コメディ・ライト小説(新)
- Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.5 )
- 日時: 2019/03/19 10:06
- 名前: Rey (ID: NvHaua1/)
四話 生徒会長の部活風景
魔弓科といえど、【雪月花】は弓道部全体で使っている木造の格技室。
魔法を使うか使わないかの違いだけなので、わざわざ新しく建築しなくても、合同で使えるからいいだろう、という上(教師)の元、今日も今日とて…。
「うおぉ!!道着姿の会長かっけぇ!!」
「ヤバイ…尊すぎて死にそ…」
「生きろ!見ろ、イケメン過ぎる会長を!神のような魔法で魅せてくれる、我らがリーダーをッ!!」
「会長最高っすッ!!俺会長の矢に当たって死にたいっすぅッ!!」
「「「会長マジパネェェェエエエッッッ!!!」」」
ーーーーつんざくようなファンコールの中、集中の「し」の字もないような、この騒音だらけの中、レイは部活動をしなければならないのだった。
ああ、もう慣れたさ。これが俺の部活だ、今更何も言うまい。
騒がしすぎて文化部の代表達がなんとかしてくれ、と苦情が来るほどの熱狂なんぞ、リンドウ学園からしてみれば、もう慣れっこなのだ。
…だが、今日は何となく"嫌な予感"がする、とレイは内心げんなりしていた。
先輩が戻った後にレイは表に立ったが、何せ数十人いる部活なのでスペースが空くまで時間がある。
なのでレイが矢を構えるのはまだ後少し先の事なのだが…。
どうも、この熱烈なファンからの"早く会長を出せ"という圧力からか、レイの前の後輩はそそくさと全ての矢を射ってしまい、一礼するのを周りの部員は"うん、俺(僕)もそうする"と言いたげな目で同情した。
レイからしてみれば、すまないという思いでしかないが、ファンにあーだこーだ言ったところで。
"会長になじられた"と盛り上がること間違いなしなので、タチが悪いったらありゃしない。
ーーーーふと気づけば、レイの前には先程いた後輩がいなくなっていた。
視界に広がる青い芝生の上に浮かんでいる数多くの赤い的。
全て"魔法"で浮かんでいるそれは、空を覆い隠さんと散らばっている。
「………あ〜…ま、やるか…」
テンションダダ下がりなレイはというと、自分の番という事で道着の帯をキュッと締めて、ピン留めで前髪を横に流し留めながら、ポイントに立つ。
肩にぶら下がるようにして担いでいるエーテル・タキオンは、開放的な【演技場】の太陽光によってキラキラと光り輝き。
ファン達からの目線からだと、まるでレイの肩から"羽"が生えているように見えた。
「ヤベぇよぉ……会長が天使に見えるよぉ…」
「わかりみがつえぇ……神々し過ぎるじぇ…」
「なんか某最期のファンタジー英雄みたいでテンション上がっている俺がいるぜ」
「よう俺」
「お前もか」
…お陰で対照的にこちらはテンション常にアゲアゲである。
見物客がいるおかげでこちらのモチベーションがあがる、なんて事もまぁ無いことも無いが。
………騒がしいから集中出来ない、と言いたいのだけれど。
「おいお前ら!そろそろ会長が矢を放たれるぞ!」
「マジ!?やべ静かにしねぇと!」
「静粛に!静粛にぃッ!!」
ーーーーーシンッ…………。
清々しい程に、単純で一途なファン達のお陰で、びっくりするくらいやりやすい状況が作られるのだ。
これには毎年入ってくる新入生もびっくり。
"え…………え?"とハモるのを在校生はニンマリと見つめる。
と、ようやく場が整ったところで、レイは静かに息を吸って、吐き出す。
集中力を高めようと深呼吸し、音なくエーテル・タキオンを構える。
ーーーーーシュインッ
弓の弦に手をかければ、矢をつがえ発射する部分に"魔法陣"が現れ。
クルクルと廻りながら、それは矢の形を形成する。
数秒後には、エーテル・タキオンに煌々と輝く光の矢がつがえられ。
「………ふぅ…………」
軽く息を吐き、そして止めながらゆっくりと弦を引き絞る。
キリキリ……という独特の音を耳元で感じながら、レイが見据えるのはただ一点。
無数の的の中にある、その内の一つ。
………そして、弦が限界まで引き絞られた、その時。
ーーーーーーヴォンッ!
