コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.9 )
- 日時: 2019/06/20 23:02
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
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「ねぇねぇ、姉ちゃん。お母さんが2人で市場に行ってこいだって。」
日曜日の昼、窓から差し込む暖かなひまわり色の日光に包まれながらソファに身を沈めて昼寝していたミアをアクトが揺する。
電気の節約の為、昼間は電気をつけていないので、リビングの中は日光のひまわり色に染まっている。
ミアは何やらごにょごにょ言いながらソファの溝に顔をうずめ出した。
「ねー、おかーさん。姉ちゃんが起きないーーー。」
こうなるとなかなか起きださないのを知っているアクトは母に仕方なく助けを求めた。
アマリアはダイニングテーブルでお茶を飲んでいた。
「全くもう…。あ、そうだ。アクト、夕飯のサラダ、ペリ草3割増しにしちゃいましょうか。」
「お、いいね!!」
ガバッと起き上がったミアは2人を寝起きの目で睨みつけた。
「ずるいよ…。私の貴重なお昼寝時間を…。」
「ふふ、ありがとね。メモはもうアクトに渡してあるから。」
「はいはい。」
ぐーんと伸びをしてミアは立ち上がった。
きっとこのお使いは、近いうちに帰ってくる父のために作るご馳走の材料だろう。
いつもアマリアは月曜日に1週間分の食料を買ってくる。
だから本来今日みたいな火曜日にお使いに行かされることなんてあり得ないのだ。たっぷり家に食料があるのだから。
ミアはそんな事を考えながら買うものリストを黙読する。
肉3000g、ヨーグルト1000g、ひよこビーンズ一箱、卵5パック、トマトソース3缶…
…最悪だ。箇条書きになっているリストの中には母が書いた綺麗な字で《ペリ草・・・ダンボール一箱分》と書いてある。
…久々に会う父はどんなだろうか。最後に会ったのが9年も前なので、容姿も印象もガラッと変わっている筈だ。
何しろ王宮での仕事らしいので、厳しく鍛え上げられているに違いない。
未だにペリ草を嫌う自分を、今でも受け入れてくれるのだろうか…。
《コロモロ・・・出来たらでいい。200ルヒア以上だったら諦める事。》
ペリ草の下に書いてあったその文字を読んだミアは心がチクッ、と痛んだ様な気がした。
「うわっ、こりゃまたまた混んでるねーー!」
南の都のそばにあるルヒカラ第一市場に着いたミアとアクトは早速人混みに揉まれていた。
毎回そうなのだが、市場はいつ行ってもこの状態だ。十メートル進むのに2分はかかる。
一本のレンガでできた横幅十二メートル程の太い道がずっと続いており、その脇にズラッと店が並んでいる。右を向いても左を向いても店ばかりの状態なのだ。(今は人しかいないが。)
そこをずっと進んでいくと、突然道がひらけて噴水のある大きな広場にたどり着く。
そこが王宮のすぐ近くのルヒカラ大広場となる。
アクセサリー店や、骨董屋、動物屋など興味を買う店もあるので、こんな人混みの中を歩くことになっても、2人は市場が好きだった。
「ちゃっちゃと買っちゃって帰ろ。」
ミアが汗をふきながら振り返ってアクトに言う。
時々振り返って確認しないと、すぐ逸れてしまいそうになる。
逸れることは度々あるので、そんな時は広場の噴水前で待機するように、と2人の間で決めていた。
「あ、あった。」
人混みをかき分け背伸びしながら八百屋の看板を見つけたミア達は全力で横からぶつかってくる大人達を避け、屋台に入っていった。
『ザザッ…』
沢山の人々で賑わっていたルヒカラ大広場はその短い音で静まり返った。
と同時に人々の動きも止まる。
すぐにまたザワザワし始めたものの、前溢れかえっていた他愛もない話声ではなく、不安を確認し会う様な声で埋め尽くされていた。
ルヒカラ大広場に計3台設置されている非常用スピーカー。
それらはルヒカラ王国の歴史が始まって少し経った時に設置されたと伝説では言われている。
それらは一度鳴るとルヒカラ王国全域に届き渡る大きな声で国の生存に関わる非常事態を伝えるそうだ。
とはいえルヒカラ国はもう何年も戦争やら、大きな事件やらが起きていなかったので、現国民の中でその音を聞いたものは誰一人いなかった。
「今、『非常用スピーカー』、鳴ったよね?雑音みたいなのだったけど。」
「いや、まさか。そんな訳ないでしょ。」
「え、お前も聞いた?」
「聞こえなかった。」
「私聞こえた。」
一気に広場に人が集まってくる。
短い雑音は市場の辺りまで響いていた。
『キィーーーーーーン』
次はゴボゴボした様な音とともに耳をつんざくような高い音が大きくなってから小さくなって、また少し大きくなって余韻を残しながら消えていった。
聞き間違いではないと確信した国民達はさらに広場に集まり、次にスピーカーから出される音を聴き逃すまいと耳をすましてひしめき合っていた。