コメディ・ライト小説(新)
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.22 )
- 日時: 2019/06/06 07:38
- 名前: Rey (ID: SsbgW4eU)
三話 生徒会長とスピリット・パーソナリティ
五十嵐隣人、高等部一年【アインス】の生徒。
中央病院で入院している彼は、飛鳥がハッキングして手に入れた防犯カメラの映像により、どこの生徒にやられたのか、検討がついた。
翌日、落ち込む気持ちに鞭を打ち、学校へと赴いた玲夜は、隣の空席をじっと見つめていた。
ーーーーキーンコーンカーンコーン……
チャイムと同時、アインス担任、斎藤和葉が入り、だがその顔はいつにも増して酷いものだった。
「…リンドウ祭から、ずっと休みが続いていた我らがリンジンこと五十嵐隣人だが………病院で、入院している、という事を最初に伝える……」
その言葉に、クラス全体が騒めき始める。
その中、玲夜だけはじっと沈黙を貫いていた。
青く綺麗な瞳は、何の光を写さずまるで深海のように。
俯いた顔からは、悔しみと悲しみが入り混じり下唇を噛んでいる。
あたりでなんで、どうして、と言った声が上がる中、静かに斎藤は。
「……がくえんちょーセンセーが、俺のクラスだけ言っていいってな………何でも、他校生徒の暴力の的になったらしい」
いつもより濃いクマの顔を歪ませながらそう答えた。
その答えに納得のいかない生徒数名がガタリと机を揺らしながら立ち上がって…。
「…やめろ」
だが、ずっと黙っていた玲夜の声によって静止した。
「隣人君の事は、俺らじゃどうしようも出来ない。先生に問い続けても、はっきりとした答えは出ないぞ」
「でもよ生徒会長!」
「でももだっても無い。………俺らに出来るのは、隣人君の見舞いくらいだ」
俯いた顔は上げられず、玲夜がどんな顔をしているのかはわからない。
だが、どんな顔をしていようなど、それを問うのは愚問だろう。
漆黒の髪はしなやかに垂れ、彼の表情を隠し、その感情を表に出さない。
だが、人一倍悲しみ、悔しんでいるのは確かだった。
「……….…そーだな…せーとかいちょーの言う通り、俺らは放課後、行きたい奴らだけ連れて、中央病院に行くことになった…って事で」
少しだけ下にずれた眼鏡をクイッと上げた斎藤に、皆も黙る。
心の中では何故、どうしての疑問が渦巻いているだろう、だが。
それを口にしたところで、現状が変わる事はない。
「………それじゃー、一限目……急遽予定変更で、道徳の授業ー………五十嵐隣人のお見舞いに行く奴、んで見舞いの品考えるぞー……」
けれど、口にして変わる事実もあると。
斎藤は、少しでも五十嵐隣人と、その家族の気持ちを軽くしよう、と。
他の生徒を巻き込み、彼の見舞いを豪華にしよう、と疲れ切った顔でニヤァ…と笑った。
その意図に気がついたアインス生徒。
言葉はいらず、同じようにニヤァ……。
「……ん?え、待って何なんでこっち見てんの…?」
と、玲夜を見つめた。
わけもわからず、ただキョロキョロと周りを見渡すしかない生徒会長に、斎藤は。
「…え、だってせーとかいちょーは行くの確定だろー……?だからまー………ほら、その地位使って"予算パクってー"…な?」
「な?じゃないですよ何考えてんですか!?」
「いいだろ皇!減るもんじゃねぇんだし!」
「減るだろ色々と!俺の人権やらパクられた予算やらが!!」
「「「まぁまぁ」」」
「まぁまぁ!?」
