コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.7 )
日時: 2019/03/19 15:02
名前: Rey (ID: NvHaua1/)

六話 生徒会長、友との帰宅路にて


「レイィ…ふふっ…おま、あんな告白のされ方…ははッ!!」
「笑うなよ陸!ってかあれどんな範囲で…」
「規模デカかったぜ!なんせ、グラウンドからハッキリクッキリ見えたからなぁ…は、ふっ…」
「陸ぅ……お前の頭に矢ぶち込むぞ…」
今日1日で二回告白されたレイは、もはやメンタルと呼べるものがないに等しい程まで削られていた。
部活がようやく終わり、ファンの花道を潜り抜けた先にいた幼馴染の姿に思い切り顔をしかめた、レイ。
それも、今もこうして笑い続けている陸のせいだった。
コヤツは人の不幸を笑う最低人間なのかと叫びたいものだ。
「わ、わりぃ…ふふっ……んぁ、そうだ。なぁ、ちと"付き合ってくれね"?」
ーーーーーーー前言撤回。
「お前は人の不幸を笑う最低人間"だな"」
思いっきり悪意しかない顔でそう言った陸に、レイは真顔で手刀をお見舞いした。
「あでッ……いや、違うって…」
「ど〜せ買い物だろ?わかってるって、さっさと行こう」
「…さすレイ」
「略すな」
勿論、それが恋愛的な意味ではないことは了承済み。
それに、こうして誘いに来られるのは今に始まった事じゃないのだが、問題は…。
「お前、誤解を招く言い方やめろよな、俺のファンに殺されるぞ」
「レイのファン、案外過激だからなァ…怖ぇわ」
校舎を出てなお、後ろをゾロゾロとついてくる気配を感じさせる、ファン(ストーカー)達である。
正直、このままスーパーに行けばなんという噂が流れるか、なんとな〜く予想がつくので。
「…っし、撒くかァ」
「それはいいんだけどさ、ちょっと手加減してね、俺お前のスピードについてけないから」
「おー…それはわかってる。ま、ここら辺曲がり角多いしいけるだろ。走るぞォ」
「りょーかい」
陸はカバンを肩にかけ直し、レイはエーテル・タキオンを担ぎ直して。
……二人は、勢いよく角を曲がった。
後方で"曲がったぞ!?" "今すぐ追いかけろ!" "会長を無事に送り届けるのだァ!"と言った声が聞こえ、レイと陸は視線を絡ませて。
ーーーコクン、と小さく頷いた。
角を曲がった直後、また少し進んだところにも曲がり角があり、そこはT字路になっていて、撒くにはもってこいの場所。
そこで二人はスピードをつけてT字路を"右折"した後にリンドウ学園へ"戻った"。
これで、完璧にファンを撒き、更に何事も無かったかの様にスーパーに行くのである。
ーーーが。



「はァ……は、ァ…ッ」
「お前相変わらず持久力無いよなぁ…」
「う、せ……俺ァ、短距離…なんだよ……ォ」

少し息が乱れているだけのレイとは別に、陸は激しく息が乱れていた。
ーーーー八神 陸
このリンドウ学園の陸上部に所属しており、彼は短距離走のエースとして有名で。
単に百メートル走で対決しても陸が圧勝するであろう、彼の足は。
けれども、持久力が乏しいためマラソン大会などでは堂々の下位に名前が乗る。
……そんな彼も顔がとてもいいしチャラいけれども優しくてこんなギャップ持ちである。
ファンクラブがないわけでは無いが、彼が"他の奴らに迷惑かけんだったら俺が潰すぞォ?"と威圧的に嗤った為に彼のファンは比較的おとなしい。
ただまぁ一応構内で会ったりしたらとびっきりの笑顔で挨拶はしたりするが、それくらいレイからしてみれば優しすぎて羨ましいくらいだ。
「ほら、スーパー行くんだろ?」
目の前にへたり込んで息を乱す陸に手を差し伸べて、レイは。
「さっさと行かないと………」






