コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.17 )
- 日時: 2019/06/23 23:22
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
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放送は、母が待つ家にまで届いていた様だった。
なぜなら、家のある北の都に入っても、街の人々は先程のアナウンスの話題で持ちきり状態だったからだ。
市場から帰り途中のミアとアクトは家に近づくにつれてどんどん気が重くなっていった。
母はどんな顔をして待っているのだろうか。私達はどんな顔で母に会えばいいのだろうか。
何より父の帰宅を心待ちにしていたのは母だった。
部屋に敷くカーペットも新しいものに変え、大掃除をし、花を買い…。
今日の買い物だってそうだ。ご馳走の用意の為の物だった筈だ。
ミアとアクトは並んで黙って木で出来た道を歩いていた。
オレンジ色の西日が二人の影をつくる。
既に住宅街に入り終えていた。
もう、家の屋根が見えてくる、という所になって沈黙に耐えられなくなったアクトが口を開いた。
「姉ちゃんは、どう思ってるの。」
ミアが答えるまでの時間は長かったが、その間はリリリリリという虫の声が補ってくれていた。
「何をよ。国が父さんをマストレードに送り出すことについて?それともそれを承諾した父さんについて?」
ミアはアクトがこちらを見ているのを視界の隅で感じながら、下を向いて言う。
「…どっちも。」
アクトも目を逸らし、下を向く。
次の沈黙も長かった。
二人が歩く音だけが響く。
もう家はすぐそこまで迫ってきている。
「…父さんを今のマストレードになんか出さない。
そもそも父さんは自分の意思で承諾したんじゃないと思う。
家族が待ってるあったかい家と、死ぬかもしれない外なんて、どっちを選ぶかたかが知れてるでしょ。」
「じゃあ、なんで?
アナウンスでは父さんは快く受け入れてくれたって…」
こっちを向いてくれないと知りながらもアクトはミアの顔を見る。
「…絶対王宮の誰かが指図したのよ。」
「え。」
ミアの顔は怒りに満ちていた。
固く拳を握りしめている。
普段あまり見ないミアの表情にアクトは思わずゾッとした。
二人の足が止まる。
「この話はまた後で。」
…家に着いた。
中には放送の内容を聞いた母がいる。
二人はなかなか玄関のドアを開けられなかった。
母の色々な表情がずっと頭の中でぐるぐるしている。
鬱になるなんてことにはなって欲しくないが…。
ガチャ。
思い切ってドアを開けた。
「…お帰り。」
リビングには普段とごく変わらぬ様子の母の姿があった。
二人は目を合わせて困った様に肩をすくめる。
こちらから話しかけるべきか、そっとして置くべきか…。
嫌な空気が流れる。
「どうだった。コロモロ。買えた?」
先に話しかけてきたのはアマリアだった。
どこもおかしくない風に。
困った。
放送を聞いているのか、聞いていないのかまで分からなくなってしまった。
…だめだ。これ以上やっててもキリがない。
聞くしかない。
「買えなかった。
…お母さん。アナウンス、聞いた?」
「聞いたわよ。」
ケロっとした反応にミアとアクトは驚く。
「光栄よね!
彼がルヒカラ王国の為に活躍できるなんて!」
パッと笑顔を浮かべ、アマリアは初めてこちらを振り向く。
笑顔。
…笑顔?
「いや、お母さん、何言ってるの。父さん死ぬかもなんだよ?なんでそんなに平然としていられるの?」
「あの人が死ぬ?ふふふっ、演技でもないこと言わないでちょうだい。ダイジョーブよ。一つ大きな仕事をこなしてから帰ってくるだけなんだから。気長に待ちましょ。」
ケラケラっと笑いながら席を立ち、夕飯の支度を始める母を呆然と見つめる。
嘘。
母がこんな人だったなんて。
必ずしもマストレード王国が戦争を仕掛けてきているとは限らないが、今は非常事態。
十分その可能性もある。
少しのリスクでもあるものはあるものだ。
そうなってからでは遅い…。なのに…。
「ねぇ、お父さんを止めようよ!」
アクトが叫んだ。
「何言ってるの。偵察に行くだけよ?すぐ帰ってくるわよ。」
母の心には響かない。
「はい。この話はおしまい。夕飯出来たから、用意して。」
アマリアはポンっと手を叩きまた笑顔を見せる。
…良かった。
つくりものだ。
ミアは母の表情からちらりと垣間見えた悲しみの表情を見逃さなかった。
母は笑ってはいない。心の底から。
笑顔を無理に作っている。
あぁ、やはり母も同じ嫌な予感を抱えていた。
父が行ってしまうことに対して…。
自分たちを不安にさせまいと一人で抱え込んでいたのだ。
きっと自分達が帰ってくるまでに一人で表情を作る練習でもしていたのだろう。
なおさらアクトに、あの作戦を話さなければ。
ミアは心の中で瞬時に精密に練った作戦を早く話したくて、実行したくて、うずうずしていた。