯行手順、場所、無差別なリンチ……そして、それによる"大会ジョダコン不出場"。
ーーーーーーまさ、か。
「……間違いねェ。これは、俺の後輩ボコった奴等の仕業だァ………ッ」
そう、聴く者の心を恐怖でふるわす、地響きのような声で、陸は握り込んだ拳の中、爪が皮膚を切り裂きタラリと流れ出す血を物ともせずに、ダンッ!と力強く……八つ当たりのように、壁を叩いたーーーー。




「…………………いいのか、伝えなくて……」
二人が去った、五十嵐隣人の病室。
残った彗と明日斗の二人は、静かに備え付けの椅子へと腰をかけた。
何も写っていないような、無情の新緑に、だが彗は何の変化なく。
「ええ、いいんです。……"アレ"は、言うなってお兄ちゃんに言われちゃってますから」
…けれど、少しだけ哀愁を含んだ声色で、言った。
少なからず、彗はこんな事態になってしまったことに対して焦燥を感じぜずにはいられなかった。
兄が見つけ、応急処置をしたとはいえ意識不明の重体。
…それが、"ただ見つけただけ"だったならどれだけ良かったか。
「…今回は五十嵐隣人だけだったのが良かったです。ジョダコンも和葉先生が代理で出ましたし」
「……………………彗」
「それでも、あの時五十嵐隣人を止める人が居たとしたらこんな事にはならなかったかもしれないです」
「…………彗」
「でも……でも…っ!…そないな事考えとっても五十嵐隣人が目ぇ覚まして怪我完治なおるなんーーーーー」
「彗ッ!」
………明るいはずの彗が、自問自答して、"お国言葉"になる、それが何を意味するのか、明日斗はよく知っていた。
普段クールビューティで無口な彼が、病室いっぱいに響く声を出したのは、紛れも無い"親友"のため。
「…………お前が、何をどう思おうが勝手、好きにすればいい…………だが、それを俺にぶつけるな…」
「………すいま、へん……」
「……………………お前が、そんな感情的になるのは、"これが初めてだからじゃ無い"からだ………だが、だからこそ、落ち着け。お前はそんな"馬鹿"じゃないだろう」
「………はい」
苦しそうに話す、明日斗の表情に、彗は冷水を被ったように思考がクリーンになっていく。
…………あぁ、またやってしまった。
感情に任せて、他人を怖がらせないようにと繕っていた"敬語"が外れた。
明日斗だったから良かったものの、これが玲夜や陸だとしたら、どうなっていたか。
「………………彗、どうするつもりだ……あの二人、意地でも奴等を見つけるつもりだぞ………」
ふう、とため息をついた明日斗が静かに項垂れる彗の頭を撫でながら、聞いた。
髪を梳かれる感覚に、心が落ち着いていくのを感じながら、彗は。
「…なら、こちらはできる限りのサポート、です。お兄ちゃんには、もう連絡入れてますし………」
「…………………そう、か…………なら、俺らも出よう……帰り、少し寄りたいところがある…」
「……もぉ…わかりましたよぅ、付き合います!」
"いつもの笑顔"を貼り付け、"いつもの口調"で空気を和ませた。
それが、今彼が出来る最大の"ポジティブ"だった。
ーーーーブー…ブー……。
制服のポケットに入れた携帯のバイブレーション。
それに気がついて画面を明るくし、メールに"未読"の文字。
送り主、"お兄ちゃん"と表示されたその文面はーーーーー。



"了解"




