コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.26 )
- 日時: 2019/08/01 09:37
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
「姉ちゃん!!」
ゆっくり堂々と多くの人の間をすり抜けて行くミアの元へアクトが駆けつけた。
ミアとアクトは王宮の敷地内に入る事に成功していた。
とは言ってもまだ王室がある王宮内に入れたわけではない。
次の試練はこの広大で豪華な庭園を行き交う人に怪しまれずに突破し、王宮内に侵入する事だ。
「ゆっくり歩いて。何一つ不自然さを滲ませないで。」
「うん。」
貴族たちが高級そうな服を着飾ってワインを片手に庭園を散策しているのを横目で見ながら、その真ん中に通る大きな道を二人は歩いていく。
いつもレンガか、土を踏んで歩いていたのに、今はツルツルの大理石の道の上をカツカツ歩いている、そんな初めての感覚にミアは少し高揚し始めていた。
「はぁ。良かった。ちゃんとあの上官は撒けたんだ?」
改めてミアがアクトの安否を確認する。侵入者だと怪しまれないようにする為、目線は真っ直ぐのままだ。
「多分、ね。今頃僕がいないのに気がついて近くの市場の人達に子供を見なかったか聞いてると思う。」
「そっか。それで帰ってくるのに大体五分だから…十分は稼げたよ!ありがとう。
でも、まさか上官が警備に加わってたなんて予想もつかなかった。
一度も正面門の警備員が二人以上だった時なんて無かったから…。」
「流石に今日みたいな大事な日は警戒されるみたいだね。」
アクトがふと周りを見る。
「なんか…別世界みたい。」
王宮の庭園は賑わっていた。
市場のようなガヤガヤとした賑わいではなく、上品な賑わいだ。
4、5人の貴族達の塊が所々に10個近くあり、皆白いお洒落なテーブルで話し合いながら昼食をとっている。
そしてその周りには美しい花々と木々が綺麗に咲き誇っている。
木の数が多いので日陰も多く、辺りは不思議な涼しさに包まれていた。
最早街の様子とは程遠い、恐ろしいほど整頓された庭園であった。
二人はそんな庭園から王宮に続く大理石の道を歩いていた。
王宮に直接入る門は庭園の中に一つ。
しかし、そこも兵士によって警備されているのが奥の方に見えていた。
「どうやってあそこに侵入するつもりなの?」
アクトが聞く。
アクトは正面門突破時の作戦の事しか伝えられていなかった。
どんどん王宮門が近づいてくるので流石に聞かなければと話しかける。
「こういう時はね。こういう状況を利用するの。」
ミアはそう言うと、パッと駆け出した。
「はぃ?!ちょ、姉ちゃん!ちょっと待ってよ!!意味が分からないんだけど!!」
慌ててその後ろをアクトも追いかける。
「いい?あんたはモジモジしてて。」
「は?!」
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「……!…の!あのっ!!」
「…え?」
ふと自分の世界から抜け出すと、目の前にいたのは女の子だった。
もう6時間も何もせず、一人で一歩も動かず立ち続けだった兵士は疲労していた。
精神的にも身体的にも限界…。
そんな兵士に女の子が必死に叫びかけていたのだ。
「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
息を切らしながら必死に自分に訴えかける女の子は何か様子がおかしかった。
なにか大変なことでも起きたようだ…。
…いや、バーベキュー用の肉切れかな?
あれ、でもこの子達随分身なりが…。
「正面門がっ!大変な事になってます!!早く行ってください!!兵士が一人倒されましたっ!!」
「?!?!」
しょ、正面門が?!
テロが起きたのか!!
「早く援護に行ってあげてください!!」
「確か正面門には二人兵士がいたはずだが…。もう一人が戦っている最中ということか?」
「そうです!!私たちは二人の兵士が戦っていて、犯人の内の一人が兵士を気絶させるところを見て、通報しに来ました。」
「爆弾などが使われたテロではなく、複数人による襲撃ということか…。」
「はいっ!早く行ってください!」
「じゃ、じゃあ本部に連絡を…。」
「早く行かんカィッッ!!!!」
バシッとミアが無線機を取り上げる。
「な、何を…。」
「もう残っている一人も倒されて、正面門が突破されているかもしれないんですよ?!私達にそれを阻止することはできません!!でも無線で救助を要請することくらいは出来ます!!私達が本部に連絡しておいてあげますから早く行ってください!!番号は?!」
「0730だ。」
思わず兵士が答える。
すかさずミアはぽちぽちと無線機の番号を押し始めた。
「き、君たちは一体…。」
「「早く行けっ!!」」
「わ、分かった…。任せたよ!!」
「あ、後。無線機で連絡してあげる代わりにトイレ貸してもらってもいいですか?この子我慢できないみたいで。」
ミアがちらっとアクトを見た。
…アクトがモジモジする。
「あぁ。入ってすぐ奥のところだ。」
もう走りかけていた兵士は子供のトイレなんかより、テロの方が一大事なので、ぶっきら棒に答えた。
そして猛スピードで、正面門の方へと駆けて行った。
「こんなう、上手くいくことって…。僕モジモジしかしてないんだけど。」
アクトは逆に恐怖を感じながら、ガッツポーズをするミアと王宮門に手をかける。
「む、無線機は?」
「電池抜いた!!」
ミアはひゅっと電池を草むらに投げる。
「多分、あの兵士も新米だったのね。ラッキーラッキー!でも、だからこそこういう日に警戒しなくてはならないことをどの上官たちよりも聞かされてただろうし。
ほら。塾とかに入学するときも、一年生が一番塾についてのルールを耳にタコができるほどきかされるでしょ。
ここまで来たら、一直線に王室に行くよ!」
王宮内は残酷なまでに美しく、二人が思わず息を呑むほどだった。
「……。ラストスパート。準備はいい?」
「勿論。」
二人は目を合わせて頷いた。