一体どこが良いのだと抗議の色濃く声を荒げる玲夜をスルーして、何を持っていく?やっぱ王道はフルーツか、と真剣な表情で会議を始めた我らが同胞に。
「……常識は、一体何処へ……!?」
もはやこちらがおかしいのか、と洗脳され沈んだ青い瞳に映るはやつれ、けれどとてもいい笑顔の担任、斎藤和葉で。
「……ここは、常識やろーが非常識やろーだ……覚えとけ、せーとかいちょー……」
背後で繰り広げられる、バレたら即退学級の話が花を咲かせている花園(話し合い)に暖かな目を向けて。
ーーーー成る程、俺は非常識人だったのか…と。
もはや弁解する気力なく、ただただ自分が悪いと思い込んで、こんなアインスが高等部の特待生クラスなんだなぁ……不思議だなぁ…と。
ーーーーなんで俺、ここにいるんだろうな……。
生徒会長という立場でありながらきっての頭脳持ち、簡単に天才と呼べる玲夜は、その頭脳を生かして、何度目かわからない現実逃避に意識をくらませた。
「………柴崎彗…長月明日斗………大学部一年【ツヴァイ】クラスで仲の良い、いたって普通の優等生、ねぇ………異名持ちがあの二人とは驚いたけれど………そこまで騒ぐほど凄いとも思えないんだよねぇ……」
無機質なブルーライトに照らされる白銀の髪は、赤い髪ゴムで緩く束ねられサラリと肩に靡いている。
八神家の二階、中々に広い部屋だったはずのルームは、ディスプレイやゲームの資料などでかさばり、なんともお世辞にも広いとは言えなくなっていた。
そんな"飛鳥の部屋"は、文字通り、八神飛鳥の部屋である。
今日も今日とて、不登校を貫き、携帯のバイブレーションが文化祭以降、霧島一東とかいうクラスメートからのメールが絶えずきているのを無視して。
というか、そのせいでバッテリーが減ってしまう、と充電ケーブルに繋いだままの携帯を睨む始末なのだが。
まぁそれはそれ、これはこれと。
玲夜にまで発覚してしまったハッキング能力を活かして盗み見ているリンドウ学園の個人情報。
ここまで来たらもうハッキングで食っていける気がするが、犯罪に変わりないしそんな事を陸がオーケーするわけもなく。
この現状はゲームの賞金でも食べていけてるので、これは予備知識、と。
デスクの端に置いていたペットボトルを掴んで、水を口に含みながらデスクトップの画面に映し出されているその画像と資料を睨む。
にこやかに写真に写っているグレーの髪と、珍しい瞳、オッドアイの柴崎彗。
対して、九割黒の茶髪、緑の双眼で冷徹な目でカメラを睨み殺してしまいそうな顔の長月明日斗。
「……………なんというか、個性が強い、というか……あ、僕らも大概か……」
備考欄で、箇条書きとして書かれている文に目を通しての感想。
"個性強い"
いやお前もな、という声が聞こえた気がして、思わず声に出してしまった"僕らも"。
「………ん…?」
ふと目に留まった彗の備考欄、その内の兄がいるという言葉の下。
………気になる大学の名前が書いてあり、横に並び光っているデスクトップの画面に視線を滑らせる。
ペットボトルを置いて、右手でキーボードを叩き、情報を深く確かなものへ変える。
一番大きなディスプレイに資料を写しながら横に出る資料の多くの情報を照らし合わせて、やはり…と頷いた。
「………柴崎彗の兄って…………成る程ねぇ…そりゃ連なる恨みも多いわけだ」
"柴崎薫"
そう書かれた名前に、飛鳥は一人でに呟く。
これは、この事件は。
やはり、思っていたようになるべくして起こったものだったらしい、と。
「…………お前さァ…」
「何も言うなよ陸。俺だって猛反対したさ…でも俺は非常識らしいからな…」
