コメディ・ライト小説(新)

Re: 男子校の生徒会長は今日も男子生徒に告られる ( No.8 )
日時: 2019/03/19 17:32
名前: Rey (ID: NvHaua1/)

一話 生徒会長は甘いもので釣れる


白く二階建の一軒家に、不釣り合いなヤンキーが入っていく様子を真後ろから見ていたレイは、何度見ても取り立てに来たヤクザだよなぁ、と思う。
考えてみれば、このヤンキー(笑)は意外と喧嘩っぱやく拳で語り合おうという概念を持ってはいるものの、高校生になりネクタイが"白"から"水色"に変わった時に喧嘩はパッタリとなくなった。
それが、これから会うであろう"アイツ"とやらが関係している事は、もう知っている。
というか、レイにしか話していないらしい。
ーーーガチャ……
「っし…ただいまァっと……レイ、荷物とりまリビングに置いといてくれ」
「お邪魔しま〜す。はいはい、りょーかいりょーかい…」
白い木目のついた扉を開ければ、段差付きの玄関が視界に広がり、微かにベルガモットの香水の香りが漂う。
彼が家でつけている香水の香りだ。
エリート校で校則も厳しい故、家でしかつけない香水だが、いつしか彼が"香水が欲しい"とレイに強請った時に買ってあげたプレゼントの一つ。
そんな懐かしい"陸の家の匂い"で昔に帰ったような、そんな複雑な気持ちになりながらも靴を丁寧に揃えて、リビングへとビニール袋を持っていく。
陸はもう冷蔵庫に食材を入れている最中だった。
「…あ〜…アイツ林檎食うかなァ…」
「渡せばいいんじゃん?食べなかったら俺が貰うし」
「…………お前食いたいだけだろ」
「さす陸」
「……意趣返しかったくよォ」
不機嫌そうに唸る陸を横目に、ほら、とビニール袋をリビング中央にある机へと乗せる。
その中から冷蔵庫に入れなければならない生物や、野菜室行きになる野菜や果物を手渡し。
「なぁ、俺が上行こうか?」
と、少し控えめに提案してみた。
この家、八神家の二階にいるであろう"アイツ"とやらは、陸にとって少し厄介な状態になっているらしい。
ならば自分が行った方がいいか、と聞いたわけだが。
「…あー…いや、俺も行くわ。どーせアイツヘッドフォンつけてっから俺ら帰って来てんの知らねェだろうし」
バタム、と冷蔵庫を締めて、こちらを見やる陸の赤い目。
「ちょっと待ってろ。林檎むくから」
だが、その色は、とても悲しげに揺れていた。




コンコンッと控えめに、皿とフォークを持って両手が塞がっている陸の代わりにノックするが、返事は無し。
どうやら、本当にヘッドフォンをつけているらしく、聞こえてないようだ。
チラリと横を見れば、呆れたようにため息をつく陸。
それを、"入っていい"と解釈して、レイは極力静かにドアノブに手をかけた。



ーーーーそこには、美しい青年が座っていた。



薄暗い部屋の中、ランランと光るモニター、ディスプレイに囲まれる、その青年は。
珍しい、雪のように真っ白な髪を後ろに緩く束ねていて、後ろ姿からでもその肌の白さが伺える。
そして、ディスプレイに映った二人を見たのか、青年が"ゲーム・クリア"の文字をディスプレイに表示させた、その時に。
「…レイも来るなら先に言ってよ、"兄さん"」
くるりと振り返った、"陸の弟"は。
ーーーーブルーライトカット入りの、軽く茶色がかった眼鏡と赤いヘッドフォンを外しながら。
血のように赤い瞳をこちらに向けて、静かに微笑んでいた。



