コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.2 )
- 日時: 2019/06/12 23:01
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
「ちょっと、お母さん。スープの中にコロモロが入ってないんだけど。」
ある夜の事。ルーベン家の長女ミアは怪訝な表情を浮かべながら大きな木のスプーンで晩御飯に出てくる予定のスープをかき混ぜていた。
スープの中にコロモロが入っていないなど、これまでにあったろうか。
材料一つが欠けただけの日々の主食が、グツグツと湯気をたてる目の前のスープが、最早未知の食べ物のように見えてくる。
近くで食器を戸棚から出していた長男のアクトがミアの声を聞き鍋の中を覗き込んだ。湯気がもくもくとアクトの顔を覆う。
「え、ほんとだ...。何これ。なんか怖いんだけど。」
アクトは懸命にミアが渡したスプーンでゴロゴロと中の食材を確認していくが、コロモロらしきものは見つからない。
香りも明らかにいつものスープとは違う。
アクトがスプーンを持っている間ミアは部屋の中を見回したが、なぜか母の姿が無かった。
くるりとまた体の向きを戻した。
「とりあえず、それ、お皿によそって。後でお母さんにきいてみよう。」
「後で?今お母さんどこにいるの?」
アクトが聞く。
「今探したけどいないみたいだから、多分外に出てるんだと思う。きっとコロモロを買いに行ってるんだよ。」
「そっか!...でも、もうスープ作り終わってるじゃん。後から入れても本来の味にはならないと思うよ?」
とりあえず姉の言う通りスープをさらに移しながらアクトはそわそわし始めた。
違和感がどんどん大きくなっていっているのだろう。
例えばの話だが、誰だって、ある日突然電信柱が消えたとしたら、違和感を感じるに決まっている。違和感というより、軽い喪失感に襲われるのではないか?
普段よりはスッキリとした空が広がるだろうが、どこか無くてはいけないものが無くなってしまった寂しさを感じるだろう。
「お待たせ。ごめんね遅くなっちゃった。」
準備をもくもくとしていた二人がハッと振り向くとアマリア=ルーベン、そう、二人の母親が立っていた。
雨が降っていた様で、綺麗な長髪と体が濡れている。
ミアは近くのタオルを渡した。
アマリアはありがとう、と体を拭き始めた。
「おかえり。コロモロ買いに行ってたの?」
アクトが測りかねるように聞く。
「そのことなんだけど。」
アマリアが眉をひそめる。
「今のままじゃ、もう二度とコロモロを食べられなくなるかもしれないのよ。」