「おい誰だレイを洗脳した奴出て来いやァ」
「…………やべー……俺ガメオベラするかもー……」
「その時はみんなで嘲笑ってあげますよ先生」
「…………せーとかいちょー…?」
結局、ここ中央病院に見舞いに来たのはアインス担任、斎藤和葉と生徒会長、皇玲夜、そして風紀委員長の八神陸の三人だけになった。
理由としては、そう大人数で押しかけても病院側からしてみれば迷惑きわまりない事。
そして、事実を知っている、という事を知っている和葉が決めたこと。
…じゃなんであんな会議したんだろね、俺わからないや。
常識人だと思っていたのが、周りから非常識人だと言われたことが案外傷になっているらしく。
ポケ〜と歩いてきた玲夜の隣に寄り添う陸は、深くため息をついた。
「だいたいよォ、俺ァ言ったんだぜェ?犠牲者増やす前に手ェ打てってよォ………あんの生徒会長ォ…!」
「………………ぅん」
「あ゛。いや、違うって大学の生徒会長のこと言って……レイィ!戻ってこォい!!」
"生徒会長"という言葉に反応したらしい玲夜のあからさまなテンションダウン。
慌てて弁解の言葉を紡ぐも、玲夜のテンション右肩下がりのグラフさながら、上がることは無かった。
そんな仲良しこよし(第三者目線)の二人を一歩後ろで見届ける和葉。
すっと音もなく携帯を手に持ち、高速でメモアプリに文字を記入していく。
忘れるなかれ、この教師。
ーーーー"BL漫画家"あることを。
某青い鳥で呟いたその文章に[いいね!]がドンドンついていくのを見届けた和葉は、また音もなく携帯の電源を切り。
「……あんま喧嘩すんなよー………びょーいんに迷惑かけたら怒られるの俺なんだからなー………」
「「…はーい」」
呆れて言葉も出ない、という雰囲気を纏わせながら腰に手をつき一言、迷惑かけんな。
それで大人しく声をハモらせてオーケーと承諾する教え子とその友人。
ーーーー嗚呼、妄想が捗る…ありがとーなー…
もはや隠す気がない脳内妄想。
自身が描き続けている漫画のモデルが目の前でイチャイチャしてるのは正直目の保養以外の何者でもないのだが。
自分の立場的な意味で考えると、移動や暇を持たされればこの光景を二度と見ることが出来なくなる。
と、すればする事はただ一つ。
「……きっと我らがリンジンもお前らが来たら喜ぶだろーなー………」
"表向き"は良い教師を演じ、そしてそれなりに教師としての鑑を全うする。
生徒の反感を買う事なく、円滑に事を進めれば学年が変わっても同じ学園の教師ならば会う事は可能。
そう、和葉は内心ニヤリと笑って目の前、一歩先を歩く"推しカプ"二人(見舞い用のフルーツ等を持っている)を微笑ましく見守った。
「………なぁ、陸」
「あ?どしたァ?」
「いや………和葉先生さ、なんで俺らの後ろにいるんだ?」
「さァ?後ろは俺に任せろ的なヤツじゃねェ?」
「それどこのアクション漫画だよ………なんか、視線が俺の両親のと似てる気がしてさ…………」
「おー…………よくわかんねェわァ」
そんなアインス担任を横目に、明らかに怪しんでいる陸と玲夜の二人。
さっき迷惑をかけるなという言葉の通り、コソコソと極力小さな声で会話をするため、必然的に顔が寄るのだが。
「(………さーびすしょっとー………これは、使える……このままキスとか……いやでも…なー……)」
和葉ビジョンには、全く怪しんでいる様子は写っていない様子。
それどころか、ネタにまでされそうな勢いだ(というか多分なっている)
滅多に表情が顔に出ない和葉だからこその芸(?)