もうすっかり空に青色が無くなった帰り道。
似たように、携帯のバイブレーションから気がついた陸宛のメール。
派手なスマホケースから現れた単調な文面に、隣から、歩きスマホやめろと言われるも、生返事で返す。
宛先は兄、そして送り主は飛鳥。
メールボックスの未読に指を這わせ、飛び込んできた文章に、陸は玲夜の手を掴んで走り出した。
「は!?ちょ、おい陸!?」
「黙ってついてこいレイ!…飛鳥が"掴んだ"ぞォ…ッ!!」
「え、いやだから何がぁ!?」
全く予想外の事態にワーワー喚きながらも短距離エースの足に必死に食らいつく。
掴んでるのは俺の腕だろうが、そんな事を端で考えながらも、何を言っても聞かない今の陸には意味がないだろう。
数分も走り続け、持久力が乏しい彼にしてはやけに長持ちするな、と心の端で思いながらも、その足は一向に緩める気配が無かった。
中央病院から陸の家まで、三分の二ほど走ってついた家に、陸はバダンッと大きな音を立てて、転がり込んだ。
バタバタと煩く家を駆ける陸に、辺りはスクールバッグが放られ、暑いと投げ出されたブレザーが散乱し、悲惨なことになっている。
そんな廊下を見届けた玲夜は、二階から陸の声が聞こえてきて、慌てて階段を上がる。
説明すらなんもされていない身からすれば、何があったのかなど想像もつかないが。
………まさか、飛鳥が次のターゲットになってんじゃ…………。
そう、最悪の未来が頭をよぎり、ゾッと青ざめる。
二階、飛鳥の部屋の扉が開けっぱなしになっており、さらに冷や汗が背中を伝う。
「飛鳥ッ!」
同じく邪魔だとスクールバッグを突き当たりの廊下へと放り出して転がり込んだ飛鳥の部屋。
………だが。
「…あれ?どうしたんだい、そんなに汗だくになって」
「……………………ぁえ?」
キョトンと、こちらを見つめるアルビノ特有の赤い目。
目立った外傷も無く、至って普通の八神やがみ飛鳥あすか
………え???
「飛鳥ァ!早く"防犯カメラの映像ォ"!」
「もう、兄さんって本当せっかちだよねぇ…待って、今流すから」
「おう!ほらレイ、早くこっち来いよォ!」
「え、え、え」
「はい、頼まれた映像…確かに、バッチリ映ってるよ。兄さんにしては頭切れるじゃない」
「兄さんにしてはって余計だろォが飛鳥ァ!」
「え、隣人君!?待ってこれなんの映像…って防犯カメラ!?マジで言ってんのか!?」
シリアス展開から一変、ウェルカムシリアルと声を荒げて飛鳥の肩に手を置き、爛々と光るディスプレイの光に目を細める。
そのディスプレイには、飛鳥と陸が言うには防犯カメラの映像らしいが…。
「僕がハッキングしたんだよ。いくら防犯カメラって言ってもリンドウが持ってるカメラだったら、セキュリティ硬くて疲れたよ…」
「はぁ!?ハッキングぅ!?そんなのバレたら退学どころじゃ…いやまずどうやった!?」
「はァ?何お前誰の弟だと思ってんノ?俺様の弟だぞォ?だいたい、こいつネトゲのキャラの個人情報ハッキングで盗み見るようなやつだぜェ?」
「ちょ待てそれ初耳だぞ!?」
驚きの連続とはこのことだ。
数珠繋ぎに驚きが連なって、もはや隣人が入院していたあの苦しい空気と顔は無かった。
ハッキング?キャラ本人の個人情報を盗み見た??



ーーーーいや、それ犯罪だろ!?


「まぁ、それは置いといて」
いや、何を置いとくんですか飛鳥さん。
何故か言葉が出てこなくて脳内でグルグルと息巻いただけの文字になってしまった一言。
だがそんな玲夜をスルーして、飛鳥はドンドン話を進めていく。
「まず、この映像はリンドウの東門の警備室から撮られたものなんだけれど。この時間帯、ちょうど警備員が席を外していてね」
「……………ザル過ぎない???」
「警備員も人間だからねぇ…席を外すことは許しても良いんじゃないかい?」
「いやでもいなかったから隣人君は…」
苦虫を噛み潰したような顔でディスプレイの中、明るくリンドウ祭を楽しんでいる一般客の波を、無人の警備室越しに見た。
そんな玲夜を見上げて、キーボードをタンッと叩く飛鳥。
キュルキュルと映像が早送りにされ、人が忙しなく動いていく。
……………そこで、違和感が芽生えた。
「…?…飛鳥、これどのくらい早送りにした?」
「…………約一時間だよ」
「一時間!?待ってくれ………もうこの時間じゃジョダコンは始まってるぞ!?」
画面の端、日時を示す白い数字を指差してみると、そこには確かに6/26 13:14:26と表示されている。
ジョダコン開始時刻は13時から。
となると、やはり今流れている映像はジョダコン最中の映像である。
「彗パイセンらは、ジョダコン開始前につってたがァ………どういう事だァ……?」
呟くように言われたその言葉は、飛鳥によって拾われた。
「……ジョダコン開始前?そう、言っていたのかい?」
「あ?お、おう」
「………………………ちょっと、待ってね」
一瞬、考え込むそぶりを見せた飛鳥に、ハテナマークが頭に浮かぶ陸。
また、カチリとキーボードを叩いて映像を早送りにする。
タン、と停止のキーを押した飛鳥が口を開き、声に出したのは…。
「…………僕が東門の防犯カメラを見せてる理由なんだけれど…」
そこで一度切って、俯く。
両隣にいる二人の視線が、ディスプレイに呆然と釘付になっているのを感じ、飛鳥は重々しく言葉を紡いだ。