「…あ〜……成る程、こりゃ重症だ」
まず口を開いたのはレイ。
目の前に座る陸の弟…八神やがみ 飛鳥 (あすか)を見て、第一に思ったこと。
それはーーーー。
「飛鳥、お前今日で"オール何日目"だ?」
白すぎる肌故にくっきりとわかる、酷いクマに、レイはげんなりと質問した。
「うん?………だいたい5日、かな?大会が近くてね、今のうちに出来るだけやっておかないと」
「体調管理ぐらいしっかりしてくれよォ……お陰でヒヤヒヤして夜も寝れねェんだぞォ…?」
「は?学校で授業サボってる癖に何言ってんのさ」
「流石"兄弟"。互いのことわかってるなぁ…」
学校へ行っていない筈の飛鳥からの指摘にぐうの音も出ない陸、その二人を見てレイは遠くの方で思う。
飛鳥、というこの青年は、まごう事なき陸の実弟。
血も繋がり、身内の一人…だが。
………飛鳥は、"アルビノ"なのである。
「兄さんが僕を気にかけてるのは知ってるよ。でも、リンドウへ戻ったって、今更僕の居場所があるわけないし」
自虐的に嗤った、その目は。
アルビノ特有の、赤い目は。
……ただ、全てを諦めて、何もかもを投げ出した飛鳥の生き様を、後悔ではなく徒労で歪ませていた。
ーーーーこの世界、アルビノという限りなく珍しい人種の人間は、この世で最も貴重な人材である。
アルビノだけは元から魔力の性質に縛られず、空気中に漂う"全魔力質"を魔力に変換する事が可能。
故に、アルビノと言うだけで大人達から実験台モルモットにされる事も珍しくはない。
だからこそ、飛鳥は家で引き篭もる道を選んだ。
その"天才的な頭脳"を捨て、この世界からの隔絶を望んだのである。
ーーーーだが。
「だからって"ネトゲ"に走るのはどうかと思うぜェ…?」
そう、飛鳥の後ろにあるおびただしい量のモニターを見ながら、陸はため息混じりに言った。
「え、なんで兄さんにそんな事言われなきゃならないのさ」
「実際、飛鳥ってネットじゃ有名過ぎるしなぁ…今更やめろって言ったところでだろ…」
「もォやだ。俺目痛くなってきたァ……」
暗い部屋の中でブルーライトを浴び続けるこの部屋での長居は確かにキツイ、と。
レイは陸がむいた林檎をシャクシャクと食べながら同情した。
何故こんな環境でやってて目が悪くならないのか…そのブルーライトカット眼鏡が優秀なのだろうか。
だとしたら是非欲しいところである。
「別に、僕より強いコアな人達はいっぱいいるよ。僕なんてまだまださ」
「ランキング1位独走状態なゲーマーがなんか言ってる」
「お前巷じゃ"血濡れの梟"って呼ばれてんの知らねェのォ…?」
飛鳥が操るアバター…【紅白アルビノ・アウル】がゲーム内、マイハウスにて優雅にティータイムしている様子を見ながら、内心ため息を吐く。
彼がこうしてネットの世界に塞ぎ込んでもなお、アルビノと自称するあたり、皮肉といえばいいのか、なんというか。
実際のところ、彼の天才的な頭脳はアルビノだから、という理由も入っている。
そのお返しにアバター名にアルビノとつけているのか、まあ置いといて。
「ああ、そうだ。レイ、君また告白されたんだって?」
飛鳥がフォークに林檎を刺しながら言った言葉に、ああ、と肯定しようとしてーーー固まる。



ーーーーなんで、そんな事知ってんだ?


怪訝に眉をひそめたレイを見て、察したのか。
「あ、ごめんね。実はーーー」
柔らかい笑みと共に、ディスプレイにチャット画面が表示され。
そこには、こう書いてあった。



"リンドウ学園の生徒会長、昨日また告白されたんだってよ"
"知ってるwしかも連チャンだろ?"
"リンドウ学園って男子校だよな?生徒会長どんだけモテんだよw"
"ん〜…俺も告ろっかなぁ"
"え、お前マジで?"
"うん、正直言って生徒会長の顔がどストライクで"
"あ〜…わかるわ"
"じゃ予行練習だなwほれ、好きって言ってみろw"
"えw…ん〜おけ。それじゃこんなんは?
「俺、入学式の時から先輩の事が好きでした。俺と付き合ってください」"
"おお!いいんじゃね?w"
"っし、んじゃ行ってくるわ"
"いってら〜wフラれるの覚悟で行ってこいよw"
"当たり前だろw"
"噂じゃ会長はノンケらしいしなぁ、ま、頑張れ"



…………………………。


固まるしかない、そのやり取りは…どこか、そのセリフにデジャヴを拭えなくて。


「……今日昼休みに告ってきた中学生じゃん…」
完璧、今日の昼休みに、顔を真っ赤にさせて告白してきた、あの中学生の顔が思い浮かんで、思わずレイはダンッと拳で床を叩いた。