コメディ・ライト小説(新)

Re: リベンジ インフェクション ( No.7 )
日時: 2019/06/15 21:15
名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)

静寂。

国王は只それを感じ続けていた。
よくよく耳をこらすと聞こえてくる、隣の客間の時計の音。
だが気を緩めると途端にそれは聞こえなくなる。

第107代目ルヒカラ国王アルベルト=フローマーは、玉座に座ってぼうっと豪華な部屋を見ていた。
もう歳なのだろうか。何も感じない。
優秀な兄達を抜き去り手に入れたこの地位。自分を慕う国民達。
あの頃欲しかった物は全て手に入れたはずなのに、物足りない。

ボーン、ボーン、と王室の壁にかけられた豪華な純金の時計が今日も3時を告げた。
アルベルト王は玉座から立ち上がり仕事用のとても大きなふかふかの椅子に座り替えた。長い木造の机に向かう。
これから仕事をしなければならないのだ。ずっと暇なわけではない。

机の上には山積みになった手紙が置いてある。
官僚、外交官、公務員からの仕事内容報告がほとんどで、たまに企業や、店舗からの手紙も来ることがある。
内容を確認して、返事が必要であればまた新たな紙を用意して返事を出すし、必要なければそのまま机に置いておく。
すると執事がその日中に回収し、また新たな手紙を持って来てくれるのだ。

同じことの繰り返し。
そう。自分が求めているのは変化なのかもしれない…。


「ふぅ…。」
アルベルト王はインクと万年筆を用意して一番上の手紙を手にした。
どこからの手紙か確認する為手紙を裏返す。

…市場から…??

普段あまり手紙をもらうことのない場所からだ。

何だろう。

手紙をろうそくにかざし、ロウを溶かす。

開けてみるとどうやら八百屋からだった。
【国王様。
どうかコロモロの値下げをお願いできないでしょうか。
民が苦しんでおります。】

それだけの文章だった。
値下げのことなら経済部長に出せば良いのに、と思いながら、開封済みボックスに手紙を入れる。

次の手紙をすぐめくる。

「…」

また市場からだった。
今度は違う八百屋からだ。


【国王陛下。コロモロの値下げをお許しください。
皆が買えずに困っております。
このままでは私の八百屋も危うくなってしまいそうです。】


たかがコロモロだろう…?
何故そんなに値下げを望むのだ?
確か最後に見た時値段は50ルヒアだった。

子供のお小遣いからでも買えそうな値段なのだが。
一体どれ程値上がりしたのだろうか。
まぁ後でロトに聞けば分かる。あいつが知らないことなどないのだから。


コンコンコン


王室の部屋の扉が三回ノックされる。

「国王様。執事のロトでございます。」
「入れ。」

重たい金属のギギギという音が鳴る。
カツカツと足音を立てながら入って来たのは執事のロトだ。
6年前、突然現れた彼はそのズバ抜けた才能と学習能力を活かし、それまでの執事を簡単に蹴落として今の座についた。
それ以来彼を超えるものは現れず、ずっと執事として王の側で働いている。

また、それだけではない。
彼はルヒカラ王国警備軍隊最高指導者としての名も誇っている。
執事でありながら、警備隊の最高指導官。


(もし、私の兄弟の中にこいつがいたら、私は玉座に座れていなかったであろうな。)
アルベルト王は心の中で苦笑した。


「丁度良かった。ロト。お前に聞きたいことがあった。」
「何でございますか。」

「コロモロについてなのだが、何か知らないか。」

ロトが明らかに表情を変えたのを王は見逃さなかった。

「国王様。私が今参りましたのも、実はそのことなのでございます。」
いつもの無表情な顔に戻ったロトはしっかり国王の目を見ながら話す。

「今日、経済部長、外交官に問いましたところ…」


国王は何かが変わるのを感じた。
気分の問題ではない。
自分の中に眠る、「勘」だ。
案の定、次にロトの口から飛び出して来た言葉は驚くべきものだった。


「マストレード王国とここ1週間連絡がとれていないとのことです。
毎朝我が国の港に届くはずの輸入品も1週間一個も届いておりません。
その為、もう我が国にはコロモロのほとんど在庫が無いのであります。」



国王はすぅっと体が冷たくなるのを感じた。



「国王様。つまり、只今我が国と、マストレード王国は国交断絶状態にあるのです。」