「………ジョダコン"最中"……誰もいない東門から、五十嵐隣人が校外へ連れ出されるその瞬間が写っていたから、なんだよ……」




そこには、確かに所々制服のブレザーが擦り切れ、口を切っているのか、口元に血が付着し、見るからに怪我を負っている五十嵐隣人の姿があった。
慌てて画面の端を見ると、確かにそれはジョダコン真っ最中の時間。
…そして、思えばこの時間帯は陸と飛鳥、そして玲夜が連続してステージに上がった、いわば高等部のジョダコン、一番の見せ場である。
殆どの人が体育館に集まったからか、周り誰もいないのをいいことに、五十嵐隣人は"他校の生徒"によって校外へと連れ出されていた。
「……なんで…パイセンは嘘ついたんだ……?」
震える声で、そう問うた陸に。
「……まず、なんでそれを信じたのか聞いていいかい?」
「は…?」
即答で、問いを問いで返された。
怪訝そうに兄を見上げる弟、それを横から見て、玲夜は、はっと顔を上げ。
「そうだ……確かに、そうだ。なんで俺気づかなかったんだろ…!」
「は?…何が…ァ?」
「はぁ………一瞬でも頭が切れたなんて思った僕が馬鹿だったよ…いや、馬鹿は兄さんか…」
「はァ!?」
うわ言のように自問自答を繰り返し始めた玲夜をほって置いて、飛鳥はわざとらしくため息をつく。
流石の陸もカチンときたのか、飛鳥の座る椅子の背もたれが陸の手によってギシギシと唸り始めた。
「……あのね?馬鹿な兄さんに一つずつ、丁寧に教えてあげるから、ちゃんと聞いとくんだよ?」
「んッだよ早く言えってのォ!」
「陸、これはマジで聞いたほうがいい。…正直、俺は信じたくないが…」
軽蔑、懇願、その違う目に魅入られた陸は、言いたげな口を閉ざし、静かになった。
「………まず、その彗パイセンとやら、だいぶ嘘をつくのが得意なようで。ジョダコン開始前って、どうしてわかったんだい?」
何も気にしてなどいなかった、その言葉に、陸は言葉を詰まらす。
「はァ?……それ、は……」
「その彗パイセンとやらが現場を目撃したか、それとも見た人が居て教えてくれたか、その二択だろうけれど…」
「でも、隣人君が見つかったのは校外。それも彗先輩の兄が見つけた。となると、俺が言うのもなんだけど、先輩の兄がリンドウ祭から出るか、入るかで見つけたんだろうが…………そんな時間帯じゃないだろ、これ」
「仮にそうだとしても、五十嵐隣人が暴行を受けたのはジョダコン前とも限らないよね。最中だったかも知れないし」
ツラツラと並んで行く不可思議な点。
違和感を感じていたとしても、全く見当もつかなかったのが、飛鳥がハッキングした映像と、ズバ抜けた彼の頭によってスルスルと解けていく。
「わざわざ校外に連れて行ったのが少し気になるけれど…………人の目につくのは校内よりも校外だろうし…」
顎に手を当て考え込む飛鳥の左隣。
海の目を細めて、意を決したように口を開いたその言葉に。
「……………あのさ、先輩の兄が見つけたのが校外で、この時間に外に連れ出されたんなら…」
………………陸は、静かに目を見開いた。






「校外で隣人君を見つけたのはジョダコン後で………この映像を見る限りまだ軽傷みたいだし、校外でまたリンチにされて………その最中に、お兄さんが見つけたんじゃ………」