コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.6 )
- 日時: 2019/06/14 22:20
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
サッサッサッと床を誰かがスリッパで歩く音がしたような気がして、アクトはうっすらと目を開けた。
ぬくぬくと暖かい布団からなんとなく出してみた指をすぐに引っ込める。
まるで違う世界のように温度も、空気の感覚も違う。
布団の中では離さないように温もりが体を包み込んでいるが、外の空気に出た途端、張り詰めた冷たい空気が温かさを一瞬で奪っていく。
もう一度布団にもぐって体を横にした。
かなり早く起きてしまったようなので目を閉じてもう一度寝ようとしたが、どんどん意識がはっきりしてきてくる。
アクトはパッと自分の体にかかっていた布団を退けて、ベッドの横に置いてあったスリッパを履いた。
庭で物音がしているのに気がついて、急いで身だしなみを整える。
寝巻きに一応上着を羽織って部屋の外に出てみた。
家の中に人がいる気配はない。
ルーベン家は北の都にある。年中凍えるような寒さが続いている地域だ。
外に出るのだってセーター1枚だけじゃあ風を引いてしまう。
特に朝。濡れたタオルを外でぐるぐると振り回すと一瞬で凍りつくほどの寒さが立ちこめている。
真夜中は-20度を下回る日だってあるので、そうそう外出しない。
だがそんな寒い中でも雪が降ることはほとんどないのである。
「姉ちゃん?」
アクトは庭で植木鉢を空にかざしていたミアに声を掛けた。
「うわっ!!なんであんたこんな時間に起きてんのよ!!」
ミアが白い息を吐きながら驚いた顔をしてこちらに振り向く。
寒さで鼻が赤くなっている。
「何してるの?」
ミアが持っている汚い植木鉢に目線を移す。
「ペリ草の世話してるの。」
ミアは持っていた植木鉢を傾けて中を慎重にアクトに見せる。
そこには吹いたばかりであろうちいさなペリ草の芽が顔をのぞかせていた。
「お母さんに世話頼まれたのよ。いつもペリ草残すから、農家の人の気持ちになってみろって。」
不満げにまた植木鉢に目線を戻し、日の当たり具合を確認するミアはぶつぶつ言いながらも淡々と作業をこなしていく。
「ふふっ。農家ってw 似合ってるよw」
「は?!やめてくんない?!」
アクトのバカにしたような挑発にミアはプッと吹き出した。
ミアは小さい頃からペリ草が大の苦手。
4歳くらいの時、ペリ草の入ったお皿をちゃぶ台返しのようにひっくり返し、母と、そして父に物凄く怒られた記憶が残っている。
そのまま号泣しながら部屋にこもっていると、父が来て、抱っこしてくれたのだ。
よしよしと頭を撫でてくれる父の手に安らぎを感じながら泣き疲れてうとうととしていた時、確か父はこう言ったのだ。
「僕も、小さい頃ペリ草が食べられなくてね。お前のじいちゃんに毎日のようにビンタされたよ。でも、人の味覚はね、心とともに、体とともに成長していくものなんだよ。
きっとミアもペリ草が大好物になる日が来るさ。」
ペリ草を主食の一貫とするルヒカラ国民でありながら、一向にペリ草を拒む自分がおかしいと言われなかったのは初めてであった。
今でも父との数少ない思い出の中で最も印象に残っている記憶なのだ。
その父がもうすぐ長期休暇で帰ってくる。
ミアは作業を終え、アクトと共に家の中へと戻った。