コメディ・ライト小説(新)
- Re: リベンジ インフェクション ( No.27 )
- 日時: 2019/08/05 21:04
- 名前: 柞原 幸 (ID: Ytr7tgpe)
「おい!!ファイネン!!しっかりしろ!何があった?」
ルセルは正面門の近くの木の下に横たわるカールの肩を揺さぶる。
正面門に駆けつけ、カールの姿が目に入った後すぐさま脈を確認したが、正常だった。
変な汗が出ている訳でもないし、熱中症ではない。過呼吸でもない。ただ眠っているだけの様だ。
しかしそれにしてもこんなに強く揺さぶっているのになぜピクリともうごかないのかが不思議だ。
『あの子供がやったのだ。』
そう自分の心が自分自身に訴えかける。
しかしこいつは新米だが、たった2分程度でそうやすやすと子供になんかやられるはずもない。
一応兵士になれるだけの力があるのだから。
ルセルは自分自身の叫びを無視して考える。
…だとしたら、あの2分間の間にファイネンは倒されていないのでは…?
その前にもう何かしらの手を使われていたのでは…?
ルセルは落ち着いて記憶を辿る。
何かあいつに接触していなかったか。
話しかけた言葉の中に何か不可解な点はあったか…。
子供が現れた場面から、自分が子供と共に市場に行く場面まで、全てを思い出す。
やってきて、カールに話しかけて、自分が話しかけて、迷子になったと彼は言って、市場に行く流れになって…。そして…。
あぁ。あった。
そういうことか。
ルセルはスッと立ち上がると、腰につけていた無線機を手に取った。
「0730」
慣れた手つきでボタンを押す。
「こちら正面門警備中、第二兵団団長ルセル=ローベ。
子供が王宮敷地内に侵入した模様。
また、正面門警備中の第四兵団団員のカール=ファイネンが相手の薬により意識が無い状態。
相手はこちらに敵意を抱いている。
直ちに軍の要請を願います。
…そうですね。もう、王宮内に入った頃かと。」
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「はやくはやく!」
ミアとアクトはこっそり王室へと向かっていた
王宮内は沢山の召使いが行き来しているので、隠れながら進まなければならない。
「王室はどこだろう…。」
「決まってるでしょ。一番扉が大きくて、豪華な外見の部屋。」
「もう全部が豪華すぎてわかんないよー。」
「あっ!アクト隠れてっ!!」
ぐいっとミアがアクトの服の襟を引っ張って柱の陰に引き戻す。
少しして柱の前を召使いが何かを乗せた銀色の台をカラカラ押しながら通り過ぎていった。
「うわぁ…。あっぶなかったー…。ありがとう…。」
アクトはへたり込みながら呆然とミアを見上げる。
「ちゃんと周りを見て!見つかったら何もかもおしまいなんだからね。」
ミアがビシッと言うとアクトはコクコクと黙って頷いた。
「…さて。ともかくこのまま本当に王室が見つけられなかったら大変よね。ちゃんと作戦を練らないと。」
「もういっそ堂々と歩いちゃえば?」
「だめ。私たちの身なりを考えてよ。ここの人達とは差がありすぎる。庭園の貴族たちの中にはこういう格好の人も一人や二人はいたから良かったけど、ここの人達はみんな黒いスーツかメイド服。たまに軍服の人がいるだけ。絶対怪しまれるから隠れながらじゃないと。」
「そっか。じゃあメイドさん達についていけばいいんじゃないかな?一人くらいは王室に出入りしてると思う。」
「うーん…。手間かかりそうだけど、それしかないね…。よし、それでいこう!」
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!
突如王宮内にベルのけたたましい音が鳴り響く。
「なに?!」
「え?!」
耳を塞ぎながら、ミアとアクトはさーーっとお互いの血の気が引くのが分かった。
『全軍兵に告ぐ。侵入者が王宮内に居る模様。直ちに訓練時の配置につけ。侵入者は子供。黒髪で色白の男だ。捕獲次第本部に連絡せよ。』
男の人の声でアナウンスが響き渡る。
「バレた!!!!!!!どうしよう!!!どうするの姉ちゃん!!」
アクトは泣きそうな顔で慌てる。
「落ち着いて!!はやく、お、王室へ!!」
二人は誰もいない通路を見つけると柱の陰から飛び込むように真っ直ぐそこを走っていった。
「あー、でもまずはどこか隠れられる場所を見つけよう!!誰もいなさそうな部屋に入って!」
「わ、分かった!」
後ろの方が騒がしくなってきたような気がする。
いや、王宮全体がガヤガヤと騒がしい。
追いつかれるのも時間の問題だろう。
ひとまず何処かに隠れなければ。
「あ、あそこ電気がついていない。多分人はいないと思う。あそこの部屋めがけて走って!!」
ミアがアクトに叫びかける。
奥の方の部屋の一つだけ電気がついていないところがあった。
そう遠くない。
そこに入って鍵をかけて仕舞えば時間は稼げる。反撃もできるかもしれない。
「うん!分かっ…」
ドンっ、
「うわぁっ!!」
曲がり角から出てきた黒いスーツ姿の男の人にアクトがぶつかる。
そのまま尻餅をついてあわあわと腰を抜かしている。
「失礼。少し目眩がして前が見えなくて…。…ん?子供?」
ミアがハッとする。
「この声、今のアナウンスのっ!!アクト!早く立って逃げ…」
「そうか。君たちか。」
ずいっと表情を変えた男が二人の顔を覗き込む。
「勇敢な子供達だね。見当はついているよ。大方ルーベン君の子供達なんだろうね。一般の子供が理由もなくこんな事を計画し行うことなどないのだから。」
「!!」
ミアとアクトの頰を汗がつたう。
急に目の前の男の目がどす黒くなる。
(この人の前では何も…通用しない気がする…。なんなんだこの人は…。)
アクトはこのまま逃げ出す事を想像してみるが、全て防がれてしまうようなパターンしか頭をよぎらない。
ものすごい圧で押しつぶされてしまいそうだ。
「一つ聞いてもいいかい?……勝てる自信はあったのかな?君達二人がこのルヒカラ王国に。」
…あぁ、ここまでなんだな。
ミアもアクトも心の中で確信する。
目の前にいる、自分達を見下ろしながら答えを待っている男。
どう考えてもこの人には勝てない。絶対に逃げられない。本能が言っている。
二人はほぼ同時にうなだれたまま両手をあげた。
そんな二人の様子を見ながら男は口元に笑みを浮かべた。
「私はルヒカラ王国軍隊最高指導官、ロト。覚えておくんだ。いつでも復讐に来い。君達とは嫌でもまた会うことになるだろう。また会った時に最高のチャンスをあげよう。…次に会うときにこうも君達の決意がみなぎっているとは限らないがね。」
頭上の声をただ唇を噛み締めながら黙って聞くミアの後ろからバタバタと侵入者を見つけた軍兵達が駆けつける音が聞こえてきた。
ミアの計画は無残にも失敗に終わってしまったのだった。