やましい事を考えていても、それが全く顔に出ないため、周りからはただやつれている先生としか思わないだろうが。
実際は、こんなことやあんなことを考えたりしているので、玲夜の父…皇蓮弥となんら変わりはない。
この病院内の患者、および見舞客や看護師までも不思議なものを見た、という目でこちらを凝視する中。
ようやくたどり着いた、五十嵐隣人の病室。
意識が回復した、という知らせが届いていないから、きっとまだ眠っているだろうが。
なるべく痛まないようなフルーツを持ってきたため、大丈夫だろう。
ーーーーガラ……
スライド式の白いドアを開け、潔白なイメージである白の部屋が視界に入り、ベットを囲う白いカーテンが揺れた。
ーーーーーぁ……ぇ……!
………ほんの小さく、声が聞こえた。
それに気づいた陸が足早にベットに近づき、白いカーテンをシャッと開ける。
「…わッ!?び、ビックリした〜……」
「………………………………俺も………」
「あ、明日斗パイセン…!?なんでここにーーーー」
「隣人君!意識戻ってたのか!?一体いつ!?」
「……あれー…?……連絡きてないぞー…?」
「あ!フルーツめっちゃあんじゃん!やったー!サンキュー玲夜!あと八神とセンセも☆!」
「……………俺、ついでなのか……これでもちょー頑張ったんだぞー……?」
「オイコラ、俺をオマケみてェに言うなよ五十嵐隣人ォ」
…………話が、ややこしくなる^^
誰が誰なのか、イマイチわからなくなりそうな会話の連続。
キッパリとわかるのは、明日斗がここにいる事、そして隣人の意識が戻ったこと、そして見舞いは玲夜だけで良かったのか、という事だ。
隣人が意識を戻したという連絡が来ていなかったらしい和葉はただ首を傾げていたが、その横の玲夜(フルーツ持ち)をみた隣人は目をキラキラとさせて。
子犬みたいだなぁ、と現実逃避し始めた玲夜を置いて明日斗と陸は互いに顔を見合わせ。
「……………………なんで、お前らがここに……?」
「いや最初に言ったっすよね俺ェ!?」
指すら指されて問われた問いにずっこけそうになりながら陸はなんとか言葉を返す。
長月明日斗………彼特有の、マイペースに巻き込まれないよう、至って必死の回答である。
「…ま、まぁ……とりあえず、隣人君が目を覚まして良かったよ……怪我の調子は?」
コントのような会話を繰り広げている二人を置いて、玲夜はベットに上半身だけ起こした五十嵐隣人へと話しかける。
フルーツを腕に抱え、綻んだ顔を見れば大事なさそうに見えるが………
「ん?あ〜っとね。医者からは足骨折、背骨ヒビ入って打撲多数だと☆!マジビビるわ〜!」
…………….………………ぅん?
あれれ〜おっかしいぞ〜?↑
何やらとんでもない言葉が聞こえた気がするな〜?と。
目を開き貼り付けたままの笑顔で固まった玲夜に、追い討ちをかけるかのごとく、隣人。
「いや〜まいったね〜☆!今こうして痛み止め打ってもらってるけど、切れたらマジヤバたにえんって感じ〜☆!?」
……………………きの、せいだろうか
隣人……性格変わってね!?