「セールの卵、売り切れるぞ?」






心底マズイ、という顔で、焦燥の言葉を口にした。



「………やべ」
顔を引攣らせてその手を取った陸は、確かにマズイ、と。
なんのために"少し早く部活を終わらせた"のか、その意味が無くなってしまう、と。
「走れレイィ!!」
「いわれなくてもぉッ!!」
慌ててスーパーへの道を走り抜けた。
途中、近所のお母様方に"あらあら、仲が良いわねぇ"と暖かな目で見られたり、子供達から"ヤンキーだー!ヤンキーが走ってるー!"などと言われたり散々だったが、背に腹はかえられぬ、と。
ようやく見えたスーパーの看板に、二人は安堵のため息を息も絶え絶えながらに吐いた。




「あっぶねェ…なんとか間に合ったァ…」
「良かったな、とりあえずこれで卵4パックゲットか」
「一人二個までだったからなァ、持つべきものは心通える友だ、マジ助かった」
…茶髪赤メッシュ(ピアス有り)ヤンキーが、スーパーの籠をカラカラと押し、セール品の卵を手に安堵している。
それが、とても奇妙な光景だったのか、周りの客はこちらを二度見しては口をアングリ開けていた。
まぁ、リンドウ学園はエリート校なだけあってこの二人はかなりこの地域では有名人なわけだが、実際ヤンキーと会長が二人揃って卵を抱えていたら誰でも二度見するだろう。
………二人とも無駄に顔が良いことも、きっと理由の一つだろうが。
「にしても、卵の他に林檎も安くて良かったな。陸って見かけによらず手先器用だし、ウサギ作れば?」
「おー……あー、でもフォーク添えねェと"アイツ"食わねェんだよなァ……」
「……コントローラー汚れるからか」
「ピンポーン、さすレイ」
「だから略すな」
緑色のスーパーの籠には卵の他に肉やら魚やら、野菜ももちろんのこと林檎も安かったためコロコロと転がりながら入っている。
正直、こんな如何にもヤンキーな見た目な陸がスーパーに入ろうものなら定員全員警戒しそうなものだが。
「…あら陸ちゃん!セールの卵間に合ったの?ってあら!?生徒会長さんじゃないの!」
「あ、どうも。お久しぶりです」
「よォ!ま、なんとか間に合ったって感じだなァ…全力疾走したから疲れたぜ…」
レジの店員さん、及び全ての店員は陸は常連、というイメージが定着している。
毎度毎度学校が終わった後にこのスーパーへとおもむき、食材を買って帰るので、しかも見た目以上にヤンキーな事をしているわけでもないので皆暖かく見守っているのである。
逆に、セールなどで人が集った時に揉め事があったりすると真っ先に解決の仲介役を引き受けるので、スーパー側からしてみれば…。
「んもう!陸ちゃんってば!そんな陸ちゃんにおばさんからのサービス!これ生徒会長さんと食べて!」
と、モンブランやショートケーキの詰め合わせをレジに通して、ニッコリスマイル。
勿論お代はいらないから、と親指を立てたレジ打ちのおばさんに。
「マジ!?よっしゃァ!」
「スイーツ…!陸、今日お前ん家寄ってく、ってか寄らせろ!」
ガッツポーズを取った陸と、"スイーツに目がない"レイがダバダバとヨダレを垂らして、脅迫のように宣言。
こんな微笑ましい光景を目の前で見ていたレジの店員さんは、もう眼福としか言いようがないだろう。
「はい!それじゃ会計ね〜!」
そんなこんなで代金を払い、一人じゃ持てないだろう、とレイが半分を受け持って、ようやくこのスーパーから背を向けるのである。
この二人がスーパーに行く、と言うことはファンの間には知られておらず、この事を知るのはスーパーの店員と、その場にいた主婦の方々のみである。



空が黄色く染まる頃、ガサガサとビニール袋が擦れる音を立てながら帰宅路に着いた陸は、静かにこう言った。
「"アイツ"最近ロクに寝てねェんだ。お前から一発言ってくれ」
普段チャラチャラと人を煽る陸とは思えないほど、静かに言ったその言葉に。
「……あ〜…はいはい。りょーかい」
もはや呆れるしかない、と。
彼がいう"アイツ"とやらの、そのロクに寝もしない有様が脳内にありありと想像出来て。
レイは、ははっ……と乾いた笑みをこぼした。