コメディ・ライト小説(新)

Re: リベンジ インフェクション ( No.23 )
日時: 2019/07/22 20:13
名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)


「お、王様に、直談判?!?!」
「声がでかいっ!」

バシッ、とミアがアクトの頭を叩く。

非常用アナウンスでミアとアクトの父親、フロッド=ルーベンがマストレード王国に偵察者として旅立つことが告げられた日の夜。
夕食を終えた二人は二段ベッドの下の段でヒソヒソと話し合っていた。

「そんな無茶な!お父さんが旅立つ日の真っ昼間に王宮に忍び込んで王様に会いに行くなんて!無理だよ!」
アクトは焦りながらミアに訴えかける。
しかし依然ミアは揺らがない。

暗い部屋の中、木造二段ベッドの下の段の天井に取り付けられたランプの周りだけがオレンジ色に染まっている。
そこに集まるようにして、ミアとアクトはさらに話し続けた。

「他にどんな方法があるって言うのよ。王様に会いに行って、直接交渉した方が何よりも早いでしょ。もうあと3日後には父さん出発しちゃうんだから。」
「王様に会いに行ったところで何も変わらないよ…。王様が絶対なんだから。
っていうかまず王宮に僕たちなんかが入れてもらえるわけがないよ。」
「はっ、王様は父さんの何な訳?ただ権力でねじ伏せてるだけじゃない。
私たちは父さんの家族なのよ。本来なら私たちの意見が真っ先に優先されるべきでしょう。」

はぁ、とアクトがため息をついた。
「あのね、姉ちゃん。それは姉ちゃんの言う通り、『本来なら』ね。
でも今この国のルールでは王様が絶対なんだよ。
どれだけの国民がNOと言おうと国王が一回頷けば全てが変わる。
やめておこうよ。
そんなことしたらゴキブリだらけの牢屋で最悪の気分を味わいながら腐ったリンゴをかじることになるよ。」

「う。それは嫌だけど…。」
ミアが口ごもる。

「…でもいまあんた言ったね。」
「え?」

「そう。あんたの言う通りどれだけの国民がNOと言おうと国王が一回頷けば全てが変わる…。
誰も王に反抗することは出来ない。
だから私たちがここでごにゃごにゃ抗議したって無駄なだけ。
国王に全ての権利があるのなら、その国王にNOと言わせに行けばいい。
父さんをマストレード王国送りにさせるなって言わせに行けば良いのよ。」
「えっ…。僕そう言うことを言ったつもりじゃなかったんですけど…。」
「これがその作戦。」
ミアは持っていた画用紙を布団の上に広げた。
王宮の見取り図が丁寧に描かれている。

「王宮に侵入するのはここから。この正面の門よ。」
とん、とミアが王宮の正面門を指で示す。

「えぇっ!!う、裏門とかからじゃなくて?!わざわざ正面からなの?!
正面の門には常に門兵が配置されてるよ?
裏門に門兵がいることはないのに…。」
「監視カメラがあるの。裏門には。」
「えっ。」
アクトはミアの顔を見る。

「裏門には沢山の監視カメラが設置されてる。その代わりに門兵はいない。
それに比べて正面の門の監視カメラは0…だと思う。
それについては2日間の内に調べましょ。
しかもね。最近見ていて思ったのは……ここ一週間ほど、正面門の門兵を務めてる兵士が…なんというか…隙だらけなのよね。」
「?」
「新米に違いないってこと。」

ミアはニカッと笑った。
「どう?神様も味方してると思わない?」
アクトは、はーっとため息をついてぽりぽりと頭をかいた。

「そんなの見た目で決めちゃダメでしょ…それで、続きは?」
「睡眠薬を入れた水筒を渡すの。新米兵士に。純粋な子供のふりしてね。
兵士が寝たところで突入よ。」
「随分大胆だね。」
「2時間ほど寝ちゃうけど、命に別状はないのよ。」
「純粋な子供のふり…それを僕に?」

「アクト。これはあなたにかかってるの!」
ガシッとミアがアクトの肩を掴む。
その握る力から真剣さが伝わってくる。
ミアは父を助けたいことだけで頭がいっぱいなのだ。

アクトは少し迷った。
本当に牢屋行きも妄想の中の話だけではなくなるかもしれない。
しかし、心はもうすでに答えを出していた。
最初に作戦を持ちかけられた時から実は心の中で決まっていたのかもしれない。

アクトはすぐにミアに応えた。
「もちろん。やっぱり僕も、お父さんが死んじゃうってことだけは絶対に嫌だからね!」


ミアがパッとした表情を浮かべる。
古い二段ベッドの下の段で、二人の子供たちはパシッと元気よくハイタッチをした。



ミアとアクトは2日間で全ての準備を済ませた。
睡眠薬も、水筒も手に入れ、正面の門に監視カメラがないことも確認し、後は作戦通りに行動するだけとなった。



しかし…。



「う…、上官みたいな人が来ちゃったよ…。どうしよう。」
「えっ!」
ルヒカラ大広場の茂みからこっそりと正面門を監視していた二人は早くもハプニングにあっていた。
当日の正面門の門兵が二人になっていたのだ。

「やっぱり当日は警備が固い…」
ミアが悔しそうに唇を噛む。涙も目に溜まっている。
「水筒も一つだけ…。睡眠薬も一人分…。もう…諦めるしか…」

と、アクトが突然口を開いた。
「僕があの上官らしき人を市場まで誘導する。
もちろんあの新米兵士に水筒を渡した後にね。
兵士が寝たら姉ちゃんは先に行ってて。」

ミアが驚いてアクトを見た。
「え、」
「多分上官の人は眠っている新米兵士を見つけて通報しちゃうだろうけどね…。
でも、何もしないよりはましでしょ?最後まで足掻こうよ。」
アクトはいたずらっぽくミアの方を見て笑う。

「でも………分かった。
ありがとう。…必ず、成功させよう!!」
「絶対、王様を納得させてよね!」



そう言って、アクトは水筒を抱え、正面の門で門を警備中の新米兵士と上官…カールとルセルの元へ迷子のフリをして近づいていったのであった。