「ちょっと待てェ!!おい五十嵐隣人!テメェそんなキャラじゃなかったろォ!?」
「え!?マジ寄りのマジ?俺元々こんなキャラだぜ〜☆!?」
「うっそだろお前………うっそだろお前ェ!?」
明日斗との会話に勤しんでいた陸も、流石に気がついたのか。
慌ててベットに駆け寄り隣人の肩を掴むが否や、ガクンガクン揺さぶる勢いで問いただした…が。
やはり、かえってきたのは"いつもの俺じゃん何言ってんの"である。
このキャラの変わりようは古代ローマ、暴君とも呼ばれた賢帝三代目、カリグラさんもビックリ。
というか、まさしくカリグラのそれ過ぎて玲夜は軽く目眩を覚えた。
(追記:カリグラという三代目ローマ皇帝は、賢帝だったのにも関わらず、高熱で倒れ生死を彷徨った挙句、奇跡的に復帰したのち性格が激変。それから暴君へとなってしまったキャラ変わり過ぎて草生える系皇帝である)
頭を抱えて唸り始めた玲夜の後ろ。
静かにその惨事を見守っていたアインス担任こと斎藤和葉。
五十嵐隣人が目を覚ましたという連絡が来ず、一体何があったと困惑していたら何かと話が進んでいて少し混乱状態。
はっと意識を現実へと引き戻した彼は、まぁ落ち着けヨモギティーチャー、お前はそんな慌てるキャラじゃないさ、と。
ふう、とため息一つ、そこからキリッと目筋を正し(?)、一言発した。
「………とりあえず、おちつけー……」と…。
いつまでそうしていたか。
五十嵐隣人にはよくわからなかったが、最後の記憶が名も知らず顔すらもわからない男の声だったのは確かだった。
身体中が悲鳴をあげ、身じろぎすら出来ないあの状況下で。
「……こら、マズイかもしれへんな…早う病院に連れていかな…」
ボソリと呟かれたその言葉に重い瞼を持ち上げて、"彼"の顔を見る。
ボンヤリと見えた顔は、どんよりと曇る雲のような灰色の髪と、赤と青のオッドアイ。
声を発し、手を伸ばし、彼に今先ほどの出来事を伝えようと奮闘したが、ただ身体がミリ単位で動いただけになってしまう。
そんな隣人を見て、彼は見えずとも苦々しく顔を歪めたのか。
「…………いける。次に目ぇ覚ましたら病院やさかい。あんたの友人も見舞いに来てるやろう」
少しだけトーンの下がった声で、けれども優しい声と一緒に身体がフワリと浮き上がる感覚。
背中と膝に差し込まれた長くたくましい腕は、こんな傷だらけ、血だらけの身体を気にする様子もなくしっかりと隣人を抱きとめる。
一歩を踏み出すたびに揺れ、軋む痛みに顔を歪めるも、"彼"はなるべくそっと歩いているつもりだろう。
必要以上の揺れが起きず、隣人は痛みとそれ以上の安堵感を覚えて、自然と瞼が下がる。
………本当に、なんでこうなったんだか……
未だに、自分が大怪我しているという現実を受け入れられず、夢だったらいいのにと。
こうして目を閉じ、次に目を開ければ暖かな我が家で。いつものベッドから飛び起きて、ヤバイ遅刻だと。
そんな、いつもの日常が来ればいいのに。
叶うことのない事だと知りながらも、隣人は名前も知らない"彼"の言葉を聞き、今度こそ眠りの世界へと旅立った。
「………ほんに、すいまへんなぁ……」
「って事があったんだよ☆!も〜滅茶滅茶かっこよくね〜☆!?俺マジ惚れたわ〜☆!」
「…コイツ本当に怪我人かァ…?」
「……おちつけーっていう俺の言葉聞こえてたー………?」
「あ、林檎剥く?果物ナイフあるから食べれるよ、隣人君」
「マジ☆!?あざ〜っす☆!」
「……………………………ちゃらい……」
キラキラとした目で語ってくる人格が変わった五十嵐隣人。
ジト目で本当にそんな重傷か?と疑う八神陸。
はぁ、とため息をついて眼鏡をくいっとあげる斎藤和葉。
そんな彼らをスルーして林檎と果物ナイフを手に皇玲夜、そして心底嫌そうな顔をしている、長月明日斗。
全くカオスな病室である。
骨折やらヒビが入ったやらで重傷アピールしている隣人の回想話に、陸は。
