コメディ・ライト小説(新)

Re: リベンジ インフェクション ( No.12 )
日時: 2019/06/21 22:59
名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)

『ルヒカラ国民の皆様。』
まだ雑音が入り混じりながらもスピーカーから音が絞り出される。
「キャッ」「わっ」と、ちらほら小さな悲鳴があがった。
ジリジリと焼きつく様な日差しの下で、人々はもう二千人程度集まっていた。
全員の視線の先は広場の噴水の横に立つ柱にくくりつけられたスピーカー、ただ一点。
人混みの中は蒸し風呂のようになり、息をするのも苦しくなってきている状態だ。
北の都から来た大半の人々は暑さに耐えられず、広場の大群から外れていった。

『只今ルヒカラ王国王宮から放送をしております。第107代国王アルベルト様の執事、そしてルヒカラ王国警備軍隊の最高指導官を務める、ロトと申します。』
一層人々はざわついた。
非常事態か?はたまたただ放送のテストか。
「うるさくて聞こえねぇよ!」
「まだ何も放送されてないってば!!」
「痛い!押さないで!」
色々なところで怒涛が飛び交う。
皆パニック状態になり、人混みは右へ行ったり、左へ行ったりと不安定になる。

『ルヒカラ王国に非常事態が起きている事をお知らせいたします。』
ザワッという音が大群から発せられた。低い男の人の声を集めた様な。

『皆様の中に、我が国の主食であるスープの材料の一つ、コロモロが通常の2000倍近く値上がりしているのを知っている方は多いと存じます。
まずは国民の皆様に値上がりの理由を知らせぬまま、長い時間が経ってしまった事を深くお詫び申し上げます。』

アナウンスの裏側で、頭を下げた様な音が聞こえた気がした。
国民は、予期せぬ言葉がスピーカーを通して発せられると思っていたのに、「コロモロ」という毎日聞く親しみのある言葉が出されたのを聞いて拍子抜けた。

『理由と致しましては、只今我が国ルヒカラ王国が隣国マストレード王国と1週間も連絡が取れない状態が続いている為です。
我が国はマストレード王国との通信手段として、輸入船に乗った商人を用いております。
または月に一度マストレード王国から来る使者です。
貿易に関しては商人を、国際事業に関しては使者をと手段を分けておりました。
しかし、輸入船が1週間も来ず、昨日来るはずの使者も来ませんでした。
輸入船が来ない事への異常には気づいていたものの、最後の手掛かりとなる使者を待っていた為、これ程の時間がかかってしまいました。』


広場はいつのまにかしんとしていた。
もう自分勝手に喋る者はおらず、全員静かにロトの話に耳を傾けている。


『勿論輸入船が届かないと言うことは、輸入物も届きません。
マストレード王国からのコロモロはここ1週間一つも届いていないのです。
その為、今コロモロの在庫はほとんど空となっている状態なのです。
コロモロが格段に値上がりしたのはその為でございます。』

スッと人々の中で何かが繋がった。
あぁ、コロモロが値上がりしたのはその為だったのだ…!!

「じゃあ、ルヒカラ王国はマストレード王国に手を切られたってこと?」
誰かが言う。
そうだ。まさかマストレード王国とそんな状態であったとは…。
安堵とともに一抹の不安が国民達の心を駆け巡り始める。
また少し大群はザワザワとし始めた。

『今から一週間程前の夜。
マストレード王国の方から一発の花火があがりました。
丁度その翌日から輸入物が届かなくなったのです。』



『これはマストレード王国からの[宣戦布告]だと我々は捉えています。』


最後の方のロトの声は人々の悲鳴と被さった。
約4000人もの人々が一斉に声をあげる。
倒れそうになる者や、絶望の表情を浮かべる者、怒り狂う者、逃げ出す者…。
ルヒカラ大広場は物凄い騒ぎとなり出した。
皆戦争が始まるのだとパニック状態に陥ったのだ。

『マストレード王国で。』

しかしその声よりもスピーカーの音は大きかった。すぐに人々の悲鳴を抑え、ふりむかせる。
先人達はこのスピーカーの音をそう言う意図も込めて工夫したのかもしれない。
非常事態を伝えるスピーカーなのだから、人々の叫びを超える様な大きさの、よく通る音を…。
なんて残酷なのだろうか。


『マストレード王国で、今現在何が起きているのかを知る必要が我々にはあります。

そうですよね?

だから、実際にマストレード王国に行って状況を知るためにルヒカラ王国の警備隊員から偵察者を一人、マストレード王国へ送ることと致しました。
偵察者となった者は三日後、我がルヒカラ王国を離れ、マストレード王国へと向かいます。』


大群は再び静けさを取り戻した。

大きくなったり小さくなったり…。

ーーまるで、ロトに操られているみたいに…。


『今から我々が警備隊員の中から選んだ一人を発表いたします。』

こほん、とスピーカーの向こう側から咳払いが聞こえた。


謎の沈黙が長く長く感じられ、広場はこれまでにない様な緊張感に包まれていった。