エーテル・タキオンに埋め込まれた数々の魔導結晶が煌き、数多くの色(魔法陣)を展開させた。
その数、おおよそ……………十以上。
エーテル・タキオン付近に現れた水色の陣を始め、矢の羽の部分にも赤い陣が廻り。
そして、的が浮かぶ空にも複数の陣が廻っていた。
思わず感嘆の声を漏らすファンや後方の先輩、後輩の声を遠くの方で聴きながら。
「…【四大元素の加護】」
その"魔法"を口にしてーーーー手を離した。
人が目視できるスピードを遥かに超えながら飛翔するその矢は、炎に包まれて。
エーテル・タキオン付近にあった水色の陣…まさしく、【水属性】の陣を潜り、炎は勢いを消し…だが。
"蒸発した水"が天へと登り、そこにあった"緑色の陣"へと触れる。
それは【風属性】の陣…触れた水蒸気は錐揉みされながら大気の変化を陣の中で起こし、人工的に"雲"を作った。
皆が上を凝視するなか、ここで視覚だけでなく"聴覚''もこのパフォーマンスに取り入れられている事を知る。
ーーーーーゴロゴロ……!
一斉に、皆が息を呑む気配を感じた。
ーーーそう、この三種の陣の狙いはーーー
ーーーードカァッッ!!!!
視界を真っ白に変え、鼓膜が破れそうなほどの轟音を持って"落ちたそれ"は。
ーーーまごう事なき、人工的に作られた"雷"である。
そも、雷とは何か。
それは、雲の中で起きる静電気である。
水蒸気、あるいは氷などの粒がぶつかり合い、摩擦を起こして発生するそれは。
限度を超え、大地が雲と逆の"極"になったことで起きる"災害"となる。
ーーーお陰で、雷鳴が轟き終わる頃には、的はほとんど消し炭になっていた。
だが、これでは四大元素では無いだろう。
四大元素、とはこの世界を構成する四つの物質を表す言葉であり。
【炎】【水】【風】【土】が全てを構成する土台になった、という考え方である。
今レイが生成した魔法陣で機能したのは、【炎】【水】そして【風】の三種。
ーーーでは、土は何処へ?
「…!」
「な、おい…嘘だろ……!?」
「え?え?なに?なにが?」
意図に気づいたであろう生徒…おそらく先輩方だろうが、驚愕に喘ぐ。
理解出来ていない後輩が、先輩方の驚きに少し不安の色を見せながら、それでも目だけはフィールドへと向けられていた。
「…雷ってのは、地面に落ちるだけじゃなく、周りにも被害をもたらす災害だ。高いところに落ちるってのもあってるが、必ずしもそうじゃない」
ーーーー答えを口にしたのは、こちらに背を向け、エーテル・タキオンを下げる生徒会長の声だった。
「だから、"土の加護だけはなくちゃいけない"。百パーセント、地面に吸収されるように、お前らに被害が出ないように」
ーーーー今度こそ、この場にいる全員が言葉を失った。
【四大元素の加護】
それは、自然の力でおきる災害と、その恐ろしさを具現化したような魔法である。
…たった、三種の魔法陣でここら一帯を焼き尽くす光と音の嵐が生成できるのだ。
だからこそ、被害を最小まで止める"土の加護"が必須。
衝撃を全て受け止められるように強化、そして全ての電気が地面に流れるように"誘導"する。
ーーーこれが、四大元素の加護
生徒会長が"自ら考案"した、ツァオベライ・アローの為だけの魔法である。
………だがこれで最後ではない。
「…ぁ……先輩方!あれを!」
一人の部員がそう声を上げて、そちらを見やれば何やら空を指差して。
キラキラと目を輝かせながら、空を見ていた。
釣られるように空を見れば……。
ーーーーそこには、美しい虹がかかっていた。
十を超える魔法陣の内の一つ。
虹とは水蒸気が太陽の光に当てられ屈折、反射しておこるプリズム現象。
まだ太陽が明るく照らしているこの時間に、もう一つの魔法陣で形成した水飛沫等を生成して、人工的に虹を作り出す。
ーーーーー的が壊れて出てきた虹は、この場にいた全員の記憶に残るものとなったのは、いうまでもない。
つまり、これがレイの魔法。
ーーー"全国大会優勝者"の、実力である。