「………コイツ、頭も重傷じゃねェ…?」
と、まさしくその通りな言葉が出てきたときは、アインス担任である和葉でさえも頷いてしまった。
そんな担任に、ひどくねー☆!?っとギャンギャン吠える隣人。
………笑えないレベルで、心配なんだが、と。
玲夜はクルクルと林檎を回し、器用に赤い皮を剥いていきながら思った。
もしも、このまま彼の人格が戻らなければ、アインスのクラスメートは勿論のこと。
彼の家族や友人にだって迷惑と心配をかける事になる。
リンドウ学園の不祥事とはいえ、やはりそれだけは避けたいところだ。
サクサクと気持ちの良い音を奏でながら淡い暖色の果実を切る。
一応、と持ってきていた紙皿に切った林檎を並べて、ベッドに備え付けられた即席のテーブルに置く。
「うまそ〜!いったっきま〜っす☆!!」
途端に飛びついてきた隣人を生暖かな目で見つめながら、玲夜。
「…………さて、とりあえず隣人君が目を覚ましたのは良いことだ、そうに違いない。…………だから次は彼をこんな目に合わせた奴等をどうするか、決めよう」
一変して、冷たく光る深海の瞳に、陸は無言で頷いた。
…シャクシャクと林檎を食べながら。
「らいはい、こんはいのじけんは、あふかがじょうほぉもっへるし、なんとかなるだろォ」
「食ってから喋れ、行儀悪いな…」
本人達は至って真剣なのだから、咎める人などいるわけもなし。
和葉でさえも、口を出さずにただじっと沈黙していた。
「ん、んんっ。んでェ?生徒会長サマはどう考えてんだよォ」
大人しく林檎を飲み込んだ陸が問うたのは、このメンツでもっとも頭が切れるであろう玲夜の案。
「……正直、俺らがどうこうしてなるような問題じゃないから、最終的には警察任せかな」
「……まー、それが安全だしなー……しょーじき、俺はあんまり関わりたくなーい……」
「おいアンタ教師だろォ…」
「…命に関わる問題なら誰でもパスするにきまってんじゃーん……ねー、せーとかいちょー…?」
「あ、先生は前線で頑張ってくださいね」
「………………………んー…?」
ぱーどぅん?と。
キョトン顔でこちらを見つめる担任(和葉)に、玲夜は無慈悲に。
「このメンツで唯一の大人なんですから、頑張ってくださいね、先生」
ニッコリスマイル。
まさしく死の宣告とも言える死神の笑顔である。
これはシャレにならんぞ、と和葉は冷や汗がタラリと背中に伝うのを感じ、鳥肌が立った。
一教師として生徒を守るのは当たり前であるが、命が関わったら話は別だろう…?
そんな淡い期待も虚しく、これは本当に逃してはくれない様子。
「…….….……….…なぁ……」
ふと、聞こえたハスキーボイス。
冷淡な口調で言葉を発したのは、今まで黙っていた明日斗だった。
「…………………アンタら、犯人わかってる…のか………?」
ーーーーーーん?
「おー。目星はついてるっちゃついてるよなァ?」
「…まぁ、今回は飛鳥に感謝かなぁ…いやでも"アレ"はダメな気が…」
「いやいや、レイよォ、利用できるモンは全部利用しちまおうぜェ?」
「…………まって…せんせー何言ってるか理解できてなーい……どゆことー…?」
「…………………斎藤先生に、同じ……」
「そして俺もノットアンダースターン☆!え、何玲夜、犯人わかっちゃってるカンジ〜!?マジやばたにえんなんですけど〜っ☆!!」
口調から察したであろう明日斗。
陸と玲夜の二人の会話は、あたかも犯人がわかっているような話だった。
ともすれば、後から続々と知りたい知りたいと野次が飛んでくるのは承知。
そこで、二人は。
「犯人の目星はたってるから、対策も出来るはず。だから先生は前線(職員会議)で頑張ってくださいね♪」
「ソユコト。頑張れェセンコォ♪」
びっくりするくらいいい笑顔で"先生、貴方だけは逃さん"と。
警察と大人任せな作戦だという事を話し…。
ーーーー和葉は、黙って気絶した。